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第8研究 現代レイシズムの批判的比較分析―植民地研究との融合を目指して 研究代表者:菊池 恵介(グローバル・スタディーズ研究科)

 1980年代以降、ポストコロニアル研究の流行とともに、植民地主義の歴史の批判的な研究が世界各地で行われてきた。しかし、アカデミズムの動向とは裏腹に、一般社会では移民排斥や歴史修正主義が高揚するなど、状況はあまり改善したとはいえない。アカデミズムにおける知の生産と一般社会の認識のズレは何に起因しているのだろうか。これを理解するには、人々の歴史認識の形成においてサブカルチャーやインターネットなどが果している役割を検討すると同時に、グローバリゼーションにともなう階層格差の拡大と、それに伴う社会不安の増大といった間接的な要因にまで視野を広げていく必要があるだろう。本研究会では、現代の排外主義の問題を過去の植民地主義の歴史と一つながりの現象として認識した上で、これまで別個に歩んできた植民地主義研究とレイシズム研究の融合を図っていく。

2021年度

開催日時 第3回研究会・2022年3月8日 13時30分~17時00分
開催場所 オンライン
テーマ 植民地主義・解放・冷戦の歴史経験を再考する――板垣竜太『北に渡った言語学者――金壽卿1918-2000』(2021年)を手がかりに
発表者 板垣竜太(同志社大学)、塩川伸明(東京大学名誉教授)、戸邉秀明(東京経済大学)、駒込武(京都大学)、水谷智(同志社大学)
研究会内容  本研究会は、板垣竜太『北に渡った言語学者――金壽卿1918-2000』(人文書院、2021年)の刊行にともなってオンラインで開催され、参加者は107名を数えた。著者の板垣竜太をはじめ、さまざまな領域を専門とする研究者が参加し、司会を第8研究班メンバーの水谷智と駒込武が務めた。
 はじめに水谷が開催趣旨を説明したあと、板垣が自著解題をおこなった。板垣は、本書執筆にいたるまでの経緯や問題関心について説明し、金壽卿という一個人を調べあげることで地域や分野を超えた「全体史」を描こうとする本書の目的を簡単に示した。その次に、ロシア・旧ソ連諸国の近現代史を専門とする塩川伸明と日本近現代史を専門とする戸邉秀明が書評コメントをおこなった。
 塩川は、一個人を「交差点」とした「全体史」という本書の試みを後知恵史観への批判と評した。そのうえで、自身の専門であるソ連史の立場から言語学者金壽卿の仕事について整理した。戸邉は、自身の専門に引きつけながら、本書全体を包括的に書評するとともに、本書の史学史的位置付けをおこなった。とくに、一個人から「全体史」を編む板垣の企てを鶴見俊輔『期待と回想』における「期待の地平」と「回想の地平」という概念から読み解いた。
 その後は、板垣が両者の書評へのリプライをおこない、全体討論へと移行した。フロアとの自由討論のまえに、4人の指定討論者のコメントとそれへの板垣の応答があった。指定討論者からは、それぞれ、ロシアと北朝鮮の政治的な関係が言語(学)に与えた影響、アナール学派の試みと本書の距離、言語学の観点からみた金壽卿言語学の特徴や在日朝鮮人(朝鮮学校)と金壽卿言語学の関係、台湾の言語学者王育徳の比較といった指摘がなされた。また、フロアからも歴史学と言語(学)の結びつきや<評伝>というスタイルそのものがもつ男性性についての質問がなされ、活発な議論がおこなわれた。
開催日時 第2回研究会・2021年11月19日 9時00分~11時00分
開催場所 同志社大学良心館
テーマ フランス・アフロフェミニズムの現在:アマンディン・ゲイ監督『声を上げる、未来を拓く』を題材に
発表者 菊池恵介(同志社大学)、森千香子(同志社大学)
研究会内容  本研究会の目的は、フランス・アフロフェミニズムの旗手であるアマンディン・ゲイ(Amandine Gay, 1984-)が監督した映画『声を上げる、未来を拓く』(Ouvrir la voix, 2017)を題材とし、現代レイシズムの現状また分断されている反レイシズム運動の問題を検討することである。なお、本研究会は、同志社大学・都市共生研究センター(MICCS)との共同で開催された。
