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第11研究 ソーシャル・イノベーターによる地域実践のための教育プログラム開発の研究―ソーシャルイノベーション学構築に向けた総合的研究の展開に向けて― 研究代表者:風間 規男(政策学部)

 「ソーシャル・イノベーターによる地域実践のための教育プログラム開発の研究~ソーシャル・イノベーション学構築に向けた総合的研究の展開に向けて」と題する第21期第11研究においては、第20期で実施したソーシャル・イノベーション(以下SI)の総合的研究による学問体系の究明を継承して、SIに求められる人材つまりソーシャル・イノベーター(以下、Sイノベーターと略称)とは何か、どうあるべきかを基本的問いとして措定し、その解を多角的に追究する。そのために、①人類史を俯瞰したSイノベーターの活躍に関する史的展開の考察、②現代における国内外のSIやSイノベーターに係る研究、教育、実践等の調査、および③SI教育の成果とその課題を検証し、高等教育機関におけるSイノベーター教育の実践的プログラム開発の可能性の検討を行う。そこでは、単なる社会起業家の教育ではなく、社会変革を視野に入れた人材の可能性を追求したい。

2024年度

開催日時 第2回研究会・2024年9月25日(水) 13時~15時30分
開催場所 アカデミックプラザ(同志社大学新町キャンパス新創館1階)、一部のみハイブリッド開催。
テーマ 「人と生き物の多様性を考える:ゲランとユネスコの協働事業 Women for Beesを事例に」
発表者 ◆ゲスト講師
 「ゲラン&Bees創業から現在、そして未来へ」
 荒谷 雅  / ゲラン株式会社 リテールマーケティングマネジャー
◆討論者(11部門メンバー)
 田中 淳夫 / NPO法人銀座ミツバチプロジェクト副代表理事
 新川 達郎 / 同志社大学名誉教授、人文研嘱託研究員
◆進行
 服部 篤子 / 同志社大学客員教授、人文研嘱託研究員
 第2部ファシリテーター / 小野寺 美穂(神学部2回生)
研究会内容  グリーン社会とソーシャル・イノベーションをテーマとした第2回目の研究会は、初回の論点である「生物多様性と人との関り」をさらに進め、異なるアプローチで実施したものです。「生物多様性の保全に資する活動が、結果として、人々の生き方の多様性を支え、同時にまた、生き方の多様性を支える活動が、森林の自然生態系を回復させ、結果として、生物多様性の保全に資することになる。これは、様々な領域の境界を越えた相互循環のあり方を示している。」という発言によるものです。
 そこで、生物多様性の保全と女性の活躍を推進する2つの目的を同時に担うプロジェクトであるWomen for Beesに着目しました。本研究会は、第1部にまずWomen for Beesの活動報告を行い、その後パネルディスカッション、そして、第2部としてワークショップ形式で議論を深める構成としました。

<第1部>
 Women for Beesは、企業とユネスコの協業で実現したものであり、企業がサステナビリティの活動として実施していること、パートナーシップの重要性、5年で7か国に広がってきた成果について詳細な発表がありました。具体的には、生物多様性に寄与するミツバチの保護活動を女性養蜂家の育成を通じて長期的に実現するほか、Bee Schoolと称した環境教育活動など国内外で行われている活動を中心に詳述されました。そのスクールに社員の参加を促し理解を促進するために、蜂の生態に関わる社員向けのガイドブックを多種作成するなどプロジェクト推進に必要な工夫についても言及がありました。 
 その後、田中淳夫氏、新川達郎氏を交えて議論を進めました。現在、全国各地に養蜂活動と環境教育活動を実施する「ミツバチプロジェクト」が広がっています。田中さんは、その都市養蜂の先駆者であり、都市生活者への環境意識の醸成と消費行動の変化を促してきた社会イノベーターです。

 まず、田中さんから、企業が設立された経緯の歴史からミツバチ保護へ向かい、更にユネスコと組んで社会課題を解決しようとする行動は多様な人々に刺激を与えたと思う、とそのストーリーと企業行動の波及効果へのコメントがありました。また、都市生活者が圧倒的に多い社会において、「都市から環境をデザインする」ことへの提案がありました。

 例えば、1)銀座のある中央区は一定以上のビルを屋上緑化する条例がありますが、それでは不十分とし、屋上緑化の有効な活用を示す必要があったこと。さらには、2)宝塚で実施しているミツバチプロジェクトと銀座ミツバチプロジェクトは、地域の官と企業を巻き込む地域連携によって環境デザインを示したこと、それによって都市と地方双方の環境に変化を与えうること。また、3)中央区の首都高速道路の老朽化に伴う都市計画において3.2キロにわたる緑のプロムナードが計画されていること、それはNYのハイランドにみるように国際的な潮流であり、中央区の展開は世界にインパクトを与えうること、など田中さんが長年に渡って多様な提言を続けてきた具体的な成果と更なる可能性に言及がありました。
 パネリストの新川先生からは、企業、個人にかかわらず人を幸せにする蜂が生き生きとしていることを知り、蜂の保護を通じてどう社会が支えられているかが理解され、今回のようにゲラン自身が本来のあり方に目覚めることになったのではないかとWomen for Beesの活動を評価しました。他方、京都市には中央区と同様の緑化の条例がないこと、Bee Schoolも開催されていないことから更なるアクションを協働によって推進していく必要性が述べられました。また、京都市内でBee Schoolの実現にむけた提案がされました。

