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研究会の活動報告一覧

第6研究 ASEAN共同体の研究:自然資源開発、一次産品貿易と海洋権益をめぐる政治経済学
研究代表者:林田 秀樹(人文科学研究所)


開催日時2017年12月11日 12時20分~14時25分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマSocial and Environmental Impacts of Tin Mining in Bangka Island of Indonesia in Reference to the Potential Extraction of Rare Earth Minerals and Radioactive Thorium
発表者和田 喜彦 氏(同志社大学経済学部)
研究会内容 本発表は、インドネシア、バンカ・ブリトゥン州バンカ島におけるスズ鉱山の運営が環境にどのような影響を与えているのかについて、エコロジー経済学の視点から分析しようとするものであった。以下では、その概要を報告する。

 はじめに、スズとともに採掘されるレアアースと、それらが発する放射性トリウムについて説明されたのち、バンカ島における現地調査の結果が示された。
 バンカ島では、18世紀初頭よりスズ鉱山の開発が盛んに行われてきており、現在は沿岸部を中心に開発が続けられている。違法操業も多いが、当該部門で労働力が一定受容されているために政府も厳しく取締っていないのが現状であり、児童労働などの問題も生じてる。また、陸地の鉱脈が尽きつつあるなか、海底鉱脈の採掘が行われるようになってきている。その際に拡散している可能性がある鉱毒の影響もあってか、漁業に対する影響は特に深刻である。現地漁業の漁獲高は、統計上近年微増を記録しているものの現地漁民からの聞取りでは大幅に減少しているとのことであった。鉱山の跡地である蓋然性の高いアブラヤシ農園から発表者が持帰った土壌を分析した結果、日本のある検査地の例を10倍ほども上回るヒ素、トリウムが含有されているという検査結果が出たことが報告された。近年、スズ鉱山の跡地にアブラヤシ農園が開発される傾向があるために、今後、パーム油等への影響について注視する必要がある。
 また、現地調査の結果、甲状腺がん等の罹患者の居住地域と鉱山の所在地が重なりあっていることが明らかとなり、両者に相関関係がある可能性が高いことが指摘された。スズ鉱山跡地では高い放射線量が観測されており、鉱山跡地から離れるほど線量が低くなっているという。
 報告の後、インドネシアの統計情報の問題について、スズ鉱山開発の歴史が長いにもかかわらずこれまで大きく問題として取上げられてこなかったのはなぜか、企業は何らかの環境基準を共有しているのか、がん患者と鉱毒の連関性についての疫学的な問題をどう議論していくのか、インドネシアの他の地域で同種の鉱毒問題が生じているのか、について活発な議論が交わされた。
 最後に、報告者より多元的な価値をどう取入れていくのか、それを元にどう消費者が価値観を変えていくことができるかなどについて考える際に「エシカル」という概念がもつ重要性が指摘された。環境保全について理解のある消費者がいないことには、産業の持続性は達成できない。意識の高い企業を応援する仕組みと、消費者の意識を変えていく試みのパッケージで対策を講じていく必要があることが強調された。
 出席者は、報告者のほか、鷲江義勝、中井教雄、西直美の各氏と林田秀樹の5名であった。


開催日時2017年11月17日 12時20分~14時30分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマBack to the Past, Back to the Future: Reflecting on the Global Historical Context of Japan-ASEAN Relations
発表者加藤 剛 氏(東洋大学アジア文化研究所客員研究員・京都大学名誉教授)
研究会内容 本報告は、戦後世界経済の潮流を諸種のデータを用いて描きだすなかで、ASEANという組織の特質について、1973年に日本との間で行われた交渉とその決着を軸として、歴史的経過を自在に行き来しつつ日・ASEAN関係を考察するものであった。以下ではその概要を報告する。

