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第14研究 防災・減災と回復力に関する政府間関係制度におけるリスク・ガバナンスの構築 研究代表者:新川 達郎(政策学部、総合政策科学研究科)

本研究は、防災・災害対策のためのガバナンスについて、リスク・マネジメントとクライシス・マネジメントの双方の機能を充足するリスク・ガバナンス体制の現状と課題を明らかにするとともに、その機能条件を探求することを目的とする。リスク・ガバナンスは、現代社会においてあらゆる組織・機関が備えなければならない体制であるが、同時に、大規模自然災害が想定される日本にあっては、とりわけ中央政府と地方政府そしてその政府間関係制度において、マルチ・レベル(重層的)に機能すること、またマルチ・ラテラル(水平的)に機能することが期待される。こうしたリスク・ガバナンスの構造と機能を解明するとともに、現在の防災・災害対策の体制を実証的に検証しそのガバナンスの課題を明らかにすること、そしてその分析結果に基づいて今後の防災・災害対策の在り方について具体的な方向を検討したい。

2018年度

開催日時 2019年1月24日 15時~18時
開催場所 同志社大学新町キャンパス 臨光館R208教室
テーマ これからの環境政治-琵琶湖からのビジョンを語る
発表者 嘉田由紀子
研究会内容  2018年度第14研究第6回研究会は、前滋賀県知事の嘉田由紀子氏をお招きして、講演と討論を行った。嘉田氏は在任中、滋賀県知事として琵琶湖をめぐる環境保全に注力するとともに、県民の安全安心をいかに確保するかに尽力されてきた。知事時代には、新幹線新駅の凍結、脱ダム実現を行うとともに、福島第一原子力発電所事故を受けて関西の水源である琵琶湖の水環境保全のために原子力発電所の稼動への反対を行うなど活発に環境問題にかかわる政策の推進を行った。
 嘉田由紀子氏の講演では、環境問題にかかわる原点としての琵琶湖の伝統的な暮らし方や水環境の研究成果が示された。そしてそれらが琵琶湖総合開発などによってゆがめられていく問題を指摘するとともに、道路や新幹線新駅、ダムなど公共事業主導の開発のあり方に対して、環境政策の観点から新たな政治のあり方を提示されてきたという。ただ単に公共事業反対や原発反対ではなく、そこには、人々の飲み水を守ることをはじめとした生命や環境への配慮が強く意識されていた。脱ダムの選択も、洪水被害をダムだけによって防止できないこと、むしろ流域総合治水によって、水害に巧みに対処していく必要を主張したのである。それは、人々の生命財産を守ることと自然生態を大切にすることを両立させようとする政策でもあった。かくして人の生命、すべての生き物の生命そして自然を大切にする「いのちの政治(ライブリーポリティクス)」ともいうべきものが語られることになったのである。
 研究会では災害多発時代にあって、防災対策はいかにあるべきなのかという観点から熱心に議論が行われた。2018年7月の西日本豪雨災害に際しても、結局は、従来型の治水政策が機能しない状況があり、逆に被害を大きくした可能性があることなどが議論された。リスク管理ガバナンスを考える上では、総合的な流域治水の考え方は、リスクの総合的評価の視点、リスク回避の優先順位の視点、リスク情報の共有の視点など重要な視点を提供するものと考えられた。
開催日時 2018年12月20日 15時~18時
開催場所 同志社大学新町キャンパス 臨光館R208教室
テーマ ドイツの脱原発政策と市民運動
発表者 坂田雅子
研究会内容  2018年度第14研究の第5回研究会はドキュメンタリー映画監督の坂田雅子氏をお招きして、その最新作の製作を通じた講演と討論を行うことになった。
 坂田氏によれば、これまで農薬公害や枯葉剤問題、放射能汚染問題など、環境問題にかかわる社会課題にドキュメンタリー映画という手法で、鋭く問題提起をしてきたという。2014年に製作された「わたしの、終わらない旅」では原子力エネルギーの利用について、核実験やその被害状況を世界に取材し、また原子力発電所によって引き起こされた諸問題についても取り上げた。そして2018年には、脱原発を選択したドイツに取材して「モルゲン(明日)」と題する作品を発表したという。
