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第9研究 ランドマーク商品に関する国際比較研究―インフラ・所得・ライフスタイル― 研究代表者:川満 直樹(商学部)

本研究会では、商品が我々の生活や社会に与えた影響について検討する。検討する際の概念として「ランドマーク商品」を使用する。ランドマーク商品については、すでに研究蓄積(主に日本)があるため、それらを基礎として新たなテーマであるランドマーク商品研究の国際比較を試みたい。具体的には、インフラ整備、所得水準の推移、伝統的ライフスタイルの三つの分析視点を中心に日本、ヨーロッパ、アメリカならびにアジア諸国での商品と社会の関係などについて検討する。
 本研究会は、定例研究会を年間7回(原則として4月・5月・6月・7月・10月・11月・12月)を開催する。参加者は年1回の研究報告を行い、相互に議論し『社会科学』やその他への投稿原稿を作成する。また、日本あるいは日本以外の国や地域でのランドマーク商品の影響等を確認するため現地調査を実施する予定である。

2018年度

開催日時 2018年12月16日 15時00分~16時45分
開催場所 同志社大学 今出川校地 扶桑館4階413教室
テーマ
  1. 商品としての綿フランネル―京都綿子ル社の製品を中心に―
  2. 人文研第19期研究会第9研究会の総括および第20期研究会に向けて
発表者
  1. 亀井大樹氏
  2. 川満直樹氏
研究会内容  12月研究会は、亀井大樹氏が「商品としての綿フランネル-京都綿子ル社の製品を中心に-」をテーマに研究報告を行った。そして川満直樹氏が第19期第9研究会の総括および第20期研究会について説明を行った。
 亀井氏の報告の目的は、日本人の衣生活が大きく変化する明治期を対象に、当時普及した綿子ルの生産状況および販売状況などを明らかにすることである。亀井氏は、明治期に商品学において綿子ルがどのように紹介されていたのか。また、明治の中後期における綿子ルの生産額の推移、綿子ル生産の主導的な会社であった京都綿子ル社について紹介し、分析を行った。
 結論として、綿子ルは明治10年代に和歌山、京都、大阪、愛媛、他で生産されるようになり生産地が拡大していったこと。明治20年代には、捺染綿子ルの輸入が拡大し、国内でも機械を導入し国産の紡績糸を使用した綿子ルの生産の機運が高まったこと。また、京都綿子ル社は加工綿布の生産に不可欠な捺染技術を導入し、日本の捺染業の発展に貢献したこと、などを明らかにした。
 研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
 川満直樹氏は、人文研第19期研究会第9研究会の総括および第20期研究会について説明を行った。第19期研究会第9研究会の研究活動については、人文研HP「研究会の活動報告」に掲載されているので、この報告書では省略する。
 第20期研究会第7研究会(2019年度~2021年度)は、「『商品史文献解題』編集に関する研究」をテーマに研究を行う予定である。同研究の主な目的は、商品史研究の過去と現在を整理し、商品史研究の将来への向けての課題を発見するために『商品史文献解題』を刊行することにある。
開催日時 2018年11月11日 15時00分~17時45分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館4階413教室
テーマ
  1. 「戦後の民間放送におけるテレビ番組制作の事例」
  2. 「分権化の限界を超えて-組織分権化論の理論的検討と管理信仰の超克-」
発表者
  1. 森美枝氏
  2. 鈴木智気氏
研究会内容  11月研究会は、2本の研究報告が行われた。以下に、それぞれの研究報告の概要を記し研究会活動概要報告とする。
 森美枝氏は「戦後の民間放送におけるテレビ番組制作の事例」をテーマに研究報告を行った。本報告の主な目的は、クイズ番組の視点から日本人の生活、日本社会の変容について検討することである。
 森氏は、上記の検討課題を明らかにするために、番組スポンサー、広告代理店、放送局が三位一体となって制作していた時代のクイズ番組「アップダウンクイズ」に焦点をあげ分析を試みている。クイズ番組は日本社会の変化、日本経済に影響を受けながら制作されてきた。同報告から、クイズ番組はその時代を映す鏡になっていると言うことが明らかになった。例えば、1950年代後半~60年代前半:家電・大量消費、1965年~1970年代前半:学歴社会を投影するクイズ番組、1970年代後半~1985年:映像情報番組としてクイズ、などなどである。
 鈴木智気氏は「分権化の限界を超えて-組織分権化論の理論的検討と管理信仰の超克-」をテーマに研究報告を行った。本報告の目的は、組織論における分権化研究の整理と考察を通して、分権化論が何を問題にし、何を論じてきたのかなどを検討し、先行研究が主張する分権化の在り方に潜在する困難性と、困難性を超克する分権化の在り方を提示することである。
 鈴木氏は、研究報告のまとめとして次のように述べた。信頼をベースに管理統制を行わず、フォロワーによる自由裁量の行使をマネージャーが積極的に支援する分権化であれば、階層構造があっても分権化のメリットを得ることは可能である。しかし、その場合、マネージャーは管理統制を行わないことへの恐れを乗り越える必要がある。またフォロワーを信頼し支援する立場へと役割を転換する必要がある。
 各研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2018年10月14日 15時00分~16時45分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館4階413教室