 第二次世界大戦後、敵と味方、富める国と貧しい国を容易に認識できた時代から、70年代には「不確実性の時代」に入り、各国の繋がり方も変容してきた。1971年のニクソンショック以降、アメリカが金による裏づけのないドル発行を続けるなかで、ドル供給量と実体経済との乖離は現在も拡大し続けている。また、1991年の冷戦終結は、グローバル市場形成の開始を意味すると同時に、資本主義が引起す摩擦が増大し、持てる者と持たざる者の差が拡大する起点ともなった。90年代以降の金融商品の多様化やウェブ通信の一般化によって、市場はこれまでになく不安定になっており、70年代以上に「不確実性の時代」になっている。
 日・ASEAN関係の始まりとされる1973年とは、日本の合成ゴム輸出に対抗して、利害関係国ではないフィリピンも含めた当時のASEAN加盟5ヶ国が一致団結し、域外大国日本から譲歩を引出すことに成功した年である。日本は、対ASEAN関係においてそれまでのリーダシップをとることからパートナーシップ構築に方針転換し、次第にASEANにとって重要なパートナーとなる。しかし、1997年のアジア通貨危機以降、ASEAN諸国にとっての中国と日本のもつ意味が大きく変わった。日本は危機に際してAMF(アジア通貨基金)を提唱するもアメリカの反対により頓挫した一方で、中国は人民元切下げを実施しなかったことにより危機の深化に歯止めがかかったとされる。中国は助けてくれたが、日本は何もしてくれなかったという評価がASEAN諸国内部で定着するきっかけとなり、中国の東アジア域内経済協力における存在感が増していった。こうした歴史的背景への考察を踏まえて、近隣諸国と地域組織を形成できず(ASEANにも入れない、中国・韓国との関係も改善できない、困っても助けてくれる国がない)、対米関係に依存せざるをえない日本は「孤独な国家」であるという見方が提示された。
 発表後、参加者からは、日本の対ASEAN政策とアメリカの対外政策の連動について、ASEAN諸国における中国と日本に対する認識の変化について、「孤独な日本」というとらえ方や地域主義の定義について活発な議論が交わされた。日本が今後どのように、特に東アジアにおける地域主義に関与するなかで多国間主義の経験を蓄積し、「孤独」から脱することができるのか考えていく必要があるといえる。
 出席者は、報告者のほか、上田曜子、鷲江義勝、鈴木絢女、王柳蘭、西口清勝、佐久間香子、西直美の各氏と林田秀樹の9名であった。


開催日時2017年10月24日 12時20分~14時30分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマ「国際組織の理念と制度―EUとASEANを題材として―」
発表者鷲江 義勝 氏(同志社大学法学部)
研究会内容 発表者の鷲江氏は、アジア各国をフィールドとする研究者がメンバーの大半を占める当研究会で唯一人、欧州をフィールドとしている。EUとの比較でASEANの制度を相対化して考察することが、同氏の分担課題である。今回の報告は、その課題遂行の一環として行われた。
 本報告ではまず、EUの歴史、理念、条約や法などの制度について解説された後、EUからみたASEANの理念と制度について検討された。
 国際組織は、何らかの理念や目的を達成するために制度化される。EUは、国家を超える枠組み=「国際統合」として語られる国際組織である。第二次世界大戦後のヨーロッパにおいて、西欧の没落が最大の問題であるという認識が共有されたことが、欧州の統合過程の端緒となった。小国が多数並び立っているという特徴がある欧州で、できるだけ大きな市場をつくって経済的に復興を遂げ、不戦共同体をつくることが目標として掲げられたのである。初期には、連邦国家の考え方に基づく安全保障・政治分野での統合の提唱とその失敗があった。以後、国家主権の核心部分である政治や国防ではなく、具体的な成果がみえやすく協力が比較的容易な経済面を中心に統合を深化させてきたのである。
 EUは欧州統合という目的の下で常に変化を遂げており、その組織・制度は条約改正によって発展してきた。EUからみた場合、国家主権と内政不干渉原則が堅持されるASEANは「国際統合」ではなく「国際協力」であると位置づけられることが指摘された。他方、EUとASEANには共通点もあり、戦争が事実上不可能になる不戦共同体が成立している点が示された。不戦共同体はアメリカとカナダの事例に代表されるように、国際統合を必ずしも必要としないものである。
 発表後、参加者からは、人の移動に伴う人権問題、ASEAN議長国がアジェンダ設定に果たす役割、紛争処理、EUの対域外関係などに関する質問が行われ、ASEANとEUの設立背景や統合・制度化に対する捉え方の違いについて活発な議論が交わされた。ASEANと EUがそれぞれにもつ、国家形成を側面支援するという目的と国際統合を進展させるという目的、柔軟性と規則性という組織の特性の相違を適切に評価したうえで、人やモノの移動の自由化が進むなかでの両国際組織と国家の役割を考察していく必要がある。
 出席者は、発表者のほか、厳善平、鈴木絢女、加藤剛、西口清勝、中井教雄、西直美の各氏と林田秀樹の8名であった。