 その後全体で質疑応答があり、ソーシャル・イノベーションを起こし得る手法として、ネットワークのあり方、また、プロモーション活動など戦略が必要であることについて詳述されました。最後に、田中さんは、丸の内でも都市養蜂の見学に企業の参加が多く、ブランド価値には環境と言う視点が欠かせない時代になったことの証左であり「都市から環境をデザインする」ことに意義があると締め括りました。
 新川先生は、グリーン社会に向かって社会を変えようとする動きが、目に見えて進展していることが実感できた。ゲランなどのようにハイブランドが自然との関りの中でよりよい生き方を示すようになり、着実に環境とともに共生していくことになるかもしれない。蜂や化粧品、地域や経済、人と自然のあり方の中に、実践と研究の多くのヒントを得られる研究会であった、とまとめました。

<第2部>
 第2部は学内会場のみでワークショップを開催しました。神学部2回生の小野寺美穂さんのファシリテーションのもと、SDGsの目標年でもある「2030年のありたい社会」を描くことを目的として縦軸に気温上昇の抑制度合、横軸に生物多様性を尊重した共存社会の実現度合として、第4象限と第1象限を描きだしました。第4象限は気温上昇が抑制できず、人間中心社会となります。対して第一象限は、気温上昇を1.5度に抑えることができ、生き物と人が共存している社会を想定しています。各グループは大変活発な議論を展開し、会場の壁面のホワイトボードに書き込みました。共有の時間では、経済学部教授和田義彦氏からもコメントを得て学び多い時間となりました。

 発表内容は、例えば、気候変動が進むと➡自然災害が増加、虫や鳥が減少➡食べ物が減少➡高価格化➡格差や貧困層が増加。エネルギーの大量消費➡争いが生じることに。人間欲求の追究により「個」「我」のことしか考えない社会となる。
 対して、土と共に食料生産する自然回帰➡生き物とのつながりが増加➡命のつながりが広がる➡幸せが広がる➡他者を思う➡多様性を尊重する。自然エネルギーの地産地消と地域文化の多様性が広がる➡多様な仕事で活躍する、といった人と生物の多様性がリンクした社会像を描いたチームがありました。共存社会とは、「我」から「我々」の社会へとシフトすること、子どもたちが行動する社会だと発表をまとめました。
 このような生物多様性と人の多様性の関りに言及する発表がでてくるなど、各自がもつ問題意識を再認識する機会となりました。

 本研究会は、学生を中心として教員、一般から40名程度の参加申し込みがあり、本テーマへの関心の高さがわかりました。


 
開催日時 第1回研究会・2024年5月16日(木) 15時~16時30分
開催場所 オンライン
テーマ 「自然共生サイト/OECM」と生物多様性
発表者 ◆ゲスト講師
「自然共生サイト/OECM」と生物多様性
 ─「陽楽の森」認定申請の経験から─
 家中 茂 (鳥取大学地域学部特任教授)
◆討論者(11部門メンバー)
 新川 達郎 (同志社大学名誉教授、人文研嘱託研究員)
◆進行(11部門メンバー)
 服部 篤子 (同志社大学客員教授、人文研嘱託研究員)
研究会内容  11部門研究ではソーシャル・イノベーション学構築に向けた総合的研究を実施しています。これからの社会をいかにデザインするのか、その担い手は誰かを主な問いとしてグリーン社会とソーシャル・イノベーション研究会を開催しています。今年度初回は、生物多様性をテーマとしました。生物の多様性と、人間社会の多様性を目指すうえで根底には共通の考え方がある、という仮説のもとに進めています。

 生物多様性を推進する施策として「自然共生サイト/OECM」の可能性に着目しました。2021年の英国でのG7サミットを経て各国が30 by 30を目指すところとなります。その目標にむけた施策の1つとして、自然共生サイト/OECMの認定が始まりました。
 OECM:Other Effective area based Conservation Measuresの用語は、2010年のCOP10で用いられ、その後2018年生物多様性条約の第14回締約国会議にて「保護地域以外の地理的に画定された地域で、付随する生態系の機能とサービス、適切な場合、文化的・精神的・社会経済的・その他地域関連の価値とともに、生物多様性の域内保全にとって肯定的な長期の成果を継続的に達成する方法で統治・管理されているもの」と定義されたものです。

 本研究会では、環境社会学を専門とする家中氏より、実際に申請をして認定を受けた「陽楽の森」を事例に新たな仕組みの意義と実際について発表がありました。本活動は、新たな都市林業への挑戦のみならず、「人と自然との生活の分断」「生活の孤立」を問題意識に進められています。

 まず、自然共生サイト/OECMの仕組みに関する説明があり、陽楽の森での展開が話されました。生物多様性を確保するには保護区だけでは十分ではなく民間の力を必要としていること、そのうち、「結果として」生物多様性に寄与しているエリアが自然共生サイトに含まれること、そして、OECMの定義にある「文化的・精神的・社会経済的・その他地域関連の価値」とともに、という箇所の重要性が指摘されました。

