こちらに共通ヘッダが追加されます。
  1. 人文科学研究所ホーム
  2.  > 部門研究会の活動
  3.  > 研究会の活動報告
  4.  > 研究会の活動報告一覧

研究会の活動報告一覧

第6研究 ASEAN共同体の研究:自然資源開発、一次産品貿易と海洋権益をめぐる政治経済学
研究代表者:林田 秀樹(人文科学研究所)


開催日時2017年2月16日 12時20分~14時45分
開催場所同志社大学今出川キャンパス啓明館2階 共同研究室A
テーマイスラーム教育が社会統合に果たす役割:タイ深南部を事例として
発表者西 直美 氏(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期課程・院生)
研究会内容 タイは仏教国としてのイメージが強いが、マレー系のムスリムが多数派を占める南部の国境地域では長らくイスラーム系の武装組織との間での抗争を抱えてきた。今回は当研究会の最若手である西氏が、タイの深南部と呼ばれる地域(パッターニー県、ヤラー県、ナラティワート県)における調査を基にして、イスラーム教育が同国の社会統合に果たした役割について考察しようとするものであった。
 当地でタクシン政権期の2004年以降に激化した紛争は、タイ政府とマレー・ムスリム、仏教徒とムスリム、といった二項対立的な構図で描かれることが多い。また、「マレー・ナショナリズム」に基づくタイからの分離独立主義が問題にされてきた。しかし、2004年以降に特徴的なのは、マレー・ムスリム市民の犠牲者が多くを占めるようになっている点である。報告では、ムスリム・コミュニティ内部の多様性への視点が示され、本発表における問題意識として以下の3つの点が挙げられた。すなわち、①イスラーム改革派の深南部における動向の評価、②マレー・ナショナリズムの要素が強いとされる深南部の人々のタイ政府の教育政策に対する認識、③2004年以降の紛争の激化の影響である。
 深南部のイスラーム教育が、タイの教育政策に影響を受けて変化してきたことは明らかである。しかし、タイ政府による同化・統合政策のみならず、イスラーム内部からの動きに注目する必要がある。1980年代以降のイスラーム復興からの影響は、現地でサーイ・マイと呼ばれるイスラーム改革派の台頭をもたらした。近代的な学校教育制度との親和性が大きかったのがサーイ・マイであり、高等教育機関を中心として影響力を持っている。サーイ・マイは、深南部におけるマレーの伝統やマレー・ナショナリズムから距離を置く傾向があり、伝統的なイスラーム教育機関では否定的に捉えられる傾向があるタイ語の使用についても寛容である。こうした点から、イスラーム教育は、一面でマレー系ムスリムのタイへの統合を進めたことが指摘された。一方で、2004年以降当地の仏教徒が域外に移住したことで増加しているのが100パーセントムスリム地域である。こうした人口構成の変化が長期的に及ぼしうる社会統合への影響については、今後注視していく必要があるとされた。
 以上に加えて報告の末尾では、発表者が今後当研究会での分担課題に取組む手掛りとして、現地の農民によるゴム・アブラヤシ栽培に関する発表者の見聞が紹介された。

 今回の参加者は、発表者のほか鷲江義勝、上田曜子、鈴木絢女、木場紗綾、西口清勝の各氏と林田秀樹の合計7名であった。発表者の主張に対して参加者より、紛争と教育の関係、統合の定義について重要な指摘がなされた。これらの指摘が、発表者の今後の研究に活かされることが期待される。


開催日時2017年1月31日 12時20分~14時50分
開催場所同志社大学今出川キャンパス啓明館2階 共同研究室A
テーマアセアンと中国の経済関係―日中との比較も視野に―
発表者厳 善平 氏(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科)
研究会内容 中国がGDPで日本を上回り世界第2位となってすでに7年が経つ。今回の厳氏の報告は、1990年代以降の急激な経済成長を通じて中国が塗り変えてきた世界経済の構図のなかにアセアン-中国間の経済関係の変化を跡付け、両国-地域間の関係、引いては日本を交えた東アジアの政治経済関係のあるべき姿を展望しようとするものであった。
 まず、中国経済の急成長と同国の海洋進出を脅威とのみ捉えるのではなく、特に前者にチャンスを見出そうとする視点が必要ではないかという発表者の問題意識が示され、本発表の課題として以下の3点が挙げられた。すなわち、①日中のアセアン外交の背景としての中国経済の成長とそのインパクト、②日本・アセアン・中国の対外経済関係の構造変化、③日本・中国経済の中長期展望とアセアンにおける日中のあるべき姿、である。
 ①に関しては、1990年代以降、中国がときに年率10%を大きく上回る実質経済成長を達成し、2015年時点で世界のGDP(米ドル評価)の約15%を占め、依然24%超で首位にある米国を急追するに至った一方で、日本のそれは6%弱にまで低下してきたこと、それには日中両国における生産年齢人口の近年における双極的な動態が大きな要因として働いたと考えられることが説明された。②に関しては、アセアン諸国の対中・対日貿易額シェアが1980年から2014年の間にそれぞれ1.8%から14.5%、25.9%から9.1%へと変化し逆転現象がみられること、中国-アセアン間の農産物貿易も急拡大してきており、2002年から15年までの13年間に中国の輸出は7.5倍、輸入は8.9倍にまで成長していて中国の当該品目における入超が続いていることなどが紹介された。そのなかで、「ルイスの転換点」後に立ちはだかる中国経済の成長の壁が「中所得国の罠」に陥る要因となるかなど、同国経済の課題と展望についても言及された。
 以上の議論に基づき、最後に③に関して発表者の主張が述べられた。すなわち、日本も中国も大切なパートナーであるという認識のアセアン諸国に対して、「日本か中国か」という選択を期待する日本の姿勢は再検討されるべきであり、対アセアン関係を含め、「日中関係の再正常化」が図られる必要がある、という主張である。その際、中国の台頭を「力による現状変更」ではなく、「力の増強に伴う変化」と捉える視点が必要であるとの見方が示された。