テーマ 即席めんは何故「世界食」になったのか ―文化と便利さの意味を問う―
発表者 川邉 信雄氏
研究会内容  10月研究会は、川邉信雄氏(早稲田大学名誉教授・文京学院大学元学長)をゲスト講師にお迎えし「即席めんは何故「世界食」になったのか-文化と便利さの意味を問う」をテーマにご講演をしていただいた。
 川邉氏は、『「国民食」から「世界食」へ―日系即席麺メーカーの国際展開―』(文眞堂)を2017年10月に出版した。今回の講演では、同書に関すること、ならびに第9研究会の研究テーマ「ランドマーク商品」論に関しお話をされた。以下に、川邉氏の講演で話された内容、特に即席めんに関することを記し、研究会活動概要報告とする。
 『「国民食」から「世界食」へ』では、日本発となる即席めんについて重要なポイントが多く指摘されているが、その中心的なテーマは日本発となる即席めんがどのようにして日本以外の国・地域に進出し、そしてそれらの国・地域でどのようにして定着したのか、について論じていることである。同書をまとめるにあたっての問題意識は、①1,000憶食超の「(即席めんが)世界食」、②これまで即席めんに関し体系的な研究が存在しない、③国内志向の強い製品が、なぜ、いかにして国際化したのか、などである。
 現在、即席めんは袋めん、カップめんを問わず日本だけではなく、多くの国・地域で食されている。食(食べ物)は、その土地の風土や文化などに直接影響を受け、国・地域によって大きく嗜好が変わる。即席めんを製造する技術も重要であるが、もっとも大切なことは現地の食の嗜好にあわせ即席めんを製造することである。川邉氏は、日系企業が進出した国・地域を示し、日系企業の現地での活動について詳細に説明をした。
 紙幅の関係上、これ以上講演について記すことはできないが、我々が行ってきたランドマーク商品研究に関し、川邉氏の講演から多くのヒントを得た。
 講演終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2018年6月10日 15時30分~17時00分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ トウガラシと日本人 ―能勢町プロジェクトの紹介―
発表者 天野 了一氏
研究会内容  6月研究会は、天野了一氏が「トウガラシと日本人-能勢町プロジェクトの紹介-」をテーマに、同氏が関わっているプロジェクトについて報告を行った。以下に、天野氏のプロジェクトに関する報告の内容を記し、研究会活動概要報告とする。
 天野氏のトウガラシとの出会いは、同氏が1985年にアメリカのニューメキシコ州へ留学した時だった。ニューメキシコは、トウガラシで有名な地であり、天野氏はニューメキシコで約1年間生活し、トウガラシを食し続けたことでトウガラシのとりこになった。その後、2014年にニューメキシコを再訪したことをきっかけに、「日本でも何とかしてニューメキシコで食べたトウガラシを栽培できないか」と思い、今回のプロジェクトを立ち上げた。
 天野氏は、「ビッグ・ジム(Big Jim)」というトウガラシの品種をニューメキシコから持ち持ち帰り自宅で栽培したが失敗した。その後、「篠ファーム」の高田成氏に「ビッグ・ジム」の栽培について相談し、プロジェクトが始まった。高田氏は、日本でハバネロの栽培に初めて成功した人物である。現在、「ビッグ・ジム」を能勢町の農家の協力を得て栽培している。
 報告終了後の質疑応答では、フロアからも同プロジェクトの今後の活動、他について多くの質問があった。
開催日時 2018年5月13日 15時30分~17時00分
開催場所 同志社大学 今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ 戦前期日本におけるパチンコの誕生・普及・影響
発表者 鍛冶 博之氏
研究会内容  5月研究会は、鍛冶博之氏が「戦前期日本におけるパチンコの誕生・普及・影響」をテーマに研究報告を行った。以下に、鍛冶氏の研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 現在、パチンコはレジャー産業市場の約30%を占めるに至っている。しかし、近代日本の娯楽の一つであるパチンコに関する学術的研究は十分とは言えない状況である。そのような状況の中で、本研究報告の主な目的は、大正期に誕生し、戦後に普及したパチンコを取り上げ、パチンコが戦前期の日本社会に出現した経緯と背景、そして社会に与えた影響などについて検討することである。
 本研究報告は具体的に、日本でパチンコがどのようにして誕生したのか。また、パチンコ店営業の誕生について、戦前期のパチンコブームについて、また商品史研究の観点からパチンコとランドマーク商品、他について分析を行った。
 第9研究会では、これまでランドマーク商品という概念を用い研究を行ってきた。パチンコはランドマーク商品と言えるのか。鍛冶氏は、その問いに対し、戦前期のパチンコはランドマーク商品とは言えないとし、その理由を(戦前期の)日常生活や個人の価値観に劇的な変容を促したとは必ずしも言い切れないからである、と述べた。パチンコが人々の生活や社会に大きく影響を与えるのは、1950年代に到来した第一次パチンコブーム以降であり、その段階に至ってはじめてパチンコはランドマーク商品と位置付けられるのではないか、と鍛冶氏は述べた。