 陽楽の森は、都市近郊に位置し約50ヘクタールの広さがあります。そのうちの約10ヘクタールが自然共サイト/OECMに認定されました。かつてのニュータウン開発から取り残された歴史をもつものの、近年、作業道を新たに敷設したことによって大きく変化することになったといいます。例えば、障害者アートを取り入れている障害者就労支援のNPO法人「なないろサーカス団」や、発達障害の子どもたち対象のフリースクールの株式会社「どすこい」など、子ども食堂、薪づくりなどの実施にあたって地域の複数の団体が様々な活動を展開し、生態系サービスのうちの文化サービスを引き出し享受することになりました。クリエーターとともに協働したことが例えば2日で5千人が来場するイベントの開催につながったことなど、地域に生じた変化が詳述されました。
 陽楽の森の自然共生サイトに認定された評価ポイントに、「都市開発後に放置された自然環境が、人々の活動をつうじて、結果として、生物多様性が豊かとなり、保全されるようなエリアが拡大していく」ことがあり、人の営みによって自然環境が保全される点が注目されました。認定制度は生物多様性を後押しするひとつの方法にすぎないものの、市民活動の契機、もしくは、活動の成果を可視化する可能性があることが示唆されました。

 その後、質疑応答や意見交換の時間を設けました。モニタリングや管理計画など実際の申請に関する質問が出されました。
 モニタリングについては、「定点観測ではあるが、生き物のリストが重要であり、その個体の状態など詳細な実態を示す必要はない。実施するにあたって地域にある博物館等との連携は有益である。図書館の関りも考えられる」といった解説が行われました。
 これまでの認定は、保全されてきたエリア、企業が所有する大規模なエリアです。これからの目標値を考えれば民間の小規模なエリアも入るだろうか、という質問には、「ガイドラインには、屋上緑化なども含まれていることから可能性がある。山林の場合は複雑になっていることが多く、大事なことは領域を設定し、所有者と管理者が明確であることが求められる」。そして、「例えば森であれば、どのような森を創りたいのか、そのための管理が行われているのか、その実現可能性が判断される」といったやりとりがあり、制度の詳細について理解が進むものでした。

 さらに、討論者の新川氏から以下の整理が行われました。

(1)OECMを海外のように公的に介入する地域とすることとは意見が分かれるが、日本のように民地でも暮らしの中で実践的にOECMを適用し環境保全を進めるといった個性的なところもある。都市に残された里山が今回の好事例であった。山林地主、林業家、福祉の方々が共に関り、パートナーシップ型で進めている点など、地域の文化サービスによって、整備の担い手が育っていき、里山保全の新しい利用方法が創出されたこと、そして保全に対する視点の転換が行われた点が注目される。

(2)本発表は、人と自然の関係性を作り直す話であった。これまでこの関係は対立構造でとらえられることもあったが、あるいは、単なるマルチピーシーズによる生態系保全の視点だけにとどまらない、人と自然が生きていくより良い方向性を探り、また、新しく人が活動に関わるといった、新しい関係づくりが示された。

(3)他方で、地域の活動としてどう広がっているのか関心のあるところである。陽楽の森の周辺の人々はどうとらえているのか。資金的には循環しているのだろうか。

   といったコメントがありました。
 これに対して、近隣の地主からの反響について、例えば、他の土地所有者からの相談があり好意的にとらえられているという回答がありました。しかし、「都市の問題は、多様な課題が見えにくいことである。中山間地域に比して地域に対する思い入れがない場合があり、人々がどう社会問題にコミットするのかは依然課題である」と問題提起がありました。

 最後に、発表の結論として以下の主張と提案がなされ、参加者の共感を得るところとなりました。

 生物多様性の保全に資する活動が、結果として、人々の生き方の多様性を支え、同時にまた、生き方の多様性を支える活動が、森林の自然生態系を回復させ、結果として、生物多様性の保全に資することになる。これは、様々な領域の境界を越えた相互循環のあり方を示している。 今後期待される波及効果として、都市の中の森がこのようして「共創のプラットフォーム」として甦ることが、各地で広まっていくことである。重要なことは、生物の多様性と、それに支えられて生きる人々の豊かさを切り離して考えないことである。

 この森林の新たな保全活動と生き方の多様性を受容する活動の地域循環はソーシャル・イノベーションの観点から大いに学びがあり、活発な議論を得た有益な研究会となりました。


 

