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第10研究 近現代日本の保守主義をめぐる思想史的研究 研究代表者:望月 詩史(法学部)
冷戦構造が崩壊して以降、論壇で保守主義が論じられる機会が増えた。だが、論者によりその意味内容が異なり、議論が噛み合わない場面も多い。その一方で、保守主義の定義付けには困難が伴う。他の思想と比べて非体系的であり、特定の価値を掲げないからである。また、E・バークの思想に依拠して保守主義を定義付ける論者も少なくないが、このアプローチの妥当性は十分に検証されていない。そこで本研究会では、これまでの日本の保守主義の論じ方を批判的に検討する。そして、他国の保守主義と異なる性格を有している可能性を念頭に置きながら、「日本の保守主義はどのような思想なのか」を明らかにしていきたい。研究会は原則として毎月第4金曜日に開催し、長期休暇中に一日研究会も開催予定である。研究成果は、主に『社会科学』に投稿し、公開講演会の開催や成果論文集の刊行も検討している。
2021年度
開催日時 | 第10回研究会・2022年3月25日 16時50分~18時30分 |
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開催場所 | オンライン(Zoom使用) |
テーマ | 第20期研究会の振り返りほか |
発表者 | 望月詩史氏 |
研究会内容 | 今月は、第20期研究会の最終年・最終月ということで、これまでの3年間にわたる研究活動の振り返りと第21期研究会に関する案内を行った。 まず、人文研HPに掲載されている研究活動概要報告を確認しながら、年度別の研究活動を振り返った。続いて、本研究会の研究テーマを継続、発展させる形で次期研究会においても部門研究を発足させるため、それに関する案内を行った。 以上を踏まえて、参加者より、今期の研究活動や時期の研究会・研究テーマについて数多くの意見や質問が出された。前者に関する課題や改善点については、次期研究会を運営する際の参考としたい。 今期は、2020年に発生したコロナの影響により、研究会発足時に計画した内容の変更を余儀なくされた。しかし、『発言者』研究に関して言えば、時間をかけて記事分析に取り組むことができた。また、関係者へのヒアリングを実施する機会にも恵まれた。もしコロナが発生しなければ、少なくとも、『発言者』研究は、ここまで進められなかったと考える。 開催方式も対面からオンラインに変更した。慣れないオンライン方式に当初は戸惑うことも多かったが、操作方法に慣れ、この開催方式が定着すると、毎回の参加者数が対面時よりも増加するに至った。また、コロナの影響で遠方からの移動が困難な状況が続いていたことからも、対面開催の再開後も、引き続きオンライン開催を継続してほしいとの要望が多く寄せられたことから、現在は原則として、ハイブリッド方式で開催している。 |
開催日時 | 第9回研究会・2022年1月28日 16時50分~19時20分 |
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開催場所 | 啓明館第2共同会議室A+オンライン(Zoom使用) |
テーマ | 近代フランスの保守思想をめぐって |
発表者 | 長谷川一年氏 |
研究会内容 | 今月は、ゲストスピーカーとして長谷川一年氏(同志社大学)をお招きして、「近代フランスの保守思想をめぐって」について報告いただいた。報告の構成は、以下の通りである。 1 はじめに――誰が保守主義者なのか/2 エドマンド・バーク(1729‐97)/3 ジョゼフ・ド・メストル(1753‐1821)/4 フランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアン(1768‐1848)/5 フランスの右翼ナショナリズム研究/6 モーリス・バレス(1862-1923)/7 ギュスターヴ・ル・ボン(1841-1931) まず、主な先行研究でフランスの保守思想が論じられる際に対象とされた人物が紹介された。続けて、バークの思想を概観した上で、ド・メストルやシャトーブリアンら個別の人物に即して、近代フランスの保守思想が論じられた。 ド・メストルについて、彼は徹底した摂理主義の立場であり、それゆえ「非政治的」静寂主義だったと評価した。バークとの比較では、ド・メストルのConstitution論がバークの議論を急進化させたものといえるが、バークに見られる「柔軟な精神」を確認できないと指摘した。また、相違点として以下の3点も挙げられた。①ド・メストルの思考様式は演繹的。②ド・メストルはイギリスの国制の本質を、国王と両院の抑制・均衡ではなく、三者の意志の「一致」に見る。③ド・メストルはフランスのconstitutionを、三部会や高等法院の伝統ではなく、「神政的要素」に見る。 モーリス・バレスについて、彼の思想遍歴を「自我主義 → 伝統主義・保守主義・ナショナリズム → カトリシズム」と整理した上で、ナショナリズムについて詳しく紹介された。特徴として、バレスにおいてパトリオティズムとナショナリズムの矛盾・分裂の感覚がなく、「自我 → 故郷 → 国家」という同心円状の拡大が自明視されていること、連邦制を支持するが地方の自立性(遠心力)と国民統合(求心力)の矛盾の感覚がないことなどが挙げられた。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第8回研究会・2021年12月24日 16時50分~19時20分 |
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開催場所 | 啓明館第2共同会議室A+オンライン(Zoom使用) |
テーマ | 記事分析の報告(現代部門) |
発表者 | 大園誠氏 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を1名が報告した。対象記事は以下の通りである。いずれも「アメリカニズム」を主題とする論説である。 ①7号「アメリカニズム批判の視角」(特別座談会) ②9号「アジアとアメリカの間で」(佐藤誠三郎) ③同「福田恒存からアメリカまで」(西尾幹二・西部邁、緊急対談) ④同「『アメリカ的なるもの』の二重性」(佐伯啓思) ⑤同「日本という『家』」(冨岡幸一郎) ⑥同「内なるアメリカと近代日本」(福田和也) ⑦同「『アメリカの世紀』の始めと終り」(松本健一) ⑧同 「受苦の国と僥倖の国」(井尻千男) ⑨同 「敗戦日本はアメリカニズムの純粋培養器である」(西部邁) ⑩10号「『アメリカ批判の陥穽』を批判する」(西部邁) ①について、必ずしも西部に同意する意見ばかりではないが、「アメリカ化」や「グローバル化」(その一環としての規制緩和)に対して、「歴史」(西部)や「ナショナルなもの」を守ろうとする点では、緩やかな共通性や合意が見られると指摘した。③について、西部の福田恆存に対する評価、福田の身近にいた西尾による返答が興味深いと述べた。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第7回研究会・2021年11月26日 16時50分~19時25分 |
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開催場所 | オンライン(Zoom使用) |
テーマ | 『発言者』に関するヒアリング調査 |
発表者 | 宮本光晴氏 |
