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第19研究 経済制度と社会秩序の形成に関する理論実証分析 研究代表者:上田 雅弘(商学部)

本研究会は経済制度や社会秩序が規範・慣習などとどのような関わりを持ちながら形成されるのか、またそれらがいかなる要因で変化していくのか、その生成や変容・崩壊の動的プロセスを解明することを目的としている。その分析手法は理論的、実証的なアプローチにとどまらず、歴史的、思想的な背景も含めた多面的な捉え方を試みる。
 具体的には、経済・社会を形成する個人の意思決定について、理論面では進化ゲームを用いた比較制度分析を用いて制度の生成や変容をモデル化する。また実証面ではベイズ統計学を生かした新たな分析手法を取り入れるとともに、実験的アプローチで人間行動の検証を行うことを念頭に置いている。こうした分析結果を歴史や経済思想の観点から多面的に検討するところに学術的な特色がある。

2018年度

開催日時 2019年1月31日
テーマ 堂島米市場の取引制度
発表者 高槻 泰郎
開催日時 2018年12月11日
テーマ Stochastic control in management problems on environment and ecology of rivers
発表者 吉岡 秀和
開催日時 2018年9月13日
テーマ 日本の製紙業に関する合併の成否
発表者 上田 雅弘
開催日時 2018年4月10日
テーマ StochasticStock Crash and R-squared around a Catastrophic Event
: Evidence from the Great East Japan Earthquake
発表者 山本 達司

2017年度

開催日時 2017年8月8日 14時~19時
開催場所 至誠館4階第1共同研究室
テーマ 国際会計基準の採用は利益の質を高めるか:ベイズ推定によるアプローチ
発表者 田口聡志(商学部教授)・上田雅弘(商学部教授)
研究会内容  今年度第1回目の研究会では、田口聡志商学部教授・上田雅弘商学部教授による共著の研究報告「国際会計基準の採用は利益の質を高めるか:ベイズ推定によるアプローチ」がおこなわれた。
 現在、国際会計基準(IFRS)を中心に、会計基準の調和化が進んでいる。現状では、100を超える国がIFRSを何らかの形で受け入れているといわれているし、特にEUは、域内の上場企業に対して全面導入するなど、その動きに積極的である。しかしながら他方、たとえば米国では、IFRS受け入れが暗礁に乗り上げているし、また日本でも、4つの会計基準が並存している状況にあるなど、極めて混沌とした状況にある。ここで会計基準の違いにより、利益額や情報の質が大きく変化しうる可能性を鑑みれば、企業が複数の会計基準セットの中からどれを選択するのかということは極めて重要な問題となるし、そうであれば、日本の現在の環境において、実際にIFRS適用済企業の会計情報の質が高まっているか否か検証する必要がある。この点を明らかにすることは、今後のIFRSの今後の行く末を考える上で極めて重要な意味を持つ。なぜならSunderらのいう「品質の高い会計基準が自然に選択され生き残る」という見解からすると、もし仮にIFRS適用企業の利益の質が高いならば、今後IFRS適用企業がより増加し、最終的にIFRSが「生き残る」結果となることが予想されるからである。
 本報告では、以上のような問題意識を前提に、IFRSが利益の質を高めるか実証的に検証するファーストステップとして、日本の一部上場企業を対象に、IFRS適用企業の利益の質と非適用企業の利益の質とを比較する準備的な実証分析の経過報告がなされた。そこでは、特に従来の会計発生高研究にベイズ推定を加味した新たなアプローチで分析を展開していく方向性が示された。