 今回の参加者は、発表者のほか、鷲江義勝、和田喜彦、関智宏、木場紗綾、加藤剛、西口清勝、加納啓良、佐久間香子、西直美の各氏と林田秀樹の11名であった。発表者の主張に対して、①②については、日本の対中投資によって引起される供給網形成を考慮する必要がある点、③に関しては、中国の経済的台頭を誰も否定はしないが、それは南・東シナ海での領有問題をめぐる同国の行動の肯定につながるものではなく、アセアン諸国もみな南シナ海のそれを歓迎していないと考えられる点などが指摘され、活発な議論が行われた。東南アジアにおける日中関係、それらを含むアジア太平洋の国際関係が抱える困難と重要性が浮彫りになった回であった。


開催日時2017年1月13日(第Ⅰ部)13時30分~15時5分、(第Ⅱ部)15時20分~17時30分
開催場所第Ⅰ部:同志社礼拝堂、第Ⅱ部:寒梅館6階大会議室
テーマ南シナ海をめぐる問題:その実情と解決
発表者ド・ティエン・サム氏(ベトナム社会科学院中国研究所教授)
研究会内容 今回は、当研究会メンバーである細川大輔氏(大阪経済大学)の提案でベトナムにおける中国政治・越中関係の第一人者・ド・ティエン・サム教授を招聘し、本学南シナ海研究センター(センター長:法学部・浅野亮教授)との共催でセミナーを開催した。たいへん貴重な機会であるので、議論の時間を十分確保できるよう2部構成のプログラムとした。
 第Ⅰ部は一般にも公開する形式の講演会として開催した。講演内容は越中関係を主題としつつも、南シナ海問題をめぐるASEAN加盟国の状況を体系的に整理した構成であった。以下、その概要を報告する。
 はじめに、南シナ海という海域の重要性を資源面、交通面、政治面の3点から確認したうえで、この問題に十全に対処できなければ当該海域の秩序を維持できなくなるとの氏の理解が示された。現在、この海域では4ヶ国(ベトナム、マレーシア、フィリピン、中国)が軍の常駐拠点をもち実効支配を行っている。以下に示すように、このなかでもとりわけ中国の動向は重要である。
 中国は1974年以降、パラセル(西沙)諸島を始めとする南シナ海全域の実効支配を強化・拡大し続けてきており、現在では、南シナ海海域の85%は自国の領域であると主張するに至っている。このような中国の実効支配と軍事拠点の建設・拡大は「軍事化」という概念で捉えられている。氏のいう「軍事化」とは、①軍隊の配備、②軍隊による当該領域のコントロールを指しており、これに当てはまる動向を見せているのは中国のみである。
 次いで、昨年の常設仲裁裁判所(PCA)の判決をめぐる各国の動向についても解説された。判決が下された後、中国は不参加、不承認、不実行の“3つの不(No)”の姿勢を見せた。一方、フィリピンには、領有権問題を一時棚上げにし対中戦略を調整するなど、ドゥテルテ新政権への移行に伴う外交姿勢の変化がみられる。ベトナムの立場はPCAの判決を歓迎しており、パラセル・スプラトリー諸島におけるベトナムの領有権は不変との立場を引続き主張している。
 南シナ海における安定的平和の維持に向けての氏の提言は、①国連海洋法条約を始めとする国際法の尊守に基づく平和的対話、②DOC(南シナ海行動宣言)の尊守とCOC(南シナ海行動規範)の策定を目指した積極的対話を促進することの2点である。一方で、南シナ海問題に対するベトナムの課題として、ベトナムの国力向上、経済改革を伴う経済発展、軍事力の拡大、歴史・法律、国際関係の研究の重視等が重要になるという見解が示された。
 最後に、サム氏が予想するいくつかの今後のシナリオが紹介されたが、最も実現可能性が高いのは、当該事案での争いを抱えながら現状を維持する路線であり、同時に、中国によるイトゥアバ島の占領という想定外の事態を防ぐための備えも必要である点が付加えられた。