 2022年までにすべての原発を廃棄し、再生可能エネルギーへの転換を目指すドイツの政策選択が、現実にどのように進んでいるのかをドキュメンタリー映画として製作したのが「モルゲン」である。ドイツの人々が、再生可能エネルギーへのみちを選びそこに未来への希望をいただいて進んでいる様子が描かれている。ドイツの人々が、なぜ脱原発を選んだのか、そして、なぜ再生可能エネルギーへのみちを目指しているのか。取材を通して得られた人々の学びや評価そして決断が明らかにされた。
 この映画を題材に講演をいただき、核実験による放射能被害、そして原子力発電所事故による放射能被害が世界的に見られることを明らかにするとともに、それに対する代替手段として再生可能エネルギーを目指す動きが着実に進んでいることが明らかにされた。
 講演を受けて、リスク管理のために必要なリスク評価という観点から、市民レベルのリスク理解やリスクコミュニケーションの必要性が改めて指摘された。
開催日時 2018年11月10日 13時~17時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK288
テーマ 防災と危機管理
発表者 永田尚三、L.Yann
研究会内容  第14研究の2018年度第4回研究会は、ポツダム大学のヤン教授と関西大学の永田教授をお迎えして、「防災と危機管理」について、政策的観点からの研究会を開催した。
 ポツダム大学のヤン教授からは、公共政策研究のこれまでについて、欧米における研究蓄積の歴史的経緯について、幅広く言及があった。その上で、ドイツにおける政策研究の展開について具体的にその論点を明らかにした。この50年近くの間にドイツでは政策研究が大きく発展したが、それらにはどのような主要な論点があったのか、国際比較の観点からはどのような位置づけや特徴があるのか、それらがドイツ政府の政策とどのようにかかわってきているのかが検討された。
 リスクガバナンス政策が検討されるに際しても、その政策のデザインと政策プロセスが検討されなければならないし、その政策の実態や成果をどのように評価するかが問われることになる。政策デザインについて言えば、正しい政策あるいはよりましな政策をどのような尺度で考えるのかが問題となる。そのためには、政策がおかれている環境や文脈、政策の内実に関する分析、政策過程の分析が求められるという。さらにこれら政策の評価が達成された成果について判断されなければならない。同時にその評価は、政策目標に対するアウトカムの評価と業務を達成したという意味での業績測定に区分されて判断されなければならないというのである。
 永田氏からは、防災政策がこうした政策デザインを持っていたかどうか、その実質を具備していたかどうかが論じられた。日本の消防行政を事例として、歴史的に検討され、その問題点は、消防行政に端的に現れているとの指摘がされるのである。
 リスク管理ガバナンスを政策的に実現しようという観点からは、一つには、広い視野から防災政策を捉えなおす必要性が示唆されるとともに、いま一つには防災組織体制の機能に立ち入った検討の必要が明らかになったのである。
開催日時 2018年11月8日 17時~19時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK288
テーマ 韓国の市民社会:原発災害と環境運動
発表者 Sukki Kong (Seoul National University )
研究会内容  第3回研究会は、ソウル大学のスッキ・コング教授をお迎えして、講演をいただき、その後討論を行った。Sukki Kong教授は、Seoul National Universityに付設されているアジア研究センター(Asia Research Center)のリサーチプロフェッサーであり、韓国の市民社会組織についてこれまで膨大な研究蓄積をもっている。特に今回は、日本の福島第一原子力発電所の事故以後、韓国においても活発になった原子力発電所をめぐる市民運動について、焦点を当てつつ、講演をいただいた。講演の後、討論を行った。
