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第12研究 脱植民地化と植民地主義の現在 研究代表者:水谷 智(グローバル地域文化学部)

本研究は、20世紀半ばから後半にかけての脱植民地期における植民地主義を、日本・イギリス・オランダ・フランスの各帝国の事例を中心に、世界史的な見地から実証的に検証する。また、帝国崩壊後から現代までの植民地主義の遺産としての諸問題――紛争、レイシズム、謝罪・補償問題、歴史認識、等――を、植民地責任論や批判人種論に関する近年の議論の再検討を含めて共同で研究・議論していく。特に以下のテーマについて定例研究会を開催していく:
1.脱植民地化と暴力
2.脱植民地化および独立後の諸制度の歴史的変遷
3.植民地記憶・責任論
4.レイシズムとヘイトスピーチ

2018年度

開催日時 2019年1月25日 16時30分~19時00分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館SK214
テーマ 植民地主義としての〈ジェンタイル・シオニズム〉の歴史と現況
発表者 役重善洋
研究会内容  シオニズムとは、ユダヤ人によるパレスティナでの民族的国家建設運動であるが、ジェンタイル・シオニズムとは、非ユダヤ人―主にキリスト教徒―によって支持・支援されたシオニズムを指す。それは、欧米キリスト教社会における反ユダヤ主義と親和的であったと同時に、聖地パレスティナをムスリムから奪還するというイスラームへの対抗意識を内包しており、19世紀以降、中東におけるイギリスの帝国主義と結びついていった。役重氏は、こうしたジェンタイル・シオニズムは「被差別者を利用した入植型(棄民)植民地主義」であったとし、単なるシオニズム研究ではなく植民地主義研究の視角からこれを捉えることの必要性を訴えた。
 さらにジェンタイル・シオニズムは、東アジアにおける日本の植民地主義との同時代的な連関を有するものであった。欧米列強との仲介者としての役割を期待されていた日本人キリスト教徒のなかで、内村鑑三と矢内原忠雄、そして中田重治という3人のキリスト教徒知識人は、いずれも両大戦期間にシオニズム運動に着目して好意的に言及した。氏は、このような彼らのシオニズムへの同時代的な関心と民族・植民地認識との関係性について論じた。
 質疑応答では、東アジアにおける日本の帝国主義的侵略とジェンタイル・シオニズムとの連関に関して活発な議論が交わされた。それにより、シオニズムと東アジアにおける日本の植民地主義がジェンタイル・シオニズムを通じて関連していたのであり、植民地主義は一つの帝国にとどまらないグローバルな思想・行為であったことが改めて確認された。また、シオニズムと現代のパレスティナ問題についても議論がなされた。
開催日時 2018年5月27日 13時~16時
開催場所 同志社大学 烏丸キャンパス志高館SK203
テーマ 「近代性と旧帝国:新帝国は旧帝国をいかに見ていたか―ドイツ帝国と日本の事例―」
発表者 アンドレアス・ヴァイス
研究会内容  科学研究費・基盤研究(B)「間帝国的関係性からみた植民地支配と抵抗―比較・協力・並存・移動の史的構造」(代表:水谷智)との共催で、帝国史研究の新たな可能性を探ることを目的とした研究会を行った。報告書としてゲストにドイツから来日中のアンドレアス・ヴァイス氏を招聘した。
 2016年に出版されたAsiaten in Europa: Begegnungen zwischen Asiaten und Europäern 1880-1914 (Paderborn: Ferdinand Schöningh) に基づき、ヴァイス氏は19世紀末から20世紀初めにかけての日本とドイツとの近代性をめぐる関係性について報告を行った。氏は、当時のドイツへの日本人留学生たちやドイツにおける日本イメージを分析することを通じて、法学・医学・芸術といった分野、あるいは社会習慣・社会学・文学といった予期せざる領域における、日本によるドイツの近代性への影響関係についての議論を展開し、それは帝国としての日本にも大きな影響を及ぼしたことを示した。そして、「西洋」と「他者」との差異化はとりわけアジア諸国に対するヨーロッパの技術的・イデオロギー的な優越性を主張するために重要であり続けたことや、こうした優越性に対して第一次世界大戦勃発以前から疑義が提起され、既に19世紀末には近代的な西洋と停滞的な東洋という二分法は明瞭なものではなく、ドイツ帝国にとって日本は重要な比較・参照軸となっていたことを指摘した。
 その後の質疑応答では、日本・ドイツのみならず、その他の帝国や植民地統治との関係性や、宗教・宣教師とのかかわりについて活発な議論が交わされ、「間‐帝国的(trans-imperial)」な研究の可能性・重要性が改めて確認された。