 研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2018年4月8日 15時00分~17時00分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ ランドマーク商品以前の事 ―家電製品を中心に―
発表者 小西 浩太氏
研究会内容  4月研究会は、小西浩太氏が「ランドマーク商品以前の事-家電製品を中心に-」をテーマに研究報告を行った。以下に、小西氏の研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 本研究報告の主な目的は、現在、社会に影響を与えている商品(本報告では、主に家電製品)が世に出る以前にどのようなモノ(商品)が存在し、現在の商品とどのようなかかわりがあるのか。また商品が普及するための要件はどのようなものか、などを検討することであった。
 小西氏は、商品が普及するために必要な要件を「電気・水道・下水道などインフラが整備されていること」、「購入できる中産階級が存在すること」、「その使用を広く認知する文化的基盤」の三つ示した。家電製品が社会に、そして一般家庭に普及するためには、上記した要件は必要である。ここでは、それらの要件について個別に説明はしないが、要件が一つでも欠けると社会に、そして一般家庭に家電製品が普及することは難しいと思われる。
 本研究報告で、小西は上記について検討した結果、大正から昭和初期にかけ、商品(ランドマーク商品)の普及とそのパワーを経験した人々が存在し、彼らのような人々が商品(ランドマーク商品)の普及を促進させこと。また、家電製品を使用することに対する文化的認知の一般化ならびに共有化なども同時期に進行したこと、などを明らかにした。
 研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。

2017年度

開催日時 2017年12月17日 15時00分~16時40分
開催場所 同志社大学 今出川校地 扶桑館5階503教室
テーマ 明治期における先進的鉄道サービスについて ―山陽鉄道を例として―
発表者 井田泰人氏(近畿大学)
研究会内容  12月研究会は、井田泰人氏が「明治期における先進的鉄道サービスについて―山陽鉄道を例として―」をテーマに研究報告を行った。
 井田氏は、山陽鉄道の先進的な企業活動について詳細(人物について)な報告を行ったが、ここでは紙幅の関係上多くを記すことができない。そのため要点のみを以下に記し、研究活動概要報告とする。
 山陽鉄道の先進的な企業活動(日本発の食堂車、寝台車など)は周知の事実である。井田氏は、先進的な企業活動を展開した山陽鉄道を取り上げ、同社が展開した企業活動について研究報告を行った。具体的には、①どのようなサービスがあったのか。②誰がそれらサービスを導入したのか、などについて報告を行った。
 ①について。「通常運賃の減額」:山陽鉄道では1891年~1892年にかけ、「長距離旅客者の誘因を図ること」を目的に通常運賃の改定を行った。それは距離に応じて割引率を設定するものであった。「イベント時の運賃減額」:沿線イベントへの旅客誘因のためイベント開催時(寺などのイベントなど)に運賃の値引きを行った。運賃の値下げ(値引き)により旅客が増加した。他にも「目的別切符(定期切符、度数切符、学童通学切符など)」の発行も行っている。
 ②について。山陽鉄道の初代社長は中上川彦次郎であった。彼は、バキュームブレーキの採用、複線用地の購入、車両の大量購入等々の積極的な経営を行った人物である。同社の社長の代理を務める人物として「総支配人」の存在が重要であった。例えば、今西林三郎や牛場卓蔵らである。彼らによって、山陽鉄道のさらなるサービス化が進められることになった。
 毎回のことであるが、研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2017年11月12日 14時00分~17時00分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館5階503教室
テーマ 共通テーマ:「商品・プロモーション・社会の国際比較―日本・台湾・ベトナム―」
①「総合政策学とランドマーク商品研究」
②「タウンマネジメントにおけるシティプロモーションに関する考察」
③「ベトナムにおける食品広告の品質乖離に関する考察」
発表者 ①鍛冶博之氏
②リ・シンユン氏(徳島文理大学大学院)
③チン・ボイアン氏(徳島文理大学大学院)
研究会内容  11月研究会は、「商品・プロモーション・社会の国際比較―日本・台湾・ベトナム―」を共通テーマに3名が研究報告を行った。以下に、3本の研究報告で報告者が強調した点のみを記し研究会活動概要報告とする。
 鍛冶博之氏は、「総合政策学とランドマーク商品研究」をテーマに研究報告を行った。氏は、総合政策学とランドマーク商品研究の接点として①研究手法の共通性:ランドマーク商品研究では様々な学術分野の知見を活用している。総合政策学では社会科学分野の知見を総合し課題発見と課題解決を目指している。②研究目的の共通性:ランドマーク商品研究の目的は、商品の視点から現代社会が抱える課題とその背景を多面的な学問分野の知見を活用しながら明らかにする。総合政策学の目的は、現代社会が抱える課題とその背景を明らかにし、多面的な学術分野の知見を活用しながら解決策を提案する、ことであると述べた。鍛冶氏は、上記の点を強調しランドマーク商品研究と総合政策学との接点を検討した。