 第Ⅱ部では、細川氏、佐藤考一氏(桜美林大学)からのコメントとサム氏のリプライを軸に活発な議論が交わされた。
 細川氏からのコメントと質問は、主に①ベトナムの対中政策の現状と昨年の党大会での指導部人事との関連、②PCA判決後のベトナム政府の動向と対中関係との関連、③比ドゥテルテ政権、米トランプ次期政権の対中政策がベトナムの外交戦略に与える影響、④米トランプ次期政権のTPP政策、南シナ海政策がもたらすベトナムへの余波等の論点をめぐるものであった。
 佐藤氏からのコメントと質問は、① ASEAN-中国間で COCの策定期限が未決であることの含意とそれに対するベトナムの見方、②南シナ海における秩序確立のためのレジームづくり、③2014年にパラセル諸島沖で発生しベトナムの対応が勝利を収めた中越衝突事件から、尖閣諸島沖での対中対立を抱える日本が汲むべき教訓、④南シナ海・東シナ海問題に顕著な中国の「海のシルクロード」戦略と並ぶ「陸のシルクロード」戦略へのベトナムの見方を問うものであった。
 サム氏からのリプライは、以上の質問にそれぞれ的確に回答するとともに、ベトナムの対中政策に深くコミットしてきた経験に裏打ちされた洞察を含み、他では接することができない識見と情報に富んでいた。

 第Ⅰ部の講演会の参加者は一般を含めて40数名であった。第Ⅰ・Ⅱ部を通じた関係者の参加者は、発表者のサム氏と通訳者の道上史絵、ダン・チュン・フンの二氏のほか、当研究会からは、細川大輔、上田曜子、和田喜彦、小林弘明、中井教雄、佐久間香子、西直美の各氏と林田秀樹、南シナ海研究センターからは、浅野亮、鈴木絢女、佐藤考一、嶋尾稔、小島誠二、木場紗綾、張雪斌、村上政俊、吉田知史の各氏、合わせて20名であった。


開催日時2016年12月15日 12時20分~14時40分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマ南シナ海紛争におけるマレーシアの内政と外交:
中小国の選択と地域秩序へのインパクト
発表者鈴木 絢女 氏(同志社大学法学部)
研究会内容 中国との間に南シナ海における領有権問題を抱えるASEAN加盟国は複数ある。注目されることが多いのはフィリピン、次いでベトナムであるが、マレーシアもそのうちの一つである。今回の鈴木氏の報告は、米中等リーダーとしての大国ではなく、当事国である「中小国」の一つとしてのマレーシアが1990年代半ば以降南シナ海問題で果たしてきた役割について検討し、近年みられるようになったマレーシアの対中対応の変化の兆候を政府首脳の言動から明らかにし、その要因を探ることを目的とするものであった。
 まず、南シナ海問題の概要とマレーシアなどの中小国が当該問題に関して果たす役割の重要性について説明された後、先行研究に依拠して台頭する中国に対する関係諸国の対応の分類が紹介された。すなわち、(1)同盟国との結束強化や外交により中国の行動を抑止しようとする「ソフトバランシング」、(2)中国の優位を受入れる「バンドワゴン」、(3)中国の優位を受入れはするが、その程度がバンドワゴンよりも低い「アコモデーション」、(4)中国との対立のリスクを削減し自国の利益最大化を図る「ヘッジング」という分類である。そのうえで中小国が主として採用する対応は(3)か(4)であり、マレーシアが中国に対して採ってきたのは(4)のヘッジングであるとして、同国のこれまでの具体的な対応が3つに分けて分析された。
 第1のヘッジングは、「中国は脅威でない」というシグナルを送るという対応である。その事例として、2013~14年に中国海軍がボルネオ島近海で軍事演習を実施したことを重大視しない対応をとったことなどが紹介された。第2のヘッジング対応として挙げられたのは、マレーシアが、「南シナ海行動規範」の実現に紛争解決の糸口を求めるのではなく、国連海洋法条約に則って問題を解決すべきと主張するなど中国-ASEAN間の対立を先鋭化させない主張をしてきたことなどである。そして第3のヘッジングとして、現ナジブ政権が2012年4月の米比共同軍事演習に一部参加するなど米国との慎重な接近を図ってきた例が紹介された。
 以上のようなヘッジング対応をしてきたにもかかわらず、2015年11月の李克強首相のマレーシア訪問を機に明らかに中国に対する態度が軟化し始めてきていることが、首相の新聞への寄稿記事等を引用しながら紹介された。その訪問では、中国がマレーシア国債を買増しするなどの経済外交が展開されたのであるが、ナジブ政権が置かれている国内的な政治状況との関連で、現下のマレーシアの対中外交を分析する必要があることが指摘された。

 今回の参加者は、発表者のほか、上田曜子、和田喜彦、鷲江義勝、厳善平、関智宏、木場紗綾、加藤剛、西口清勝、西直美の各氏と林田秀樹の11名であった。発表の後、発表者が依拠した対中対応の分類の妥当性やマレーシアの対中対応の変化の要因、そしてその変化がRCEP、TPP等の広域経済連携に対するマレーシアの戦略に及ぼす影響等について、掘下げた議論が行われた。