開催日時2017年9月22日 12時30分~16時10分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマ① ASEAN諸国における業種別貸出の特性分析
② トランプ大統領の登場とベトナムの課題
発表者① 中井 教雄 氏(広島修道大学商学部)
② 細川 大輔 氏(大阪経済大学経済学部)
研究会内容 今回は、冒頭で研究代表者の林田より8月後半にシンガポールで実施された合同現地調査についての報告があった。それに続いて、研究会メンバーの2氏による研究発表が行われた。以下では、それぞれの発表について概要を報告する。

 ①
中井氏による発表は、ASEAN各国の信用市場の特性と、ASEAN加盟国内における信用市場の連動性の有無、連動性が認められる場合はその態様について「交差相関分析」を用いて考察するものであった。初めに当該分野に関連する先行研究が詳細に検討された後、タイ、インドネシア、シンガポール、ベトナム、フィリピン、マレーシア各国の信用市場の部門別相関の特徴、並びにそれら6ヶ国間の信用市場の連関の特徴が、分析結果によりながら解説された。そのうえで、相関の程度を考慮のうえリスクのウエイト付けを行っていくことで、それら各国における金融規制(マクロプルーデンス規制)につなげられる可能性が示唆された。
 報告の後、各国が大きく異なる産業構造を有するなかで一つの手法を適用して分析することの適否、外資系企業の扱い、四半期次データしか公開されていないタイを除き月次データを用いて分析することの意義、上記6カ国間の分析結果が示唆する経済的背景、各国の金融政策がどの程度政治に影響されているのかなどについて、活発な議論が行われた。

 ②
続いて細川氏より、トランプ政権下における米国の対外政策の変容がベトナムの対外経済政策・外交戦略に及ぼす影響について報告が行われた。トランプ政権は、反国際主義・反自由貿易主義を掲げており、「ディール」(利益の有無)重視のビジネス指向がみられる。しかし、アメリカの東南アジア政策、とりわけ南シナ海問題に関しては明確な戦略がみられないため、ベトナムの対外行動が、特に対中関係において大きく制限されていることが示された。また一方で、米国のTPP脱退によって、ベトナムは広域自由貿易圏参入への戦略を見直さざるをえなくなっている。さらに、米政権の東南アジアへの関心の低下によって、ASEAN諸国において急速な中国への傾斜・依存が進んでいることも懸念材料である。ベトナムの対外経済関係にとって重要なのは同国に貿易黒字をもたらしている対米・対EU輸出であり、米国抜きのTPP11、貿易赤字を出している日中韓中心のRCEPは決して魅力的な枠組ではないことが解説された。
 発表の後、中越関係、ベトナムにとってのASEAN経済共同体の意義などについて議論が交わされ、細川氏による今夏の現地調査の結果も踏まえた情報・意見交換が行われた。

 今回の出席者は、発表者2氏のほか、鷲江義勝、上田曜子、和田喜彦、鈴木絢女、王柳蘭、加藤剛、西澤信善、西口清勝、西直美の各氏と林田秀樹の12名であった。

開催日時① 2017年8月23日 14時~15時30分
② 8月23日 16時~17時30分
③ 8月24日 10時~12時30分
④ 8月24日 14時~16時30分
⑤ 8月25日 9時30分~11時30分
⑥ 8月25日 13時30分~15時
⑦ 8月25日 15時45分~17時15分(以上、すべてシンガポール時刻)
開催場所① ジェトロ・シンガポール事務所
② みずほ銀行シンガポール支店
③ ㈱ユーザベース・シンガポール事務所
④ ISEAS Yusof Ishak Institute
⑤ アジア・大洋州三井物産(株)シンガポール支店
⑥ 南洋理工大学大学院S.Rajaratnam国際学研究科
⑦ シンガポール国立大学教養・社会科学部
(以上、所在地はすべてシンガポール共和国)
テーマASEAN共同体の制度構築とその利用、同構成国における企業活動の実態に関する合同現地調査
発表者①本田智津絵 氏(ジェトロ・シンガポール事務所・経済情報分析官)
角田真一 氏(みずほ銀行産業調査部アジア室室長)、堀岡大祐 氏(同 企業調査部アジア・オセアニア企業調査室室長)、佐々木辰 氏(同 産業調査部アジア室副室長補佐)、Wendy Ng氏(同 産業調査部アジア室Senior Officer)
蛯原健 氏(リブライト・パートナーズ㈱代表取締役)
Sanchita Basu Das 氏(ISEAS Yusof Ishak Institute・ASEAN研究センター主任研究員)
島戸治江 氏(アジア・大洋州三井物産(株)業務部戦略企画室主任研究員)、太田俊樹 氏(同 戦略企画室・投資支援室次長)、金和美 氏(同 戦略企画室次長)
Ong Keng Yong 氏(南洋理工大学大学院S.Rajaratnam国際学研究科筆頭副研究科長・元ASEAN事務局長)
Teofilo C. Daquila 氏(シンガポール国立大学教養・社会科学部東南アジア研究学科・准教授)
研究会内容 今回の現地調査は、当研究会の研究対象であるASEAN共同体の制度構築と企業による当該制度の利用に関連して、ASEAN加盟国全域に事業を展開する主要企業・金融機関が拠点を置くシンガポールで企業・研究機関等を訪問し、研究会参加者の共通の関心、並びに個人的関心に基づいた聞取りを行うことを目的に実施した。なお今回調査のアレンジは、当研究会のメンバーで現在シンガポールにて在外研究中の寺田貴氏、並びに本年度第5回研究会にゲスト講師としてお招きした川端隆史氏(㈱ユーザベース)の協力で実現した。
 以下では、各訪問先で聞取った事項の概略を報告する。