 リ・シンユン氏は、「タウンマネジメントにおけるシティプロモーションに関する考察」と題し研究報告を行った。リ氏は、シティプロモーション活動の大多数が一過性のイベントであり、イベント期間中はそれなりの成果を上げるが、終了後はもとへ戻ってしまう、と述べた。日本の事例ならびに台湾の事例を検討するなかから、シティプロモーションを一過性のイベントとして終わらせないために、タウンマネジメントの手法を取り入れ進めることが重要であることを強調した。
 次に、チン・ボイアン氏は「ベトナムにおける食品広告の品質乖離に関する考察」と題し研究報告を行った。近年ベトナムでは、「広告が示す食品の品質」と「実際の食品の品質」のギャップが問題となっている。チン氏は、その事例としていくつかの商品のテレビコマーシャルを例にとり具体的に分析を行った。チン氏は、ベトナムではこのような問題に対する解決方法はまだないとし、今後も解決方法を検討していくと述べた。
 各研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2017年10月15日 14時30分~17時
開催場所 同志社大学 今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ ①「戦後日本におけるランドマーク商品の普及―価格・所得―(その3)」
②「商品史の国際比較研究(試論)―日本とベトナムにおけるオートバイを事例に―」
発表者 ①小西浩太氏
②鍛冶博之氏
研究会内容  第9研究会10月研究会では、2本の研究報告が行われた。以下に、2本の研究報告の内容を述べ、研究会活動概要報告とする。
 第一報告は、小西浩太氏が「戦後日本におけるランドマーク商品の普及―価格・所得―(その3)」と題し報告を行った。小西氏は、同報告で高度経済成長期以降の主婦の家事労働時間はほとんど変化していないことを指摘した。一般的に、電気洗濯機や電気掃除機、その他の電化製品などの登場と普及により、家庭で家事を担う者(主に女性)の家事労働時間は短くなったと言われている。しかし、小西氏は「国民生活時間調査」その他の資料を用い、家事労働時間はほとんど変わっていないと述べた。その理由は、詳細は紙幅の関係上省くが、①外部化から内部化へ、②「もの」の増大、③要求水準の上昇、④家庭内における子どもの分担減少、⑤意識改革の遅れ、などをあげた。また、ランドマーク商品の普及と所得の関係を検討するため「購買係数」という考え方を用い、それらの関係について時系列的に検討した。
 第二報告は、鍛冶博之氏が「商品史の国際比較研究(試論)―日本とベトナムにおけるオートバイを事例に―」をテーマに報告を行った。同報告の結論は、「ベトナムではオートバイはランドマーク商品と言えるが、日本ではランドマーク商品とは言えない」であった。その理由は、ベトナム社会ではオートバイは生活者の日常生活における交通の在り方を変容させ、さらに日常生活の常識化・制度化さらには永続化・不可逆化をおよぼした。日本でのオートバイは、「自転車社会」から「自動車社会」への過渡的存在として出現したのではなく、「自転車社会」の次に到来した交通社会(オートバイ社会)の一形態として出現したと考えられる、と述べた。
 鍛冶氏は、最後にランドマーク商品の国際比較研究の重要性を述べ報告を締めくくった。
 毎回の研究会同様に、第一報告および第二報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2017年7月9日 13時00分~17時00分
開催場所 同志社大学 今出川校地 至誠館 会議室
テーマ <研究報告>サービス商品による生活様式の変容:小売商業における補完資産の役割
<講演>私の商品学研究履歴:商品とは何か、価値連関の要、品質関連を中心に
発表者 ①大原悟務氏
②岩下正弘氏
研究会内容  第9研究会7月研究会では、研究報告とゲスト講師による講演が行われた。以下に、研究報告と講演の主な内容を述べ、研究会活動概要報告とする。
 大原悟務氏は、「サービス商品による生活様式の変容:小売商業における補完資産の役割」をテーマに研究報告を行った。大原氏の研究報告の主な目的は、①日本においてコンビニエンスストアの業態やフォーマットは生活様式、ライフスタイルをどのように変えたのか。②セブンイレブンによるオムニチャネル(オムニ7)の頓挫は何に起因しているのか。③「補完資産」の概念により、新たな発見はあるのか、などの3点を明らかにすることである。
 以下では、補完資産について述べたいと思う。ここでいう補完資産とは、イノベーションの普及を推進する補完的な要素である。例えば、草創期のスーパーを見た場合、レジシステムは補完資産といえる。またレジシステム販売会社から見た場合、スーパーは保管資産といえる。では、コンビニからみた補完資産とは何か。大原氏は顧客である述べた。コンビニで付加された商品・サービスは、顧客が外部で利用経験済みのものが多く、顧客が培った補完資産である。本研究報告で、大原氏はそれらについて図などを用いて詳しく説明し検討を行った。
 本学名誉教授の岩下正弘氏が「私の商品学研究履歴:商品とは何か、価値連関の要、品質関連を中心に」と題し、岩下氏がこれまで取り組んできた商品学研究を中心に、これまでどのような研究を行ってきたのか。また、これからの商品学研究の方向性など、多岐にわたり講演を行った。講演のなかで、岩下氏は商品学研究の中心的な研究テーマは商品の「品質研究」だと述べ、自身のこれまでの研究を中心にその理由を説明した。講演で、もっとも印象に残っているのは「ひとつの商品を研究することにより、それを一般化するような研究が大切だと思う」という言葉であった。
 第9研究会の中心的な研究課題に、商品史研究の構築も含まれている。上記、岩下氏の言葉に、第9研究会も今後積極的に取り組んでいく必要があるであろう。
開催日時 2017年6月18日 14時30分~17時30分