研究会内容 |
今月は、現代部門が実施する雑誌『発言者』に関するヒアリング調査をオンラインで実施した。ヒアリング対象者は、『発言者』の創刊時から参加し、また、途中から設けられた編集委員の一人でもあった宮本光晴氏(専修大学名誉教授、現山梨英和大学特任教授)である。 ヒアリングでは、『発言者』に参加される前史として、まず、学部・大学院時代について伺った。それから『発言者』について、当時の編集体制、寄稿者の人間関係などについて話しを伺った。ヒアリングを通じて、記事分析では分からない事実が、数多く明らかとなった。 なお、ヒアリング調査に際して、事前にこちらで作成した質問項目を宮本氏にお送りした。『発言者』に関する質問項目は、(1)記事の執筆(2)編集(3)主幹・常連執筆者(4)まとめ、である。概要は以下の通りである。 (1)は「aいつ頃、どのような経緯で、『発言者』への参加が決定したのか」「b毎回の記事のテーマは執筆者が自由に決められたのか。それともあらかじめ決められていたのか」など6項目。 (2)は「a『発言者』の編集体制はどのようなものだったのか。実務担当者以外に編集委員も設けられていたが、編集委員はどのように選出され、また具体的に何を行っていたのか」などの3項目。 (3)は「a最初に西部氏と出会ったのはいつ頃か。知り合ってから『発言者』創刊までの間に西部氏とはどのようなつながりがあったのか」などの3項目。 (4)は「a自身にとって『発言者』とはいかなる存在だったのか。『発言者』への執筆を通して、自身に変化はあったか。『発言者』の自身に対する影響があるとすれば何か」などの6項目。 参加者から多くの質問が出され、ヒアリングは予定していた時間を超過したものの、宮本氏には最後までご対応いただいた。 |
開催日時 | 第6回研究会・2021年10月22日 16時50分~19時00分 |
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開催場所 | オンライン(Zoom使用)+対面(同志社大学啓明館共同研究室A) |
テーマ | ヒアリング調査の実施状況・第21期部門研究会応募の件ほか |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 | 今月は、現代部門が実施する雑誌『発言者』に関するヒアリング調査の結果について1名が報告した。 ヒアリング対象者は、大阪市立大学名誉教授の佐藤光氏である。ヒアリング調査は、10月10日(日)13時から16時30分まで実施した。研究会からは、望月及び井上祐子が出席した。 佐藤氏は『発言者』創刊初期より寄稿しており、また、途中から設けられた編集委員の一人でもあった。当時の編集体制、寄稿者の人間関係など、記事分析では分からない事柄について話しを伺った。 なお、ヒアリング調査に際して、事前にこちらで作成した質問項目を佐藤氏にお送りした。『発言者』に関する質問項目は、(1)記事の執筆(2)編集(3)主幹・常連執筆者(4)まとめからなる。概要は以下の通りである。 (1)は「aいつ頃、どのような経緯で、『発言者』への参加が決定したのか」「b毎回の記事のテーマは執筆者が自由に決められたのか。それともあらかじめ決められていたのか」など6項目。 (2)は「a『発言者』の編集体制はどのようなものだったのか。実務担当者以外に編集委員も設けられていたが、編集委員はどのように選出され、また具体的に何を行っていたのか」などの3項目。 (3)は「a最初に西部氏と出会ったのはいつ頃か。知り合ってから『発言者』創刊までの間に西部氏とはどのようなつながりがあったのか」などの3項目。 (4)は「a自身にとって『発言者』とはいかなる存在だったのか。『発言者』への執筆を通して、自身に変化はあったか。『発言者』の自身に対する影響があるとすれば何か」などの6項目。 ヒアリング調査の結果を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。また、年度内に佐藤氏をゲストスピーカーに招く方針も決定した。 |
開催日時 | 第5回研究会・2021年9月24日 16時50分~19時00分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 記事分析の報告(現代部門) |
発表者 | 渡辺恭彦 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を1名が報告した。対象記事は以下の通りである。筆者は 1 から 3 が高澤秀次である。4 は高澤と宮本光晴の対談である。
2 について、著者は都市大衆の欲望を肯定する点に吉本の衰えを見るが、著者は欲望の野放図な解放を抑制する立場なのかという疑問が出された。 3 について、俗と戯れ、科学技術を信奉し欲望を礼賛する吉本を著者は嫌悪する一方で、吉本の「転向論」や「芸術的抵抗と挫折」、「最後の親鸞」、「マチウ 書試論」を高く評価する。著者は、技術の進歩によって欲望を刺激された大衆を論じる文脈では吉本の「大衆の原像」を批判的に扱うが、近代日本精神史の解剖に寄与する上記の論考では「大衆の原像」も吉本思想において意義があるものと認めていると評価した。 4 について、対談前半部で「大衆」を根拠にすることの不毛さを明言したうえで、宮本がより重要視するのが、自分たちでつくり上げてきたノーマルなパターンのシステムである。これまで本研究班で扱ってきた保守主義理解の一つとして、人間の誤りやすさを自覚し、理性への過信を避けるといったものがあった。誤りやすい人間の一つの現れとして「大衆」を捉えるとすれば、「大衆」を根拠にできないこともうなずける。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第4回研究会・2021年7月30日 16時50分~19時00分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 記事分析の報告(現代部門) |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を1名が報告した。対象記事は以下の通りである。筆者はいずれも佐藤光である。
それに続いて、記事分析の結果が報告された。佐藤は規制緩和自体を否定しないが、規制緩和を実施すれば「日本経済が復活する」という見通しに懐疑的である。第一に「日本的経営」「日本経済システム」(例:終身雇用、年功序列賃金制)に長所を見出しており、第二に規制緩和派が依拠する経済学が時代遅れのものと認識しているからである。後者に関して、主流派経済学に対する批判的な立場は西部邁、佐伯啓思らにも共通しており、『発言者』に掲載される経済論は、概ねこの立場に立つ。こうした批判論から浮かび上がるのは、既存の経済学の視野の狭さを問題視していることである。つまり「経済」を完全に独立した存在として捉えずに、社会や文化などと結び付けて理解しようとする。そのため経済学が前提とする「合理的な個人」、またその個人によって作り出される「市場社会」に疑いの目を向ける。さらに、経済発展や経済協力が社会や文化などの破壊を伴うものであるという認識に基づき、経済に対する過度の期待を抱くことに疑問を呈した。このように既存の経済観念や経済学に対する醒めた認識を全ての記事の中に確認できる。 最後に今回の記事では佐藤の具体的な改革イメージが提示されないため、補足として、佐藤が別の著作で提示している「保守的改革」の一部が紹介された。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第3回研究会・2021年6月25日 16時50分~19時00分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 記事分析の報告(現代部門) |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を1名が報告した。対象記事は以下の通りである。筆者はいずれも宮本光晴である。