2016年度

開催日時 2016年10月30日日曜 13時−17時半
開催場所 良心館RY104教室
テーマ [実験+社会科学]は社会を変えたか?:実験研究のこれまでとこれから
発表者 西條辰義氏(高知工科大学教授)
安田洋祐氏(大阪大学准教授)
山根承子氏(近畿大学准教授)
竹内幹氏(一橋大学准教授)
三船恒裕氏(高知工科大学准教授)
研究会内容  今年度第4回目の研究会では、「[実験+社会科学]は社会を変えたか?:実験研究のこれまでとこれから」と題して、社会科学における実験研究の意味について、外部講師による研究報告とディスカッション(対談)を行なった。
 まずはじめに安田洋祐氏(大阪大学)による報告「A Simple Economics of Inequality: Market Design Approach」では、経済の二極化問題・貧困問題を、ミクロ経済学の最初に学ぶ需要供給の議論を用いてシンプルにモデル化し、①従来の需要と供給の経済分析では、取引に参加できる者と参加できない者とが生じ、そこが二極化問題を引き起こしていること、②取引に参加できる人間を最大化することを政策目標にすると、パレート最適性は満たされないものの貧困問題は解決しうる可能性があること、③さらにその分析のためにはマッチング理論が有益であることを、PENTという新しい均衡概念を用いて説明した。
 また、西條辰義氏(高知工科大学)による報告「フューチャーデザイン:持続可能な社会への変換を目指して」では、未来の社会をデザインするためには「仮想将来世代」という発想が重要となることを、自身の実験研究を通じて明らかにした。
 それらを受けての対談では、両氏のほか、さらに山根承子氏(近畿大学)、竹内幹氏(一橋大学)、三船恒裕氏(高知工科大学)がパネリストとして加わり、以下のような論点について議論を行なった。①実験の再現性(内的妥当性)、②実験の外的妥当性(ラボ実験対フィールド実験、被験者プールの問題など)③「研究」と「社会」の関係をどう考えるか、④実験研究の将来性をどう考えるか。いずれも当研究会の今後の方向性を考える上で、極めて有益な示唆が得られた。
開催日時 2016年10月25日火曜 17時半−18時半
開催場所 至誠館5階第3共同会議室
テーマ 企業の社会的責任の経済分析
発表者 内藤徹氏(同志社大学商学部教授)
研究会内容  2016年度第3回研究会では、内藤徹商学部教授による研究報告「企業の社会的責任の経済分析」を行なった。
 近江商人の家訓に「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」というものがある。伝統的な経済学理論においては、企業の目的は利潤の最大化であると考えられてきた。しかしながら、近年、企業が自己の利潤を最大化するためだけに生産を行っていないケースが散見される。そして、企業会的責任(CSR)に対し、大きな関心が集まっている。企業のCSR活動は、地域雇用、教育、環境など多岐にわたっている。
 本報告では、CSR事業を行う2企業が存在する複占企業を想定している。各企業は2段階で生産量とCSRの種類を決定する。考察するモデルでは、地場の雇用を促進するような雇用CSRと環境に配慮する環境CSRを想定している。ゲームの構造は、各企業が2段階ゲームで競争を行っており、第1ステージでは、株主(経営者)がどのようなCSRを選択する。第2ステージでは、第1ステージで決定されたCSRの種類を与件とし、CSR事業と企業の利潤をウェイト付けした関数を最大化するように自社の数量を決定しており、これをバックワード・インダクションで解いている。
 分析の結果、均衡ではそれぞれの企業が他社と同一種類のCSRを選択せず、異なるCSRを選択することを明らかにした。本報告では、両企業がともにCSR事業を行う企業を想定しており、企業の選好の異質性は考慮されていない。したがって、選好が異なる企業が存在するケースについては分析を行っていない。これらの点についてはより現実に沿ったモデルを構築し、その選好の異質性が均衡においてどのような影響を与えるかについては、今後の課題となる。
開催日時 2016年7月26日火曜 18時−19時
開催場所 至誠館5階第3共同会議室
テーマ 制度的補完性と会計の透明性
発表者 田口聡志氏(商学部教授)
研究会内容  今年度第2回目の研究会では、田口聡志商学部教授による研究報告「制度的補完性と会計の透明性:減損会計に関する実験研究」を行なった。
 減損会計における大きな問題点の一つは、その裁量性である。実際、減損損失の計上には経営者のインセンティブが介入し、かならずしも適時的に減損損失が計上されていないことが従来から指摘されている。具体的には、経営者報酬が減損損失の計上タイミングを左右する要因の一つであることが、先行研究において示唆されている。他方で、近年、監査領域においてはKAM (Key Audit Matters)という監査人と経営者との間で意見対立があった場合など、財務諸表監査における監査人の専門家としての判断上、最も重要と考えられる事項を開示する制度が注目を集めている。本研究では、このKAMの開示制度を念頭において、減損損失の計上をめぐって経営者と監査人との間に意見の対立が生じている状況下で、意見対立に関する開示の有無が経営者の減損損失計上にどのような影響を与えるのかについて、経営者報酬に焦点をあて検討した。
 実験の結果、以下が明らかになった。①業績連動型報酬制度のもとで、経営者が減損損失を計上する可能性は低下すること、②減損損失を計上しなければ監査人との意見対立が生じていることが開示されてしまう状況においては、経営者はより減損損失を計上すること、③追加のデモグラフィック・データ分析により、社会性(他人の目を気にする傾向)が高いほど、意見対立の開示がある場合に減損損失がより計上されやすくなることなどである。これらは、他者の目効果 (peer effect) による経営の規律づけ効果を示唆する結果である。これらのデモグラフィック・データの分析結果は、監査をおこなううえで個人特性が重要な要素の一つであることを示唆する。
開催日時 2016年5月24日火曜 16時15分−18時
開催場所 扶桑館F513教室
テーマ Non-neutral technological progress and income distribution
発表者 森田雅憲氏(商学部教授)
研究会内容  今年度第1回目の研究会では、森田雅憲商学部教授による研究報告「Non-neutral technological progress and income distribution」を行なった。
 本報告は、新古典派の2部門成長モデルを用いてPikettyの所得分配の動向に関する命題を検討したものである。消費財と投資財を生産する2部門モデルにおいて、両部門で非中立的技術進歩があった場合に、機能的所得分配はどのように変動するかを解析的および数値シミュレーションによって検討したものである。まず非中立的技術進歩がある場合にシステムが収束するコーナー解が解析的に導出される。安定的なコーナー解は潜在的には二つ存在し、一方がノードであれば、もう一方はサドル・ポイントになることが示される。数値シミュレーションでは、微分方程式モデルを4次のルンゲ=クッタ法によって差分系に変換し、非定常的な動学経路をプロセス解析と比較動学の二つの方法で検討している。
 結論的には、Pikettyの命題は、一般的には新古典派の2部門モデルでは肯定的な場合も否定的な場合もありうる。しかし、多くの実証研究が産業レベルでの技術的代替の弾力性が1より小さいということを明らかにしている点を考慮すると、本研究ではPikettyの命題は支持されないことが明らかとなる。また新古典派成長モデルは、一般的に均衡成長経路の有無にかかわらず、所得分配の長期的な安定性を論証するのに適しており、Pikettyのように所得分配の長期にわたる大きな変動を論証するのには適していないことが示される。むしろ税制など制度的な変動こそが所得分配の大きな変動を説明するにあたって重要であろう。
 以上より、Pikettyの主張は新古典派のモデルから引き出されたものというより、歴史的・統計的データから帰納的に導かれたものと理解すべきものである。