 韓国の市民社会組織ないしは民間非営利活動団体とされるもの、いわゆるNPOやNGOは約1万団体があるが、いずれも活発な活動をしているという。教育や福祉など社会問題、雇用などの経済問題、自然環境保全に関する環境問題など大きく広がっているという。その中で、原子力発電所については、福島のような大きな事故こそ起こっていないものの、地元を中心に強い反対運動が市民レベルで生まれており、福島事故以後はそうした反原発運動の共感が全国的にも広がっているともいう。その一方では、原発災害と環境運動に対する政府側や企業側の原発推進活動も活発であり、原子力発電所の必要性や安全性についての推進側の議論が盛んに進められている状況にある。反原発市民運動は、簡単にこの問題を解決することはできていないし、政府の政策変更を促す段階には至っていないのである。そこには、市民社会組織それ自体の組織的力量や運動の目標達成などの点で、活発な活動が展開されている側面と大きな限界があることがあわせて示唆されている。
 社会のリスク管理を考えていく上で、そのリスクをいかに評価するのか、そしてリスク情報を共有できるのか、とりわけ利害関係者である市民のリスク理解が進むかどうかが、リスクを回避しまた低減することができるガバナンスを実現するためには重要な条件となる。韓国の市民運動がそうしたリスク管理に果たしている役割は、限定的だが、一定の成果をもったともいえる。
開催日時 2018年9月21日 15時~18時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK288
テーマ 滋賀の流域治水と環境保全
発表者 青田薫・嘉田由紀子
研究会内容  2018年度第2回研究会は、滋賀県職員の青田薫氏と前滋賀県知事の嘉田由紀子氏をお招きして、「滋賀の流域治水と環境保全」と題して講演をいただき、その後、討論を行った。
 まず青田薫氏からは、滋賀における農業施設について、とりわけ豊かな水田農業の歴史と、そのかなで培われてきた農業土木などの技術の歴史と意義、それらが農業遺産として大きな価値があることが紹介された。琵琶湖とともに発展してきた農業とその施設及び技術が、常に水との強いかかわりの中で、水害に耐えながら発展してきたのである。そうした歴史や文化を維持することが回復力のある地域を維持する源泉となるというのである。
 嘉田由紀子氏からは、滋賀の流域治水について講演をいただいた。ダムや高い堤防だけに頼らない総合的な流域治水を実現するための条例を制定し、総合的に洪水調節を実現しようとするのである。これによって、流域の自然環境保全も洪水被害の低減もともに実現できるという。水を閉じ込める発想ではなく、洪水が発生することを前提としつつリスク管理をする考え方であるともいう。これによって、災害の被害程度を低減するだけではなく、自然生態系からの多くの恵み(生態系サービス)を享受することができるとも指摘されるのである。
 滋賀の水環境や農業環境、そこにおける水との戦いの歴史の中で、水にかかわる災害と巧みに共存する歴史や技術が蓄積されてきていること、そしてその考え方を、近代化された都市の整備が進んだ現在において逆に意義あるものとして、流域治水の考え方で実現しようとする、大きな構想が示された。もちろん現実には、これまでに進んできた琵琶湖総合開発などによる農業や自然環境の大きな改変の上に、今後の持続可能な開発を考えていかなければならないという問題もある。現に発生する被害への即時的な対応などの課題を克服しつつ、中長期的な視点で、リスク管理を進める必要が示唆されたのである。
開催日時 2018年7月14日 14時~17時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK288
テーマ 大学と地域の連携による地域の活性化と回復力
発表者 佐藤充(福知山公立大学)
研究会内容  2018年度第1回研究会は、福知山公立大学助教の佐藤充先生をゲスト講師としてお招きして「大学と地域の連携による地域の活性化と回復力」と題して研究会を開催した。佐藤講師から福知山公立大学における大学と地域との連携事例とその成果についての分析をご紹介いただき、討論を行った。
