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第17研究 コミュニティの維持をめぐるつながりと境界の動態に関する比較研究―人の移動・交渉・葛藤研究代表者:王 柳蘭(グローバル地域文化学部)

 本研究会では、越境、移動、境界、交渉をキーワードに、アジア、アフリカ、ヨーロッパにおける諸事例を比較し、多様なアクターにもとづくコミュニティ維持の動的プロセスについて学際研究を行っていく。具体的には、移民・難民当事者による同質的なつながりの維持(血縁・地縁等)に偏重した越境研究を再考し、越境者を軸に、異質な他者を含めた多元的なアクター(ホスト社会内外における他民族、NPOの支援者や中間団体、国際機関等)との相互交渉とつながりによって「開かれたコミュニティ」がどのように維持、展開されるのかについて、地域横断的に研究する点にある。地域間比較研究を通して、現代社会において求められる、「つながり」の在り方を多様な実践と生存戦略から明らかにし、他者に開かれた共同性維持にむけた個別性と普遍性の諸相を浮き彫りにしていく。
関連リンク|第21期第17研究ホームページ

2024年度

開催日時 第3回研究会・2024年7月18日 17時~
開催場所 同志社大学良心館 RY429(4階)
テーマ タイ深南部マレー系ムスリムの移住とトランスナショナリズム
発表者 同志社大学 西直美氏
コメンテーター 同志社大学名誉教授 上田曜子氏
研究会内容  マレーシアとの国境に位置するタイ深南部はパタニ・マレー語を母語とするムスリムが人口の8割程度を占めており、2004年以降、旧パタニ王国地域の解放と分離独立を掲げる武装闘争が再燃したことで注目を集めてきた。西氏は、マレーシアへの移住経験をもつムスリムへのインタビューをもとに、深南部からマレーシアへの移住の特徴、マレー系ムスリムとしての帰属意識、ムスリム女性の意思決定をめぐる問題や移民ネットワークについて、現時点での課題と展望を報告した。