2023年度

開催日時 第4回研究会・2023年8月21日(月) 13時~16時
開催場所 京エコロジーセンター・シアタールーム
テーマ 人と生き物(自然)との関りをリ・スキリング/共生科学を考える
発表者 ◆ゲストスピーカー
「里山保全活動にみる生物多様性と教育」
岸 基史 (同志社経済学部准教授)
◆第11研究メンバー
新川 達郎 (同志社大学名誉教授,京エコロジーセンター館長)
浅井 俊子 (一般社団法人Impact Hub Kyoto代表理事)
新堀 春輔 (地球・環境共育事務所 Earth-PAL 代表)
浜崎 英子 (フラワー・サイコロジー研究所 所長)
服部 篤子 (同志社大学客員教授、同志社ミツバチラボ主宰)
研究会内容  第11部門研究では、持続可能な地域社会にむけて、各自が主体的に考え行動するための教育プログラム開発など実践的研究を行っています。今回は、人と生き物(自然)との関わりをもつ専門家かつ実践者が日頃の活動を発表し、これからの地域・地球に求められる事を語り合いました。そして、その実現に向けた方法論や考え方、施策について座談会形式で研究会を開催しました。
 COP3(地球温暖化防止京都会議)を記念して,2002年に開設した京エコロジーセンターの指定管理者である公益財団法人京都市環境保全活動推進協会の共催で実施したものです。登壇者は、里山を教育現場としているゲスト講師(経済学部)の岸氏をはじめ、実践と研究の両輪をもつ活動をしている11部門研究員です。前半は、登壇者が自らの活動について発表しました。

 まず、岸氏は,「里山保全活動にみる生物多様性と教育」と題して,経済活動の本質とは何かについて、そしてそれを考え学ぶことのできる教育として設置した「里山保全の実践経済学」を通して得た学生たちの変化について発表が行われました。多くの生物と人との暮らしが折り合いをつけていた時期から燃料革命を経て化石燃料に依存する経済システムは,地球環境への負荷,そして,人間の社会においては所得格差の拡大への起因となったことを詳述しました。人間の手によって里山は保全され,放置すると瞬く間に生物が生息することのできない荒れ地となるため,低林管理をし,現代社会において日常的に火を使う暮らしを推奨しました。人の暮らしを変えることによって自然環境への大きな影響が見込めます。今、人々はどのような行動をとることができるのか,問題提起が行われました。
 本発表の中で,知識だけではなく,「知恵を働かせる能力と物事を最後までやり抜くことができる力」が求められていること,その教育現場を提供することが大学として欠かせないという主張に共感が集まりました。

 インパクトハブ京都の創設者である浅井氏は起業家支援に加え人々のつながりをうみだすコミュニティの創発に長年の経験があります。近年、長い伝統と里山の風土を持つ花背地区に花脊フィールドラボを設立しました。「発酵する森の経済:森と発酵・コミュニティはひととひとの発酵の場」と題し、持続性の課題に直面する花脊での取り組みを発表しました。花脊が有する伝統風土と自然環境を継承しながら新たな学びを地域住民と、移住者、また、世代間で得られる環境の醸成を目指していること、そのために古民家を活用し学びあいを促進する拠点を作ったこと、そこでの共創の可能性が見えてきたことが示されました。地域の未来像をデザインするために、花脊を町方に対する「じかた里山」と称して地域資源をつなぎ、コンビビアリティ(自立共生)を高めていくことの重要性が明らかになっていると言います。

 続いて、新堀氏は、高校時代に南アフリカ共和国に留学し、アパルトヘイトの名残やHIVの問題、スラムなど、社会の構造により生み出される格差や社会的弱者の状況を目の当たりにしたこと、大学在学中に、Earth-PALを設立、直接的な支援だけではない、社会の仕組みを変える取り組みを目指したことなど現在の環境教育を担うまでのキャリア形成が話されました。大学卒業後、青年海外協力隊員として西アフリカ・セネガル共和国にて、幼児教育・環境教育・教員養成などの活動を行い、帰国後、持続可能で公正な、みんなが「しあわせ」になれる社会を考え、実現するための「人づくり」「場づくり」「仕組みづくり」を目指しています。座談会では人と人、人と社会、人と自然、そして、人と地球の関わり方・つながり方を問い直し、紡ぎ直すための「学びの場」をいかに形成していくのか、問題提起が行われました。

 いけばな療法の有効性とその応用展開方法に関する学際的な研究を行う浜崎氏は、研究と実践を通じて、社会とつながりにくい状況にある多様な人々に対する理解を深めること、そのための社会参加のできる手法として「いけばな街道」を企画・制作しています。例えば、認知症などの高齢者のいけばな作品を地域の街並みや文化施設に展示します。一輪の花の命と個性が、あらゆる人々の豊かな人生につながることを伝えている活動を紹介しました。また、座談会終了後は会場にいた皆さんで実演し、その作品は海外での展示会に出展されることになりました。作品が展示されることで、社会参加を可能にすることを体感できる機会となりました。

 このほか、服部からは同志社ミツバチラボを通じて得た学びと理念、新川氏はエコセンターの役割を考慮して、生物多様性と自然共生を担う人材の育つ場、発信する場、支援・連携する場を改めて醸成していくことへの提案がありました。さらに、新川氏から座談会のまとめとして以下の整理が行われました。

