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第3研究 知識発見型データベース作成アプリの開発と日本伝統文化の分野横断的研究研究代表者:福田 智子(文化情報学部)

 本研究は、江戸期の香道伝書と歌留多(かるた)を対象に、芸道や文学のみならず、雅楽・儀礼・美術の視点から多角的に研究することで、日本文化における伝統享受のあり方を再構築することを目的とする。
 そこで、独自に開発した画像注釈データベース作成アプリをより使いやすく改良し、これを用いて、香道伝書と歌留多を軸とする伝統文化データベースを構築して、未公開資料の画像と共に一般に提供する。さらに、そのデータベースをデータマイニングの技法を用いて分析し、ジャンルを超えた文化相互の関連性の中に、日本文化のあり方を具体的に把握していく。
 データベースを構築するために情報科学研究者と連携して研究を進める一方、二ヶ月に一回のペースで、組香の実習を行う。また、夏期休暇中と年度末には全体集会を行う。

2021年度

開催日時 第5回研究会・2022年 2月 23日 10時 ~ 19時20分
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ 春の研究集会 特集「国語学・国文学研究に資するデータサイエンスとは?」
発表者 福田 智子 他
研究会内容  今回の定例研究会は、「国語学・国文学研究に資するデータサイエンスとは?」という特集を組み、宮廷文化研究センターとの共催で以下の研究集会を行った。

同志社大学宮廷文化研究センター2021年度活動報告と2022年度活動予定
 岩坪 健(同志社大学宮廷文化研究センター長)※福田・山科代理説明

特集「国語学・国文学研究に資するデータサイエンスとは?」趣旨説明
 福田 智子(同志社大学人文科学研究所第3研究会代表)

玉鬘物語における親子意識 ―「孝」の関係から―
 森 あかね(香川高等専門学校一般教育科助教・同志社大学人文科学研究所嘱託研究員〈社外〉)

国文学者とデータサイエンス:国文学者がデータ提供者として異分野融合・横断型共同研究に参加した経験から
 田中 圭子(佐賀大学地域学歴史文化研究センター特命研究員・広島大学グローバルキャリアデザインセンター教育研究推進員)

文学研究における計量的分析
 河瀬 彰宏(同志社大学文化情報学部准教授、同志社大学人文科学研究所兼担研究員)

文化情報学研究科で学んだこと―日本語学と統計学のはざまで―
 入江 さやか(岐阜女子大学文化創造学部准教授)

人文科学系学生への応用基礎レベルのデータサイエンス教育
 原 尚幸(京都大学国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター教授)

競詠和歌の表現を文字列解析する―『新撰和歌六帖』の万葉歌句摂取―
 福田 智子(同志社大学文化情報学部教授・同志社大学人文科学研究所兼担研究員)

古典文学の語句数量化からの諸評価ー戦後の最古例と、処理の問題ー
 矢野 環(埼玉大学名誉教授・同志社大学名誉教授・同志社大学人文科学研究所嘱託研究員〈社外〉)

 なお、矢野環氏の発表については、ご本人の許可を得て、下記URLにて一般に公開している。
 https://youtu.be/TnyCvSBqVhI
開催日時 第4回研究会・2021年11月7日 10時~18時
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ 冬の研究集会
発表者 丹羽 雄一 他
研究会内容  今回の定例研究会は、2021年4月に設置された宮廷文化研究センター主催の研究会に共催として参加し、下記の報告および研究発表をおこなった。具体的な題目は次のとおり。

《午前の部》
二條家文書『手鑑』と山科家文書「和歌」について
丹羽 雄一(同志社大学・文学研究科・博士後期課程、同志社大学宮廷文化研究センター・嘱託研究員)

江戸時代の即位式絵図をめぐる諸問題
末松 剛(九州産業大学・地域共創学部・教授、同志社大学・人文科学研究所・嘱託研究員(社外))

《午後の部》
近世から近代にいたる京の雛飾りの変遷について
田中 正流(平等院ミュージアム・鳳翔館学芸員、同志社大学・宮廷文化研究センター・嘱託研究員)

『皇国百人一首』の歌仙絵
―近世から近代へ、画像注釈データベース構築を視野に―
福田 智子(同志社大学・文化情報学部・教授、同志社大学・人文科学研究所・兼担研究員、同志社大学・宮廷文化研究センター・研究員)