2023年度

開催日時 第6回研究会・2024年3月11日 13時30分~18時
開催場所 神戸市看護大学
テーマ 災害時における外国人の支援とウェルビーイングについて―学問のボーダーを越えて
研究会内容  日本にさまざまな形で移動する外国人人口の増加とその形態の多様化にともない、 災害時に外国人をいかに支援するのか、いかにその人々が安寧な暮らしを維持していく ことができるのかが喫緊の課題となっている。防災研究、地域研究、人類学、看護学の 視点をクロスさせ、多文化共生といった理念を災害時、そして災害からの復興の過程において個人、コミュニティや行政レベル、国家間の支援も視野においていかに実現できうるのか、その課題は何か、どのような学問分野や行政の縦割りを超えた連携ができるのかについて意見を交換した。
王柳蘭(同志社)、小山真紀(岐阜大学)
ゲスト:阪本真由美(兵庫県立大学)、内田晴子(世界人権問題研究センター)、神原咲子(神戸市看護大学)
開催日時 第5回研究会・2023年12月21日 13時~15時
開催場所 同志社志高館SKB5
テーマ 中国集団体制時代における政策移民と言語空間―Changhuaをめぐるアイデンティティに関する考察
発表者 孫潔
研究会内容  本発表では、中国における内陸地域から辺境地域へ移住させられた政策移民が使用する言語である「Changhua」を研究対象とする。「Changhua」とは政策移民が地元民とコミュニケーションをとる中で、それぞれの言語がピジン化し、新しく生成された混成語である。本発表では、中国雲南省の一工場を事例として取り上げ、「Changhua」がいかに生成され、そして工場の企業改革、また移民の二世、三世が工場を離れることにともなって消滅していったかのプロセスを考察し、言語を通してアイデンティティの形成と変容を明らかにした。地理的な明確なボーダー(工場の場壁)がなくても、文化的(上海―雲南)、社会的(国営工場―農家)のボーダーは常に「われわれ」と「他者」を区別し、Changhuaに表出されてきたと思われる。
開催日時 第4回研究会・2023年11月13日 13時~16時20分
開催場所 同志社大学寒梅館クローバーホール
テーマ 映画「おだやかな革命」上映会+トーク
発表者 監督:渡辺智史
コメント:和田喜彦
全体司会:山内富美
研究会内容  行き過ぎた資本主義を修正し、これから求められる社会のあり方・豊かさなどについて考える機会とするため、「おだやかな革命」[2017年/ 日本/ 100分]を上映・鑑賞する機会を設けた。上映会に続いて、同作品の監督渡辺智史氏より、映画制作の経緯などについてご説明頂き、同志社大学経済学部教授の和田喜彦氏から作品に対するコメントを頂戴した。その後、この説明やコメントをたたき台としつつ、地域の特性を活かしたエネルギー自治が社会構造を変革していく可能性について、同志社大学の学生の方も一緒に、意見交換を行なった。そこでは、伝統文化や信仰心といった一見関連がなさそうな事柄が地域の結びつきを作り、それは自治の基盤づくりに大きく貢献するといった意見が提示された。最後には聴衆の方たちも、上記の論点について議論に参加した。各地方が自律的に循環型のシステムを健全に運営する分散型社会を実現していくことの重要性を再確認された。参加人数は、合計41名であった。
開催日時 第3回研究会・2023年10月19日 15時~17時
開催場所 同志社志高館SKB5
テーマ シャマンの共同聖地と宗教実践をめぐる共生と動態―中国内モンゴルのフルンボイル地域の二つのエスニックグループのシャマンの事例より
発表者 趙芙蓉
研究会内容 本発表では、主にバイカル湖畔の森という同じ発祥地を持ち、昔から通婚関係にあり、近い時期にフルンボイルの地に移住してきたモンゴル系サブグループのバルゴとツングース系サブグループのソロンエウンキーのシャマンたちの事例を取り上げた。二つの異なった民族のサブグループが時には共同聖地を祭り、彼らのシャマンが互いに弟子の受け入れをし、占い、病気治療などの宗教実践もエスニックグループの壁を越えて行われている現象について報告した。 発表後、様々な質問と貴重なコメントがあり、シャマンのみの調査では不十分で引き続きもっと依頼者側の調査も行って本研究を完成させていきたい。
開催日時 第2回研究会・2023年8月18日 14時~17時
開催場所 同志社良心館RY436室
テーマ Languages, Wars, and Migration: Taiwan as a focus, 1895-1965
発表者 Shichi Mike Lan(台湾、国立政治大学)
研究会内容 人の移動から台湾をめぐる地域間関係について、戦争をテーマに1895年から1965年にわたる報告が行われた。台湾は歴史的にトランスリージョナルな移動が繰り返されてきたことを指摘されたうえで、東アジアにおける台湾の近現代史を、中国や日本、米国といった国家間関係のみならず、東南アジアやオセアニア地域に向けた戦争、植民地化における人の移動、そこから生み出される家族のつながりと言語の役割といったミクロな点に着眼し報告となった。移動を繰り返すなかで民族の混交もみられ、家族の拡大によって複数の言語が可能となった台湾人にとって、戦争や不安定な環境下において言語が人々のネットワークの生成に果たす役割についても指摘された。
開催日時 第1回研究会・2023年7月8日 13時30分~17時
開催場所 同志社良心館RY407室
テーマ 同志社大学人文科学研究所第106回公開講演会
「越境者をめぐる<故郷>と<境界>:個の物語から考える」
発表者 発表:中山大将(釧路公立大学)
発表:下條尚史(同志社大学)
発表:王柳蘭(同志社大学)
発表:村橋勲(静岡県立大学)
コメント:山田孝子(京都大学)
研究会内容 本講演会では、地域と地域、人と人のかかわりについて、境界を越える越境者の視点から展望することで、彼らにとって境界とは何か、彼らにとって故郷とは何かについて、「個をめぐる生の物語」から描き出した。故郷と帰属をめぐる重層性の課題を追究し、ある特定の地域との関わりのなかで、越境者が〈何をしたか〉といった出来事とその因果関係にのみ関心をもつのではなく、人びとが自己をめぐるさまざまな他者との関係性のなかで、〈如何に生きたか〉に軸足をおき、その「生」の営みを多角的に明らかにする方向性へと扉を開く。人類学者と歴史学者がそれぞれのフィールドで対話した越境者の語りを通して、為政者や国家による「大きな物語」の脱中心化を促し、国民国家においていまなお、新たな「生」の余白と対話の場を生成しつづける越境者の実践を異なる地域の事例を交差させながら活発な議論を行った。最後に山田孝子氏より越境者における自己の再定置とは何かという問いが出され、変動する地域や国家の境界線上に生きる上で人々に求められる生き方とは何かという普遍的なテーマについても考える機会となった。

第106回公開講演会のページ

2022年度

開催日時 第3回研究会・2023年2月18日 15時〜18時30分
開催場所 同志社大学寒梅館クローバーホール
テーマ 映画「ワタシタチハニンゲンダ!」上映会+トーク
発表者 監督:髙賛侑
対談:直井里予
コメント:阿部範之
司会:王柳蘭・石井香江
研究会内容 <プログラム>
15:00~15:05
開会の挨拶
15:05~17:00
〈第1部〉作品の上映
17:00~17:10
休憩
17:10~17:40
〈第2部〉作品に関して(髙賛侑)
17:40~18:00
コメント・質疑応答
18:00~18:30
映像をめぐる対談(髙賛侑+直井里予)
18:30
閉会の挨拶