(1)人々が生物・自然との関わりを感じ取れるかどうか、その感性の問題が大きい。敏感に感じ取る生き方を大切にすることが出発点になるかもしれない。里山、花、虫などが契機となる。そこから自然との共生、人と人との共生が感じられるかもしれない。
(2)その感性がいかに育まれるかが焦点であるが、子どもたちが自由に遊びまわることによって可能性がある。学びの中に遊びの要素を入れていく必要があるのではないか。国際子どもの権利条約の中に、遊びの権利が入っていることも改めて胸に刻みたい。自然環境を学びとってもらえる遊びや喜びへとつながる場をいかに提供することができるかは教育現場だけではなく根本的な生き方暮らし方につながる課題である。
(3)子ども達だけではなく、社会全体が自然や地球環境の生態系にもっと理解を深め、それと共に生きていくという態度や行動をどう作り出していくのか、とうことが今回の座談会で議論された。世界各国の共通施策は難しいが、何かを変えていくことを小さなことからでも積み重ねていくことが我々一人一人に求められる。小さな社会参加が人々の行動を変えていくこと、その場面が広がっていくこと、制度への提言とその実証をしていくこと、これらが新しい活動を生み出すことにつながる。今回のテーマであるリ・スキリングとは、これまでの関わり方を見直し、新しい動き方を作りだすことである。
 アドボカシー活動を含めて、未来にむけて現代からの投資を行うこと、それによって、多くの人々にとっての人と自然との関わりの出発点となり、より良い生き方にアクセスしうる可能性を見出した。

 本研究会は京エコロジーセンターで開催したことにより、環境保全に関心の高い方、ボランティア活動をしている方など一般の方々の参加があり、質疑応答の時間をもつことができました。
開催日時 第3回研究会・2023年7月26日 13時30分~15時15分
開催場所 同志社大学扶桑館F104教室(オンライン配信あり)
テーマ グリーン社会とソーシャル・イノベーション―若手研究の取組み
発表者 オリビア・ドイル(Olivia Doyle)(Amherst Doshisha Fellow) 

学内のショートプレゼンテーション
杉岡明日香(同志社大学総合政策科学研究科SIコース前期課程2年生)
他谷尚(同志社大学神学部4回生)

討論者
新川達郎(同志社大学名誉教授)
和田喜彦(同志社大学経済学部教授)
研究会内容  グリーン社会とソーシャル・イノベーションをテーマとした本研究は、持続可能な社会を「グリーン社会」とし、それはいかなる社会であるのか、そのための思考、理論、実践などを分析し探索するものである。これまでグリーン社会を考えるうえで、人と自然との共生、人の営みが及ぼす地球環境の影響などを話し合ってきた。他方、深く自然との関わりを持った生活を営んできた先住民から学ぶことがあるのではないだろうか、と思われ本研究会を開催した。1993年の「世界の先住民族の国際年(International Year of the World's Indigenous People)」から30年、日本においては「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(2019年公布)」が昨年2022年に施行されている。今回、先住民に関する研究に取り組むアーモスト・フェローおよび在校生の計3名の若手研究者が報告し、対話を行う形式で研究会を進めた。
 まず、アーモスト・フェローのオリビアさんから、アイヌと北米ムスクアムの先住民族の博物館に焦点をあてた報告があった。北米での先住民とともに博物館運営を行っている事例から、展示を意図しないもの、家族のコレクションから展示、普段使用しているが博物館に提供しないものなどがあることが示された。コラボレーションとはいえ、先住民にとって有益な資源管理となっているのか、また、研究に際しては、逆に周縁へと追いやることにつながっていないか留意が必要であると問題提起した。そして、日本におけるアイヌ政策によって国立アイヌ民族博物館が創設されたものの、既にある先住民が運営する博物館に直接資金を振り分けることができたのではないかと疑問を呈した。博物館に閉ざされたものとするのではなく、いかに開かれたものとするのか、そのことによって権利回復を行うことができるのか、多様な意思をもつ先住民の発意を紡ぎだしていくことができるのかという課題が依然ある、というコメントが付された。改めて注視すること、常に政策の見直しを図ることの重要性を認識しうる発表が行われた。
 続いて中米の中でも最貧国のニカラグアの村での発掘作業およびコミュニティ・ミュージアム設立にむけた長期の研究活動について報告が行われた。発掘物は調査中であるが先住民が祭祀に使用していたものが出土している。コミュニティ・ミュージアムとは、住民の主体的な運営による博物館としていることから、発表者は、そのことにより、住民に学びへのモチベーションが生じ、貧困から脱することができるのではないかという仮説があった。しかし、権威主義体制をとるニカラグアにおいて、文化政策によってコミュニティ・ミュージアムが推奨され、国のアイデンティティの形成に利用される危惧があることを指摘した。そこで、政治以外のアドボカシーが行える可能性を探索している。新しい文化や生活様式、新しいアイデンティティを形成する地域コミュニティの可能性をいかに見出しうるか、というコメントが付された。
 3つめは、農業政策を中心として、ブラジルのセラード開発(日伯セラード農業開発協力事業)に焦点をあてた報告であった。1970年代、ブラジルと日本の国際協力において奇跡のセラードと称されたが、実際は土壌環境を見誤った結果周辺地域に大きな影響を与えた、それはかつての植民地主義の思考と類似しているという問題提起が行われた。その対策として、アグロエコロジー運動があると主張した。ミゲル・アルティエリが環境に負担をかけない世界各地の伝統的農業の共通点をまとめ、体系化したものから生じた運動であり、先住民族が行ってきた種の交換などによる生態系の保全が見直されている。日本の農業政策のみならずグリーン社会を考えるうえで重要視すべき点が示された。
 今回の研究会では、グローバル化する市場の中で周辺に置かれた社会や経済が21世紀においても続いていることが明らかとなった。其々の問題提起に対して、例えば、新たなアイデンティティの形成の仕方、農業のあり方、存立基盤を失いつつあるアイヌ民族の問題に対して、いかに実践を行い、それを広げていくのか、ソーシャル・イノベーションが求められていること、そして、中心と周辺という中心周辺論や遺産の収奪など見逃せない論点が示された。フロアからは、報告にあったポストコロニアル、脱植民地化という言葉を用いた意味や背景についての質問など、活発な意見交換が行われた。
 本研究会には第11部門研究員を除くおおよそ30名の参加があった。学内では、経済、政策、神、文、ILA、日本語・日本文化センターなど異なる分野からまた、カナダの大学生など学内外の学生や研究者の参加があった。