開催日時2016年11月22日 12時20分~14時55分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマASEANは生き残れるか:経済共同体と南シナ海問題を中心に
発表者寺田 貴 氏(同志社大学法学部)
研究会内容 ASEANという組織が、アジア太平洋のなかでの存在意義を問われている。そのことは、1990年代半ばより域内経済統合に取組んできているにもかかわらず、域内貿易比率は23-24%程度で推移するばかりで上昇せず、中国が南シナ海における軍事的なプレゼンスを高めていることで生じている域内外国家間の軋轢に関して有効な解決策を提示できていないことに明らかである。今回の寺田氏の報告は、このようなASEANが今後、自らの存在意義を維持しつつ域内外の経済発展や政治的安定に寄与できるような組織として機能することができるかについて、その根本的な組織原則から問うことを趣旨とするものであった。以下、その概要をまとめる。
 現在ASEANは、自らがもつ固有の性質のために、結果指向的な域内政治経済の協調についてうまく対応できず、米中2大国間の相克のなかにあってなおさら組織的な効力を発揮できずに機能不全に陥っている。ここでいうASEAN固有の性質とは、「Talk Shop」と称されるような実のない声明しか出さない会議の繰返しであり、「ASEAN Way」といわれるコンセンサス主義に基づく意思決定や非拘束・内政不干渉原則であり、そして、加盟10ヶ国の一般的な対域外外交姿勢にのみ共通するだけで、南シナ海問題等の重要問題については無力な「ASEANの中心性」である。
 その一方で、新しく提起され構築途上にある地域協力枠組みには、米中による互いに排他的な枠組みが目立つ。TPPとRCEP、AIIBなどがその典型であり、ASEANはそのなかで主導的な役割を果たせていない。また、2002年にASEAN-中国間で合意された南シナ海行動宣言は、中国、とりわけその軍部が従うようなものにはなりえず、したがってそれを「行動規範化」しようとする試みも成功の見込みが薄い。また、経済共同体(AEC)にしても産業界での認知の程度が低く、域内経済統合を急速に促進していくべきであるとの圧力が内側から生じていない。
 以上より、次のように結論できる。ASEANが直面する現状を打開するには、ASEAN Wayというコンセンサス主義や内政不干渉原則を趣旨とする組織原則・意思決定原則を改めて独自の政策を対外的に実施できる体制にすること、ASEANからTPPへの参加国を増やして ASEANと米国経済との統合度を高めることによりルールに則った経済統治と規制を前者に浸透させて中国への過度の依存を緩和すること、ADBと AIIBとの間の競争を通じて日中間の競争をASEAN域内の開発に活用していくことなどが求められる。ただ、米国のトランプ次期政権がTPPからの離脱、AIIBへの参加を決定すれば、ASEANには中国が与しやすい状況が支配的となる可能性がある。

 今回の参加者は、発表者のほか、上田曜子、鈴木絢女、木場紗綾、中井教雄、西直美の各氏と林田秀樹の7名であった。発表者の明確な主張に対して、それを前提した場合のAECの意義、ASEANの経済政策立案に対する既存研究機関の関与、ASEAN Divideの克服等について討論が行われた。南シナ海における海洋権益とASEAN共同体のあり方という本研究の課題の重要な柱に直接関連するテーマであるだけに、今後引続き共同で深めていくべき論点を研究会の最中だけでなくその後にも整理する必要を感じさせる重要な機会となった。


開催日時2016年11月8日 12時20分~14時50分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマSmoke and Mirrors: Problems with ASEAN’s Zero Burning Pledge, with Evidence from Indonesia
発表者Dr. Adam Tyson(Faculty of Education, Social Sciences and Law, University of Leeds, UK)
研究会内容 1996-97年にスマトラで起きた大規模森林火災以来、ASEANが主体となって、アブラヤシ農園・林業企業と小農に対して、自然林に火入れをしない農園開発=Zero Burningを推進してきた。しかし、2015年には先の森林火災に匹敵する火災が引起した煙害(ヘイズ)がマレーシアやシンガポールにまで拡大し、国家間関係が緊迫する事態にまで発展した。この大規模森林火災とヘイズを引起したのが、やはり火入れによる野焼きであった。タイソン氏の発表は、スマトラ島リアウ州を事例に、インドネシア政府が宣言したZero Burning 政策の実施状況について検証・分析するものであった。
 リアウ州は世界最大のパーム油生産地であり、大企業の他、多くの小農がアブラヤシ産業に従事して生計を立てている。小農たちへの調査に関しては、これ以上の火入れに強く抗議する活動家の姿が紹介された。火災時のリアウでは、小農らとともにグリーンピース等の国際環境NGOやCIFOR等の森林研究機関等が消火・調査活動に取組み、火災とヘイズの実態に関するデータをウェブ上で公開するだけでなく、インドネシア政府に事態の改善を強く働きかけるロビー活動を行ってきた。
 驚くべきは、少なくとも公開されている農園コンセッションの地図がないことである。この状況では、火災発生地域は特定できても、その場所の所有主体を特定することができないことになり、世界最大のパーム油生産国としてZero Burning等の森林政策への懐疑を免れえない。
 また、世界最大の熱帯雨林地帯であるアマゾンとの比較でインドネシアの森林消失面積の推移に関するデータが示された。アマゾンでは森林消失面積自体は依然大きいものの近年減少傾向にあるのに対し、アブラヤシ農園開発が進むインドネシアでは逆に増加傾向を示しているというデータである。
 以上の調査・分析の結果として、インドネシア内の様々なアクター、あるいはASEAN加盟国間、インドネシアの各レベルの地方自治体間で当該問題に対する見解・関心度に差がある一方、それら公的機関と農園企業等民間部門の動きがかみ合っていない状況が明らかとなった。また、環境か経済か、という古典的なジレンマの克服が現在でも困難であることが再確認された。