ジェトロ・シンガポール事務所は、アジアの金融・経済の中心国シンガポールにおける貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会のさらなる発展に貢献することを目的とする機関である。今回の訪問では、近年のシンガポールの政治・経済動向、日系企業の同国への進出状況や、貿易・投資・金融に関連して実施されているASEAN域内の市場統合、あるいはグローバル供給網への参画に向けた政策の実施状況についてブリーフィングを受け、参加者からの質問に答えていただいた。

日本の3メガバンクは、国外進出に際して支店を設置し本国と同様の業務を遂行するほか、現地の政治経済・商習慣等の情報収集も行っている。とりわけみずほ銀行シンガポール支店では、直轄の調査部を置くことで銀行・証券・シンクタンクとの綿密な連携・支援を実現し、取引先企業に対して金融面だけでなく経営一般に関して多方面からきめ細やかな支援を行っている。今回の訪問では、同行による支援の実態と支援先企業のASEAN加盟国市場における多角的事業展開等について説明を受けた。

現在、シンガポールではIT系のスタートアップ(起業)が盛んに行われており、国内市場で成功した企業がアジア諸国そして世界に進出を果たすことで、企業価値の高いグローバル企業へと成長することを目指している。今回の訪問では、こうしたアジアにおけるIT系の起業動向、並びに起業支援を主要事業とするリブライト・パートナーズ社等ベンチャー・キャピタルの動向について説明を受けながら、ASEAN加盟国市場における成功的ビジネスモデル構築について聞取りを行った。

2015年のAEC発足当初は、ASEAN域内での貿易・外国直接投資が活発化することにより、東南アジア各国の経済がより高水準での安定成長を達成すると見込まれていた。しかし、実際には物品貿易に関する非関税障壁やサービス貿易に関連する障壁が残っており、当初の期待とは異なった結果となっているのが実情である。今回の訪問では、当該研究分野の第一人者であるSanchita Basu Das氏より、ASEANが指向する経済的地域主義並びに同加盟諸国の課題について説明を受け意見交換した。

ASEAN諸国はそれぞれ、熟練・非熟練双方の豊富な人的資源、並びに化石燃料や鉱物、森林産物等自然資源に恵まれた特色ある経済構造を有している。そうした背景もあり、ASEAN経済圏において日本の総合商社が資源開発や貿易、あるいはそれらに関連したプロジェクト創出に果たしてきた役割は大きい。今回の訪問では、三井物産が現地で果たしてきた自然資源関連のプロジェクト形成、インフラ投資、日本企業のASEAN市場進出に対する支援等について説明を受けた。

AECを柱とするASEAN共同体は、2003年のASEAN首脳会議で採択された「ASEAN第二協和宣言」に淵源をもつ。今回の訪問では、宣言が作成・発出された当時ASEAN事務局長職にあったOng Keng Yong氏より、当該宣言文書の作成・採択過程、当時の各国首脳たちの主張やそれらを架橋する際に自身が事務局長として果たした役割、並びに2007年のAECブループリント作成時に事務局長及び事務局スタッフが果たした役割に関して説明を受け、それらに関連して質疑応答を行った。