 まず、ゲイ監督『声を上げる、未来を拓く』についての簡単な概要説明と映画の前半部の上映がなされた。『声を上げる、未来を拓く』は、24 人の「アフロ=ユーロピアン」女性のインタビューで構成され、アフリカにルーツをもつ女性たちがヨーロッパにおいて経験してきた複合的な差別の姿を提示するドキュメンタリー作品である。上映後、菊池が、ゲイ監督の経歴と映画の後半部の内容を紹介し、前半部の総括と解説をおこなった。菊池は、『声を上げる、未来を拓く』の内容に基づきながら、「一にして不可分な共和国」を国是とするフランスにおいて、従来の白人女性中心のフェミニズム運動が捉えきれず、隠蔽されてきた黒人女性や「アフロ=ユーロピアン」女性に固有の差別経験あるいは差別構造を指摘した。
 その解説後の質疑応答では、森が登壇し、菊池・森の両名がフロアからの質問に答えた。
フランスにおける対レイシズムや対セクシズムといった反差別運動の展開についての基本的な質問から、フランスの反差別運動におけるアフロ・フェミニズムの位置づけ、アファーマティブ・アクションを十分に取り入れてこなかったフランスの普遍主義的な制度へのブラック・ライブズ・マターの影響についてなど、活発な議論が交わされた。
開催日時 第1回研究会・2021年10月25日 9時00分~11時00分
開催場所 オンライン
テーマ 現代台湾「慰安婦」言説についての一考察
発表者 三澤真美恵(日本大学)
研究会内容  本報告の目的は、日本の「慰安婦」問題にかんする話題が韓国の「慰安婦」問題(朝鮮人「慰安婦」問題)に集中することで、関心を向けられてこなかった台湾人「慰安婦」問題の現状を整理し、その課題を検討することである。参加者は、三澤真美恵「現代台湾「慰安婦」言説の整理――2001年論争以前」(『中国語中国文化』18号、2021)と劉夏如「慰安婦問題」(『台湾研究入門』所収、東京大学出版会、2020)を事前に読み、議論をおこなった。
 議論に先立って、三澤から論文の背景や目的の説明があった。まず三澤は、現代台湾「慰安婦」言説が「「慰安婦」志願説対「慰安婦」強制説」といった「虚構の二項対立」を前提にステレオタイプ化し、過度に単純化された図式的言説が支配的になっているとして状況を整理する。次いで、ステレオタイプ化した言説が支配的になる2001年論争以前の台湾「慰安婦」言説に注目することで、その支配的言説によって不可視化ないし周縁化されてきた元「慰安婦」被害者のニーズに対応してきた「別様の同盟」の存在への指摘があった。また、台湾人「慰安婦」問題と国民党支配時代の「軍中楽園」との連続性が指摘され、台湾人「慰安婦」問題を「移行期正義」の観点から捉え直すことはできないかという問題提起がなされた。
 報告後の質疑応答では、元「慰安婦」被害者の支援をおこなっている婦人会制度についての基本的質問から、三澤が指摘した「連続性」の視点の一般化の可能性、台湾人「慰安婦」問題を「移行期正義」の対象にする必要性、台湾と日本での脱植民地主義の課題の違いについてなど、活発な議論が交わされた。

2020年度

開催日時 第3回研究会・2020年12月17日 18時00分~20時00分
開催場所 オンライン
テーマ 社会防衛と流刑~19世紀の矛盾集約地としての仏領ニューカレドニア~
発表者 友寄元樹(同志社大学大学院)
研究会内容  本報告は、19世紀のヨーロッパ産業革命期における仏領ニューカレドニアの歴史を「社会防衛と流刑」という観点から検討することを目的としている。
 19世紀のフランスでは、産業革命にともなう労働者人口の増大と窮乏化という状況のなかで失業者や犯罪者をどのように管理し、治安を確保するかという問題が治安当局の間で存在していた。その解決策として考案されたのが、ニューカレドニアへの流刑政策である。報告者はフランスにおける19世紀のニューカレドニアへの流刑政策を跡づけ、産業発展と失業者の増大という社会矛盾を解決する土地としてのニューカレドニアという当局の理想とは裏腹に、そうした矛盾がニューカレドニアにおいても再生産されていく過程を描こうと試みた。
 報告後の質疑応答では、流刑制度の実態や流刑者の監獄での生活の様相はいかなるものだったのかといった点やイギリス帝国との比較や政策の浸透の可能性、科学的レイシズムとの関連性、そして一次資料についてなど、活発な議論が交わされた。