それに続いて、記事分析の結果が報告された。最初に対象記事全体に関するコメントとして、以下の7点が挙げられた。
以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第2回研究会・2021年5月28日 16時50分~19時30分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 次期研究テーマについて |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 | 今月は、来年度より開始される第21期研究会の公募に向けて、研究テーマについて議論した。 まず、研究代表者より、現時点の方針として「保守主義」研究を継続することが確認された。この点については参加者の賛同を得た。その上で、現在の研究をどのように発展させるのか、具体的な方法として何が適切なのかなどが議論された。 続いて、研究代表者より、「保守主義」と「地域」を関連付けたテーマが提案された。そして、「共有すべき論点」として、1 本研究会が提示する「保守主義」像の明確化(現在も議論を重ねている)、2 「地域」の中身が挙げられた。前者については、「保守主義」の先行研究や本研究会のこれまでの取り組みを通じて浮かび上がった「保守主義」の要素を4つに整理した上で、それらに該当する人物や集団を対象としたい旨の提案があった。後者については、Ⅰ世界の中の「地域」(=各国や植民地など)、Ⅱ各国の中の「地域」に区分できると説明があった。 以上の提案及び説明に対して、参加者より、「「保守主義」と「地域」の関連性が分かりにくい」、「外国との「比較」を考えているのであれば、「地域」を外して「保守主義」の「比較研究」(通時的・共時的)を設定する方が研究内容は明確になる」などの意見が出された。これに対して、研究代表者より、「地域」を設定した理由について説明があったが、研究会の継続を念頭に置いた長期的な研究計画を立てることは必要であるものの、まずは第20期の「保守主義」研究を発展させることを中心に考える方がよいとの意見が出された。 議論を踏まえて、現在の研究を発展させる方向として、日本の「保守主義」を軸としながら、各国の「保守主義」と比較する視点を盛り込むことが確認された。 |
開催日時 | 第1回研究会・2021年4月23日 16時50分~18時50分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 2021年度研究会運営ほかについて |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 |
今月は、新年度に入り最初の月例会のため、「1.報告」として、まず、第20期研究会が、本年度で3年目の最終年を迎える旨、続いて、研究会の運営方針、主に研究会予算の支出に関する内容に関して前年度からの変更点について報告した。 質疑応答の後に、「2.検討事項」に移った。具体的に以下の2点を検討事項として挙げた。 1. 今年度の今年度のスケジュール 2. 次期研究テーマ *参考として「保守主義」をめぐる個人的見解を提示 1 については、第21期部門研究会公募との兼ね合いで、研究テーマに関する議論の機会を複数回も受けることを提案した。続いて、「現代部門」「近代部門」の成果の発表方法について議論した。「現代部門」に関しては、年度内に公開講演会・シンポジウム開催の方向で検討を始める旨を提案した。 2 については、現在の研究テーマを発展、継続する方向で進めたい旨、また、具体的なテーマ及び内容は、次回の月例会までに提案し、月例会で大枠を決定する方針である旨の提案があった。 以上の提案を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。提案内容については、参加者から概ね賛同が得られた。今後は、欠席者にも意見を伺った上で、研究テーマの具体的な検討作業に入ることになった。 |
2020年度
開催日時 | 第9回研究会・2021年3月26日 16時50分~19時30分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 保守主義は何と対立するのか |
発表者 | 植村和秀 |
研究会内容 | 今月は、ゲストスピーカーとして植村和秀氏(京都産業大学)をお招きして、「保守主義は何と対立するのか」についてご報告いただいた。報告の構成は、以下の通りである。 はじめに 保守主義の定義をめぐって/1,保守主義の一般的な概念規定について/2,日本語の「保守」の意味をどのように理解すべきか/おわりに まず、折口信夫の思想を踏まえた上で、「保守主義」の対抗概念として「急進主義 radicalism」を設定できると述べた。対抗概念として「進歩主義」を挙げる見解に対しては、「保守主義」が批判したのは「進歩」ではなく、進歩信仰(根柢には人間の個人的理性への過大評価=過度の人間中心主義が存在)、歴史の擬似宗教的な誤用ではないかと疑問を呈した。 それから、折口の思想に即しながら、「保守主義」は、個人の理性の暴走への警戒、個人の野望の政治的強制への反発、道徳や宗教に対する攻撃への憂慮を動機としつつ、歴史と宗教、自由主義(個人の自律)、政治不信、平衡感覚との親和性があると指摘した。なお、歴史と宗教については、野田宣雄の議論を参照しつつ、「保守主義」を考える上で重要なテーマであると繰り返し強調した。 続けて、中村雄二郎の「共通感覚」に関する議論を紹介して、それを常識とは違う形で問い直し、記憶術や修辞術、感情、言語、場所、歴史との関わりを考究する点で「保守主義」の好みに合うと指摘した。また、「保守主義」と「反知性主義」の違いについても言及して、「知」を拒絶する後者と異なり、前者は「賢慮 prudentia」=「実践的な知」の働きを重要する点にあると述べた。最後に、「保守主義的な思考」を「自分で考える」と規定すれば、その対抗相手は「教条主義」になるのではないかと述べた。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。参加者からは、「保守主義」と「右翼」、「保守」・「保守思想」との概念上の違い、「深慮」「賢慮」という場合の基準(判断の根拠)は何か、などについて質問が出された。 |
開催日時 | 第8回研究会・2021年2月26日 16時50分~19時20分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 加藤完治における共同性―生き方としての「農民」保守 |
発表者 | 西田彰一 |
研究会内容 | 今月は、西田彰一氏が、「加藤完治における共同性――生き方としての「農民」保守をテーマに報告した。報告の構成は、以下の通りである。 はじめに