ASEANの域内経済協力について長年研究を継続されているTeofilo C. Daquila氏より、 ASEANのそもそもの設立経緯から1992年に始まるASEAN自由貿易地域(AFTA)形成のための関税撤廃の取組みを経てAECの構想・発足へと至る一連の域内経済協力、並びにAECの制度構築の現状と同共同体をめぐる加盟各国の政治経済状況について説明を受けた。また、今後のASEAN経済の更なる統合強化の展望に関する同氏の見解をめぐり、意見交換を行った。

 上記の通り、発表者は訪問先の各氏12名、調査参加者は、(株)ユーザベースから川端隆史、内藤靖統両氏、当研究会から寺田貴、王柳蘭、岩佐和幸、中井教雄、ンガウ・ペンホイ、加藤剛、西口清勝の各氏、並びに林田秀樹の10名であった。
 今回の調査は、研究会参加者の当研究会での分担課題に直接・間接に関連する事項について聞取りができたという点に加えて、 ASEAN地域において経済の第一線で活躍されている諸氏、ASEAN共同体研究の第一人者である諸氏から、AECの制度構築とその利用のあり方について、日本における議論に比して却って冷静かつ中立的な現地在住者の意見に接することができた点においてたいへん有意義であった。秋以降の研究会で、今回の調査結果を可能な限り多くのメンバーで共有していき、来年度も今回並びに昨年度の経験を踏まえより発展的に同趣旨の調査を継続したいと考えている。

開催日時2017年7月29日 14時00分~18時00分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 扶桑館2階 214教室
テーマ① ASEAN共同体と日系アグリビジネス
② 多国籍化するマレーシア企業
発表者① 岩佐 和幸 氏 (高知大学人文社会科学部)
② 川端 隆史 氏 (㈱ユーザベース・アジア・パシフィック)
研究会内容 2015年末のASEAN経済共同体の発足以降、ASEAN並びに域内外の企業による様々な取組みが行われてきた。第一部では岩佐氏による日系企業の農・食をめぐるASEANでの事業展開について、第二部ではゲスト講師の川端氏によるマレーシア企業の多国籍化に関する報告が行われた。以下、それぞれの概要を報告する。 

 岩佐氏は、豊富な統計データを丹念に読み解くとともに、日系企業の食や農に関連した投資動向、ASEANでの事業展開について解説を行った。中国に次ぐ海外拠点として注目されるASEANに対して進めている日系アグリビジネスの特徴的な点としては、食品では100パーセント出資の企業は半数に満たない、つまり合弁・委託形態が目立つ点が挙げられる。また、現地需要の増大という点が投資決定のポイントとなっている点も特徴的である。今後の投資動向については水準の現状維持が予測されるが、飲料企業の積極的なM&Aやハラル認証対応の広がりといった動きも注目されている。これらを踏まえ日系資本のASEAN戦略については、現地資本・欧米資本との関係も踏まえて引き続き詳細な分析を行っていく必要性が述べられた。

 川端氏による報告は、企業の多国籍化の発生メカニズムに関する理論モデルから説き起こし、それに照らしてマレーシアのIHHヘルスケア、エアアジアの多国籍化の事例を中心に検討された。IHHヘルスケアは、マレーシアに拠点を置くヘルスケア系の巨大企業で、ASEAN域外のトルコでも事業を展開している。多国籍化を遂げたプッシュ要因としては、カザナ・ナショナル(政府出資の投資ファンド)による支援、アジア通貨危機の影響で私立病院から公立病院への需要シフトの発生、プル要因として進出先であるトルコの積極的な受入れ環境整備が指摘された。
 エアアジアについては、政府からの直接支援はなかったものの、マハティール期にエアラインビジネスの健全な競争のための政策が芽生えたこと、相手国側の需要の高まりや世界的な航空制度の変容が同社の多国籍化に追い風となったことが指摘された。
 最後に「中所得国の罠」について、マクロの部分のみを見て否定的に捉える視点を乗り越えていく必要性が指摘された。途上国では多くの資本を投下しなくともインターネットを通じて様々なビジネスが展開しており、ミクロの生活の質や利便性という観点から先進国との格差は縮まっているとも捉えられるためである。

 報告後、岩佐氏の報告については、農・食をめぐる国際関係の現状をどうとらえるか、統計資料をどう読み解くかなどの点をめぐって活発な議論が行われた。川端氏の報告に関しては、先進国の多国籍企業を分析する枠組みである理論モデルの適用可能性やASEAN域内の経済自由化や企業の多国籍化に応じた各国政府の政策変容などについて活発な議論がなされた。
 出席者は、発表者のほか、加藤剛、上田曜子、和田喜彦、木場紗綾、加納啓良、西口清勝、中井教雄、西直美の各氏と林田秀樹の11名であった。