香道の盤物 ―典雅な遊戯―
矢野 環(埼玉大学・名誉教授、同志社大学・名誉教授、同志社大学・人文科学研究所・嘱託研究員(社外))

 なお、矢野環氏の発表については、ご本人の許可を得て、下記URLにて一般に公開している。
https://youtu.be/Wql_M81twZU
開催日時 第3回研究会・2021年8月31日 10時30分~18時00分
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ 夏の研究集会(2日目)
発表者 南里 一郎 他
研究会内容  下記の報告および研究発表をおこなった。具体的な題目は次のとおり。

《午前の部》
吉井勇の歌集を全部見る―『酒ほがひ』から『形影抄』まで―
南里 一郎(立命館大学・非常勤講師)

『覚一本平家物語』と『延慶本平家物語』の「うたてし」
城阪 早紀(同志社大学・特別任用助手)

《午後の部:同志社大学 宮廷文化研究センター共催》
二條家文書『手鑑』について
丹羽 雄一(同志社大学・文学研究科・博士後期課程)

同志社大学所蔵の源氏物語絵巻「源語」について
岩坪 健(同志社大学・文学部・教授)

同志社大学文化情報学部所蔵『源氏物語画賛幅』について
福田 智子(同志社大学・文化情報学部・教授)

『利休百会記』と『南方録』―茶湯を宮廷文化に接続したかった実山―
矢野 環(埼玉大学・名誉教授、同志社大学・名誉教授)

 なお、矢野環氏の発表については、ご本人の許可を得て、下記URLにて一般に公開している。
https://youtu.be/sSXDhZWDCzo
開催日時 第2回研究会・2021年8月26日 10時30分~17時
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ 夏の研究集会(1日目)
発表者 宮﨑 裕子 他
研究会内容  下記の報告および研究発表をおこなった。具体的な題目は次のとおり。

中世王朝物語における親王官の位置付け―『石清水物語』の中務宮をめぐって―
宮﨑 裕子(九州産業大学・国際文化学部・准教授)

Splits treeを用いた伝本研究―前回の矢野環先生のお話を受けた実践編―
福田 智子(同志社大学・文化情報学部・教授)

PCまわりのトラブルあれこれ その5
南里 一郎(立命館大学・非常勤講師)

文科系学生のためのデータサイエンス教材の開発
原 尚幸(京都大学・国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター・教授)

対応分析の問題点―西里先生の手法など―
矢野 環(埼玉大学・名誉教授、同志社大学・名誉教授)

 なお、矢野環氏の発表については、ご本人の許可を得て、下記URLにて一般に公開している。
https://youtu.be/8SHtEYhvnEU
開催日時 第1回研究会・2021年 6月 27日 13時30分 ~ 15時20分
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ SplitsTree 5 ―系統を見る ということ―
発表者 矢野 環
研究会内容  まず、現時点で最新版のSplits Tree 5について、downloadの方法を説明する。以下のURLから、 Windows 用、Mac用など、必要なものをインストールする。
https://software-ab.informatik.uni-tuebingen.de/download/splitstree5/welcome.html
 なお、Manual もアップされているが、現時点では、とりあえず SplitsTree4 のものを読むのがよい。
https://software-ab.informatik.uni-tuebingen.de/download/splitstree/welcome.html
 その下の Auxiliary Files は、生物系の専門家向けである。6GBほどあるので、特に興味があり、高速回線でネットを使用しているならば、ダウンロードして解凍するのもよいが、文献学(伝本研究・写本の伝播に関する研究)には通常は不要である。
 さて、directory 構造は、Windowsではdefault は、C:\Program Files\SplitsTree5というフォルダが作成される。その中にあるSplitsTree5.exe が実行ファイルである。リンクをデスクトップに作っておくとよい。Examples には、わずかであるが nexus files がある。jre がない場合、SplitsTree5 が起動しないことがあるかもしれない。この正式の対策は、不明だが可能ではある。
 実習例として、生物界の系統樹を見る。SplitsTree5 を起動し、左上の Open にて C:\Program Files\SplitsTree5\Examples へ行き、fitch-margoliash-1967.nex を開く。
そうすると、画面が動き、図が表示される。その中には、Man もある。この図は、Edit Copy imageで取得できる。paste.png である。
 なお、SplitsTree5.exe がどうしても起動しない場合は、前述のとおり、jre があるか否かを確認する。ない場合の対策は、自己責任ではあるが、すべての java をuninstall する(独立に入っているもののみ。何かに組み込まれているものは放置する。)。そして再度、SplitsTree5 をインストールし、jre があれば起動するはずである。
 それでも起動しない場合は、下記URLのSplitsTree4 をインストールして用いる。
https://software-ab.informatik.uni-tuebingen.de/download/splitstree/welcome.html
 以下、 Splits Treeで出力した図をもとに、その見方やTaxaの選択、ハミング距離、Bootstrapなどについて説明を行った。
 なお、本研究会の録画は、下記URLにて一般に公開している。
https://youtu.be/lVOQViAzfHc