進行
服部篤子(第11部門嘱託研究員・客員教授)
開催日時 第2回研究会・2023年6月22日 18時30分~20時
開催場所 オンライン(同志社大学志高館SK101)
テーマ グリーン社会とソーシャル・イノベーション研究―多世代共創による魚庭(なにわ)の海再生の試み
発表者 大塚耕司氏(大阪公立大学 現代システム科学研究院教授・副学長)
研究会内容  本グリーン社会とソーシャル・イノベーション研究は,地域の持続可能性を探索し、あるべき社会<グリーン社会>をデザインすることを企図して、超学際研究を実施している。今回は、海洋資源工学や海洋環境学を専門とする講師が包括的に実施した研究開発について講演し、その後参加者による質疑応答、意見交換を行った。
 大阪湾は、古来、ナ(魚)ニハ(庭)の海と称されるほど豊かな漁場であったという説があり、その再生に、生産、漁獲、流通、消費の面からそれぞれアプローチする総合的な研究開発が行われた。加えて、一連の評価を行うチームが設けられていた。国内では、漁業従事者の減少傾向、魚食離れなどが課題として生じている。他方、主な食品に必要な水や餌の必要量が示され、本研究開発の背景には、世界的な水と食料事情があることが解説された。
 これまで阪南市をモデル地区に取り組んできた実証実験として、栄養骨材やタコツボを用いた漁礁での実験がある。伝統的なタコツボ漁法は今や行われないため使用されないタコツボを用いて、子ども達が作成した「タコツボマンション」を海に設置した。定期的なモニタリングによって魚の住処になることがわかり、結果を子ども達にも届けた。さらには、ストーリー型イベントとして、海苔の生産を子ども達と共に行い、その海苔をおにぎりにまいて食するイベントも実施した。このことにより、陸と海のつながりを五感によって体感する機会を作るなど多世代向け環境教育プログラムが詳述された。
 当時実施した高校生のレシピ開発は、現在、道の駅で販売するようになったこと、また、本研究開発の成果を生かして流通チームのリーダーを代表に株式会社漁師鮮度を設立したことが説明され、実装につながる成果をあげた。したがって、現在も小学校と地域住民による協働型地域資源の掘り起こしのワークショップは継続され「魚食文化」の復活に長期的な取り組みが行われていることがわかる。最後に全国アマモサミットin 阪南2018やG20における大阪産魚介類の情報発信に子ども達の活躍があったことが述べられた。
 質疑応答では、2022年、阪南市がSDGs未来都市に選定されたこととの関わり、大阪万博との関わりなどについて質問があった。いずれも研究開発が少なからず影響していること、他の自治体から阪南市への注目が高まっていることなどからソーシャル・イノベーションの普及の観点からも興味深い展開となっていることがわかった。
 琵琶湖周辺の在住者からの質問が続き、琵琶湖と大阪湾のつながりから食の課題への協働の可能性を指摘した。漁協との信頼関係構築についての質問があるなど実践上の関心も高い研究会となった。また、人工島建設により海の栄養レベルに影響を及ぼしたこと、日常的に輸入しているタコの国際紛争との関わりついて意見が出され、政治的人道的な側面から影響を受ける食問題について意見が交わされた。
 本研究会では、海、食に関わる問題への研究と実践双方についてその方法論が示されるとともに、継続的な取り組みの重要性を確認する機会となった。
 進行:第11研究嘱託研究員・客員教授 服部篤子