開催日時2017年7月4日 12時20分~15時30分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマ① Accessibility to Finance of SMEs in CHAMPASAK Province
② How sustainable is commercial banana production in Laos?
発表者① Dr. Xayarath Khongsavang(Faculty of Economics and Business Administration, National University of Laos)
② Dr. Piya Wongpit(Faculty of Economics and Business Administration, National University of Laos)
研究会内容 今回は、当研究会メンバーである瀧田修一氏(東亜大学)の紹介で、ラオス国立大学経済経営学部より発表者として標記の二氏を招き、同国の中小企業金融と商用バナナのプランテーション栽培の展開をテーマとして開催した。以下では、それぞれの報告の概要を紹介する。

 現在、ラオスにおいて40万以上存在するとされる中小企業の能力強化は、同国の社会経済開発上の重要課題となっている。 Khongsavang氏からは、資金獲得に際して困難な状況に直面している中小企業について、同国南部チャンパサック県で産業部門を製造業・商業・その他サービス業という3つの部門に分割したうえで実施された調査結果を基に、どのような要素が各部門の投資に影響をもたらしているのかについて報告があった。3つの部門とも企業の多くは国内からの投資によって設立された小規模な個人企業であり、資金の借入れに当っての担保には土地の登記証明書が用いられている場合が多く、資金調達には当該企業の投資形態、収益状況、債務額、企業の設立時期などが影響を及ぼしていることなどが説明された。

 Wongpit氏の報告は、ラオスにおいて最近約10年間、中国系企業からの投資を受けて急速に発展してきている商業用のバナナ生産とその問題点に関するものであった。2014年時点で、バナナ・プランテーションの面積は約2万3千haで、輸出量は26万トン、輸出額は4万5千米ドルに上っている。そうした収入や雇用機会の増加などの経済的効果があるとされる一方で、数値化することは困難であるが、化学肥料や除虫剤、収穫後防腐剤等の使用による健康被害や環境汚染が広がっている。それらの健康被害・環境汚染はバナナ生産がもたらす経済的な利益を脅かすほどの規模に上り、その産業としての持続可能性可能性が脅かされると懸念される。また、バナナ・プランテーションの労働者は、貧困世帯や貧困地域に住む弱者であり、化学薬品の適切な使用に関する知識不足から大きなリスクを負っていることが説明された。

 二氏の報告に対しては、ラオスの国としての競争力から村落レベルでの生活に至るまで様々な質問があり、活発に議論が交わされた。ラオスは近隣諸国向けの輸出が半数を占めており、ヨーロッパや日本、韓国向けの輸出に対しては関税の優遇措置を受けている状態である。ASEANレベルで考えた場合、国としてどのように戦略的産業を育成していくかという点が喫緊の課題になってくる。報告者からはこうした点に関して、1つの商品作物に特化しない=モノカルチャー化しないこと、作物を加工し付加価値をつけて下流部門を含めた競争力をつけていく取組みが必要であることなどが指摘された。
 今回の参加者は、発表者のほか、瀧田修一、上田曜子、西口清勝、王柳蘭、西直美の各氏と林田秀樹の合計8名であった。