2020年度

開催日時 第3回研究会・2021年3月16日 10時30分~18時00分
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ 春の全体集会
発表者 森 あかね 他
研究会内容  下記の報告および研究発表をおこなった。具体的な題目は次のとおり。

『落窪物語』における女君の力―父親との関係から―
森 あかね(香川高等専門学校)

即位式をめぐる史料論―『大鏡』所収の怪事件から―
末松 剛(九州産業大学地域共創学部)

吉井勇の歌はどう変わったか―『酒ほがひ』から『金泥』までの表現をたどる
南里 一郎(立命館大学非常勤講師)

藤原定家と「摩訶止観」   
廣坂 直子(京都外国語大学非常勤講師)

『新撰六帖』における為家の万葉歌句摂取―『古今六帖』『五代簡要』の位置― 
福田 智子(同志社大学文化情報学部)

仙洞寛永十年七夕七遊記の雅楽関連記事について
高橋 美都(同志社大学嘱託講師)

香道での「宗祇状」について
矢野 環(埼玉大学名誉教授・同志社大学名誉教授)
                                   以上
開催日時 第2回研究会・2020年11月29日 14時30分~16時30分
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ 冬の全体集会
発表者 福田 智子 他
研究会内容 『新撰和歌六帖』は『古今和歌六帖』を見たか  福田 智子

 『古今和歌六帖』は、十世紀後半に成立したとされる我が国初の類題和歌集である。作歌の手引き書として編纂されたと考えられているが、古写本が伝来していないことでも知られている。それは、十三世紀半ばに、家良・為家・知家・信実・光俊が、六帖題で新たに歌を詠んだ『新撰和歌六帖』に、その作歌の手引き書としての位置を取って代わられたのが一因ではないか。
 『新撰和歌六帖』の和歌の中には、『新編国歌大観』を検しても、『古今和歌六帖』の出典未詳歌にのみ見出される特異な表現を用いた例がある。『新撰和歌六帖』の作者は、『古今和歌六帖』の題だけではなく、和歌本文をも視野に入れて作歌していたと推察される。これは、『新撰和歌六帖』の中に、『古今和歌六帖』の表現を透かし見ることになる一方、作歌の手引き書としては、『新撰和歌六帖』の存在が、『古今和歌六帖』を見る必要性を軽減させたことにもなろう。
 十四世紀に入り、『古今和歌六帖』の享受あり方は、実証的研究(出典考証)の対象へと移行していく。現存諸本のほとんどが江戸期の写本というのは、このような『古今和歌六帖』の享受史の変遷を端的に示しているのではないか。

「志野家名香合」の写本群について―松寿文庫蔵 後陽成院御宸翰写本等―
 矢野 環  

 志野名香合 の研究は、菊池佳奈子による2003年のもの以降、十数年を経て、幾つかの進展があった。亀山悦子は、写本の広汎な調査を行い、陽明文庫本【陽明】の翻刻を提供した。さらに、管蔵 竹幽文庫本【竹幽】(端本)と同一元本から来ると思われる同文庫の【竹究】(完本)、その国会図書館の類本【国竹】などが見出され、瀬戸口稀美は卒業研究で【陽明】を含む16写本の系統樹を構成し、その後で他写本も考察した。さらに松寿文庫(香老舗 松栄堂)所蔵の、後陽成院宸翰本由来とされる【松後】を、武田貴美子が校合した。それらを含めて25写本について、系統学的処理を矢野が行い、幾つかの新知見を得た。調査にご協力頂いた、松栄堂 畑正高社長に感謝申し上げる。
開催日時 第1回研究会・2020年9月8日 10時30分~17時00分
開催場所 Zoomによるリモート
テーマ 夏の全体集会
発表者 森 あかね 他
研究会内容  下記の報告および研究発表をおこなった。具体的な題目は次のとおり。

