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第13研究 移民・多文化共生・歴史認識の現在―植民地研究との融合に向けて 研究代表者:水谷 智(グローバル地域文化学部)
本研究会では、現代世界における、差別・格差・暴力にかかわる諸問題の起源が、多くの場合、植民地主義の歴史に求められることに着目する。とくに移民・多文化共生・歴史認識の3つのテーマについて、社会学や政治学における研究と植民地にかんする歴史学的研究を融合させるかたちで探求していく。絶え間なく変化する現代社会と、植民地主義の時代の過去はどのようにつながっているのか。本研究会では、難民の問題化、「人種」ではなく宗教を理由にした差別、遺骨や文化財の旧植民地への返還要求、といったここ数年で表面化し、未だ研究が進んでいない諸テーマにかんしても、現代と過去の対話を試みていく。
2024年度
開催日時 | 第3回研究会・2024年10月28日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパスSK203及びオンライン(ハイブリッド) |
テーマ | In Unexpected Ways: Interfaith Solidarity in the Face of Empire |
発表者 | Jude Lal Fernando (University of Dublin, Ireland) |
研究会内容 | 今回は、ダブリン大学のJude Lal Fernando先生を招き、In Unexpected Ways: Interfaith Solidarity in the Face of Empireというタイトルで特別講義をしていただいた。発表後には参加者を含めたディスカッションを行った。全てのプログラムは、英語で行われ、ハイブリッド形式にて実施した。本研究会は同志社大学間帝国史研究センター(Center for Transimperial History: CTH)が主催したイベントで、本部門研究会および同志社大学都市共生研究センター(MICCS)が共催し、開催に至った。 発表者は、宗教/信仰の壁を超えた抑圧に対する抵抗への連帯についてレクチャーを行った。米国の国際政治学者サミュエル・ハンチントンが掲げた「文明の衝突論」の限界を示しながら、19世紀から今日における様々な抑圧への抵抗を分類し、多様な実践のなかに、宗教/信仰や国家の違いを越えた連帯が存在していたことを確認し、論を展開した。なかでも、ガンジーとトルストイの抵抗に対する相互作用や今日のイスラエルによるガザ住民やレバノンへの無差別攻撃への抗議実践など、帝国や国家による暴力に対する抵抗への連帯や共鳴を例に挙げ、ヒューマニティーの重要性を論じた。一方で、それを語る主体が誰かによって意味が変わる単語でもあるとして、とりわけ国家が関与する場合は注意を要するとも強調した。 発表後の質疑応答では、ヒューマニティーの主張は国家や立場によって違いがあるがどのように連帯が可能なのか、草の根の連帯と国家による連帯表明はどう考えるのか、信仰が連帯の基軸になりうるのか、など非抑圧者の「連帯」を中心に多くの質問やコメントが出された。ゲストスピーカーと参加者によって、さまざまな論点から活発な議論が展開された。 |
開催日時 | 第2回研究会・2024年7月9日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパスSK201 及びオンライン(ハイブリッド) |
テーマ | Research Showcase |
発表者 | Shobana Shankar (Stony Brook, State University of New York) |
研究会内容 | 本研究会では、ニューヨーク州立大学のShobana Shankar先生を招き、著書An Uneasy Embrace: Africa, India and the Spectre of Race(Hurst/Oxford, 2021)をもとに最近の研究について発表していただき、参加者を含めて議論を行った。今回の研究会は、全て英語で行われ、グローバル地中海地域研究同志社拠点「レイシズムと植民地主義」研究班(同志社大学都市共生研究センターMICCS)との共催でハイブリッド形式にて実施した。オンラインを含めて20名ほどの研究者が国内外から参加した。途中、画面共有におけるテクニカルなトラブルが発生するも大きな混乱はなく無事に終了した。 発表者は、西アフリカと南インド、特にドラヴィダ文化圏のトランスインペリアルな知識の循環、知識体系の創出について報告を行った。なかでもセネガル初代大統領のレオポルド・サンゴールとインドのインディラ・ガンディーが協力してインド・アフリカ研究の発展に努めたことを紹介、異なる歴史を歩んだ旧植民地同士のつながりから政治的で文化的なディスクールがつくりあげられたことを発表した。 発表後の質疑応答では、ドイツ帝国の政治言説に関する質問や西サハラと他地域がどのような関係にあったのかなど多くの質問が出された。オンラインも含めた参加者によって、さまざまな論点から活発な議論が展開された。 |