<報 告>  
世界中で「異質」なものに対する排除の現象・思想が目立ってきている状況を踏まえ、日本での排除の歴史と現状について知り、考える機会とするために『ワタシタチハニンゲンダ!』 [2022年/日本/114分] を鑑賞する機会を設けた。上映会に続いて同作品の監督髙賛侑氏より、映画制作の経緯などについてご説明いただき、華語圏映画研究者の阿部範之氏から作品に対するコメントをいただいた。その後、この説明やコメントをたたき台に、社会問題に映像でアプローチする、発信することの可能性・課題などについて、世代や考え方を超えた意見交換をするために、髙氏、阿部氏に加えて、ミャンマー難民の映像表象と制作を行う直井里予氏を迎え、トークを行なった。そこで明確になったのは、映像記録という性格を持つ高監督の作品と日常を淡々と捉える直井氏の過去の作品の作風の違いである。事実を捉え、社会問題に関心のない聴衆にも伝える上で、それぞれの作風の持つ強みや弱さなども同時に浮き彫りになった。最後には聴衆も議論に参加し、この論点についての意見が出された。また、出入国管理法の改正の動きが進んでいることを踏まえ、上映運動を国内外で続け、問題を広く周知することの重要性が再度確認された。参加人数は計30人であった。
開催日時 第2回研究会・2022年12月16日 18時30分~20時30分
開催場所 同志社大学志高館214/オンライン
テーマ 地域再生事業における多様な主体によるガバナンス
―奈良都市再生事業を事例として―
発表者 山内 富美
研究会内容 近年、自由主義の市場原理がもたらした負の影響を教訓にして、改めて、その場所に住む人々の生活を起点とした、地域社会のあり方が問い直されている。
本報告では、政策的背景や理念的概念を整理した上で、奈良市の北東に位置する「鴻ノ池運動公園および旧奈良監獄」における都市再生事業を事例として、上記の点を考察した。この場所は、近代国家形成における歴史的価値の高い建造物でもあり、その保存と利活用という課題を担当省庁および自治体だけでなく、金融機関、ホテル事業者、建設会社などの民間企業やNPOといった多様なアクターの参画よって事業展開されている。
特記すべき点は、クリエイターやアーティストという新しいアクターの果たす役割である。主に次の2点を論点として提示した。まず、彼らの視点や手法は、人々が、日々の生活の中で見落としている地域社会の価値を捉えていく。それは、愛着、面影、記憶といった人々の心情的要素を汲み取ることによって、地域の価値・資源・資産を再評価していく。この過程を、地域住民と共有することで、内発的動機づけによって事業への理解と当事者意識を醸成する。さらには、自己効力感を高め、不安や無力感から協力的参加へと転換するきっかけとなる。しばしば、住民の無関心さが指摘されており、この点に対する打開策の一つとして、アーティスト的視点を持ったアクターの意義を評価した。
2点目は、従来、使用していない空間や、余白の時間を、アーティスト的視点によって再解釈し、新たな意味付けを加える。このアプローチによって設計された事業活動は、本来、出会うことがないアクターとアクターとを結びつける。それは、他者に対する寛容性を高め、内在化した境界線を緩やかに変容させていく。その境界線の変容は、地域社会全体へと面的に広がって、多元的な価値が織りなす新しい地域社会が再構築される。すなわち、アーティスト的視点は、多様性の包摂、共生といった概念の具現化を試みる際、不可欠な要素であると結論づけた。
開催日時 第1回研究会・2022年8月29日 13時30分~16時30分
開催場所 オンライン
テーマ ボーダー×ウェルビーイング
発表者
  1. 中山大将
  2. 堀江直美
研究会内容 1)自己紹介
2)発表
  1. 中山大将(釧路公立大)、サハリン樺太の日本人残留者、国境(発表50分・議論30分)
  2. 堀江直美(長崎大研究生)、ベトナム系移民×日本(長崎)(発表50分・議論30分)

<発表1 中山大将>「樺太引揚者団体「全国樺太連盟」の活動意義の再検証に向けて」
日ソ戦争後、ソ連はヤルタ協定に基づき日本領樺太を自国領として施政下に置く。日本を占領する米国との間で結ばれた引揚協定に基づき、ソ連は引揚げ希望日本人の本国送還を開始し、約1,500名を残して日本人住民は退去する。引揚者は相互扶助や引揚促進を目的として各種団体を作り、1948年にそれらを統合し「全国樺太連盟」(樺連)を結成する。樺連は引揚者団体であるものの、当初の要職はかつての樺太社会の要人によって占められ「要人の再結集」という側面があったほか、樺太や日ソ戦争、引揚げに関する「記憶の共同体」という側面も強めてゆく。本報告では、2021年の樺連解散を受け、70年以上に及ぶその活動の意義を再検証するための論点を提示した。

<発表2 堀江直美>
技能実習生等の若いベトナム人が全国的に増えており、過疎地域の多い長崎でも、ベトナム人の増加が顕著である。ベトナムは東南アジア大陸部で最もカトリック信徒率が高い地域であり、在留ベトナム人には一定数のカトリック信徒が存在し、全国各地のカトリック教会でベトナム語ミサが行われている。長崎でもベトナム語ミサが開かれ、若いベトナム人を中心とした宗教的コミュニティが形成されている。本研究会では、このコミュニティが彼らのアイデンティティの再認識の空間であるとともに、彼らが紡ぐ聖職者や地域の日本人信徒との関係性及び複層的ネットワークによって、コミュニティの境界や内部が変容し、流動化している過程を報告した。