第一部 非対面下での授業―わたしはこういうふうに乗り越えた!―

Microsoft Teamsを使用した古典授業
―香川高等専門学校詫間キャンパス2年生における実践例―
森 あかね(香川高等専門学校)

zoomを利用した課題解決型授業の展開
~商店街活性化プロジェクトを例として~
大田 靖(岡山理科大学・ゲスト講師)

文系教員のオンライン授業対応の顛末
(奈良大学での芸能史授業を例に)   
高橋 美都(同志社大学 嘱託講師)

第二部 研究発表会

ATOKで使うIVSと漢字入力
―入力・表示・印刷・入稿の各局面でのあれこれ―
南里 一郎(立命館大学 非常勤講師)

訓点研究の現在と可能性‐国仏本『摩訶止観』巻第一を例に
廣坂 直子(京都外国語大学 非常勤講師)

『古今和歌六帖』が目指したもの―万葉歌を通して―
福田 智子(同志社大学)

香道伝書について2020―香道秘伝書・香合香炉図―
矢野 環(埼玉大学名誉教授・同志社大学名誉教授)
                                   以上

2019年度

開催日時 第9回研究会・2020年3月4日 11時00分~16時30分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収の二つの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)香花香
出香:宗環(矢野 環) 香元:あかね(森 あかね) 執筆:智葉(山本 智葉)
盤者:竹幽(矢野 環)
 左方と右方に分かれて聞く盤物である。生花会の要領で、生花と花入を人数より多めに用意し、記録には、銘々が持参した花瓶の銘と生花、名前を記す。
 本香には、地香「一」「二」「三」の香と、「ウ」の香、各三包計十二包のうち、二包を除き、残りの十包を一炷開きで焚く。
 札は十炷香札を用いる。聞き違えた札は、その度に銘々に返却する。
 盤の中央に花車を置き、聞き当てた人数に客香・地香の差を勘案して、左方と右方の差の分だけ車を進める。香を聞き終わり、勝負が決まったら、勝った方と負けた方、それぞれに、個々の連中の聞き当てた数によって、花の生け方が細かく指示されている。
(2)四睡香
出香:宗環(矢野 環) 香元:智葉(山本 智葉) 執筆:あかね(森 あかね)
盤者:竹幽(矢野 環)
 唐代、虎を愛した豊干禅師と、その徳に仕えた寒山・拾得が、虎とともに眠っている画題「四睡」に依拠する組香。盤物である。
 豊干方・寒山方・拾得方・猛虎方に分かれ、地香「一」「二」「三」の香、各三包計九包から一包を除いた残り八包と客香二包の計十包を一炷開きで焚く。
 札は十炷香札を用いる。
 盤は円形で四本の溝があり、豊干・寒山・拾得・猛虎の人形を、聞き当てた数により、それぞれの規則により進めていく。すべての人形が、盤の中央の「草原」に至り、眠ると、香は残っていても盤の勝負は終わりとなる。
開催日時 第8回研究会・2019年11月7日 15時00分 ~16時30分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収のひとつの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)菊花香
出香:宗環(矢野 環) 香元:智葉(山本 智葉) 執筆:智玩(福田 智子)
盤者:淑雲(胡 淑雲)
 矢数香と同様に立物を進める盤物である。地香は「白菊香」「黄菊香」「紅菊香」の各三包、客香は「雁金香」一包を用意する。一炷開きで香を焚く。
 立物は、白・黄・赤の柄の花串を各十本計三十本用意し、それぞれの色の小菊の生花を付ける。また、短冊は金・銀・白の各十枚を用意する。銀の短冊には「天津星」と記す。白の短冊は「無銘」である。
 まず、盤に白菊を立てる。香を聞き当て、五間目に至ると黄菊に、八間目では紅菊に取り替える。また、客香を聞き当てると、銀の短冊を付ける。十間目に至ったときには金の短冊を付け、勝とする。なお、聞き違えが三炷以上続くと、串から花を抜き、白の短冊を掛ける。