まず、報告の目的として、①農本主義者の加藤の思想を保守主義の観点から分析すること、②彼がどのような共同性を求めたのかを重視し、そこから彼が何を「保守」しようとしていたのかを検討することの二点が提示された。 農本主義及び加藤完治に関する先行研究の整理に続いて、加藤の略歴が紹介された。キリスト教の洗礼を受けたこと、登山中の遭難を契機に人生の目標を見つけたこと、筧克彦の講演を聞き彼の理想に共鳴したこと、山形県自治講習所所長として招聘されたこと、欧州歴訪中にデンマークの農業教育に感銘を受けたことなど、彼の思想を理解する上で、重要な出来事について詳しく説明された。 西田氏は、報告のまとめとして、加藤完治が説く共同性において守るべき対象として説かれたのは国家における「農民」の生き方であり、彼にとっての農業とは「生き方」であり、生きざまとしての農民が評価されていたと述べた。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。参加者からは、「共同」概念(「協同」との違い)、筧克彦の思想的影響、キリスト者の農村伝道との関わり、山形の地域性、農民の生き方をめぐる理想と現実のギャップ、都市民(非農民)の農村流入に対する認識などについて質問が出された。 |
開催日時 | 第7回研究会・2021年1月29日 16時50分~19時30分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 分析結果の報告 |
発表者 | 大園誠 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を1名が報告した。対象記事は以下の通りである。 ①吉沢英成「選挙を買物と語る愚劣さ―無脊椎の日本民主主義考」 ②佐藤健志「戦後民主主義が生んだ永野発言―まだ生き残ろうとするのか一国平和主義」 ③中川八洋「『国民主権』は迷信である―全体主義の教理『人民主権』の欺瞞と憲法」 ④佐伯啓思「過去の記憶を共有する社会―戦後民主主義がそれを破壊した」 ⑤佐伯啓思「単純デモクラシーへの回帰―『拒否』の政治が行きつく隘路」 ⑥高澤秀次・大塚英志「戦後民主主義と無党派現象」 大園氏は、②記事について、著者の日中戦争を「明らかな侵略戦争である」という発言や日本人の「加害者性」を認めるべきとの主張に着目しつつ、なぜこの立場の著者が「戦後民主主義」を批判するのかが分かりにくく、論理的な飛躍があると指摘した。④記事で著者が政治や経済における「信頼」の重要性を説く点に関して、ロバート・パットナムのSocial Capital論における「信頼」の重要性の指摘を想起させると述べた。その上で、人々の信頼関係が政治や経済を下支えするという見解に異論はないが、著者が信頼関係を破壊した原因を「戦後民主主義」に求めている点(例:戦後日本の民主主義の発達が「中間団体/自発的結社」を破壊するように機能したという主張)に疑問を呈した。⑤記事は、1995年の統一地方選挙で東京都知事選や大阪府知事選をはじめ、多くの無所属候補が当選した状況を踏まえて書かれたものである。著者はこの現象を「単純デモクラシー」と呼び、「反エリート感情」を中核とする、政策内容に基づかない空虚な「拒否の政治」の潮流と評した。大園氏は、著者が「無党派層」を増大させた政治的背景を全く論じていない点や「拒否の政治」という表面的な理解は妥当性があるものの、なぜ「拒否」するかという政治的分析が抜け落ちている点を指摘した。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第6回研究会・2020年12月18日 16時50分~19時30分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 分析結果の報告 |
発表者 | 渡辺恭彦・益田高成 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を2名が報告した。対象記事は以下の通りである。 ①加藤尚武「自由主義と「他者危害の原則」――「他人に迷惑を掛けなければ何をしてもいい」のか」 ②加藤尚武「倫理としてのリベラリズム――自由を保証する道徳性」 ③加藤尚武「自由主義の「変種」――挑戦をうけるリベラリズム」 ④佐伯啓思「リベラルな政治の土壌――自由保守主義者の肖像」 ⑤山崎拓・柿澤弘治・新井将敬「本当の「リベラル」を組織せよ」 ⑥榊原英資「性懲りもない日本異質論者たちへ[1]――政治制度特殊論を批判する」 *①②③④を渡辺氏、⑤⑥を益田氏が担当 渡辺氏は、①記事について、「英米の議論に乗り遅れた日本」という前提が加藤の中にあるのではないかと指摘した。②記事については、加藤の説く現代のリベラリズムが熱くコミットするものを、家族で身につけられた道徳性を土台にして市民社会における自由を享受するという意味で理解できるのか、また現代のリベラリズムが倫理として自立できないという発言に対して、二次的な倫理としてリベラリズムを捉えているのかと指摘した。④記事で佐伯がグラッドストンを参照しつつ「守るべきもの」がある自由主義を重視する点について、「守るべきもの」は具体的に明示されないが、個人の来歴から獲得された使命感や精神、あるいは宗教的信条のようなものではないかと指摘した。 益田氏は⑤について、3人の共通点として、秩序形成において人間の理性の完全性を重視する社会工学的発想に基づき社会を統制・管理することを否定し、社会を構成する個々人が歴史的・伝統的価値に裏づけられたアイデンティティを共有することで秩序が形成されるという理解を挙げた。司会者の井尻千男が、「真の保守主義」は「復古革命」を含むものと説いた点には疑問を呈した。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第5回研究会・2020年11月27日 16時50分~19時30分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 分析結果の報告 |
発表者 | 望月詩史・矢内真理子 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を2名が報告した。対象記事は以下の通りである。 ①西部邁「マスコミの衰弱死がはじまった――自信喪失に入った第一権力」 ②保阪正康「皇室報道の迷走と錯誤――天皇家を流行現象と同視するテレビ」 ③石原慎太郎・西部邁「自民党は「慎重」派がたてなおす!」 ④中曾根康弘「来世紀にそなえて保守の基盤を構築せよ」 ⑤小渕恵三・西部邁「戦後五十年が犠牲にしてきたものを復興させよ」 *①②を矢内氏、③④⑤を望月氏が担当 矢内氏は、①記事で西部がトックヴィルを複数回引用する点について、批判の対象としてではなく、アメリカ的価値観が日本を覆っている、アメリカ的価値観はこういうものだ、というよりどころとして使われていると指摘した。②記事に関連して、石田あゆうの研究と比較したり、また、話題提供として、小林よしのり『ゴーマニズム宣言』の「カバ焼の日」回や眞子&小室圭の婚約報道が紹介されたりした。 望月氏は、③記事の特徴として、西部の言葉・会話・討論に対するこだわりを挙げた上で、彼が理想と考える具体的なイメージが掴みにくいと指摘した。また、漸進的な変化を要求する点について、漸進的変化への志向が「保守主義」の特徴として指摘されることが多いものの、漸進的か否かの判断基準をどのように定められるのか疑問を呈した。④記事では、中曾根康弘の「言葉の混乱というのは国の乱れ」という発言、「歴史の流れ」に対する理解不足への嘆き、自由主義と歴史の叡智を見つけ出す「謙虚な態度」の調和を重んじる点などが、『発言者』の立場(西部邁の立場)と一致する点を指摘した。⑤記事について、西部が、歴史の中における「良きもの」を探ることの重要性を説くものの、具体的に日本の歴史の中の「何」を「良きもの」と理解しているのかが判然としないことを指摘した。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第4回研究会・2020年10月23日 16時50分~19時00分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 分析結果の報告 |
