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研究会の活動報告一覧

第19研究 経済制度と社会秩序の形成に関する理論実証分析
研究代表者:上田 雅弘(商学部)


開催日時2016年10月30日日曜 13時−17時半
開催場所良心館RY104教室
テーマ[実験+社会科学]は社会を変えたか?:実験研究のこれまでとこれから
発表者西條辰義氏(高知工科大学教授)
安田洋祐氏(大阪大学准教授)
山根承子氏(近畿大学准教授)
竹内幹氏(一橋大学准教授)
三船恒裕氏(高知工科大学准教授)
研究会内容 今年度第4回目の研究会では、「[実験+社会科学]は社会を変えたか?:実験研究のこれまでとこれから」と題して、社会科学における実験研究の意味について、外部講師による研究報告とディスカッション(対談)を行なった。
 まずはじめに安田洋祐氏(大阪大学)による報告「A Simple Economics of Inequality: Market Design Approach」では、経済の二極化問題・貧困問題を、ミクロ経済学の最初に学ぶ需要供給の議論を用いてシンプルにモデル化し、①従来の需要と供給の経済分析では、取引に参加できる者と参加できない者とが生じ、そこが二極化問題を引き起こしていること、②取引に参加できる人間を最大化することを政策目標にすると、パレート最適性は満たされないものの貧困問題は解決しうる可能性があること、③さらにその分析のためにはマッチング理論が有益であることを、PENTという新しい均衡概念を用いて説明した。
 また、西條辰義氏(高知工科大学)による報告「フューチャーデザイン:持続可能な社会への変換を目指して」では、未来の社会をデザインするためには「仮想将来世代」という発想が重要となることを、自身の実験研究を通じて明らかにした。
 それらを受けての対談では、両氏のほか、さらに山根承子氏(近畿大学)、竹内幹氏(一橋大学)、三船恒裕氏(高知工科大学)がパネリストとして加わり、以下のような論点について議論を行なった。①実験の再現性(内的妥当性)、②実験の外的妥当性(ラボ実験対フィールド実験、被験者プールの問題など)③「研究」と「社会」の関係をどう考えるか、④実験研究の将来性をどう考えるか。いずれも当研究会の今後の方向性を考える上で、極めて有益な示唆が得られた。


開催日時2016年10月25日火曜 17時半−18時半
開催場所至誠館5階第3共同会議室
テーマ企業の社会的責任の経済分析
発表者内藤徹氏(同志社大学商学部教授)
研究会内容 2016年度第3回研究会では、内藤徹商学部教授による研究報告「企業の社会的責任の経済分析」を行なった。
 近江商人の家訓に「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」というものがある。伝統的な経済学理論においては、企業の目的は利潤の最大化であると考えられてきた。しかしながら、近年、企業が自己の利潤を最大化するためだけに生産を行っていないケースが散見される。そして、企業会的責任(CSR)に対し、大きな関心が集まっている。企業のCSR活動は、地域雇用、教育、環境など多岐にわたっている。
 本報告では、CSR事業を行う2企業が存在する複占企業を想定している。各企業は2段階で生産量とCSRの種類を決定する。考察するモデルでは、地場の雇用を促進するような雇用CSRと環境に配慮する環境CSRを想定している。ゲームの構造は、各企業が2段階ゲームで競争を行っており、第1ステージでは、株主(経営者)がどのようなCSRを選択する。第2ステージでは、第1ステージで決定されたCSRの種類を与件とし、CSR事業と企業の利潤をウェイト付けした関数を最大化するように自社の数量を決定しており、これをバックワード・インダクションで解いている。
 分析の結果、均衡ではそれぞれの企業が他社と同一種類のCSRを選択せず、異なるCSRを選択することを明らかにした。本報告では、両企業がともにCSR事業を行う企業を想定しており、企業の選好の異質性は考慮されていない。したがって、選好が異なる企業が存在するケースについては分析を行っていない。これらの点についてはより現実に沿ったモデルを構築し、その選好の異質性が均衡においてどのような影響を与えるかについては、今後の課題となる。