2017年度

開催日時 2018年2月21日 14時~17時00分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館 SK118
テーマ ロスト・イン・トランスレーション―ドイツ帝国における植民地スキャンダル
発表者 レベッカ・ハーバーマス、水谷智、西山暁義、板垣竜太、永原陽子
研究会内容  The Journal of Modern Historyに2014年掲載されたレベッカ・ハーバーマスの論文 ‘Lost in Translation: Transfer and Nontransfer in the Atakpame Colonial Scandal’と、2016年に出版されたSkandal in Togo: Ein Kapitel deutscher Kolonialherrschaftに関する発表を通じて、帝国史研究の新たな視座を探ることを目的とするシンポジウムを、科学研究費・基盤研究B「間帝国的関係性からみた植民地支配と抵抗―比較・協力・並存・移動の史的構造」(代表:水谷智)、基盤研究B「言語帝国主義と『翻訳』―帝国とその『偏狭』の文化変容」(代表:平田雅博)、基盤研究B「ケアの論理の民主主義的展開―フランスにおけるケアの論理受容研究を通じて」(代表:岡野八代)、との共催で開催した。
 本講演でハーバーマスは20世紀初頭のドイツ領トーゴにおけるある植民地官僚の性と暴力を巡るスキャンダルに関する知の帝国的移動を分析することで、帝国の拡大と植民地化の進展が植民地社会に関する知の増加をもたらすという一般的理解に対して、拡散と蓄積のみならず沈黙もまた植民地をめぐる知のひとつの在り方であったことを提示した。応答として永原陽子はスキャンダルを告発した宣教師団の問題提起が現地人にどのように映ったのか、「模範的な植民地トーゴ」という歴史評価に対する本ミクロヒストリーの位置づけ、スキャンダルに焦点を当てることで看過される恐れのある現地の日常のジェンダー観、トランスファーという言葉の双方向性への意識からドイツ史を再構成する可能性等、踏み入った議論を展開した。水谷智は複数の異なる帝国間の関係においてトランスファー/ノン・トランスファーがどのように扱いうるのか検討する必要性を提示した。板垣竜太は多角的な資料収集に基づく本研究手法そして本論での議題がどのように朝鮮史に適用されうるかを具体的に例示することによって、共有できる論点を明らかにした。シンポジウムの最後にはディスカッションをフロアに開放し、活発な議論が交わされた。
開催日時 2018年1月26日 16時~19時00分
開催場所 同志社大学 烏丸キャンパス志高館SK203
テーマ 植民地朝鮮における関東大震災:朝鮮人「流言」をめぐって
発表者 西村直登(同志社大学グローバルステディーズ研究科博士課程)
研究会内容  西村は、関東大震災の混乱を避けて日本から朝鮮へ帰還した人々に焦点を合わせ、当時公に語ることができなかった流言蜚語や朝鮮人虐殺事件をめぐる経験が植民地期の朝鮮人にとってどのような意味をもつかを論じた。これまでの研究では、流言が本土における治安維持あるいは軍事上有害とみなされ取り締まりの対象となった点に着目して分析がなされてきた。既知のように大震災後、関東地方には戒厳令が発令され、朝鮮人や社会主義者に対する監視や取り締まりの強化体制がとられた。
 しかし、朝鮮半島では流言はまた別の意味を持った。西村は、日本から帰還した朝鮮人自らが当時語ったことが反植民地感情を刺激する危険な「流言」とみなされ、総督府の取り締まりの対象となったこと、その取り締まりの対象となった「流言」の中にも衝突があり、流言の解釈が極めて複雑であることを示した。また1920年代後半以後は、震災経験が話題とならなくなったことから、統治者側の対策が成功したとみなされることを指摘した。
 出席者からは、朝鮮半島において統治者が何を恐れていたのか―「帝国的不安」(imperial anxiety)―を明らかにすべく、検閲のあり方をさらに詳細に前景化してはどうかという提案がなされた。総督府はどのような大義名分で情報統制をおこなったのか、震災の経験はその後の植民地朝鮮における検閲の歴史にどのような影響を与えたのか。こうした問いに答えるべく、朝鮮総督府の行動にかかわる資料、新聞報道、映像などのさらなる収集が勧められた。
開催日時 2017年7月16日 13時~17時00分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館 SK118
テーマ 「<はざま>から再考する帝国史」
発表者 水谷智、駒込武、森本真美、並河葉子
研究会内容  一昨年に刊行された駒込武『世界史のなかの台湾植民地支配―台南長老教中学校からの視座』(岩波書店、2015年)を足がかりとしながら、帝国史研究の新たな可能性を探ることを目的とするシンポジウムを、科学研究費・基盤研究C「イギリス帝国と近代日本―帝国的諸事業・思想の越境的伝搬と展開」(代表:吉村(森本)真美)、基盤研究B「間帝国的関係性からみた植民地支配と抵抗―比較・協力・並存・移動の史的構造」(代表:水谷智)、同志社大学人文科学研究所第19期第3研究「東アジアキリスト教伝道史基礎アーカイヴズの研究」(代表:原誠)、との共催で開催した。
 台湾のキリスト教系学校である台南長老教中学校を、日本とイギリスの二つの帝国の<はざま>に位置づけて論じる駒込の研究をさまざまな角度から共同討議することで、複数の帝国をまたがった「間帝国」(trans-imperial)な領域において支配と被支配の関係性を問うていくために、イギリス帝国史研究者であり第12研究会のメンバーである水谷智、森本真美、並河葉子が自身の研究を踏まえつつ駒込氏の著書を論じる報告を行った。水谷は英領インド史研究および「間帝国」研究の視点、並河はイギリス宣教師研究の視点、そして森本はイギリス子ども・青少年期研究の視点からそれぞれ駒込氏による帝国研究のもつ可能性について論じ、それに対して駒込氏がリプライを行った。シンポジウムの後半では、外部から招聘した木畑洋一(イギリス帝国史:東京大学)、廉雲玉(イギリス帝国史:韓国・高麗大学)、田中智子(近代日本高等教育史:京都大学)の各氏によるコメントを中心とするディスカッションを行った。シンポジウムの最後にはディスカッションをフロアに開放し、活発な議論が交わされた。