開催場所 同志社大学 今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ ①試論:小説などの作品とランドマーク商品研究
②日本におけるランドマーク商品の普及―価格・所得―(その2)
発表者 ①川満直樹氏
②小西浩太氏
研究会内容  6月研究会は、2本の研究報告が行われた。以下に、それぞれの研究報告の主な内容を述べ、研究会活動概要報告とする。
 第一報告は、川満直樹氏が「小説などの作品とランドマーク商品研究」をテーマに報告を行った。本報告の主な目的は、小説や映画などの作品に描かれている商品と社会の関係、また商品が人々の生活に与える影響などを紹介し検討することである。今回の報告では『パパラギ』や映画「コイサンマン」、映画「サバイバルファミリー」、他数点の作品を取り上げた。『パパラギ』では、ツイアビがヨーロッパ社会・ヨーロッパ人をどのように感じていたのか。またモノ、機械、ヒト(ヨーロッパ人)の行動様式をどのように考えたのか、等々の観点から検討した。映画「コイサンマン」では、ある「モノ(便利・使い勝手のよいもの・みんなが欲しいもの・希少価値の高いもの)」の登場により、共同体(社会)内の構成員の意識がどのように変わるのか、などを中心に検討した。
 第二報告は、小西浩太氏が「日本におけるランドマーク商品の普及―価格・所得―(その2)」をテーマに研究報告を行った。今回の研究報告は2017年度4月研究会で行った研究報告の続編である。
 小西氏は、前回の研究報告で「発売―普及年数」と「初任給比率」という概念を提案した。今回は「日本生活環境史」という概念を提案し、人間の本能的な生活行動を「病気、医療、公害への関心、学校教育、住宅・住施設、余暇時間への関心、文化・余暇活動、他」の観点を中心に、明治から昭和にいたるまで大きく三つから四つ程度に時期区分し、それらがどのように変化してきたのかを検討し明らかにした。
 第一報告および第二報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2017年5月13日 15時30分~17時00分
開催場所 同志社大学 今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ 超インフラ国家―アラブ首長国連邦(UAE)とランドマーク商品―
発表者 天野了一 氏
研究会内容  5月研究会は、天野了一氏が「超インフラ国家―アラブ首長国連邦(UAE) とランドマーク商品―」をテーマに研究報告を行った。以下に、研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 天野氏の報告は、2017年3月に自身がアラブ首長国連邦(特にアブダビとドバイが中心)で行った調査がベースとなっている。本報告の目的は、アブダビとドバイのインフラの整備状況ならびに同地で扱われている商品などについて検討することである。
 本報告は、大きく三つの観点から構成されている。一つがアラブ首長国連邦の政治体制や同国の地理的条件、人口構成などについて。二つ目が外国から人を呼び込むための装置としてのショッピングモール、テーマパークやホテルなどについて。三つ目は同地で取り扱われている商品についてである。
 天野氏は、一つ目の点について①アラブ首長国連邦内にある7つの首長国の特徴について、②人口構成について、特に若い男性が多いこと、③税金と国民の関係、などについて説明を行った。二つ目の「なぜアブダビとドバイでは奇抜な建物が多く存在するのか」という視点から報告を行った。アブダビとドバイには奇抜なショッピングモールやホテルなどが多くある。それは、外国から多くの人を呼び寄せるための役割があることなどを説明した。テーマパークについても同様である。特にドバイは「世界一」を目標にあげ、都市開発を行ってきた。その考え方も奇抜な建物が多く存在する理由の一つである。三つ目は、アブダビとドバイで消費されている商品についてである。同地で消費(購入)されている商品のほとんどが外国から輸入されたものである。天野氏は、同地ではその土地あるいはその地域に根差した商品(ランドマーク商品)は少ないと言える、と述べ、同地における商品のあり方についての特徴を指摘した。
 研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 2017年4月9日 15時30分~17時00分
開催場所 同志社大学 今出川校地 扶桑館4階403教室
テーマ 日本におけるランドマーク商品の普及―インフラ・価格・所得―(その1)
発表者 小西浩太 氏
研究会内容  4月研究会は、小西浩太氏が「日本におけるランドマーク商品の普及―インフラ・価格・所得―(その1)」をテーマに研究報告を行った。以下に、小西氏の研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 本報告の主な目的は、ランドマーク商品の普及に価格と所得がどのように関係し、また両者の間に数字的な法則が存在するかどうかを検討することであった。小西氏は、本研究会の研究成果である6冊の研究書(石川健次郎編著『ランドマーク商品の研究』①~⑤、川満直樹編著『商品と社会』)を中心に上記の点を考察した。