開催日時 | 第1回研究会・2024年4月18日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパスSK202及びオンライン(ハイブリッド) |
テーマ | Meet the Author |
発表者 | Tessa Winkelmann (University of Nevada, Las Vegas) |
研究会内容 | 本研究会では、ネヴァダ大学のTessa Winkelmann先生を招き、著書Dangerous Intercourse: Gender and Interracial Relations in the American Colonial Philippines, 1898–1946. (Cornell University Press, 2023) について発表していただいた。発表後には参加者を含めたディスカッションを行った。今回は、全て英語で行われ、グローバル地中海地域研究同志社拠点「レイシズムと植民地主義」研究班(同志社大学都市共生研究センターMICCS)との共催でハイブリッド形式にて実施した。 発表者は、著書において、米国植民地時代フィリピンのアメリカ人とフィリピン人の間におけるインターレイシャルな性関係を主題に議論を進める。なかでも、植民地当局における性管理について取り上げ、フィリピン女性に対して危険な存在というレッテル貼りを行った事実に焦点当てる。さらに、性管理問題と切り離すことのできない、いわゆる混血児問題についても取り組んでいる。そして、そのような米国の帝国主義者によって作られた危険な存在としてのフィリピン女性像が今日の米国におけるアジア系女性に対する言説の核になっていることを明らかにする。 発表後の質疑応答では、米国植民地期間と重なる大日本帝国占領時期との関係や米国とフィリピン人の間に生まれた子どもの境遇、フィリピン人と親密な関係にあった米国人男性の動向、英国領インドとの比較など多くの質問やコメントが出された。イベント参加者によって、さまざまな論点から活発な議論が展開された。 |
2023年度
開催日時 | 第3回研究会・2024年2月22日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパス志高館SK203及びオンライン(ハイブリッド) |
テーマ | 嘉手納基地の裁判と地域の苦悩ーー 嘉手納基地爆音差止訴訟と原告団支部からーー |
発表者 | 桐山節子(同志社大学人文科学研究所嘱託研究員) |
研究会内容 | 本報告は、1982年2月以来継続する嘉手納基地爆音差止訴訟の経過を辿り、その原告団の運動が組織的な団体活動に依拠したものから、主体的な個人の活動に移行していく過程を検討する試みであった。今回は2023年2月刊行の『社会科学』における本部門研究会の特集「植民地主義の歴史と現在」掲載の発表者による論稿「沖縄の軍事基地に抗する人々と地域 : 嘉手納基地爆音差止訴訟と原告団支部から」を基にした報告であった。 報告者は、沖縄島住民の生活と米軍基地の関係を理解するため、アジア太平洋戦争期における沖縄島の軍事要塞化の歴史から敗戦後に米軍基地が形成されていく地域変容を辿ることを重要視する。今回は米軍基地から派生する諸問題の中でも、嘉手納町を中心とする「極東最大の空軍基地」の騒音問題に焦点を当て、嘉手納基地爆音差止訴訟の動向を取り上げた。実際に嘉手納町にも足を運び、聞き取りや文献資料の調査を通して、爆音差止訴訟団の形態が緩やかに変化していると指摘する。その中で近年、嘉手納基地の裁判の訴訟団は、3種となっている。それは原告数増加に伴う資金繰りの問題や騒音被害あるいは米軍基地に対する認識の違いに端を発する摩擦から生じたのではないかと考察し、その動向と背景を調査中と経過報告を行った。 報告後の質疑応答では、訴訟における国側の主張に対する反論にはどのようなものがあったか、またその論理は運動内部で共有されているか、さらに、新たな局面としての行政訴訟の目的はどのようなものかなど爆音差止訴訟にまつわる質問や、訴訟団の複数化の根にはどのようなことがあるのか、SNSの発達が運動の在り方や方法に影響を与えることもあるか、運動内部における性差別やハラスメントという男性中心的な運動への批判としての分化ということもあるのか、など運動形態変化の要因についての質問があがった。加えて、植民地的暴力/状況への抵抗という観点から、言語の違いや国境を越えた連帯はあるのか、またそのような連帯の位置付けはいかなるものか、という爆音差止訴訟を含めた住民運動の国際的な拡がり/繋がりに関する質問や運動内部におけるジェンダーやセクシュアリティなど多様な要因が交差していることにより運動が変容したということもあるのではというインターセクショナリティに注目する必要の指摘等もあり、参加者と発表者により活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第2回研究会・2024年1月18日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパスSK110 |