発表者 | 望月詩史・鈴木敦史・井上祐子 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を3名が報告した。対象記事は以下の通りである。 ①加藤尚武「人の名前は誰のものか―「悪魔」と名付ける権利の考察―」 ②加藤尚武「子供は親の何なのか―「判断能力のある者だけが、自己決定の権限をもつ」という大原則」 ③福田和也「精神の学としての歴史と国家―戦後的通念の反対物」 ④佐伯啓思「成熟した」国家と経済の関係――損益しかみえない経営者の時代」 ⑤佐伯啓思「経済と「価値」――米の自由化をよろこぶ「消費者」が見ないもの」 *①②を鈴木氏、③を井上氏、④⑤を望月氏が担当 鈴木氏は、①記事で加藤が命名を含めた親の養育や子どもの存在を社会における共同性や伝統と関連付けて捉える点に注目しつつ、こうした認識が子どもの一個人としての側面が強調されつつあった当時の世相に対して、その子どもに社会や大人、親がどう関わる必要があるのかを整理し直す必要性を訴えていると指摘した。②記事で加藤が当時の管理教育や子どもの育ちへの社会的要請を必然のものとして捉えるもので、子どもの存在を子どもの権利というワードとともに個別化していくように見える当時の論調への抵抗の意味も含まれていると評価した。 井上氏は、③記事で福田が実証性を重視する「歴史学」を強く否定することに疑問を呈した。そして「異常な精神」の破壊力が歴史的な事件の契機になりうることはあろうが、それによる大きな変化のみを歴史と見ることは問題であると指摘した。 望月氏は、④記事で佐伯が自由な精神(自由主義)、自由な言論など、繰り返し「自由」を強調する点に注目する。そしてこの点に『発言者』の「保守主義」観の特徴を見出せるのではないかと指摘した。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第3回研究会・2020年9月25日 16時50分~19時00分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 分析結果の報告 |
発表者 | 望月詩史・井上祐子 |
研究会内容 | 今月は現代部門が実施する雑誌『発言者』記事の分析結果を2名が報告した。対象記事は以下の通りである。 ①西部邁「言論を封殺する「戦後の完成」―ますます溶けて流れる日本/(雑誌『発言者』の発刊にあたって)」 ②野田宣雄「繰り返される近衛体制の悲劇」 ③中川八洋「細川「八か月内閣」と近衛「新体制」―負の遺産となった「政治改革」」 ④西尾幹二「細川政権は「社会主義崩壊」を知らない」 ⑤加藤紘一・西部邁「自民党の再生は自由と民主を問うことから始めよ」 ⑥会田雄次・勝田吉太郎(聞き手:西部邁)「いまツケを払う戦後日本の政治」 ⑦西部邁「連立枠組の中身は「無」である――新政権「強さ」の内実」 ⑧井尻千男「情報を弄んで国を喪う――バブル経済の失語症は本当に終ったのか」 *①~③を井上祐子氏、④~⑧を望月詩史氏が担当 井上氏は、①記事について「庶民」と「大衆」の使い分けや西部のいう「戦後的なるもの」が戦後日本の一貫した特徴なのか疑問を呈した。②記事はそもそも近衛新体制と細川政権を同列視することに無理があると指摘した。③記事については中川の歴史認識、政治観、民衆観に疑問を呈した。 望月氏は、④記事で西尾が細川首相の発言に戦後日本人の特質を見出す点に論理的な飛躍があると指摘した。⑤記事についてはキーワードである「自由と両立する秩序」の具体像が曖昧と評価した。⑥記事は失われたものをいかに「取り戻す」のかという点に主眼を置いていると指摘した上で、こうした志向や態度にそもそも「保守主義」を見出せるのかと疑問を呈した。⑧記事については井尻が「言葉」にこだわる点に触れつつ、ここに『発言者』の一つの特徴を見出せるのではないかと指摘した。 以上の報告を踏まえ、参加者を交えて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第2回研究会・2020年7月24日 16時50分~19時00分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | リストアップ作業 |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 | 今月も前月に引き続いてオンラインによる開催である。 今月は前月決定した近代部門と現代部門に関わるリストアップ作業を実施した。また今後の研究スケジュールなどについても意見交換した。月例会の開催に当たり、事前に研究代表者より近代日本の保守主義を研究する際に取り上げる人物リスト(たたき台)と雑誌『発言者』の記事リスト(たたき台)及び仮目次が送付された。また参加者からも事前に人物に関して提案がありその内容も研究代表者から紹介された。以上の内容を基に作業を実施した。決定内容は以下の通りである。 近代部門 ・リストを基に関心のある人物、問題意識などをまとめた文書を研究代表者に提出すること。 ・9月中旬に打ち合わせ会(月例会とは別)を開催して、内容の重複がある場合は調整を行い、またアプローチなどについて一定の共通理解を持つ機会とする。決定内容は9月月例会で報告する。 現代部門 ・記事分析への参加者は、月例会欠席者の中で参加を希望する者がいる可能性あることを考慮して7月末まで募集する。 ・参加者が確定した段階で各自の担当記事を決定し作業を行う。担当記事は執筆者ではなくテーマ(例:政治、経済、宗教、教育など)を基準に決定する。また分析はまず創刊号から20号までを対象とする。さらに分析用フォーマットを作成して作業に統一性を持たせる。9月月例会で記事分析の結果(一部)を報告する。 次回もオンライン開催とすることが決定した。 |
開催日時 | 第1回研究会・2020年6月26日 16時40分~18時30分 |
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開催場所 | オンライン開催(Zoom使用) |
テーマ | 今年度の研究会運営及び研究計画について |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 | 新型コロナの影響で、新年度に入り、一度も研究会を開催できていなかった。他の研究会の開催状況を参考にしつつ、今月より再開した。開催形式は、オンラインとした。 今月は、望月詩史氏が、今年度の研究会運営及び研究計画について報告した。 まず、研究会の運営に関しては、前年度の内容を踏襲するが、一部、予算の執行に関して変更点がある旨の説明があった。 続いて、研究計画について説明があった。前年度は「保守主義」関連文献の輪読を中心に研究を進めたことから、そこでの知見を踏まえて、研究を本格化する方針が示された。また、現時点の「保守主義」イメージについても提示された。 近代日本部門の研究計画については、「右翼」との比較や「保守主義」に特有な「感覚」などに着目してはどうかと提案があった。後者に関しては、作家、歴史家、民俗学者らに注目することで、その「感覚」が浮かび上がるのではないかという意見があり、次回の月例会までに具体的な人物をピックアップすることが決定した。 現代日本部門の研究計画については、戦後日本の保守論壇を取り上げる旨の提案があった。既に準備を進めている雑誌があり、まず、それから着手することが決定した。次回の月例会では、記事の分類や分担について検討する予定である。 次回もオンライン開催とすることが決定した。 |