 地域社会の回復力を高めるリスクガバナンス研究を進める本研究では、リスクを回避しあるいはリスク発生があっても、その被害を最小限度にし、速やかに回復する能力を高めることが肝要と考えて研究を進めている。その回復力の源泉の一つは、地域社会の組織化や潜在的な回復力にある。そうした地域の能力を高めるためには、地域住民やその組織が活力を持って活動し続けていることが条件となる。
 こうした地域の活性化には、もちろん地域内の住民やその組織の力が向上することが重要となるが、地域内だけでそれを達成しようとしても無理がある。そこで、佐藤講師らは大学として地域と連携することを通じて、地域の活性化を果たし、地域の防災力や回復力を高める試みを行っている。大学の成果科目としての地域実習系科目やプロジェクトの形成などを通じて、地域に積極的にかかわっていることが紹介された。学生の参加だけではなく、多様な主体との相互交流のための地域連携の仕組みも学内に構築しているという。
 これらを通じて、学生の学びや大学としての研究成果だけではなく、地域社会に新たな活力が生まれ、活動の組織化が進み始めているともいう。もちろん、実際に成果を上げているところは一部だけではあるが、その一方では、こうした活動が地域の人々の大きな期待と希望を意味していることも明らかになった。また、そこに参加した学生には、地域への関心の高まりやその重要性への認識、地域のメカニズム理解など、明らかに大きな学びの成果があったことも示された。

2017年度

開催日時 2018年3月17日 13時30分~16時30分
開催場所 同志社大学志高館 第1共同研究室SKB288室
テーマ 21世紀社会の中で問われる参画型社会
発表者 三石博之 新川達郎
研究会内容  同志社大学人文科学研究所第14研究第5回研究会は、関西政治社会学会との合同研究会の形式をとり、第14研究からは新川達郎が、関西政治社会学会からは三石博之氏(政治社会学会理事長)が報告を行った。
 2018年3月17日土曜日の午後1時30分から午後4時半まで同志社大学志高館2F、SK288共同研究室で開かれたこの研究会では、テーマとして「21世紀社会の中で問われる参画型社会」をとりあげ、2つの報告があった。
 三石報告においては、今回の研究会では、プロシューマ型市民、地域産業を担う主体、地域社会制度の運営に責任をもつ「参画型社会の主体」の形成に視点を置き、これからの日本やその地域の方向を考える機会にしたいという観点が提示された。
 また、新川(同志社大学)の報告では、これからのまちづくりにおいては、市民参加が基本となるという認識から、地方自治体における関連する施策についての検討を行った。特に、全国400の自治体で制定されている自治基本条例に着目して、報告を行った。自治基本条例それ自体は理念条例のところもあるが、その一方では、実態的な市民参加手続きを備えているところもあり、その可能性と限界について論じた。
 全体討論においては、これからの参加型市民社会を検討するうえでは、市民の自立性やその市民社会の在り方が一つの主要なテーマとなった。そこでは、単に消費者である市民、あるいは権利の行使者である市民というだけではなく生産者であり権利の創造者でもある市民という視点が重要だということなどが議論された。こうした視点が市民社会の自主性自立性を強化する基盤となり、回復力のある社会形成に結びつくのではないかと思われる。
開催日時 2018年2月24日 13時30分~17時
開催場所 同志社大学志光館SK288共同研究室
テーマ 協働型ネットワークにおける業績情報の活用と効果
発表者 中嶋 学
研究会内容  人文科学研究所第14研究では、第4回研究会において、関西政治社会学会との合同研究会を、「協働型ネットワークにおける業績情報の活用と効果」と題して実施した。報告者は中嶋学氏(同志社大学嘱託講師)であり、2018年2月24日の13時30分から約3時間あまりにわたって実施された。
 中嶋氏からは、「協働型ネットワークにおける業績情報の活用と効果」と題して、同志社大学志高館2階 共同研究室SK288において1時間あまり報告があり、その後2時間あまりの討論が行われた。