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講師及び参考サイトURL
大塚耕司氏 大阪公立大学現代システム科学研究院教授・副学長。博士(工学) - 外部サイト
本研究開発関連サイトURL
魚庭の海再生プロジェクト 海洋環境学研究室(大塚研・黒田研) - 外部サイト
漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生 - 持続可能な多世代共創社会のデザイン - 外部サイト
開催日時 第1回研究会・2023年4月26日 18時30分~20時
開催場所 同志社大学人文科学研究所共同研究室A/オンライン配信
テーマ 海外における消費者教育―エシカル消費に焦点をあてて―
発表者 大本久美子 (大阪教育大学)
研究会内容  第11研究会で進めるテーマの1つ「消費者教育におけるソーシャル・イノベーション」研究では、毎月様々な分野の研究者、実践者から消費者市民教育に関する話題を提供している。今年度の第1回目は、大阪教育大学の大本久美子教授より、エシカル消費に焦点をあて、オーストラリア・シンガポール・ドイツの消費者教育について報告頂いた。
 オーストラリアでは、7つの汎用的能力「リテラシー、ニューメラシー、ICT技能、批判的・創造的思考力、個人的・社会的能力、倫理的理解(倫理的行動)、異文化理解」の一つに倫理的理解が挙げられている。参観した小学校の授業では蜜蝋と布を使ったビーズワックスペーパー作りを通して持続可能性と消費者の責任を学んでいた。「普段何にラップを使っているか」クラスの友人に聞き取り調査を行い、それぞれが結果をグラフに書き込む。同時に綿100%の布に蜜蝋と松脂をしみこませたラップ替わりの「ビーズワックスペーパー」を作成し、家に持ち帰って、ラップの使用頻度を減らすことができたか2週間後に振り返る、というものであった。小学校低学年でも何をするべきか、どのように暮らしていくべきかを日常生活と関連付けた学びが報告された。また、シンガポールでは、ナショナルカリキュラムの中核に道徳的価値が位置付けられ低年齢から消費者市民マインドの育成が図られていることが報告された。
 ドイツの学校教育では、自己や他者の意欲を高められる力、教科横断的知識を得て他者と共に行動する力、他者を配慮する力などが重視されている。ユネスコスクールのHAINBERG-GYMNASIUM(9・10年生)では、持続可能性をテーマに、生徒がフェアトレードのマカデミアナッツを扱う会社経営をしている。生徒は、消費者として購入するだけではなく、事業者の体験をすることで企業市民を育成するという消費者教育が紹介された。
 学校教員の他にもPTA、地域の人々や企業など多様な主体が分野横断で消費者教育に関わり、協働・連携して推進する方向性が示唆された。

2022年度

開催日時 第3回研究会・2022年11月4日 17時~19時
開催場所 同志社大学志高館 SK110
テーマ 第3回グリーン社会とSI研究会&ワークショップ:企業が向き合う持続可能な地域/社会のあり方〜いかに地域と企業は共創しうるのか〜
発表者 木村篤信氏 (株式会社地域創生Coデザイン研究所 ポリフォニックパートナー)
研究会内容  本研究会は、地域の持続可能性を検討するにあたって、それに寄与する企業の新たな姿勢を探ることを意図して実施した。前半は講演、後半にはワークショップ形式を通じて意見交換を行った。本研究会は、イノベーションの教育開発を目指していることから、その課題や論点を抽出することをあわせて企図した。
 これまで取り組んできた企業の取組は成果を重んじるため、変革の担い手となる人材や場の醸成につながらない課題を抱えていた、とゲスト講師より問題提起が行われた。また、従来の協働や産学連携等では役割を維持したままであったことが共創に結びつかない一因であったと指摘した。
 さらに、効率性を重視して構成されるシステムが生活者の暮らしを阻害してきたことを踏まえ、「生活者の暮らしの質感を取りこぼさないでシステムを良くすることは可能だろうか」という問いかけがあった。システムを設計する視点と暮らしに寄り添う視点の両者をどうつなぎあわせることができるのか、暮らしの目の前の問題だけでなくそれを生み出すもととなっている構造的な課題にアプローチできるかが社会課題解決に取り組む大きな論点であるとされた。
 そのうえで、現在取り組んでいる、福岡県大牟田市における大牟田未来共創センターの事例が紹介された。大牟田市は「認知症の人とともに暮らすまちづくり宣言」をし、官民連携で認知症の人たちも安心して外出できるまちづくりに取り組んできたまちである。事例の中では、これまで認知症ケアにおいて大切にされてきた視点を、企業のサービス開発や自治体の政策形成に活かしていく取り組みが話された。
 参加者を交えた話し合いでは、地域住民の主体性をいかに引き出せるか、役割の解除をいかにしうるか、リーダーシップは誰が発揮するのか、住民と企業で共に未来を描けるのか、正しいことを求めない関係を創ることができるのか、共創活動の前後でそれぞれの人が「のんびり」する時間をもつことができるのか、といった点などで活発な意見交換が行われた。また、それぞれの論点に対する参加者が実践している手法も共有され、主体的に動き出せるイノベーション人材の土壌づくりについて議論が交わされた。
 社会イノベーション教育の具体については、今後の課題として継続的に議論していく重要性を確認する機会となった。

木村篤信氏プロフィール - 外部サイト
開催日時 第2回研究会・2022年7月1日 17時~19時
開催場所 同志社大学良心館 RY306
テーマ 第2回グリーン社会とSI研究会:京丹後での海洋プラスチックの取組と波及効果を中心に
発表者 八隅孝治氏 (丹後エクスペリエンス代表)
研究会内容  第11部門が進める共同研究テーマの1つである、グリーン社会とソーシャル・イノベーション研究は、グリーン社会の在り方を考え、ボトムアップの社会変革につながる制度、教育を考えることを意図して事例研究を行います。今回は海洋プラスチック問題をとりあげました。既に大きな社会問題となっているとおり、その解決は複雑で「厄介な問題」の1つです。