開催日時 第2回研究会・2020年10月26日 19時00分~21時00分
開催場所 オンライン
テーマ イギリス植民地教育とF. ルガード――インド・アフリカ・香港
発表者 山田智輝(京都大学大学院)
研究会内容  本報告の目的は、イギリス帝国を代表する植民地総督でありアフリカにおける「間接統治」を提唱した植民地理論家フレデリック・ルガードによるアフリカと香港における植民地教育の差異に着目し、その意味合いを「比較のポリティクス」という概念に呼応するかたちで明らかにすることである。
 ルガードにかんする従来の研究は、アフリカまたは香港での経験のいずれかに注目するなど偏視的であり、かれの植民地教育を通史的にとらえたものはなかった。しかし報告者はアンストーラーを中心に概念化されてきた「比較のポリティクス」の議論を用いて、ルガードの植民地教育にかんしてはアフリカと香港とを両眼的にとらえる必要性を説く。「比較のポリティクス」とは、近代の帝国が植民地支配の正当化や政策の策定・修正のために、たえず相互参照をおこなうことで「帝国化」していく様相の過程自体を明らかにすることをさす。報告者はこれを援用してルガードを「比較する主体」として設定し、アフリカと香港をまたぐ間―植民地的な植民地教育をなしたルガードの営為とその思想を跡づけることで、イギリスの植民地教育のありようにたいしても検討を試みた。
 発表後の質疑応答では、「比較のポリティクス」を適用するか否かといったそもそもの議論の枠組みの設定や、ルガードの教育観や香港大学設置過程における現地の人びとからの反応およびルガードと現地の人びとのインタラクションや、そもそも統治者が植民地に設置する大学が植民地統治のなかでいかなる意味をもつのか(統治者にとって/被支配者ないし被支配者間のネットワークにとって)について、発表者の専門とはことなる地域の研究者から質問がなされ、議論が活発におこなわれた。
開催日時 第1回研究会・2020年8月29日 9時00分~12時00分
開催場所 オンライン
テーマ 日米帝国の総力戦・マイノリティ動員・レイシズムを相比する
発表者 増渕あさ子(同志社大学)、李孝徳(東京外国語大学)、中野敏男(東京外国語大学名誉教授)、タカシ・フジタニ(トロント大学)
研究会内容  Takashi Fujitani, Race for Empire: Koreans as Japanese and Japanese as Americans during World War II (University of California Press, 2011) の日本語版『共振する帝国――日系人米軍兵士と朝鮮人皇軍兵士』(岩波書店、近刊)が刊行されるにあたって開催された本研究会には、著者のタカシ・フジタニをふくむ、さまざまな領域を専門とする研究者が参加し、司会を第8研究班メンバーの水谷智が務めた。
 はじめに李孝徳が開催趣旨を説明したのち、以下の3名が報告をおこなった。まず、冷戦史・沖縄占領研究を専門とする増渕あさ子が、同書で示される論点や理論的枠組みを整理した。そして、それらを自身の研究する戦後沖縄史の文脈にひきつけながら、沖縄の占領と本土復帰、包摂と排除、生権力と殺す権力をめぐって考察をおこなった。
 つづいて、ポストコロニアル研究を専門とする李が、同書の採用する独創的なアプローチや方法論といった理論的側面についての分析をおこない、エスニック/コロニアルなマイノリティたる被統治者の主体化と国家権力との関係や、彼らの兵士動員を可能としたレイシズム、そうした動員の固有性とそれをつうじた階梯的かつ未完の主体化について問題を提起した。
 最後に、歴史社会学・思想史を専門とする中野敏男が、総力戦体制下における国民的主体の動員という問題意識を共有していることを踏まえたうえで、同書で展開される粗野な/排除のレイシズムから上品な/包摂のレイシズムへの部分的移行という議論や、日本民衆のレイシズムおよび戦後における植民地主義とレイシズムの継続を考察する必要性について考察をおこなった。
 その後の質疑応答では、同書で展開される議論や既存の歴史研究のあり方にたいするチャレンジをめぐり、レイシズムや近代の権力、志願と徴兵という問題、日米というふたつの帝国の相比可能性などにかんする多くのコメントや質問が参加者から寄せられ、著者や報告者を交えて活発な意見交換がなされた。