開催日時2016年7月26日火曜 18時−19時
開催場所至誠館5階第3共同会議室
テーマ制度的補完性と会計の透明性
発表者田口聡志氏(商学部教授)
研究会内容 今年度第2回目の研究会では、田口聡志商学部教授による研究報告「制度的補完性と会計の透明性:減損会計に関する実験研究」を行なった。
 減損会計における大きな問題点の一つは、その裁量性である。実際、減損損失の計上には経営者のインセンティブが介入し、かならずしも適時的に減損損失が計上されていないことが従来から指摘されている。具体的には、経営者報酬が減損損失の計上タイミングを左右する要因の一つであることが、先行研究において示唆されている。他方で、近年、監査領域においてはKAM (Key Audit Matters)という監査人と経営者との間で意見対立があった場合など、財務諸表監査における監査人の専門家としての判断上、最も重要と考えられる事項を開示する制度が注目を集めている。本研究では、このKAMの開示制度を念頭において、減損損失の計上をめぐって経営者と監査人との間に意見の対立が生じている状況下で、意見対立に関する開示の有無が経営者の減損損失計上にどのような影響を与えるのかについて、経営者報酬に焦点をあて検討した。
 実験の結果、以下が明らかになった。①業績連動型報酬制度のもとで、経営者が減損損失を計上する可能性は低下すること、②減損損失を計上しなければ監査人との意見対立が生じていることが開示されてしまう状況においては、経営者はより減損損失を計上すること、③追加のデモグラフィック・データ分析により、社会性(他人の目を気にする傾向)が高いほど、意見対立の開示がある場合に減損損失がより計上されやすくなることなどである。これらは、他者の目効果 (peer effect) による経営の規律づけ効果を示唆する結果である。これらのデモグラフィック・データの分析結果は、監査をおこなううえで個人特性が重要な要素の一つであることを示唆する。


開催日時2016年5月24日火曜 16時15分−18時
開催場所扶桑館F513教室
テーマNon-neutral technological progress and income distribution
発表者森田雅憲氏(商学部教授)
研究会内容 今年度第1回目の研究会では、森田雅憲商学部教授による研究報告「Non-neutral technological progress and income distribution」を行なった。
 本報告は、新古典派の2部門成長モデルを用いてPikettyの所得分配の動向に関する命題を検討したものである。消費財と投資財を生産する2部門モデルにおいて、両部門で非中立的技術進歩があった場合に、機能的所得分配はどのように変動するかを解析的および数値シミュレーションによって検討したものである。まず非中立的技術進歩がある場合にシステムが収束するコーナー解が解析的に導出される。安定的なコーナー解は潜在的には二つ存在し、一方がノードであれば、もう一方はサドル・ポイントになることが示される。数値シミュレーションでは、微分方程式モデルを4次のルンゲ=クッタ法によって差分系に変換し、非定常的な動学経路をプロセス解析と比較動学の二つの方法で検討している。
 結論的には、Pikettyの命題は、一般的には新古典派の2部門モデルでは肯定的な場合も否定的な場合もありうる。しかし、多くの実証研究が産業レベルでの技術的代替の弾力性が1より小さいということを明らかにしている点を考慮すると、本研究ではPikettyの命題は支持されないことが明らかとなる。また新古典派成長モデルは、一般的に均衡成長経路の有無にかかわらず、所得分配の長期的な安定性を論証するのに適しており、Pikettyのように所得分配の長期にわたる大きな変動を論証するのには適していないことが示される。むしろ税制など制度的な変動こそが所得分配の大きな変動を説明するにあたって重要であろう。
 以上より、Pikettyの主張は新古典派のモデルから引き出されたものというより、歴史的・統計的データから帰納的に導かれたものと理解すべきものである。