 今回の発表は、一次産品生産とそれが引起す社会や自然資源への打撃に共同体としてのASEANがどう取組むかという問題への視角の重要性を再認識させるものであった。参加者は、発表者のTyson氏のほか、和田喜彦、鈴木絢女、関智宏、加藤剛、中井教雄、佐久間香子の各氏と、林田秀樹の8名であり、発表で取上げられたリアウ州から近隣諸州に問題となる現象が拡散していった経緯などについて、充実した質疑応答と議論が行われた。

開催日時2016年10月13日 12時20分~16時55分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階共同研究室A
テーマ①タイ自動車産業における日本の直接投資とローカル・サプライヤーの形成
②タイプラスワン時代の日本のものづくり中小企業-AEC活用の可能性-
③タイの農業とポピュリズム政策の展開-コメ政策を中心として-
発表者①上田曜子 氏(同志社大学経済学部)
②関智宏 氏(同志社大学商学部)
③小林弘明 氏(千葉大学大学院園芸学研究科)
研究会内容 研究会冒頭に、研究代表者より8月末に実施したジャカルタでの合同現地調査について報告し、今後の研究会予定の確認等を行った。

 今回は、「タイ特集」として3名の発表者を組織して開催した。それぞれの発表の概要は以下の通りである。

①上田氏の発表は、日本の自動車企業に部材を供給する地場企業の形成と発展に当該日本企業がどのような役割を果たしているか、今後両者の関係はどうあるべきかに焦点を当てたものであった。
 まず前半では、日本企業とりわけ自動車企業のタイへの進出経緯と現状の説明に重点が置かれた。タイでは、1960年以降外国企業誘致政策が展開されてきたが、日本企業の進出歴が50年以上と長く、ASEAN加盟国のなかでも当該部門におけるプレゼンスが高いこと、また日本企業にとってもタイは重要な進出先であることが種々のデータを用いて示された。
 後半では、日本企業からの技術移転と地場サプライヤーの形成との関係が説明された。一次サプライヤーとして受ける支援・指導や日系自動車企業での勤務経験を通じて高い技術力を身につけた地場の企業家が部材供給企業を創業することにより技術移転が行われてきたのであるが、そうした地場サプライヤーは日系自動車企業によって有効に活用されているとはいいがたい現状があり、タイの経済、日系自動車企業の双方にとって、それら地場企業の有効活用が今後求められるとの結論が導かれた。

②関氏の発表では、アジアに進出する日本の中小企業数の伸びが顕著にみられる昨今、タイへの日系中小企業の進出の成否と近年の同国における制度転換との関係をテーマとするものであった。以下、発表者が2つの制度転換に関して日系中小企業が現地進出する際に留意すべきとした事項をまとめる。
 (1) 最低賃金制度の転換:最低賃金は年々上昇しているが、2013年1月には地域別ではなく全国一律の最低賃金が、労働者の国籍や職種を問わず適用されることになった。他方で、出稼ぎタイ人の出身地回帰が多くタイ人労働者の採用は困難になり、近隣諸国からの外国人労働者を採用するケースも出てきている。
 (2) 投資委員会の投資恩恵制度の転換:2015年1月に投資奨励制度がゾーン制から業種別恩恵制度に転換した結果、労働集約型産業の外国企業はタイでは歓迎されず、既存の当該部門企業もCLMVとの国境地帯に移転している。
 結びとして、タイに進出する日系中小企業の3つの課題、すなわち1) 労働力の確保、2) タイ経済社会への貢献、3) ASEAN、特にメコン圏市場への照準について説明があり、3)との関連でAECの活用について議論された。

③ゲスト講師として招聘した小林氏の発表では、タクシン首相及びその後のタクシン派政権が、支持基盤強化のために展開してきたコメ価格支持によるポピュリズム政策が紹介・検討された。
 まず、タイがWTOウルグアイラウンド農業合意に基づき23品目を関税化したこと、そして、輸出補助の削減、新規の輸出補助金の禁止を実施したことが紹介された。また、1982年以降のコメ政策の変遷が年表を用いて説明された。中でも重要な転換点は、2001年にタクシン政権による担保融資制度が国内農業(主にコメ)保護の主役になったことである。これにより、市場価格を上回る融資単価設定がコメに顕著にみられようになった。
 結局、行過ぎたコメ保護政策は財政圧迫の要因となり、2014年には軍事政権が政策を改め、コメ政策に係る大規模財政支出が削減されることとなった。現在タイは、農業の価格政策から構造改革政策へと方向転換しつつあり、軍事政権下ではポピュリズム政策の必要性は小さいといえる。他方、票を求める今後の政権がどのような政策を打ち出すかは不透明ではあるが、農業保護の流れは変わる可能性があるとの展望が示された。