2019年度
開催日時 | 第11回研究会・2020年2月29日 13時00分~17時00分 |
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開催場所 | 同志社大学良心館440教室 |
テーマ | 吉野作造のデモクラシー論・再考 |
発表者 | 平野敬和 |
研究会内容 |
今月の月例会は、平野敬和氏が「吉野作造のデモクラシー論・再考」と題して報告した。なお、本報告は、第19期第8研究会の成果論文集に関する内容である。第19期第8研究会の内容を本研究会で取り上げる理由については、第5回研究会(2019年8月3日開催)の「活動概要報告書」を参照されたい。 まず、「大正デモクラシー」と「戦後民主主義」の思想的断絶として、「戦後民主主義」はその始まりにおいて、「大正デモクラシー」の思想的遺産に正面から向き合ったわけではなく、第一次世界大戦前後のデモクラシー論の再評価は、1950年代後半から始まった点を指摘した。 それから、吉野作造の民本主義論を手掛かりに、1910年代から20年代におけるデモクラシー論の展開を再検討した。その際に、焦点を当てたのが以下の3点である。 (1)民本主義論の成立とその波紋 (2)枢密院論と統帥上奏論 (3)民本主義と社会主義の関係性 そして、吉野の民本主義論に政治概念の自律性を獲得するという関心が表れている点、枢密院や軍部が政府や議会の統制の及ばない組織として政府に対する統制を強化する可能性を危惧した点、第一次世界大戦後にデモクラシー論を見直した際に民本主義が社会主義と矛盾しないことを唱えた点などを指摘した。 最後に、課題として、吉野の民本主義に明治社会主義がどのような影響を与えたのか、戦後の民主主義の関係性がどのように描けるのかなどを挙げた。 以上の報告を踏まえて、活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第10回研究会・2020年1月31日 16時50分~19時20分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 中島岳志の「リベラル保守」論について |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 | 今月は、望月詩史氏が、中島岳志の「リベラル保守」論について報告した。 まず、近現代日本の保守主義の再検討をテーマとする本研究会は、「リベラル保守」論をどのように位置付けるのか、そこで展開される「保守」論に問題点があるとすれば、それを乗り越えるためにどのようなアプローチを採ればよいのか、という視点を提示した。 それから、「リベラル保守」論の検討に入った。中島が「保守」について論じた主要な著作を通じて、彼の「保守」理解の特徴を概ね以下の諸点に整理した。 ①「理性万能主義への懐疑」②「人智を超えたもの」を尊重(「社会的経験知」への依拠)③「保守するための改革」を重視(漸進的改革)④「設計主義」批判⑤「極端なもの」を嫌う習性⑥「平衡」感覚 最後に、論点及びコメントが示された。第一に、「リベラル保守」論の性格をどのように評価したらよいのか。中島の議論は、現実政治に対する問題意識や危機感が強く反映しており、思想史研究というよりも政治論としての性格が強いのではないか。第二に、「保守」を定義する試みが「保守」のイデオロギー化を招いているのではないか。その理由として考えられるのは、彼が西部邁の「保守」論から影響を受けていることである(西部も「保守」を繰り返し定義づけていた)。第三に、「保守」を定義することで「真の保守」や「まっとうな保守」なるものを抽出しようと試みるが、どの程度説得力があるのか。 以上の報告を踏まえて、「リベラル保守」の立場が具体的な政策論(国家像、日米安保など)にどのように結びついているのか、中島が影響を受けた西部の「保守」観及び政策論と比較してどういった共通点や相違点がみられるのか、共同研究を遂行する上で中島の「保守」理解として挙げられた諸点をどの程度参照したらよいのか、などについて活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第9回研究会・2019年12月20日16時50分~19時20分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 1970年前後における津久井龍雄の政治評論について―雑誌『思想経済』所収評論を中心に― |
発表者 | 井上祐子 |
研究会内容 | 今月は、井上祐子氏が、「1970年前後における津久井龍雄の政治評論について―雑誌『思想経済』所収評論を中心に―」と題して報告した。 津久井は一般的に「右翼」と位置付けられているが、本研究会では以前より、「保守主義」と「右翼」の概念上の区分について論点となっていたことから、今回は津久井の論説(『思想経済』所収の評論(12本)と「日本の革新を考える」(『日本及日本人』1966年陽春号))を通じて、その手掛かりを得たいと考えた。 まず、津久井が実質的に主筆を務めていたとされる『思想経済』が、井上氏を介して2019年に人文研に寄贈されたことから、その経緯について説明があった。それから、年譜を参照しつつ、津久井の思想的特徴や言論活動が紹介された。続いて、今回事前に配布された津久井の論説の内容の紹介と検討を踏まえて、彼の主張の特徴を、①国家はイデオロギーに優先②真に保守すべきものを保守するための革新③絶対的なものは存在せず何事も変化するという、という三点に整理した。その上で、国家観・天皇観をはじめ「何を保守し、何をどう変えるのか」に関して、「保守」と「右翼」の間にどのような共通点と相違点があるのかという論点が提示された。 以上の報告を踏まえて活発な議論が行われた。「津久井を「戦後右翼」の典型として位置付けられるのか」「戦後の津久井の思想は一貫していたのか、それとも時期によって何らかの変化が見られたのか」「「保守」と「右翼」を明確に区別することは可能なのか。そもそも、概念上の区別にそこまでこだわる必要があるのか」。 次回は、近年の保守主義論の中で注目を集めている中島岳志の「リベラル保守」論に関する報告を予定している。 |
開催日時 | 第8回研究会・2019年11月22日 16時50分~19時20分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 「保守主義」関連文献の輪読 |
発表者 | 谷雪妮 |