 小西氏は「発売―普及年数」と「初任給比率」という概念を提案した。「発売―普及年数」とは、商品が発売されてから普及するまでの年数をあらわし、商品の普及のスピードを示すものである。また「初任給比率」とは、各時点での商品価格と所得(商品発売当時の初任給)の関係、つまり所得に対し、その商品がどのくらいの比率を占めたかを示したものである。例えば、チキンラーメンの場合、発売時点で所得の0.3%であったものが普及時点では0.1%となり、またカラーテレビの場合、発売時点で所得の40倍であったものが、普及時点では5倍に縮小した。「発売―普及年数」と「初任給比率」の関係(カラーテレビを除く)を見ると、商品発売から普及までの年数が短いほど、初任給比率が低いという関係が明らかになった。ただし、小西氏も報告で述べたように、「発売―普及年数」と「初任給比率」の関係については、今後多くの事例を収集し、さらに検討を重ねる必要があると思われる。
 研究報告終了後の質疑応答では、「発売―普及年数」と「初任給比率」について、フロアからも質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。

2016年度

開催日時 2016年12月18日 15時30分~17時30分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館3階311教室
テーマ 次世代自動車の普及とインフラ ―EV、FCVと自動運転を中心に―
発表者 天野了一氏
研究会内容  12月研究会は、天野了一氏が「次世代自動車の普及とインフラ―EV、FCVと自動運転を中心に―」をテーマに研究報告を行った。以下に、天野氏の研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 天野氏の研究報告の主な目的は、これまでの自動車の歴史を概観し、次世代自動車の機能、そしてそれを支えるインフラの整備状況、またそれに関連する政策等を検討し、将来、次世代自動車が我々の生活や価値観等に影響を与えることができるかを検討することであった。
 天野氏が次世代自動車として取り上げたのは、EV車(Electric Vehicle)とFCV車(Fuel Cell Vehicle)である。それら自動車が普及するためには、EV車とFCV車のみの開発改良も重要だが、それらを支えるインフラが特に重要となる。例えば、EV車の燃料は電気であり電気を充電するためのステーションが必要になる(もちろん自宅での充電も可能なものある)。同様に、FCV車には水素ステーションが必要となる。しかし、充電ステーションと水素ステーションともに、現状ではガソリンスタンドの数とは比べようもない程度の数しか存在しない。天野氏は、次世代自動車を取り巻く上記のような状況を充電ステーションや水素ステーションの設置数など、またそれらを使用する際のメリットやデメリットを丹念に検証した。
 今後我々の生活や価値観に、今回取り上げた次世代自動車が影響を与えるかどうか、現時点で断定し述べることはできない。しかし、次世代自動車が普及するためには、少なくとも自動車を支えるインフラ整備が必要であることが今回の報告で明らかとなった。
 研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり、次世代自動車の普及とインフラ整備の関係について活発な議論がなされた。
開催日時 2016年11月13日 14時00分~17時30分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館3階311教室
テーマ ①「ベトナム社会のインフラ整備―交通を中心に―」
②「アメリカのインフラ整備と耐久消費財の普及
  ―アメリカ合衆国誕生の過程を中心に―」
発表者 ①鍛冶博之氏
②水原紹氏
研究会内容  11月研究会では、2本の研究報告が行われた。以下に、それぞれの研究報告の主な内容を述べ、研究会活動概要報告とする。
 第一報告は、鍛冶博之氏が「ベトナム社会のインフラ整備―交通を中心に―」をテーマに研究報告を行った。本報告の主な目的は、第一にランドマーク商品研究の観点から、外国(本報告ではベトナム)のインフラ整備状況と生活および社会との関係性を検討すること。第二にベトナムで日常生活と深くかかわっている陸上交通と交通インフラの整備状況について検討することである。鍛冶氏は、交通という観点からベトナム社会を分析する視点として次の四つをあげた。一つは都市部と農村部との所得格差、男女間格差の存在などの格差問題である。二つ目はドライバーの倫理観である。交通サービス(タクシーなどの運転手)のドライバーの中には、サービス業であることを意識せずに自身の利益追求を行っている者もいる。三つ目にベトナム社会(人)の特性をあげている。四つ目にベトナムでの交通公害の問題をあげた。鍛冶氏は、それら四つの視点を中心に、ベトナム社会と交通インフラの整備状況について検討を行った。
 第二報告は、水原紹氏が「アメリカのインフラ整備と耐久消費財の普及―アメリカ合衆国誕生の過程を中心に―」と題して研究報告を行った。本報告の目的は、アメリカにおける商品普及の基礎となるインフラ整備の変遷を明らかにすることである。アメリカから我々の生活に影響を与えた商品(ランドマーク商品)が多く誕生している。アメリカ社会で商品の普及を支えたインフラはどのようにして整備されてきたのか。それを明らかにするために、水原氏は、水道の整備、交通インフラの整備、電気インフラの整備、電信通信網の整備などの観点から検討を行った。
 第一報告および第二報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり、ランドマーク商品の普及とインフラ整備の関係について活発な議論がなされた。
開催日時 2016年10月22日 14時00分~16時45分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館4階413教室