 参加者は、発表者3氏と、厳善平、鷲江義勝、和田喜彦、鈴木絢女、木場紗綾、西澤信善、西口清勝、佐久間香子の各氏、並びに林田秀樹の12名であった。今回の研究会は、製造業と農業の両部門の動向を政府の経済政策と関連させて議論することで、現在のタイの政治経済を総合的に理解し、同国によるAEC利用の今後を展望するための貴重な機会となった。各発表への質疑も活発に行われ、予定時間を大きく超過した。また、研究会当日は、奇しくもタイのプミポン国王が逝去され、我々研究会メンバーにとっても強く記憶される日となった。

開催日時① 2016年8月24日 10時~12時15分
② 8月25日 10時~12時10分
③ 8月26日 11時~12時10分
④ 8月26日 14時~15時05分 (以上、すべて西インドネシア時刻)
開催場所① ASEAN事務局・Bougainvillea Room
ERIA(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia:東アジア・アセアン経済研究センター)オフィス
③ ジャカルタ ジャパン クラブ・オフィス
④ 東南アジア諸国連合(ASEAN)日本政府代表部
(以上、所在地はすべてインドネシア共和国ジャカルタ首都特別州)
テーマASEAN共同体の制度構築と政策立案・実施に関する合同現地調査
発表者
Julia Tijaja, Ho Quang Trung, Le Quang Lan, Tan Tai Hiong, Marie Gail de Sagon, Margareth Naulie Pangabeanの各氏(以上、ASEAN事務局スタッフ)
神山茂樹 氏(Managing Director for Research Affairs(研究部次長), ERIA)、
山本恭太 氏(Deputy General Manager(総局次長), ERIA)
③ 吉田晋 氏(ジャカルタ ジャパン クラブ・事務局長)
④ 須永和男 氏(ASEAN日本政府代表部・特命全権大使)
  松原一樹 氏(同・政務部長/一等書記官)
研究会内容 今回の現地調査は、当研究会の研究対象であるASEAN共同体の制度構築と政策の立案・実施に関連して、同共同体の主要関連機関があるインドネシア共和国の首都・ジャカルタで、それら諸機関等を訪問して研究会参加者の共通の関心、並びに個人的関心に基づいた聞取りを行うことを目的に実施した。
 以下では、各訪問先で聞取った事項の概略を報告する。

① ASEAN事務局は、ASEANの組織的意思決定に関与する権限をもたない機関であるが、ASEAN経済共同体(AEC)行程表(ブルー・プリント)に記載された政策の実施状況等のフォローアップをその重要な役割の1つとして担っている。今回の訪問では、上記発表者欄にご氏名を記した ASEAN統合監視室、ASEAN経済共同体局市場統合部、同エネルギー・鉱物資源開発部の責任者の方々から、貿易・投資に関連して実施されている、域内市場統合やグローバル供給網への参画に向けた政策の実施状況についてブリーフィングを受けた。

② 2008年発足のERIAは、前年の東アジア首脳会議(EAS)で設立が合意された国際機関で、東アジア経済統合推進を主目的としてEAS参加国の諸課題を調査・研究し、同参加国の首脳や閣僚に政策提言を行っている。今回の訪問では、ERIAの設立と東アジア経済統合の経緯を踏まえ、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)とTPPの双方を推進することについての組織的立場や機関内での研究状況、及びASEANの各種会議体における政策立案に関する働きかけ(政策研究へのASEAN事務局や関係各国のインボルブ、政策対話・提言)等について説明を受けた。

③ 現地で日系企業の商工会議所的機能を活動の柱の一つとしているジャカルタ ジャパン クラブでは、ASEANの重要な構成国であるインドネシアへの日本企業の進出について、60年代以降の長期的な動向、並びに2014年の大統領選前後の傾向変化など直近の動向について詳しい説明を受けた。また、同クラブが年に1回行っているASEAN事務総長への政策提言活動、インドネシアで頻繁に行われる経済関連法令の改変にクラブの会員企業が対応することを補助するための活動等についても聞取りを行った。

④ ASEAN日本政府代表部では、同代表部とASEAN常駐代表委員会、及びASEAN事務局との関係や、同代表部がASEAN加盟国間の協力プロジェクトにどのように関与しているか、TPPやRCEPの形成に関連してASEAN加盟諸国に対してどのように働きかけているかについて説明を受けた。また、各年のASEAN議長国との関係のもち方、及びERIAと連携したASEAN域内の経済統合・経済発展格差縮小に関する取組み、並びにいわゆる「ASEANの中心性」に関する日本政府の立場や考え方についても聞取りを行った。

 上記の通り、発表者は訪問先の各氏11名、当研究会からの調査参加者は細川大輔、ンガウ・ペンホイ、太田淳(④のみ参加)、西口清勝、加藤剛の各氏、並びに林田秀樹の6名であった。なお25日午後には、ペンホイ氏がアレンジしてくれていたASEANカンボジア政府代表部への訪問予定が入っていたが、訪問の前日に同代表部大使に重要な国際会議参加の予定が入ったとの理由で残念ながらキャンセルとなった。
 今回の調査は、研究会参加者の当研究会での分担課題に直接・間接に関連する事項について聞取りができたという点に加えて、ASEAN共同体、特にAECの制度構築と政策立案・実施過程の現場で様々な任務に携わる諸氏から非常に具体的な説明を受けることができた点、そして相手がいずれも殆ど初めての訪問先であったために調整の苦労は多かったが、それゆえ却って新たな人的繋がりを構築できた点において、たいへん有意義であった。秋以降の研究会で、今回の調査結果を可能な限り多くのメンバーで共有していき、来年度も今回の経験を踏まえより発展的に同趣旨の調査を継続したいと考えている。