研究会内容 | 前回の月例会における「保守主義」をめぐる議論を踏まえて、「保守主義」関連文献の輪読を再開した。 今月は、谷雪妮氏が、丸山眞男「反動の概念―一つの思想史的接近」(『岩波講座 現代思想 第5巻 反動の思想』(岩波書店、1957年)所収)について報告した。内容を踏まえて、丸山の「保守」や「自由」理解は、フランスやイギリスを典型としている点、「反動」に比べて「保守」は「反省」を通じて「理性化」されたものであるとみなした点、「進歩」を自己完結のものとみなす「進歩主義」を批判しているなどを指摘した。 以上の報告を踏まえて活発な議論が行われた。「なぜこの時期に丸山は「反動」に関心を持ったのか」「1955年から57年にかけての政治状況を丸山がどのように認識していたのか」「「保守」と「反動」は概念上区別できるかもしれないが、現実の運動や現象の場合、かなり困難である」「丸山が「保守」を評価しているような一文があるが、「反動」に比べて相対的に評価しているにすぎない。また、あくまでも一つの理念形としての「保守」を論じているのであり、それは現実政治に対する失望の裏返しと考えたほうがよい」。 次回は、「保守主義」と類似点がみられる「右翼」について、津久井龍雄の論説を手掛かりにしつつ、その共通点や相違点などについて考える予定である。 |
開催日時 | 第7回研究会・2019年10月25日 16時50分~19時15分 |
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開催場所 | 同志社大学徳照館1階会議室 |
テーマ | 論点整理・研究分担・スケジュールなどについて |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 |
5・6・7・9月月例会では、保守主義に関する文献の輪読を行い、その都度、議論を重ねてきた。今後も輪読を継続する予定だが、一旦、これまでの月例会で出されてきた論点を整理する必要があると判断した。そこで、今月の月例会を、論点整理及び研究の方向性を議論する内容とした。 まず、「保守主義」概念について、「保守(主義)」の境界線をどのように引けるのか、具体的には、「復古」「反動」「右翼」との境界線、「自由主義」との境界線、「ナショナリズム」との境界線などについて議論が交わされた。また、それに関連して、どのような現象、傾向、特徴を「保守主義」に見出したらよいのか(「保守主義」の最大公約数を何に見出せるのか)、これらを明らかにするにはどのような方法論が有効なのかについても様々な意見が出された。 それから、現時点で関心のある対象(人物・集団、論壇、時代)について、参加者全員が発表した。 次回以降の月例会でも、引き続き、輪読を実施する予定である。 |
開催日時 | 第6回研究会・2019年9月27日 16時50分~19時20分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 「保守主義」関連文献の輪読 |
発表者 | 夫鍾閔、渡辺恭彦 |
研究会内容 | 前回の月例会に引き続き、「保守主義」関連文献を輪読した。今回も報告者が2名であり、内容の要約と論点などについて報告した。 夫鍾閔氏は、・マイケル・オークショット(石山文彦訳)「保守的であるということ」(『増補版 政治における合理主義』(勁草書房、2013年)収録)について報告した。内容を踏まえて、オークショットの指摘する自由主義的土台を共有する保守主義はリベラルな伝統を有する英国については説得的だとしてもその伝統を持たない国に適用するのは困難である、保守主義は「主義」ではなく「態度」であると論じた福田恆存の保守主義観と類似性がみられると指摘した。 渡辺恭彦氏は、・カール・マンハイム(森博訳)『保守主義的思考』(ちくま学芸文庫、1997年)について報告した。内容を踏まえて、マンハイムは保守主義について、思想の核を持たないと理解していたという印象を受ける、マンハイムはバークを高く評価していないと指摘した。 以上の2報告を踏まえて活発な議論が行われた。各国において保守主義の現れ方に違いがある点に注目したほうがよいのではないか。英米系のイデオロギーとして保守主義が論じられているので、その枠組みをそのまま日本の保守主義の分析枠組みとして適用するのは無理がある。ロマン主義と保守主義の境界線はどのように引けるのか(この点に関連して「反動」と「保守」の境界線はどのように引けるのか)。オークショットとマンハイムはそれぞれ「態度」としての保守主義と「イデオロギー」としての保守主義という保守主義を捉える2つの視点を提示しているが、日本の保守主義を分析する際にこの視点はどの程度有効なのか、それとも区分することは別の課題を生じさせるのか。 次回の月例会では、これまでの輪読で挙げられた論点を整理する。再来月以降の月例会では、引き続き輪読を行うとともに、ゲストスピーカーを招くことも決定した。 |
開催日時 | 第5回研究会・2019年8月3日 13時00分~19時00分 |
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開催場所 | 同志社大学光塩館地下会議室 |
テーマ | 成果論文集に関する報告会 |
発表者 | 田澤晴子・福家崇洋・田中和男・松本浩延 |
研究会内容 |
今月は、第19期第8研究会の成果論文集に関する報告会を開催した。第10研究会の月例会として開催したのは、第一に、研究会参加者の多くが第19期第8研究会にも参加していたからである。第二に、同研究会のテーマである「戦後民主主義」と本研究会のテーマである「近現代日本の保守主義」が決して無関係ではなく、むしろ、今後研究を進めていく上で有益な視点を与えると考えたからである。 報告者は、4名であり、報告テーマは以下のとおりである。なお、報告者は、40分で報告し、残りの時間を質疑応答に充てた。 13時15分~14時25分:田澤晴子氏「満州事変後のデモクラシー論」 14時25分~15時35分:福家崇洋氏「戦後民主主義と大正デモクラシー研究」 15時55分~17時5分:田中和男氏「木下順二の戦中から戦後ー演劇統制から民話劇へ」 17時5分~18時15分:松本浩延氏「浅沼稲次郎の戦後民主主義――『憲政の常道』と『五五年体制』の狭間で」 質疑応答では、特に、成果論文集のコンセプトを踏まえつつ、全体としてまとまりを持たせるにはどうしたらいいのかという観点から活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第4回研究会・2019年7月26日 16時50分~19時15分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 「保守主義」関連文献の輪読 |
発表者 | 出原政雄・齊藤大輔 |
研究会内容 | 前回の月例会に引き続き、「保守主義」関連文献を輪読した。今回も報告者が2名であり、内容の要約と論点などについて報告した。 出原氏は、久野収・鶴見俊輔・藤田省三「日本の保守主義―「心」グループ―」(『戦後日本の思想』(中央公論社、1959年)所収)について報告した。内容を踏まえて、「保守主義」と「リベラリズム(自由主義)」の境界線をどのように引くことができるのか、「心」同人(哲学や倫理学を専門とする人から文学者や画家などが名を連ねていた)を「グループ」として括ることが可能なのか、また、その思想を「戦後保守主義」の代表と見なすことは適切なのかと指摘した。 齊藤氏は、橋川文三「日本保守主義の体験と思想」(橋川編『戦後日本思想体系7 保守の思想』(筑摩書房、1968年)所収)について報告した。内容を踏まえて、研究者が「保守主義」の「本流」を何に定めるのかによって日本の「保守主義」の捉え方や評価が大きく左右される点、「保守主義」の類似概念(反動、伝統主義、復古主義など)をどのように区別できるのかなどについて指摘した。 以上の2報告を踏まえて活発な議論が行われた。「保守主義」が対抗思想や反対思想という性格を持つと理解する場合、「戦後保守主義」は「反マルクス主義」と「反GHQ」の立場を採っていたが、それでは、戦前・戦中は「何」に抵抗・反対していたのか。つまり、「戦後保守主義」は敗戦を契機に誕生したのか、それともそれ以前の時代から存在していたのかを丁寧に見ていく必要があるのではないかとの意見が出た。他には、現在でも日本の「保守主義」を論じる際に橋川の議論は参照されるものの、「保守主義」の源流をバークの思想に見出している点をどのように考えたらよいのか。バークの思想がイギリス政治思想の中でどのように位置付けられるのかを検討したり、近年のバーク研究も参照したりする必要があるのではないかという意見も出た。 次回の月例会でも引き続き、「保守主義」関連の文献を輪読することになったが、文献は西洋の代表的な「保守主義」論を2本選んだ。また、上記で挙げられた論点についても具体的に議論していく方針で一致した。 |