テーマ 共通テーマ:商品と歴史
①「観光土産の価値と歴史」 
②「土産物としてのちんすこう」
③「Making, Not Buying―ものづくり市場の生成―」
発表者 ①近藤祐二氏 司会:水原紹氏
②川満直樹氏
③大原悟務氏
研究会内容  10月研究会は、日本商品学会2016年度秋季大会と人文研第9研究会との共催で、「商品と歴史」を共通テーマに開催された。報告者ならびに報告テーマは上記のとおりである。
 以下に、各報告の主な内容を述べ、研究会活動概要報告とする。
第一報告は、近藤祐二氏が「観光土産の価値と歴史」と題し研究報告を行った。本報告の目的は、主に観光土産の成り立ちと土産物の変遷、観光土産メーカーが選択するマルチブランド戦略などを検討することである。現在、商品としての観光土産は、交通網の発達により日持ちする商品から生菓子へ、そして手作り品から大量生産に対応できる商品が中心であること。また、土産品の購入する場所が観光地などの売店から駅や空港などに変化してきたことを指摘した。
 第二報告は、川満直樹氏が「土産物としてのちんすこう」と題し研究報告を行った。本報告の目的は、沖縄の代表的な菓子土産である「ちんすこう」がどのように誕生したのか、その歴史的背景を明らかにすること。そして誰が「ちんすこう」を沖縄を代表する土産物にしたのか、などを明らかにすることであった。
 ちんすこうは、中国のお菓子をベースに沖縄で作られたお菓子である。ちんすこうを作ったのは新垣家であり、本報告では新垣家でちんすこうの誕生や改良等にかかわった新垣淑規、新垣淑康、新垣淑扶の3名を取り上げ、彼らがちんすこう作りにどのように関わったのかを検討した。
 第三報告は、大原悟務氏が「Making, Not Buying―ものづくり市場の生成―」をテーマに研究報告を行った。同報告の目的は、消費者の消費スタイルが今後どのように変化するのか、などについて検討することである。消費スタイルは、自分で作ったモノを自ら消費するスタイルから企業が作った商品を購入しそれを消費するスタイルへと変わってきた。現在では、企業が提供する道具やツールを利用し「自ら作り消費する」という傾向もみられる。その傾向は、現在進行形のため今後の消費者ならびに社会の動向などを注視することが重要だと思われる。
 各研究報告終了後の質疑応答では、日本商品学会会員ならびに人文研第9研究会会員から質問・意見等が多数あり、各研究報告とも活発な議論がなされた。
開催日時 2016年7月10日(日) 15時00分~16時45分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ ランドマーク商品研究の盲点(下)―国際比較研究における留意点を中心に―
発表者 吉田裕之氏
研究会内容  7月研究会は、吉田裕之氏が「ランドマーク商品研究の盲点(下)―国際比較研究における留意点を中心に―」をテーマに研究報告を行った。以下に、吉田氏の研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 今回の研究報告は、吉田氏が5月研究会で行った研究報告に続くものである。吉田氏は、5月研究会での研究報告でランドマーク商品研究の盲点を四つ示した。その盲点の意味するところは「ランドマーク商品研究の歴史的社会的視点の欠如」だと述べた。
 今回の研究報告の主な目的は、「生活の前提としてのランドマーク商品の存在とその不可逆性の意味を再検討する」ことである。結論を述べると、不可逆性はランドマーク商品出現の必要条件であるが十分条件であることは明らかにされていない。今後、不可逆性の意味、商品の持つ多様性、代替性の意味などを検討する意義は十分にある、などである。
 それに加え、吉田氏はランドマーク商品研究において国際比較を試みる際のポイントを次のように示した。①在来(既存)商品との関係を検討する。②関連する外来商品との関係を検討する。③各種業界団体(組織)・関連団体(組織)との関係を検討する。④市場規模拡大の手段(業務・技術・資本)提携・移入などを検討する。⑤法的制度・政策との関係を検討する、などである。ランドマーク商品研究の観点からある商品を取り上げ、国際比較を試みる場合、確かに吉田氏が示した視点はどれも重要なものである。
 研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり、商品史研究ならびにランドマーク商品研究に関し活発な議論がなされた。
開催日時 2016年6月4日 13時00分~16時30分
開催場所 同志社大学今出川校地 良心館3階301教室
テーマ ①「静岡・浜松市における反百貨店運動とその背景―昭和7年松坂屋出店と昭和12年丸物
 系松菱開設をめぐって―」
②「戦後の兵庫県淡路地域における量販店企業家の足跡」
③「近世江戸における権力と魚問屋」
発表者 ①末田智樹氏(中部大学、市場史研究会)
②廣田誠氏(大阪大学)
③原田政美氏(福井県立大学、市場史研究会)
研究会内容  6月研究会は、市場史研究会第65回・2016年度春季大会と人文研第9研究会との共催で開催された。報告者ならびに報告テーマは上記のとおりである。
以下に、執筆者が出席することができた研究報告(第一報告と第二報告)の目的および結論等を述べ、研究会活動概要報告とする。
 第一報告は、末田智樹氏が「静岡・浜松市における反百貨店運動とその背景―昭和7年松坂屋出店と昭和12年丸物系松菱開設をめぐって―」と題し研究報告を行った。本研究報告の目的は、昭和初期の浜松市での反百貨店運動を中心に、呉服系百貨店の出張販売問題、呉服系百貨店の支店開設問題などを検討することである。それらについて詳細に検討した結果、以下の5点をまとめ(結論)として述べた。①反対運動の複雑で長期化(進出反対運動から対抗運動へ)、②百貨店側は表面化しないように敷地獲得と建設の実行、③(百貨店)誘致側の巧みな延引策、④反対運動側の最後の手段は県への陳情、⑤反対運動側の対抗策は平面デパート建設案などであった。