2019年度

開催日時 第4回研究会・2020年1月31日 18時30分~20時30分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス志高館SK203
テーマ 弱者の技術――ポンプ・竜骨車・風車の利用からみた日本統治期台湾
発表者 都留俊太郎(京都大学)
研究会内容  本報告の目的は、日本統治下にあった1930年代の台湾において、「技術革新」が台湾人農家にとっていかなる意味をもったのかを明らかにすることである。発表者は、電動ポンプ灌漑がいち早くおこなわれた台中州北斗郡西部に焦点をあて、文書史料の分析のみならず当該地域での在来言語による聞き取り調査をつうじて、彼らによる小規模水利施設の導入・利用について考察した。
 植民地への技術移転にかんする従来の研究は、技術普及の側面を強調するものと、それにともなう権力性・暴力性を前景化するものとに大別されるが、いずれも「弱者」たる被統治者の主体性を過小評価する傾向にある。これにたいして発表者は、官・資本主導による大規模水利開発事業の一方で、台湾人農家は小規模水利施設の導入・利用をつうじて自律的な農業経営と生存の可能性を探っていたと論じた。
 具体的には次のとおりである。台湾人農家は、昭和恐慌期の糖業危機を受け、電動機ポンプによる地下水灌漑を導入して甘蔗栽培から稲作への転換を図った。これにたいして総督府は、内地の稲作農家保護を理由として電動機ポンプの利用・新設を規制した。しかし前者は、そうした規制を掻い潜りながら発動機ポンプを普及させるとともに、手近な素材を活用しつつ竜骨車や風車を利用し、地下水および余水による灌漑をおこなった。かくして彼らは、総督府や製糖会社による支配の間隙を縫いつつ積極的に技術を導入・利用することで、みずからの生存を模索したのである。
 発表後の質疑応答では、農家たちの生活実態や農業技術、彼らと植民地社会や資本主義経済との関係性、本研究の位置づけなどにかんする質問がなされた。そして、植民地支配下における権力構造を過小評価したり単純な支配と抵抗の図式にとらわれたりすることなく、被統治者の営為やその主体性、自治・自律をいかに描き出すかについて議論が交わされた。(作成:山田智輝)
開催日時 第3回研究会・2019年7月21日 14時00分~17時30分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK203
テーマ 北米アジア系マイノリティの戦争記憶と帝国主義
発表者 中村理香(成城大学)
研究会内容  2017年に出版された『アジア系アメリカと戦争記憶――原爆・「慰安婦」・強制収容』(青弓社)に基づき、著者の中村理香を招聘して議論を行った。
 まず議論に先立って、中村が本書の出版の背景や目的、アジア系研究の動向を説明し、日系とコリア系を主とする北米アジア系マイノリティの言説には、アメリカの帝国主義に対する批判的認識がしばしば欠如していたことを指摘した。さらに、原爆投下や日本軍「慰安婦」制度、第二次世界大戦期における日系人強制収容という日米加による三つの戦争暴力を、北米アジア系マイノリティがどのように記憶し、語るのかについて、作家や政治家、運動家の言説と日米の帝国主義との関係から考察した。そして中村は、日米の両帝国に対する批判的視座から日米双方の被害と加害を同時並行的に考察し、戦争暴力に対する「二重視点」を持つことの重要性を主張した。
  報告に続いて質疑応答が行われ、アメリカにおけるアジア系研究や第二次世界大戦をめぐる認識・位置づけなどに関する質問がなされた。どの議題についても、日本や欧米の帝国主義を専門とする参加者と中村とのあいだで活発な議論が交わされ、複数の帝国による戦争暴力を、いかにして同時に批判的に考察するかが検討された。こうした議論を通じて、中村の研究が提示するように、加害者の視点から自国の被害を、また被害者の視点から自国の加害を考察することによって、国家の枠組みに回収されることを回避しつつ、特殊論にも相互免責にも陥らない言説とリドレス(補償是正)のあり方を模索することの重要性が改めて確認された。