 今日の社会問題を解決するためには、単に特定の専門機関が単独で解決できるところは少ないことは明らかとなった。それは福祉や保健、教育、医療などさまざまな問題への対処において、公共部門、民間営利部門、民間非営利部門がそれぞれ参加してその異なる能力を発揮し相乗効果を狙うべくネットワークを組んで、問題解決に当たらざるを得ないという状況がある。
 報告者からは、精神保健、特に若年層の心の問題への取り組みとしての協働ネットワークについての分析が行われた。そこで取り上げられたのは、精神保健行政、学校、医療機関、NPO、住民団体、当事者団体などがネットワークを組んで、具体的な改善の成果を出すプログラムを実践し。その評価を行う事例である。
 その事業評価情報がどこまで有効に使われているのか、それによってネットワークがよりよく機能しているのかについて、報告と議論が行われた。公共サービスの実施とその改善の手法として、協働ネットワークの事業評価がどのように活用可能なのか、それによって協働ネットワークを皿によりよく改善していくことができるのか、それを実現するための条件とは何かについて詳細にわたる検討ができた。
開催日時 2018年1月11日 14時45分~18時15分
開催場所 同志社大学臨光館R205教室
テーマ レイチェル・カーソンとわたし~これまでの活動とこれから
発表者 嘉田 由紀子
研究会内容  本年度の第3回研究会は、「レイチェル・カーソンとわたしーこれまでの活動とこれから」と題して、2018年1月11日(木)14時55分から18時まで、同志社大学 新町キャンパスの臨光館R205教室で行われた。
 講演者は、前滋賀県知事の嘉田由紀子氏である。嘉田氏からは、「レイチェル・カーソンとわたしーこれまでの活動とこれから」と題して、環境社会学の研究者、教育者としてのこれまでについて、そして政治家として環境の理想を政策的に目指した経過のおはなしがあった。そして、それらを支えたレイチェル・カーソンとの出会いや影響を受けた点などについて講演があった。
 その後、嘉田氏を共編著者とした「レイチェル・カーソンに学ぶ現代環境論」(法律文化社から2017年に刊行)を題材として、嘉田氏を含めた執筆者によるパネルディスカッションを行った。それぞれの執筆者が、水俣病や水銀問題、気候変動問題、レイチェル・カーソンがいうセンス・オブ・ワンダーなどについて論じた。
 講演とパネルディスカッションでは、環境問題の解決に向けて、大切にしなければならない自然環境価値や人間社会が歴史的に培ってきた暮らしの技術があることから、それらを大切にした未来社会を構築することの重要性が論じられた。その際に、レイチェル・カーソンが主張した人間と自然生態系との共生関係、とりわけあらゆる命を大切にすることが、嘉田氏によって、生き生きとした政治のあり方として論じられ、会場から多くの共感を得られた。
開催日時 2017年12月14日 18時30分~20時30分
開催場所 同志社大学志高館SK288教室
テーマ 行政学とガバナンス論
発表者 堀 雅晴
研究会内容  第14研究会の第2回研究会は、関西政治社会学会との合同研究会として、2017年12月14日(木)18時30分から同志社大学志高館SK288共同研究室において、「行政学とガバナンス論」をテーマとする研究報告を、堀 雅晴教授(立命館大学法学部教)にお願いした。
 報告においては、日本の行政学のこれまでの発展の歴史について、明治期の導入段階から、今日までの研究まで、丁寧に跡付けた。日本行政学のこれまでの特徴は、集権型の政府構造を前提としたトップダウン型の発想による行政学として整理された。これに対して報告者が主唱する「新天地開拓型行政学」では、ボトムアップ型で分散的多元的な政府機能の担い手が作動することになり、そうした政府状況に対応した行政学が必要だとされる。
 こうした視点からは、今後の行政研究においてガバナンス論からのアプローチが有効だとして、その展開をやはり丁寧に議論された。ガバナンス論は、「ガバメントからガバナンスへ」という表現からは、「ガバメントなきガバナンス」なのか、それとも従来と変わらず「ガバメントがあるガバナンス」なのかといった分析が加えられ、今後の研究方向が示唆される。