 第二報告は、廣田誠氏が「戦後の兵庫県淡路地域における量販店企業家の足跡」と題して研究報告を行った。廣田氏は、これまで昭和戦後期の商業の地域的展開を、兵庫県を中心に研究を進めてきた。本研究報告も、これまでの研究に関連するものである。本研究報告では、西岡茂の活動ならびに彼が1950年代後半に開業したスーパーマーケット「主婦の店」とそれらを取り巻く地域(特に地元商店街)などが検討された。
 各研究報告終了後の質疑応答では、市場史研究会メンバーならびに人文研第9研究会メンバーから質問・意見等が多数あり、各研究報告とも活発な議論がなされた。
開催日時 2016年5月8日(日) 14時30分~17時30分
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ ①ランドマーク商品としての近代技術情報の担い手 ―工学士技術者の台頭―
②ランドマーク商品研究の盲点 ―国際比較研究での留意点―
発表者 ①植村正治氏
②吉田裕之氏
研究会内容  5月研究会では、2本の研究報告が行われた。以下に、それぞれの研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 第一報告は、植村正治氏が「ランドマーク商品としての近代技術情報の担い手―工学士技術者の台頭―」をテーマに研究報告を行った。明治に入り日本は、工業化を進めるために欧米の様々な分野から様々なルートを通じて近代工業技術情報の導入を図ってきた。導入ルートの一つが工学系高等教育機関である。本報告では、五つの帝国大学の工科大学もしくは工学部(具体的には東京帝国大学、京都帝国大学、九州帝国大学、東北帝国大学、北海道帝国大学)を取り上げ、①教育面:教育内容ならびに教育を誰が行っていたのかなどについて、②卒業生の進路:卒業した者たち(工学士)が、その後どのような職に就いたのか、などについて詳しく分析がなされた。
 第二報告は、吉田裕之氏が「ランドマーク商品研究の盲点―国際比較研究での留意点―」と題し研究報告を行った。吉田氏は、本研究報告でランドマーク商品研究の盲点を四つ示した。①生活全体における価値観の変容とライフスタイルの変容に関する議論の不足、②当該ランドマーク商品出現にいたる長期的系統的商品の分析の欠如、③価値観やライフスタイルの変容の同質性に対する無批判的分析、④商品に関する継続的普及のプロセス分析の欠如の四つである。吉田氏は、それら四つの盲点が意味するところは、ランドマーク商品研究の「歴史的社会的視点の欠如」と述べた。紙幅の関係上、盲点について詳しく書くことはできないが、ランドマーク商品研究を進めていく上で重要な指摘である。
 各研究報告終了後の質疑応答では、フロアからも質問や意見等が多数あり、商品史研究ならびにランドマーク商品研究に関し活発な議論がなされた。
開催日時 2016年4月10日 15時~17時
開催場所 同志社大学今出川校地 扶桑館5階513教室
テーマ 商品史の課題と展望
発表者 鍛冶博之氏
研究会内容  「商品史の課題と展望」と題し、研究報告が行われた。以下に研究報告の内容を記し研究会活動概要報告とする。
 本研究報告の目的は、商品史研究に関する先行研究を概観し、それらの課題点を明らかにし、商品史研究の方向性などを検討することである。具体的には、これまでの商品史研究の研究状況、商品史という概念の意味や商品史研究の範囲、研究の目的や意義、研究の方向性などについて検討した。
 本研究報告では、上記のように幅広い観点から報告がなされているため、ここでは報告内で取り上げた、今後の「商品史研究の方向性」について述べたいと思う。鍛冶氏は、①考察対象とすべき商品の量と幅を拡大させること、②先進国や発展途上国を含め、海外諸国を対象とする商品史研究を展開する必要があること、③地域商品へのアプローチを深めること、④現代以前(つまり戦前)の日本社会に関する商品史研究を深めること、⑤商品史やランドマーク商品という概念に関する考察を深める必要があること、⑥商品史の体系化を進めること、などの6点を商品史研究の方向性として示した。
 ①に関しては商品史の確立とその充実を目標とする場合、ランドマーク商品に関する研究はもちろんのこと、ランドマーク商品とは認定できない商品にも注目し考察することの必要性を強調した。②については諸外国に普及する商品を対象とする史的研究を蓄積することが重要だと述べた。③は地域に存在する商品、例えば土産物、特産品や地域産品などを取り上げることも商品史研究の幅を広げるために必要であると述べた。また、④については戦後の社会だけを研究対象期間とするのではなく、それ以前の社会も研究対象期間とすることにより日本社会の変化を長いスパンで検討することが可能となると述べ、⑤に関しては現時点では事例分析が数多く蓄積される一方で、概念分析に関しては十分な議論が尽くされたとは言えず、今後の商品史研究の深化には概念に関する検討も必要であると述べた。最後に、⑥については将来的に商品史研究がどのような学術分野として確立されることが望ましいのかなどを明確化するために、仮説的にでも商品史研究の体系化を図ることの重要性を強調した。
 研究報告終了後の質疑応答では、上記の点を含む研究報告に対し、フロアからも質問や意見等が多数あり、商品史研究ならびにランドマーク商品研究に関し活発な議論がなされた。