テーマ | 国際学術ワークショップ「パレスチナ危機:反植民地主義的な<連帯>の可能性と課題」 |
発表者 | トン・ヤピン、役重善洋、水谷智、金漢拏(同時通訳)、加藤結子(司会) |
研究会内容 | 本研究会では、パレスチナをめぐる今日の危機的状況を反植民地主義の観点から捉え直すため、韓国からトン・ヤピン氏を招待し、パレスチナの人びとへの植民地主義的暴力に対する東アジアからの反植民地主義的<連帯>について議論を行った。今回は金漢拏氏の同時通訳の下、日本語とコリア語で行われ、同志社大学グローバル地域文化学会が主催し、本研究会および「間-帝国史」研究センター(同志社大学・中核的研究拠点)が共催、対面形式にて実施した。 トン・ヤピン氏からは、韓国におけるパレスチナの人びとへの連帯運動の現状が報告された。ヤピン氏は、現地に赴くことはもちろんのこと、パレスチナの人びとへの連帯を示す実践として、ボイコット、資本引き上げ、制裁の3点(BDS運動)を強調し、韓国内でのひとりデモやイスラエル大使館前でのアピール行動、現地で植民地暴力へ加担する自国企業へのボイコットの取り組みなど、様々な連帯の手法を提示した。とりわけ、パレスチナで何が起きているのかという問題の周知が重要だと述べ、映画上映会やデモ、講演会などのイベントを通して多種多様な人びとに知らせる取り組みを紹介した。 本研究会からは、発表者として役重善洋と水谷智が登壇した。役重は、日本におけるパレスチナ連帯運動および関西圏における現状報告を行った。まず、日本におけるパレスチナ連帯の概要を紹介し、続いて運動のレパートリーの多様性について交差性(インターセクショナリティ)のコンテクストを踏まえ今日の運動状況とともに報告、ネーションに縛られない連帯の必要性を説いた。水谷は、トランスインペリアル研究の観点からパレスチナ危機を捉え直す重要性を発表した。パレスチナの人びとが直面している状況をセトラーコロニアリズムとして議論することを提起し、メディアで多く報道されるような宗教対立やテロ行為としてのみ捉えていては、パレスチナ危機の表層部分しか見ることができないと批判的に問題を考察する重要性を述べた。 発表後の質疑応答では、大学生や若い世代に連帯運動の存在を周知し、かつ拡散するための手法に関する質問や欧米諸地域における若い世代の連帯運動参加者の増加と日本の現状の比較についての質問が挙がった。また、既存大手マスメディアによる報道の仕方とそれらが及ぼす世論への影響とその対処方法についての質問やボイコット運動の説得力を持った呼びかけにはどうしたら良いのか、など多くの質問・コメントが出された。本学学生や教職員も含めた参加者によって、さまざまな視点から活発な議論が展開された。 |
開催日時 | 第1回研究会・2023年10月7日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパスSK203 /オンライン |
テーマ | Meet the Author |
発表者 | Joshua Ehrlich (University of Macau) |
研究会内容 | 本研究会では、澳門大学のJoshua Ehrlich先生を招き、著書The East India Company and the Politics of Knowledge (Cambridge
University Press, 2023)
について発表していただき、参加者を含めた議論を行った。今回は、全て英語で行われ、グローバル地中海地域研究同志社拠点「レイシズムと植民地主義」研究班(同志社大学都市共生研究センターMICCS)との共催でハイブリッド形式にて実施した。 発表者は、著書において、the history of ideas of knowledgeというアプローチを用い、18世紀から19世紀における英領インドを取り扱う。なかでも、東インド会社が行った英領インドへの植民地主義実践に焦点を当てている。ヴァナキュラーな知が植民地統治に適合する知へと改変される過程において、企業がいかに植民地政策に介入していたのかを明らかにしている。 発表後の質疑応答では、the history of ideas of knowledgeと間帝国史研究 (Transimperial History Studies) における「比較の政治学」(the Politics of Comparison) の類似性や統治に関するムガール帝国と英帝国の関係、都市の大小によって企業の影響に差異があったのか、企業による知識への介入は誰が考えていたのか、など多くの質問が出された。オンラインも含めたイベント参加者によって、さまざまな論点から活発な議論が展開された。 |
2022年度
開催日時 | 第3回研究会・2023年2月22日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパス志高館203/オンライン |
テーマ | 「朝鮮と日本のあるべき関係」を求めて―梶村秀樹による물레の会および指紋押捺拒否運動への活動従事を手がかりに― |