 発表後の討論においては、今後のガバナンス研究や行政研究の方向、その中における新たな研究の視点の可能性、特にボトムアップ型で多元的な理論的再構築の可能性などが論じられた。
開催日時 2017年11月30日 15時~20時
開催場所 同志社大学臨光館R207教室
テーマ 枯葉剤から放射能まで:わたしは問い続ける
発表者 坂田雅子
研究会内容  坂田雅子氏は、ドキュメンタリー映画監督として知られており、特に化学物質や放射能による生命や健康への被害問題を題材に作品を制作してきた。2007年の映画『花はどこへいった』は毎日ドキュメンタリー賞、パリ国際環境映画祭特別賞、アースビジョン審査委員賞などを受賞している。また、2011年、『沈黙の春を生きて』を発表し、これも仏・ヴィレンシエンヌ映画祭にて批評家賞、観客賞をダブル受賞したほか、文化庁映画賞・文化記録映画部門優秀賞を受けた。
 研究会では、同氏から、これまでの作品の制作の背景や、その主張について、お話を伺った。
 夫のグレッグ・デイビス氏の死をきっかけに、ベトナム戦争とそこで使われた枯れ葉剤についての映画製作を決意し、ベトナムと米国で、枯れ葉剤の被害者やその家族、ベトナムの帰還兵、科学者等にインタビュー取材を行った。それらをもとに、2007年の『花はどこへいった』、そして2011年の『沈黙の春を生きて』を完成させることになったという。そして、2014年には『わたしの、終わらない旅』で、核爆弾やその実験、原子力発電所事故など放射線等による被害について、マーシャル諸島、カザフスタン、福島を訪ね、核の時代とその未来を問いかけている。
 これらの作品についてのお話をいただいたのち、参加者は戦争や化学薬品や核爆弾、あるいは原子力利用などについて討論を行った。農薬や放射線による被害や遺伝子への影響などを含めて、熱心な議論が行われた。

2016年度

開催日時 2016年10月15日(土) 13時-18時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館2階SK288
テーマ 英国のEU離脱と中国のリスク
発表者 児玉昌巳氏ほか3名
研究会内容  本研究会は、第6回関西政治社会学会研究会との共同研究会とし、約20名の参加を得て開かれた。
 1部では、テーマとして「EU問題を正しく理解するために」をとりあげ、英国の危機、EUの危機,世界の危機とそのリスクガバナンスをめぐって議論を行った。
 報告者1、児玉昌已氏(久留米大学法学部教授)からは、「英のEU離脱の衝撃 現状、意味、理由」について報告をいただいた。報告者2、辰巳浅嗣氏 (阪南大学名誉教授)からは、「Brexit EUの安全保障・防衛政策に与える影響」をテーマに報告をいただいた。
 第2部 「日中関係の改善のための現在の中国の正しい理解とは」では、急速に拡大しつつある中国リスクについて、政治、文化、日本側の報道のゆがみ、中国経済の危機と動向などをめぐって議論を行った。
 報告者1、杉本勝則氏 (北京外大北京日本学中心客座教授)からは、「私の体験的政治論とマスコミの中国報道-中国を見誤らないための注意事項-」と題して後援をいただいた。
 報告者2、松野周治氏 (立命館大学・社会システム研究所上席研究員)からは、「中国経済の減速をどうみるか-中国東北(遼寧省)を中心に-」と題して報告をいただいた。
開催日時 2016年7月23日(土) 13時-18時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館2階SK288
テーマ 英国のEU離脱の影響とリスクガバナンス
発表者 三石博行氏ほか3名
研究会内容  同志社大学人文科学研究所第14研究第3回研究会は、英国危機を中心に報告と討論を行ったが、あわせて、「食と農」の問題に関する講演を実施した。
 第1部ではテーマとして「食文化-京料理を語る-」と題して、司会者には佐藤洋一郎氏(大学共同利用機構法人 人間文化研究機構理事 )、話題提供者には松本隆司氏(「招猩庵 店主)をお迎えし、「和食・京料理を語ろう―ちょっと舌がすべってしまいましたが―」と題するお話を聞くことができた。