開催日時2017年6月27日 12時20分~14時40分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 啓明館2階 共同研究室A
テーマASEAN経済共同体(AEC)とリージョナル・バリュー・チェーン(RVC)
発表者西口 清勝 氏(立命館大学名誉教授)
研究会内容 ASEAN経済共同体(AEC)が発足して1年半が経過したが、この間も制度構築とその活用に関して、機構としてのASEANと域内外の企業が様々な取組みを行ってきている。今回の報告は、ASEAN域内の価値連鎖(RVC)の進展とその世界の価値連鎖(GVC)への包摂が域内の経済にもたらす利益について検討するものであった。
 まず、報告の前半では、AEC設立に至る経緯が、設立当初からのASEANの歩みのなかに丹念に跡付けられるとともに、その制度の概要がAECブループリント2015を基に解説された。そのうえで、以下のような見解や評価が示された。すなわち、AECの主要な目的は、ASEAN自由貿易地域(AFTA)形成の取組み以来、域内貿易障壁を撤廃して「単一の市場と生産基地」を形成することにより域外から外資を誘引することにある。しかし、AEC発足以前からASEANの域内貿易比率が約25%、域内直接投資比率が20%未満という低率で推移してきていることなどから、「単一市場」形成の取組みは必ずしも成功しているとはいえない。そして、その要因として指摘されたのは、ASEAN諸国の産業構造が先進国とは補完的である一方で域内では互いに競合的であるという問題、域内諸国が外資依存の輸出指向型工業化政策を採用しているという問題であった。
 次いで後半では、AECにおけるRVCの進展に関連して、ASEAN事務局やUNCTADの見解が紹介され、その見解が一般的になっているという点に問題があることが指摘された。その見解とは、AECが中核となってRVCの進展とそのGVCへの包摂を促進し、生産・投資・貿易並びにビジネス上の連関を通じてASEANの連結性を高め、地域経済統合をさらに前進させるという好循環が生み出されているのだ、というものである。これに関して、OECDとWTOによって開発された付加価値貿易データベースを用いた計算結果を基に、GVCへの参加・包摂が促進されてきているとはいえASEAN域内のRVCによって生み出された付加価値の比率は相対的に低くASEAN加盟国は、そうしたRVCの進展とGVCへの包摂から多くの利益を得られているわけではない点が指摘された。途上国側に開放的な貿易・外資政策を迫るRichard Baldwinの「グローバル化のアンバンドリング理論」を批判的に検討し、Rashmi Bangaの途上国のGVC参加に関する見解によりながら、議論のまとめとして提示された報告者の結論は、およそ以下のようである。
 ●外資依存の輸出指向型工業化政策に沿ってAEC構築のためにGVCに参加することが利益
  をもたらす保証はなく、GVCに包摂されたRVCによっては実態のあるAECを構築できる保証
  もない。
 ●しかし、そのことは、GVCやRVCへの参加を軽視し拒否することがASEANにとって適切な政
  策選択であることを決して意味しない。
 ●重要なことは、GVCやRVCに成功裏に参加してそれが産み出す利益の配分を改善する政
  策を探求し採用することであろう。

 報告後、GVC参加による利益配分を改善するための具体策や付加価値貿易額の算出法などをめぐって活発な議論が交わされた。出席者は、報告者のほか、鷲江義勝、厳善平、上田曜子、王柳蘭、加藤剛、小林弘明、中井教雄、佐久間香子、西直美の各氏と林田秀樹の11名であった。

開催日時2017年5月23日 12時20分~14時40分
開催場所同志社大学今出川キャンパス 光塩館地階会議室
テーマThe Changing Balance of Power in Asia-Pacific: The Duterte Effect
発表者Dr. Wilfrido V. Villacorta (Professor Emeritus, De La Salle University, the Philippines)
研究会内容 今回は、木場紗綾氏(政策学部)の提案で、他用にて来日中のWilfrido V. Villacorta(ウィルフリド・ヴィリャコルタ)名誉教授を招き、本学南シナ海研究センター(センター長:法学部・浅野亮教授)との共催でセミナーを開催した。ヴィリャコルタ名誉教授は、デラサール大学副学長(1983-1993)、 ASEAN事務局次長(2003-2006)、ASEANフィリピン政府代表部特命全権大使(2011-2012)を歴任した国際政治学者であり、現行(1987年)フィリピン共和国憲法の起草委員の一人として、特に独立した外交政策(Independence Foreign Policy)の条文及び外国軍の駐留に関する条項を担当した経歴をもつ。
 2016年6月のドゥテルテ・フィリピン新大統領の就任は、南シナ海問題をめぐる国際関係に変化をもたらした。講演は、ドゥテルテ大統領が選出され、いまだに高支持率を維持している国内的要因に焦点を当てるものであった。ドゥテルテ大統領と同年代である講師は、国内に蔓延する貧困問題や麻薬問題への国民の不満が、「強い」「伝統的タイプではない」リーダーを生んだと説明し、大統領はカジュアルかつ無知そうに振舞っているが実は聡明な法律家であり、特に共和国憲法2条7節の「独立した外交政策」を意識していると説明した。
 同大統領は、米比同盟強化・対中強硬姿勢を重視したアキノ前政権の外交姿勢を180度転換し、常設仲裁裁判所による南シナ海問題に関する裁定を棚上げし、対中批判を抑制してきた。本年はフィリピンがASEAN議長国を務めているが、4月のASEAN首脳会議での議長声明は同裁定への言及や対中批判も控える内容となっている。これについて講師は、①そもそも従来のフィリピンが他のASEAN諸国に比べて極めて対米寄りでありASEANのspoiler(野党)であったこと、②議長声明は議長国の独自見解であるという誤解が散見されるが、これはASEANの全加盟国の総意であること、を説明した。
 フロアからはいくつかの質問があり、活発な意見交換が行われた。南シナ海における紛争の回避を目的とする行動規範(COC)に法的拘束力をもたせることができるかという質問については、講師は、現時点では困難であろうが、中国の国内の世代交代により、中国の指導者層が次第に公民権や自由といった概念を重視するようになるであろうとのポジティブな見方を示した。外交政策の継続性に関する質問に対しては、長く市長を務めた大統領の「地方首長的な戦略」が今後どれほどの効果を上げるのかは未知数であるが、ごく最近外相に任命されたアランピーター・カエタノ前上院議員(ドゥテルテと組んで副大統領選に出馬して落選した。規則上、選挙に敗退した人物は1年間、公職に就くことが禁じられている)は安全保障政策に関して一貫した政策理念を有していることから彼に期待したい旨の回答があった。