開催日時2016年7月26日 12時20分 ~ 14時30分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマ南シナ海問題とフィリピン新政権
発表者木場紗綾氏(同志社大学政策学部・助教)
研究会内容 2016年7月、中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権について国際仲裁裁判所が「中国が歴史的な権利を主張する法的根拠はない」して中国側の主張を全面的に退ける裁定をくだしたことは記憶に新しい。今回の木場氏の発表内容は現在、もっとも注目度の高い国際問題が取上げられた。
 冒頭に、本発表における「海洋権益」と「ASEAN共同体」の2つのターミノロジーの確認がおこなわれた。それはまず、「海洋権益」について、フィリピンが南シナ海で主張している海域(中沙、南沙)は一次資源が豊富な地域ではないため、本発表の文脈においては資源問題ではなく、安全保障の問題として捉えるべきという点;そして「ASEAN共同体」について、ASEANの様々な対話プラットフォームを視野に入れて分析するべきであり、特にADMMプラス(拡大ASEAN防衛大臣会合)を通じた防衛外交に注目する点である。
 海洋安全保障とフィリピン政府の立場・見解についての経緯と現状について、概略的な説明のあと、南沙諸島における人工物建設等による中国側の実効支配とフィリピン側の実効支配策の双方について具体的な解説ながされた。
 南沙諸島を含む南シナ海問題に直面するフィリピン・ドゥテル新大統領(2016年6月30日就任)の外交政策は、大胆不敵に過激な発言を放つイメージとは裏腹に、意外と堅実な態度で対処していく見通しが、その閣僚人事などから示された。また、ドゥテルテ新大統領は南シナ海問題をめぐる仲裁裁判所の裁定への支持を表明したものの、それ以上強く中国側を非難することはしていない。これについては、自国へのブーメランを危惧していること、中国がフィリピン国内に整備しつつある高速道路などのインフラ提供に配慮したことの2点が指摘された。
 次いで、ASEAN共同体内での解決の糸口が見いだせない南シナ海問題について、多様なプラットフォームで模索が続けられており、その中のADMM、およびADMMプラスでの議論の経緯と内容が紹介された。同時に、ASEAN本体ではない公式/非公式の会合の動向に注目することの重要性が強調された。
 参加者は、木場紗綾(発表者)、西口清勝、細川大輔、厳善平、上田曜子、和田喜彦、鈴木絢女、関智宏、中井教雄、佐久間香子、Erdi Abidin(インドネシア・タンジュンプラ大学社会政治科学部=外部参加)の各氏、並びに林田秀樹の12名であった。研究発表の後、発表者の提示した諸々の論点をめぐって1時間以上にわたる活発な質疑応答と討論が行われた。

開催日時2016年6月27日 15時00分 ~ 16時40分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマカンボジアにおける外資導入政策
発表者ンガウ・ペンホイ 氏(王立プノンペン大学開発科学部・准教授)
研究会内容 報告の冒頭で、カンボジアの直近のマクロ経済動向、並びに1970年代以降の同国の政治と社会経済の歩みが概観された。とりわけ詳しく紹介されたのは1989年以降の市場経済化政策であり、なかでもその第1の柱である国有企業の民営化について詳細な解説がなされた。そして、もう一方の柱が外資導入政策であったとして、当該政策がもっていた歴史的位置づけについて言及された。
 次いで、産業部門別のGDP比率や成長率、貯蓄-投資ギャップ、貿易収支、並びに相手国別の輸出入比率の推移等、カンボジアの基本的なマクロ経済指標の動向についての解説がなされた。このなかで注目された事実は、輸入元は中国が圧倒的なシェアを占めているが、最近はタイ、ベトナムのシェアが上昇傾向にあるとされたことである。これは、現在建設ブームのカンボジアがタイ・ベトナムから資材を輸入していることが要因となっているとの見解が示された。
 また、部門別GDP比の分析では、製造業部門の9割が主として中国からの投資によって形成された縫製業が占めているという過剰依存状態が指摘された。そして、報告の主題である部門別総投資統計(2011~2015年)に関する分析では、最近、製造業部門では日本企業の精密機械企業の進出が、インフラ部門では中国政府からのODAや中国企業による投資が顕著であるとの傾向が示された。そして、当研究会の課題とも深く関連するが、ベトナムからゴムや胡椒、アブラヤシ等の農園を造成するための投資が盛んになってきており、現地住民との間にコンフリクトも生じている点が紹介されたことは特に興味深かった。
 最後に、経済開発政策の立案に関する最近の動向が紹介された。2015年に初めてカンボジア人官僚によって立案された産業開発政策では、製造業への外資誘致に過剰依存することから人材育成へと重点を移すべきである旨主張され、今後はGVCへのリンケージの高い産業分野に優遇措置を設けており、それに関連した法整備が今後進んでいくであろうと展望が示された。
 参加者は、ンガウ・ペンホイ(発表者)、岡本由美子、中井教雄、佐久間香子の各氏、及び林田秀樹の5名と少なかったが、滅多に聞けないカンボジアの外資政策、並びに同政策と第1次産業部門との関連について、充実した質疑応答と討論が行われた。