 第2部では「イギリスのEU離脱をめぐる課題 –何が問われているか-」をテーマにして、その危機の要因とインパクトについて議論を行った。
 報告者1 鷲江義勝氏 (同志社大学法学部教授 日本EU学会理事)からは、「イギリスのEU離脱の背景と影響」と題して報告をいただいた。
 報告者2 榎木英介氏 (近畿大学医学部講師 サイエンス・サポート・アソシエーション代表)からは、「イギリスのEU離脱で科学技術はどうなるか?」とする報告があった。
 報告者3、三石博行氏(京都奈良EU協会副代表、哲学博士(ストラスブール大学))からは、「イギリスEU離脱を巡る国民投票の結果とその評価」と題して報告が行われた。
 本研究会では、日本の伝統文化である和食の現状や問題、英国の危機、EUの危機,世界の危機とそのリスクガバナンスをめぐって議論を深めた。
開催日時 2016年7月16日(土) 13時-18時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館2階SK288
テーマ 市民参画型社会の構築に向けて
発表者 小林幸治氏ほか3名
研究会内容  第2回研究会は、2016年7月16日(土)13時から、同志社大学烏丸キャンパス志高館2階共同研究室SK288で開催された。今回の共通テーマは「市民参画型社会の構築に向けて」として、多面的に検討を行った。
 報告者1は小林幸治氏 (特定非営利活動法人 市民がつくる政策調査会(市民政調事務局長)であり、「市民による政策提案活動と法制化の取組み事例―市民政調の活動から」として報告があった。
 報告者2は小田切康彦氏 (徳島大学准教授)であり、「地方自治体における協働政策のインパクト」とする主題で報告があった。
 報告者3は河村能夫 (京都府立農業大学校校長 龍谷大学名誉教授 REC顧問)氏であり、「京都府立農業大学校から見えてきた日本農村のすがた- 参画型社会の原型としての農村コミュニティ - 」と題して報告があった。
 報告者4は、山口薫氏 (日本未来研究センター代表)であり、報告はタイトル 「Head and Tail of Money Creation and its System Design Failures-Toward the Alternative System Design -」である。
 民主主義の赤字や民主社会の危機に関する諸問題を、主に市民参加という観点から、また市場の代替的機能という観点からの検討を行った。
開催日時 2016年5月21日(土) 13時-18時
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館2階SK288
テーマ 少子高齢社会のリスクガバナンス
発表者 田間泰子氏ほか2名
研究会内容  2016年5月21日には、関西政治社会学会との共同研究会の形式で、第1回研究会を開催した。わが国でも重大な問題になっている少子高齢社会を問題として、そのリスク回避の諸方法、取り組みについて、具体的に検討を行った。
 報告者1 田間泰子先生(大阪府立大学)の報告は「少子化問題とリプロダクティブ・ライツのゆくえ―少子化問題を根源から考える―」と題するものであった。
 報告者2は大束貢生先生(佛教大学)であり、報告は、「男性から見た少子化問題」であり、「少子化問題は産む性である女性の問題として語られがちであるが、男性の問題でもある」との視点で行われた。
 報告者の3は、地域社会の活性化と少子高齢化対策との関係を論じることとし、水垣源太郎先生(奈良女子大学)から「地域社会の活性化としての農業と少子高齢化対策 ―高齢化する中山間地域、限界集落の問題を考える―」と題して報告があった。
 少子高齢社会という予想できる機器に対して、今取られている対策は、基本的な人権問題や、差別構造の問題などを抱えていること、社会全体で考えるべき課題であることが改めて指摘された。また、地域社会としてもこの事態を受け止めるための政策選択の方向について議論をすることができた。