開催日時 第7回研究会・2019年10月10日 13時00分 ~16時30分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収の二つの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)知音香
出香:宗環(矢野 環) 香元:美都(高橋 美都) 執筆:智玩(福田 智子)
盤者:竹幽(矢野 環)
 楚國の琴の名人、伯牙とその友、鐘子期の故事に依拠する組香である。子期は、伯牙が弾ずる琴の音によって、その思いをよく聞き分けたという。「知音」の語の出典であり、それが本組香の名称になっている。盤物である。
 伯牙方、子期方に分かれ、それぞれ聞き当てた数を合計し、その差の分だけ、聞き当てた数の多い方の人形を進める。本組香の特色は、双方が「持」(引き分け)になることだけを心掛けるという点であり、他の組香にはまず見られない趣向である。
(2)鷹狩香
出香:宗環(矢野 環) 香元:美都(高橋 美都) 執筆:智玩(福田 智子)
盤者:竹幽(矢野 環)
 「鷹狩香」は、「志野流に久しく傳り来る組」であり、大枝流芳が新しく作った組香は『千代の秋』に掲載されているという。盤物である。
 「春狩」「冬狩」の香、各五包と、「鷹」の香一包の全十一包から一包を除き、残り十包を用いる。除いた一包は、十包を焚き終わった後に、すべて聞き当てた人に褒美として与える。これは、鷹狩りにおいて、多くの獲物を取った鷹に餌を与えるイメージである。
 なお、立物の鳥は、「大鳥」として靎・鳫・雉子・鷺・鴨、「小鳥」として鴫・鶉・鷭・鳩・雲雀を、この順に並べて立てる。
開催日時 第6回研究会・2019年9月18日 13時00分 ~ 16時30分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収の二つの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)三山香
出香:宗環(矢野 環) 香元:智葉(山本 智葉) 執筆:美都(高橋 美都)
盤者:竹幽(矢野 環)
 昔、香久山の麓に住んでいた膳部公業という男が、畝傍の里に住む桜子、耳梨の里に住む桂子という二人の遊女のもとに通っていたという、謡曲「三山(みつやま)」にも見える古い言い伝えに依拠する組香。盤物である。
 「春女方」と「秋女方」に分かれ、「畝傍山」「耳梨山」の香、各三包と「香久山」の香一包の計七包を焚き出す。立物には、まず、膳部公業の人形一体を用意する。また、桜と紅葉を五本ずつ用意し、それぞれ「春女方」と「秋女方」に用いる。そして、人形を盤の中央に立て置き、左右の脇の方へ桜・紅葉を五本ずつ並べて立て、双方の点数を消し合わせて人形を動かす。
 記録には、聞き当てても聞き違えても、すべての答えの札を記すが、「畝傍山」の香には「桜子」、「耳梨山」には「桂子」、「香久山」には「膳部公業」と書き換える。
(2)曲水香
出香:宗環(矢野 環) 香元:智葉(山本 智葉) 執筆:美都(高橋 美都)
盤者:竹幽(矢野 環)
 曲水宴に依拠する組香。盤物である。伝書には、「から人のふねをうかべてあそぶてふけふぞ我がせこ花かづらせよ」(新古今和歌集・巻第二春歌下・一五一番・中納言家持・曲水宴をよめる)、「めぐりあふけふはやよひのみかは水名にながれたる花のさかづき」(新続古今和歌集・巻第二春歌下・一七九番・権中納言家賢・曲水宴の心を)、「いしまゆく花のさかづきまてしばしまだ言のははかきもながさず」(草庵和歌集・巻第一春歌上・一一七番・曲水宴を)の三首の和歌が載る。
開催日時 夏の全体集会・2019年8月20日 10時30分~18時00分
開催場所 同志社大学室町キャンパス 寒梅館6階 大会議室
テーマ 夏の全体集会
発表者 森 あかね 他
研究会内容  下記の研究発表会および講演会をおこなった。具体的な題目は次のとおり。