 出席者は、講師のヴィリャコルタ名誉教授のほか、当研究会からは、上田曜子、和田喜彦、木場紗綾、日下渉、中井教雄、西直美の各氏と林田秀樹、南シナ海研究センターからは、浅野亮、坂元茂樹、鈴木絢女、小島誠二、張雪斌、吉田知史の各氏、合計で14名であった。

開催日時2017年4月14日 12時20分~14時40分
開催場所同志社大学今出川キャンパス啓明館2階 共同研究室A
テーマ東南アジア主要一次産品の生産と輸出-過去と現在の統計的概観(2)
発表者加納 啓良 氏(東京大学名誉教授)
研究会内容 今回の研究会では、まず研究代表者の林田から、2016年度の研究会活動の総括と今後の研究会運営の方針に関する報告が行われた。それに基づき、参加者間で2017年度の研究会スケジュール、ゲスト講師の招聘計画、対外的な研究交流の促進、成果公表の方法と計画等について協議された。

 次に、加納氏よる発表が行われた。昨年5月の報告に引続いて、同氏の著書『図説「資源大国」東アジア―世界経済を支える「光と影」の歴史』(洋泉社歴史新書、2014年)で使用された統計資料を更新したうえで、東南アジア地域で生産される資源・一次産品及びその加工品の生産と輸出の実態に関する解説がなされた。今回取上げられたのは、①天然ゴム、②エネルギー資源、③ココナツ油・パーム油に関するデータである。それぞれのデータに関する報告の大要は次の通りである。
天然ゴムに関しては、全体の生産量は依然として合成ゴムより少ないものの、増大傾向が読取れる。国別の生産量については今世紀に入って以降、タイ、インドネシアが1,2位を占め続けている一方で、かつての最大生産国であるマレーシアが地位を下げ続け、現在では6位に甘んじている。
石油に関しては、インドネシア、マレーシアが経済成長に伴って近年消費量を増やし生産量を上回るようになっている。このほか、ブルネイを除くすべての東南アジア諸国で消費が生産を上回っていて、輸出国としての東南アジアの存在感は低下している。石炭生産に関しては、インドネシアが今世紀に入って急成長しており、世界全体でみるとオーストラリアと首位を争っている。地熱発電能力では、フィリピンとインドネシアが突出している。
ココナツ及びヤシ油(コプラ)の生産量は近年世界的にほぼ横這いであるが、輸出量には顕著に減少しており、パーム油への代替が進んでいることが窺われる。パーム油生産については、マレーシアの停滞傾向が同国のアブラヤシの生産能力の限界を表している。また、輸入国に関しては、インドとは対照的に中国に停滞傾向が窺われることが興味深い。
 いずれのケースにおいても、国別の統計データでみた場合と企業別のデータでみた場合とでは様相が大きく異なることに注意を要する。また、中国におけるエネルギー需要の上昇、各国の自動車産業の発展が、東南アジアにおける資源・一次産品の生産に大きな影響を及ぼしていること、東南アジア各国でエネルギー消費が増大してきておりエネルギー安全保障の重要性が高まっていることなどをめぐって、活発な議論が行われた。
 最後に発表者から、東南アジアにおける資源・一次産品の問題は、付加価値生産額全体に占める相対シェアこそ低下しているものの絶対的な生産量は伸びており、重要性は失われていない点が指摘された。

 今回の参加者は、発表者のほか、上田曜子、和田喜彦、鷲江義勝、鈴木絢女、岩佐和幸、加藤剛、西口清勝、中井教雄、佐久間香子、西直美の各氏と林田秀樹の合計12名であった。