2016年度

開催日時 2017年1月9日 11時~17時30分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館SK390およびSK214
テーマ 「第12班の今後の研究の方向性および活動について」/
「Lisa Yoneyama, Cold War Ruins (2016)から考える植民地責任・記憶論」
発表者 米山リサ、板垣竜太、水谷智、キム・ハンナ
研究会内容 第1部:「第12班の今後の研究の方向性および活動について」

 研究会の今後の方針について議論した。特に、2017年12月に開催予定のシンポジウムの内容について、トロント大学から招聘予定で現在日本に滞在中のタカシ・フジタニ、米山リサの両氏を招いて議論した。研究会の今後の方針が確認されるとともに、シンポジウムの場所、日程、形式などが決まった。

第2部:「Lisa Yoneyama, Cold War Ruins (2016)から考える植民地責任・記憶論」

 今年度9月に刊行されたCold War Ruins: Transpacific Critique of American Justice and Japanese War Crimes (Duke University Press)について、著者のLisa Yoneyama氏(トロント大学)を招いて議論した。議論に先だって、板垣竜太、水谷智、キム・ハンナ(ゲスト)の3名が分担して各章の内容を紹介した。分担は以下の通り:
 板垣:Preface、Introduction、Chapter 3
 水谷:Chapter 1、Chapter 2
 キム・ハンナ:Chapter 4、Chapter 5
 20名近くで行われた共同討議では、様々な地域を専門とする研究者から、記憶、リドレス(補償=是正)、暴力、冷戦、脱植民地化などの重要テーマについて多くの質問が出され、著者を交えた白熱した議論が展開された。
開催日時 2016年8月2日 13時~17時30分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館SK203
テーマ レイシズム再考
発表者 李孝徳・駒込武
研究会内容
  • 李孝徳「人種主義を日本において再考すること―差異、他者性、排除の現在」