開催日時2016年5月27日 12時20分 ~ 14時40分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマ東南アジア主要一次産品の生産と輸出-過去と現在の統計的概観(1)
発表者加納 啓良 氏(東京大学名誉教授)
研究会内容 最初に出席者による簡単な自己紹介の後、林田より今後の研究会の予定に関するアナウンスと、寺田氏の論考が収録された論集 Trade Regionalism in the Asia-Pacific: Developments and Future Challenges(ISEAS, 2016) の紹介があった。
 続いて行われた加納氏による発表の概要は、以下の通りである。
 報告では、同氏の著書『図説「資源大国」東南アジア――世界経済を支える「光と影」の歴史』(洋泉社歴史新書、2014)の内容が、同書中で使われた統計データを更新したうえで、解説された。今回の発表で取上げられた資源は、①コーヒーと茶、②甘蔗糖、③米、④金属鉱物である。それぞれ、大要次の通りである。
 ①コーヒーの消費量は、アジア・オセアニアにおいて近年顕著に伸びてきており、それと連動して生産量も増加したため、ここ数年、アジアからの輸出量は南米に匹敵するものとなっている。今後の中国での消費の伸びが注目される。
 ②21世紀以降のサトウキビの生産量では、かつて世界一を誇ったインドネシア(ジャワ)だが、2014年現在、東南アジア4ヶ国(フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム)の中で最下位となり、代わってタイが首位となっている。
 ③米(籾米)の生産量推移に関する最新のデータが紹介された。特徴として、ベトナムの顕著な生産量の増加が挙げられる。一人当たりのコメの消費量ではベトナムが顕著な伸びと示していたが、全体的にコメの消費量が下降傾向にある。他方、東南アジア全体における小麦の輸入量が急速に伸びている。
 ④缶詰からハイテク端末にまで不可欠な資源スズ、並びにボーキサイト、銅、ニッケル鉱をそれぞれ取り上げて最新の動向が解説された。
 今回は、上記の著作の内容の半分が報告されたが、後半の⑤天然ゴム、⑥石油・天然ガス・石炭、⑦ココナツ・アブラヤシについては、秋学期に改めて機会を設け、加納氏に報告していただくこととした。
 なお今回の参加者は、加納啓良(発表者)、加藤剛、西澤信善、西口清勝、和田喜彦、厳善平、上田曜子、鷲江義勝、日下渉、鈴木絢女、佐久間香子の各氏と林田の計12名であった。 

開催日時2016年4月26日 12時20分 ~ 14時40分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマ①研究計画・研究会運営について、②AEC諸文書にみる一次産品の取扱いとASEAN加盟国の域内外との一次産品貿易
発表者林田 秀樹
研究会内容 今回の研究会では、まず、研究代表者である林田から、今後3年間、及びそれ以降の長期の展望を含めた研究計画と今年度の研究会運営について報告があり、それについて参加者間で協議が行われた。研究会は基本的に学期中に毎月1回開催することを確認し、今年度の各月の研究会日程と発表者を決めた。
 参加者から、毎回全員が研究会に参加できるわけではないので、メンバー間での資料・情報共有のためにウェブサイト等のプラットフォームを早い段階で整備しておくべきとの指摘があった。これを踏まえて、今後はDropbox等、低コストで資料共有できるシステムの導入を検討することにした。
 次に、林田が標記テーマで研究報告を行った。前半では、ASEAN経済共同体(AEC)の骨格を規定する2つの文書(AEC Blueprint 2015, 2025)のなかで、本研究会が主な研究対象とする一次産品、並びに自然資源に関連する問題がどのように取扱われ、共同体としてそれらに関連してどのような方向が目指されているのかについて報告された。次いで後半では、ASEAN加盟諸国の貿易データ分析に基づく研究報告が行われた。まず、「一次産品」の定義について、貿易統計上の分類法であるHSコードに則して検討が行われた。研究の初期段階で整理しておく必要があるとして、膨大な貿易品目を対象に一次産品の線引きを検討した。さらに、ASEAN各国の最近の貿易データ(国連貿易統計)を用いて、ASEAN域内の貿易動向全体と一次産品の輸出入動向を分析し、次のような傾向を抽出した。すなわち、近年、ASEAN加盟諸国の対域内一次産品貿易輸出額が輸出総額に占める比率が増加しつつあると同時に、域外への一次産品以外の輸出が増大してきているという傾向である。この状況を説明するための仮説も提示されたが、その仮説の検証もしくは他の仮説についての検討は、今後の課題とされた。以上の報告に対して、参加者からは多くの質疑が行われ、それについて報告者-参加者間で活発に意見が交わされた。また、参加者からは、データ処理上の問題についても重要な指摘があった。
 なお参加者は、関智宏氏、上田曜子氏、木場紗綾氏、鷲江義勝氏、鈴木絢女氏、厳善平氏、和田喜彦氏、加藤剛氏、佐久間香子氏、林田秀樹の10名であった。