開催日時 | 第3回研究会・2019年6月28日 16時50分~19時15分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 「保守主義」関連文献の輪読 |
発表者 | 田澤晴子・大園誠 |
研究会内容 | 前回の月例会に引き続き、「保守主義」関連文献を輪読した。今回は報告者が2名であり、内容の要約と論点などについて報告した。 田澤氏は、松本三之介「明治前期保守主義思想の一断面」(『思想』1956年12月号)について報告した。内容を踏まえて、保守主義は進歩主義をどのように規定するのかによってその捉え方が異なることから、近代天皇制批判や民主主義の発展などの「補助線」が必要なのではないかと問題提起された。 大園氏は、米原謙「日本における近代保守主義の成立とその特質―陸羯南の立憲政論」(『阪大法学』104号(1977年11月))について報告した。近代日本の「保守主義」は、「進歩主義への反発」という側面だけで単純に捉えられるものではなく、明治初期の対外的要因(外圧)の影響を受けている点や「保守主義」がイデオロギーではなく具体的な政策論に反映されていた点を指摘した。 以上の2報告を踏まえて活発な議論が行われた。前回取り上げた文献における日本の「保守主義」の評価の妥当性をはじめ、近代以前の日本における「保守主義」の存在や「保守主義」と「保守反動」あるいは「ナショナリズム」の境界線はどのように定められるのか(定められないのか=一体化しているのか)、「復古」と「保守」の違いなどについても検討した方がよいという意見が出た。 次回の月例会でも引き続き、「保守主義」関連の文献を輪読することになり、新たに2つの文献を選び、報告者も決定した。また、上記で挙げられた論点についても具体的に議論していく方針で一致した。 |
開催日時 | 第2回研究会・2019年5月31日 16時40分~19時00分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 「保守主義」関連文献の輪読 |
発表者 | 望月詩史・松本浩延・益田高成 |
研究会内容 | 前回の月例会で決定した輪読文献について、3名の報告者が内容の要約と論点やコメントを報告した。 松本氏は、Szpilman, Christopher W. A., 2018, “Conservatism and conservative reaction” (Sven Saaler and Christopher W. A. Szpilman eds., Routledge Handbook of Modern Japanese History, New York: Routledge.) について報告した。論点として、「保守主義者が重視する「伝統や慣習」はどこから来るものなのか」「戦後日本の保守主義者にとっての「同盟者」はどのような勢力が想定されるのか」などが提示された。 望月氏は、宇野重規『保守主義とは何か』(中公新書、2016年)について報告した。論点として、日本の保守主義を論じる際に保守主義の担い手として「伊藤―陸奥―原―「重臣的リベラリズム」―吉田茂」の系譜が挙げられたが、「保守主義の担い手を政治権力側に限定することでかえって日本の保守主義を捉える視点を狭めていないか」、「「バーク的な意味での保守主義」以外に保守主義にアプローチする方法は存在しないのか」などが挙げられた。 益田氏は、宇野重規・大澤真幸「転倒する保守とリベラル―その空虚さをいかに超えるか」(『現代思想』2018年2月号「特集 保守とリベラル―ねじれる対立軸」)について報告した。コメントとして、宇野が保守主義を捉える際に重視する「自由の保守」を強調することによって、「保守主義とリベラルの区別をより困難にするのではないか」、また保守による漸進的な改革がリベラルの理想に追いついてしまったといえるのかなどが挙げられた。 以上の3報告を踏まえて活発な議論が行われた。最後に、研究会参加者の間で「保守主義」のイメージを共有する取り組みを今後も継続することで意見が一致した。したがって、次回の月例会でも引き続き、「保守主義」関連の文献を輪読することになり、新たに2つの文献を選び、報告者も決定した。現時点では、9月に一日研究会の開催を検討しており、この時に研究会としての「保守主義」のイメージを明確にする予定である。 |
開催日時 | 第1回研究会・2019年4月26日 16時40分~19時00分 |
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開催場所 | 同志社大学啓明館2階 共同研究室A |
テーマ | 研究会の運営及び方針について |
発表者 | 望月詩史 |
研究会内容 |
第20期研究会の発足後、初めての月例会の開催となった。第19期研究会から引き続き参加される方、新規に参加される方がおられるため、冒頭に参加者全員に自己紹介をお願いした。その後、次の4点について案内及び相談をした。 ①本研究会・研究会運営について ②研究テーマ・目的・計画ほか ③今後の研究会スケジュール ④輪読文献の決定 ①について、研究会の運営方針として、開催日・開催時間、予算について案内した。特に、予算の内「旅費」の取り扱いに関しては、対象者や上限回数など研究会として独自のルールを定めているため、それらについて周知した。運営に関しては、人文研HPで月例会の内容を発信したり、関連学会のメーリングリストで月例会の開催案内を告知したり、積極的に研究会の活動を外部に発信していく必要があることを確認した。 ②について、『研究所報』に掲載する原稿を配布して、「研究目的」「研究計画・方法」について説明した。そして、3年間の計画・目標として、公開講演会の開催や『社会科学』特集号の刊行などを挙げ、そのために、2019年度(初年度)に実施すべき計画について説明した。 ③について、7月までの開催日時・開催場所を案内した。長期休暇中には、一日研究会を開催する旨を伝えた。参加者と相談の上、9月上旬(土曜日)に開催することが決定した。 ④について、研究会全体で「保守主義」の認識を共有することが必要であることを確認した。そして、近年の「保守主義」論として3つの文献を提示して、それらを次回の月例会までに全員が読み、「「保守主義」がどのように論じられているのか」あるいは「「保守主義」をどのように定義しているのか」を把握することにした。次回の月例会では、それらを踏まえて論点を整理し、また、「保守主義」論としてさらに読んでおくべき文献をリストアップする予定である。 |