 ゲスト講師の八隅孝治さんは、2019年に京丹後の地域おこし協力隊に着任後、自らの問題意識を行動に移し、京丹後水晶浜でビーチクリーンや地域の青少年向けのワークショップを数多く主催してきました。ビーチクリーンは、地域外からも含め毎回100名以上が参加するなど個人が主体的に動き出すきっかっけを提供していること、また、子どもたちにはワークショップ後に行動変容が起きていることについて報告がありました。

 そして、これらの活動が地域で進展している根底に地域の文化があるのではないかという分析でした。京丹後の方言に「もやこ」という分け合うことを意味する言葉があり、一緒に何かをする際に使用します。現在のシェア・共有が地域には持続している点に着目し「自然、生き物、人にやさしくためになること」を目指してきました。地域活動において行動の拠り所は地域の文化や価値観にあることがソーシャル・イノベーションの観点からも確認できました。

 続いて、ゴミを収集した後が更なる課題であり、プレシャスプラスチックへの取組について実演がありました。石油由来の素材を持続的に使用することを目指し、その機材作成方法をオープンにすることで各国に普及させるオランダ発のソーシャル・イノベーションの手法であることが説明されました。
 参加者からは、自らの拠点で検討したいという意見のほか、現在は小型ボイラが開発されたことからプラスチックを焼却し熱回収して地域循環させることで市場性を得ることもできる、という意見がでました。新たな手法は新たな課題が生まれどう取捨選択することが何を次世代につなげることになるのか、活発な議論が行われました。

 プレシャスプラスチックの実演でタイルを作成し、成果物ができるまでの過程を知ることができました。成分に関すること、価格帯、使用する人々のライフスタイルなど、多様な要因を考慮してリサイクルを進める必要性を実感します。グリーン社会を市民主体でデザインし実装するためにいかなる教育プログラムが求められるのか、示唆を得る研究会となりました。
 なお、本研究会は、一般社団法人インパクトハブ京都の協力のもと実施しました。

 次回は、7月29日(金)、「歴史を活かした防災まちづくり手法天水バケツプロジェクトにみるグリーン社会の多世代共創」と題して、大窪健之氏(立命館大学理工学部環境都市工学科教授/明日の京都文化遺産プラットフォーム「天水バケツプロジェクト」メンバー)をゲスト講師に迎えます。
開催日時 第1回研究会・2022年5月19日 17時半~19時
開催場所 同志社大学良心館 RY306
テーマ グリーン社会とソーシャル・イノベーションにおける課題と目標設定
発表者 服部篤子ほか
研究会内容  第11部門が進める共同研究テーマの1つである、グリーン社会とソーシャル・イノベーション研究会を実施した。第20期の後半に開始したことから、これまでの経緯、及び「ローカルからソーシャル・イノベーションを起こせるのか」という問題意識をもって進めてきたことを報告し明らかになった点を共有した。
 これまで政策関係者からエネルギー政策の概要、ESG経営など企業の取組、馬と地熱を用いた循環型経済に挑戦する社会起業家など講師を招へいして研究会を実施してきた。そこで、グリーン社会の研究とは一人一人が2030年、2050年にむけてどうありたいか、どういう社会を創っていくのかを描き実装するための研究会である、ということを再認識した。そして、研究会の中でも、グリーンインフラを市民主体で実装する雨水分散型管理を推進する「あまみず社会」事例が、本研究会で焦点をあてるアプローチであることを共有した。また、第20期において沖永良部で実施したように、フィールド・リサーチは、より実態を把握し、研究を深めるうえで有益であることを確認した。

 今後取り上げる事例研究として、市民主体である点、あるいは、協働型である点を重視する。グリーン社会を市民主体でデザインし実装、さらには普及を目指す事例、あるいは、自治体、企業、市民社会のセクターが新結合する、もしくはリソースの新結合から新たな価値観や手法を提示してグリーン社会を目指す事例などに焦点をあてる。特に、市民主体の取組を普及するためにはソーシャル・イノベーションが必要であり、その具体的要素を抽出し汎用性を探るとともに、多岐にわたる政策、企業の取組と市民社会とのギャップが起きていないかを調査研究する。

 次回から数回ゲスト講師を招へいして事例研究をする。京丹後での海洋プラスチックの取組、花背等での森林の取り組みのほか、伝統と文化を生かした防災と雨水の活用事例について候補があげられた。実際にワークショップやフィールド・リサーチを平行して、ソーシャル・イノベーションの視点から調査研究することなどを話し合った。
 本研究会を通じて、ソーシャル・イノベーション教育に有益な手法を導き教育プログラム開発を行う。なお、本研究は多様な組織の協力、連携のもとに進めていくこととする。

 次回ゲスト講師:八隅孝治(やすみ こうじ)さん。丹後エクスペリエンス代表。2019年に京丹後の地域おこし協力隊に着任。丹後エクスペリエンス - 外部サイト