・光源氏と孝―提示されない「不孝」―    
          森 あかね(香川高等専門学校)
・『枕草子』に描かれた源成信
 ―第274段「成信の中将は」の構成を視点として―   
          古瀬 雅義(安田女子大学)
・江戸時代の歴代即位式図について
          末松 剛(九州産業大学)
・PCまわりのトラブルあれこれ4
          南里 一郎(立命館大学非常勤講師)
・「銘」の語誌―茶器の「銘」の成立を中心に―
          板垣 華蓮(同志社女子大学大学院文学研究科 博士課程前期課程)
・くずし字翻刻支援システムの現状と課題
          深川 大路(同志社大学)
・源氏絵二題
          福田 智子(同志社大学)
・古典に潜む数学の愉しみ
          大田 靖(ゲスト講師/岡山理科大学)
・国学者の有職故実修行の一齣-仙洞御所御田植潜入記-
          亀井 森(ゲスト講師/鹿児島大学)
・富士ゼロックス最新技術による質感コミュニケーション
          吉田 謙一・郡山 登志郎(ゲスト講師/富士ゼロックス株式会社)
・志野流の民間での伝書例―村上家などについて―
          矢野環(同志社大学)・高橋美都(同志社大学嘱託講師)

                                                  以上
開催日時 第4回研究会・2019年8月19日 13時00分~17時00分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収の二つの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)彼岸香
出香:宗環(矢野 環) 香元:あかね(森 あかね) 執筆:美都(高橋 美都)
盤者:竹幽(矢野 環)
 「古詩」(武帝編『秋風辞』)にいう「草木黄落シテ雁南ニ帰ル」、および春の彼岸になると燕が飛来するという景物に依拠する組香。芦原方・常盤方に分かれて行う盤物である。答えには十炷香札を用い、試十炷香の通りに出香する。
 立物は、雁と燕を五羽ずつと、金・銀の芦の葉を十本ずつ用意する。一炷開きで、立物が五間進むと「五里の羽休」と名付けて銀の芦の葉をその鳥の口にくわえさせる。さらに五間進むと「十里の羽休」として金の芦の葉をくわえさせる。十六間目に至った者を勝ちとする。
(2)相撲香
出香:宗環(矢野 環) 香元:あかね(森 あかね) 執筆:智玩(福田 智子)盤者・竹幽(矢野 環)
 昔、宮中で、毎年七月十六、十七日に行われたという相撲節会に依拠する組香。相撲節会は、諸国から強力の者を探し出して行われ、神亀三年から始められたが、安元の頃以来、絶えたと伝書には記される。「一」「二」「三」の香と右行司香・左行司香を各五包、計二十五包を用意し、十五人で聞く盤物である。
 盤の東西に幕を張り、相撲人形はその外に五人ずつ、行司人形は前と向こう側に一人ずつ置く。初めに鬮を引いて、相撲の相手(一~五番)を決め、行司も鬮によって一組に一人ずつ決める。
 五種類の試香を聞いた後、すべての連中が香席を退座する。それからあらためて、東西の相撲二人と左行司が香席に出て、三炷の香を聞く。答えは一炷ごとに名乗紙に書き、一炷聞きで人形の進退を決める。三炷を聞き、勝負が決まると、三人ともに退座する。これを五回繰り返すのが伝書の作法である。
開催日時 第3回研究会・2019年6月13日 13時30分~16時30分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収の二つの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)蓬莱香
出香:宗環(矢野 環) 香元:美都(高橋 美都) 執筆:智玩(福田 智子)
盤者:竹幽(矢野 環)
 中国の三神山にちなんだ組香である。地香「福」「壽」の香、各二包と、客香「海」の香一包の計五包を出香とする。盤には一面に浪の蒔絵を施し、三箇所に十ずつ穴を開けておく。そこに、「蓬莱」「方丈」「瀛州」を並べ、それぞれ嶺に竹・松・梅を立てる。一炷聞き当てるたびに立物の「鶴」「亀」を進めていく。最初は瀛州に上り、二炷目は海に下る。同様に、三炷目では方丈に上り、四炷目は海に下り、五炷目を聞き当てると蓬莱山に至るという趣向である。
(2)千引香
出香:宗環(矢野 環) 香元:竹幽(矢野 環) 執筆:美都(高橋 美都)