発表者 | 大槻和也(同志社大学大学院) |
研究会内容 | 本報告は、1980年代に高揚した指紋押捺拒否運動への梶村秀樹の活動に注目し,彼がどのような姿勢でこの運動に関わっていったのかを跡づけ,その意義を考察したものである。 発表者は、東京都調布市における地域市民団体である「물레の会」における梶村秀樹の活動のほか、「指紋押捺拒否予定者会議」、「神奈川指紋拒否者相談センター」などでの活動も当時の運動資料を駆使して跡づけ、あわせて梶村が運動に込めた意義や動機、そして梶村における運動戦略なども考察した。裏方業務も含む積極的な活動参加、運動経験を通じて得た<実践知>の共有、そして行為遂行的に在日朝鮮人との信頼関係を構築していく梶村のあり方は既存の知識人像に自己省察を迫るものであることを示した。 報告後の質疑応答では、1970年代から80年代における社会運動の全体的状況と関連させて論じることの重要性、同じく朝鮮史研究者であった旗田巍との比較可能性、研究者の運動論がもつ現在的意義、ひいては学術と現実に存在する差別との緊張関係の重要性、梶村秀樹が活動に従事するようになる以前に彼が体験した「原体験」について考察することで梶村秀樹像がより立体化するのではないかといったコメントが寄せられ、実りある議論が交わされた。 |
開催日時 | 第2回研究会・2022年12月3日 |
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開催場所 | 同志社大学今出川キャンパス至誠館S34 |
テーマ | 21世紀におけるパン・アフリカニズム ――アメリカ合衆国の視点から―― |
発表者 | 荒木圭子(東海大学) |
研究会内容 |
本研究会の目的は、『マーカス・ガーヴィーと「想像の帝国」:国際的人種秩序への挑戦』(千倉書房、2021年)の著者荒木圭子先生を招き、21世紀におけるパン・アフリカニズム運動の展開とその現代的意義について検討することであった。また、本研究会は、グローバル地中海地域研究同志社拠点「多文化都市と共生の危機」研究班(同志社大学都市共生研究センターMICCS)との共催で行った。 発表者は、最初に19世紀から20世紀までのパン・アフリカニズムを3つに時期区分し、それぞれの特徴を説明した。1つ目は19世紀末から20世紀初頭で、「旧ディアスポラ」がアフリカの解放を求めて運動していた時期である。2つ目の時期は、1940年代から1950年代で、アフリカの植民地独立をめぐる闘争がその特徴であった。続いて3つ目が1960年代から1990年代の時期で、アフリカ大陸の緩やかな連帯が目指されていた。このような特徴を踏まえ、発表者は21世紀におけるパン・アフリカニズムの再興を考察した。そして①反欧米戦略、②商業化、③アクターの多様化という3つの論点を示した。 その後の質疑応答では、パン・アフリカニズムの定義や第三世界運動/脱植民地化の運動/反差別運動など草の根の運動との関係はあるのか、経済活動をパン・アフリカニズムで捉えても良いのか、など多くの質問が挙がった。さらに、ガーナとセネガルの例を取り上げてアフリカ全体ということはできるのか、女性の話はどの位置にあるのか、などさまざまな論点から活発な議論が展開された。 |
開催日時 | 第1回研究会・2022年11月15日 |
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開催場所 | 同志社大学烏丸キャンパス志高館SK203/オンライン |
テーマ | 明治期日本の人流 ――ニューカレドニア移民の背景をさぐる―― |
発表者 | 友寄元樹(同志社大学大学院) |
研究会内容 | 本報告は、1892年に始まった仏領ニューカレドニアへの日本人契約労働移民/海外出稼ぎを19世紀における近代化/工業化の過程で発生した世界的な「余剰人口の排除」という観点から再検討する試みであった。 発表者は、明治政府が明治維新以降の社会変革による余剰人口問題に対処するため北海道入植や都市周辺部への開拓移民、海外移民を実施したと考察し、19世紀ヨーロッパの農村部の人口流出(都市部への人口集中)や新世界移民、フランスにおけるニューカレドニア流刑の諸研究と併せて検証した。また日本において1880年代の「松方デフレ」が決定的な契機となり農村の貧窮化及び農民層の分解が進んだと指摘した。そして、以上のような19世紀の資本主義社会成立過程に起きたヨーロッパと日本の移民/殖民をグローバルな「余剰人口の排除」として位置付けた。 報告後の質疑応答では、ニューカレドニア移民の詳細や日本人移民と現地の住民との関係、八重山における鉱山労働との比較、どのような資料を用いているのか、日本人の仏領ニューカレドニアにおける社会的法的地位、先住民カナクに対する言及が少ないなど様々な質問や指摘があり、活発な議論が展開された。また、「間帝国史」(Trans-imperial History)という歴史学アプローチを用いることで一国史観を脱却するという報告者の試みをより明快にできるのでは、という指摘もあった。 |