開催日時 第2回研究会・6月15日 14時30分~17時00分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK203
テーマ 「朝鮮軍人」金子定一と大アジア主義運動
発表者 李炯植(高麗大学)、松浦正孝(立教大学)
研究会内容  本報告の目的は、1930年代における在朝日本人の政治動向と朝鮮における大アジア主義運動の展開について明らかにすることである。そこで報告者の李炯植は、主に中国大陸および朝鮮でキャリアを積んだ陸軍軍人であり、後に政治家となった金子定一に焦点を当て、彼の活動と思想について朝鮮での大アジア主義運動を中心に考察した。
 1931年に朝鮮に参謀として赴任していた金子は、満洲事変勃発後、関東軍と朝鮮軍との連絡将校として奉天に派遣された。そこで彼は、中国人兵士らによる暴力から在満朝鮮人を保護することを口実に戦線の拡大を図った。そして権益の観点からのみならず、満蒙と朝鮮、日本における民族の一体性を強調することで満蒙分離を主張した。
 「満洲国」建国後、参謀として再び朝鮮に赴任した金子は、新聞や雑誌への寄稿、講演会を通じて満洲事変を擁護し、「満洲国」建国を支持したり国際連盟からの脱退を主張したりした。こうした活動を通じて彼は朝鮮に大アジア主義を伝播する一方、内鮮一体を掲げる朝鮮大アジア協会の設立に際して重要な役割を担った。
 1934年に朝鮮を離れて以後も朝鮮人と幅広く交流し、「朝鮮軍人」と称された金子の大アジア主義は、崔南善の「不咸文化」と共鳴しながら「親日」朝鮮人たちに徐々に浸透した。そしてそれは、1939年の天津租界事件に触発された朝鮮での排英運動へとつながった。
 本報告に対してコメンテーターを務めた松浦正孝は、大アジア主義における「トゥーラン主義」の重要性や金子の戦後の活動にも触れながら、朝鮮における大アジア主義の展開にかんする研究の意義について論じた。
 その後の質疑応答では、大アジア主義を唱えた他の日本人やインド人と金子との関係性をはじめとして多くの質問が参加者からなされ、報告者を交えて白熱した議論が展開された。
開催日時 第1回研究会・2019年4月19日 18時30分~21時00分
開催場所 同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK203
テーマ 植民地朝鮮における旅行証明書制度――独立運動との関連を軸に
発表者 呉仁済
研究会内容  報告者は、植民地朝鮮における旅行証明書制度について、朝鮮内外での独立運動との関係性に着目しながら論じた。
 旅行証明書制度とは、植民地期に朝鮮人の個人の移動の自由を規制するために1919年4月に導入され1922年12月まで運用された制度である。先行研究では、同制度は内地への渡航管理政策という枠組みでしか検討されず、さらに朝鮮人渡航者への数量的関心が先行してきたために、独立運動との連関が等閑視されてきた。
 そこで本研究の目的は、三・一独立運動に対する治安当局の認識に焦点を当てながら旅行証明書制度の背景と法制度の内容について考察するのみならず、独立運動を行う朝鮮人の同制度に対する認識・反応についても分析することである。
 報告者は、日本や中露米、さらには外国人宣教師に向けられた警戒について詳細に分析することを通じて、朝鮮内外の「連絡関係の有無」に対して大きな関心を払いながら独立運動家への訊問を治安当局が行っていたことを明らかにした。また、同制度の運用や社会の各分野への影響と効果について分析することにより、独立運動家のネットワークや旅行取締りの実態を浮き彫りにした。そして、同制度と三・一独立運動への対応として導入された政治犯処罰例との関係を構造的に理解することが重要であると指摘し、同制度における朝鮮人の法的地位と、植民地期および解放後におけるそれとの連続性を示唆した。
 こうして報告者は本研究により、内地渡航史という従来の枠組みを拡大、あるいは転換し、独立運動史の枠組みから旅行証明書制度を捉える研究に先鞭をつけた。
 その後の質疑応答では、日本帝国のみならずイギリス帝国といった他帝国の事例も踏まえながら、被統治者の移動と反植民地主義との関係性について活発な議論が交わされた。