 近年、人種主義は、ヘイトスピーチの可視化と偏在化、さらにそれに対する批判の公論化と法的規制が行われることで、ようやく日本社会の内在的な問題として認知され始めたかに見える。しかし実際には、近代以降の日本におけるレイシズムの歴史性が深く共有されることのないまま流通してしまうことで、「ヘイト」概念のインフレーション状態が生じている問題がある。李は、こうした状況の下、「レイシズム」や「レイシスト」といった言葉がヘイトスピーチの発話と発話者に縮減されて使われ、何が問題にされているのかが曖昧になっている問題を指摘した。その上で、ヘイトスピーチを法的規制や一般市民に対する人権啓発といった問題に終わらないために、それをより広義の「レイシズム」のなかに位置づける要性について論じた。

  • 駒込武「書評:Satoshi Mizutani, The Meaning of White: Race, Class, and the 'Domiciled Community' in British India 1858-1930 (2011)」

 駒込は、2011年に刊行された水谷智(12班研究代表者)による英領インドの「混血」と白人性(whiteness)に関する研究書を書評し、それを通じて過去と現在のレイシズムについて再考した。特に、水谷が論じた英領インドを、駒込自身の研究対象である植民地台湾と比較し、イギリス支配下における白人性について考えることが、日本支配下の台湾における「内台共婚」に関して新たな研究領域を広げる可能性について言及した。書評後の質疑応答では、植民地的レイシズムや混血者の排除をめぐる西欧帝国と日本帝国の共通点や差異について活発な議論がなされ、比較研究の有用性と困難さが改めて明らかになった。
開催日時 2016年6月18日 12時~17時30分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館SK203
テーマ 植民地記憶・責任論の比較検討:台湾と南アの事例
発表者 三澤真美恵・永原陽子
研究会内容
  • 三澤真美恵「台湾における2つの〈戦後〉」

 三澤は、台湾における植民地記憶・責任論について、2015年の動きに焦点を合わせ、一連の政策、市民運動、展示・記念イベント、映画、等の分析を通して植民地支配と戦中・戦後の<記憶化>(コメモレーション)とそれをめぐる論争について論じた。敗戦によって日本支配が終焉を迎えたのち、中国(国民党が主導した中華民国)による支配が新たな「植民地化」として理解されることもある台湾のポストコロニアル的状況においては、記憶・責任論は極めて複雑な軌跡を描き続けている。三澤は、この状況を<慰安婦問題>と<大戦の記憶>をめぐる動向を具体例としてとりあげて論じた。親中国の姿勢で知られる国民党とそれを支持する人々と、台湾独立の志向をもつ反国民党の人々では、日本の植民地支への抵抗や大戦の被害/加害についても立場が対立しており、それが慰安婦問題や大戦をめぐる歴史認識を極めて複雑にしている状況が示された。

  • 永原陽子「南アフリカの “Rhodes Must Fall”運動とその後」 

 永原は、南アフリカのアカデミアにおける植民地記憶・責任について、2015年3月にケープタウン大学のキャンパス内で起こったセシル・ローズ(イギリスの帝国主義者)の像の撤去を求める学生の運動――いわゆる“Rhodes Must Fall”運動――の事例から論じた。アパルトヘイトを克服し、民主化を達成して20年経った南アフリカで起こった今回の運動は、マンデラ主導下の真実和解委員会が直接扱わなかったイギリスの植民地支配を問うものだった。運動の直接的原因は大学における学生・教員の構成や教育内容が未だに白人中心であることだったが、永原によれば、こうした知的疎外に加えて、経済的格差の各差異がより大きな背景として存在し、経済的自由戦士(Economic Freedom Fighters)等は運動に乗じて政権批判を強めている。また、この運動がイギリスのオックスフォード大学などの海外にも広がりを見せたことも示された。