盤者:智玩(福田 智子)
 陸奥の千引の石にちなんだ組香である。試十炷香の要領で札を打つ。札は十炷香札を用いる。右方(上座)と左方に分かれる。丸形の盤の中心に松を立て、その廻りに溝を十三筋作る。立物の大石には綱を結わえ、左右に分けた綱の端を五体ずつの人形に持たせる。右方・左方、それぞれに香を聞き当てた数を合計し、多く聞き当てた方の人形を進めることで、石を引かせる。なお、香席の始めに、連中のうちの貴人が、香を一炷提供し、その香を錦の袋に入れて、松に掛けておき、香席の終わりに、最も聞き当てた数の多い人に与える。これは、最も石を引いた人に所領を与えたことに拠る発想である。
開催日時 第2回研究会・2019年5月23日 13時00分~17時00分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収の二つの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)春日山香
出香:宗環(矢野 環) 香元:智葉(山本 智葉) 執筆:美都(高橋 美都)
盤者:智玩(福田 智子)
 「山里は淋しけれども鹿の音を居ながらきくぞ人にまされる」(類題和歌集・一〇九〇〇番・為義)に依拠する組香。地香「一」「二」「三」の香、各三包と、客香一包の計十包を出香とする。東山方と西山方に分かれて行う盤物である。札は十炷香札を用いる。證歌の下句「居ながらきくぞ人にまされる」の意味に拠り、「鹿」の立物は、香を聞き当てた方はそのままにして、聞き違えた方を進める。盤の中央の「勝負の場」に置いた春日山の紅葉の大木には、和歌を書いた短冊一枚を懸けておき、香を聞くたびに、勝った方の紅葉の大木に懸けかえる。
(2)花睡香
出香:宗環(矢野 環) 香元:竹幽斎(矢野 環) 執筆:美都(高橋 美都)
盤者:智玩(福田 智子)
 「思ひわびぬせめて胡蝶の夢もがな心の花のたのしみにせむ」(類題和歌集・二二九三六)に依拠する組香。「坂内宗拾(曾呂利新左衛門)秘蔵せし組香の由云傳ふ」と記される。地香「一」「二」「三」の香と客香各三包の計十二包のうち一包を除き、十一包を出香とする。札は十炷香札を用い、無試十炷香の要領で札を打つ。竪十行、横十二間の盤の他、花台に作り物の牡丹を三本飾り、その周囲に穴を開けておく。柄に付けた蝶を盤に挿していき、独り聞きにより、蝶を牡丹のまわりに挿したり、蝶を柄から外して、牡丹の花に止まらせる。同香を二炷あるいは三炷聞き当てると得点になるが、四種の香について、それぞれ初香を聞き当てることにより点が付くところに特色がある。
開催日時 第1回研究会・2019年4月25日 13時00分~16時30分
開催場所 同志社大学京田辺校地 夢告館312号室
テーマ 『香道籬之菊』所載組香の実習と考察
発表者 矢野 環 他
研究会内容  竹幽文庫本『香道籬之菊』所収の二つの組香について、伝書に基づいた組香を行い、その内容について考察した。具体的には次のとおり。
(1)寿浮木香
出香:宗環(矢野 環) 香元:智葉(山本 智葉) 執筆:美都(高橋 美都)
盤者:智玩(福田 智子)
 「年へたるふるきうききをすてねばぞさやけきひかりとほくきこゆる」(新勅撰集・巻第七・賀歌・四九〇・西三条右大臣・延喜六年日本紀竟宴歌、誉田天皇)に依拠する組香。地香「浮木」「光」「遠」の香、各三包計九包から一包を除いた八包に、客香「鶴」「亀」の香、各一包計二包を加えて、計十包を出香とする。鶴方と亀方に分かれて行う盤物である。札は十炷香札を用いる。鶴方は「鶴」の香を、「亀」方は「亀」の香を、それぞれ聞き当てたときの点が高い。
(2)和歌浦香
出香:宗環(矢野 環) 香元:竹幽(矢野 環) 執筆:智葉(山本 智葉)
盤者:智玩(福田 智子)
 「玉津島入江こぎいづるいつて舟五たびあひぬ神やうくらん」(新続古今集・巻第十八・雑歌中・一九〇四・頓阿法師・これも新拾遺集えらびはじめられける時、続千載集より五たびの集にあひぬる事をおもひて)に依拠する組香。地香「和布」「浜木綿」「神馬藻(なのりそ)」「藻塩草」の香と客香「澪標」の香、各二包計十包を出香とする。左方と右方に分かれて行う盤物である。札は特殊な札を用いる。本香十包を五包ずつ左右に分けて置き、まず左方から一炷焚き出して左廻りに香炉を廻し、次の一炷は右方から焚き出して右廻りに香炉を廻す。これを交互に繰り返す。札は、交互に廻ってくる札筒と折居とに打つ。連中の途中でふたつの香炉が行き違う難しさがある。