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第2研究 留岡幸助関係資料からみた日本近代 研究代表者:関口 寛(人文科学研究所)
本研究会は、19世紀末から20世紀初頭にかけて社会事業の先駆者として活動した留岡幸助の資料を通じて、日本近代化に彼が果たした役割と、当該期に登場した新たな「救済」のあり方を検討することを目的とする。留岡が残した膨大な日記や手帳などを用い、彼の社会事業論の特徴や社会的逸脱者への視点、またそれに基づく政策の展開を具体的に分析することで、当時の社会事業が有していた特徴と、その過程で生じた社会的な境界やカテゴリー、統治の在り方を明らかにする。また、西洋との比較統治史の観点を取り入れ、日本における「包摂」と「排除」の問題を総合的かつ多角的に考察することを目指す。
2025年度
開催日時 | 第3回研究会 2025年6月22日 14時~17時30分 |
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開催場所 | 同志社大学 今出川校地 啓明館 共同研究室A |
テーマ | • 「留岡幸助研究の視座について」 |
発表者 |
関口 寛 |
研究会内容 |
第3回目となる今回の研究会では、研究会代表者の関口寛氏より、「留岡幸助研究の視座について」と題する報告が行われ、共同研究のねらいの共有とその深化が図られた。報告は、「はじめに」「1 科学的知見への関心と社会事業の開始」「2 留岡の社会事業論と統計調査」「おわりに」の四部構成であり、「はじめに」では、70年代に行われた留岡研究が依拠していたと思われる従来の研究視角について検討された。また、関口氏の関心に基づいて2025年現在(ポスト コロナ)の歴史学・人文学の様々な研究と多様な研究視角が紹介され、本共同研究の視角をめぐるディスカッションへの手がかりが提示された。
「1」では、19世紀半ばにロンブローゾ(1836-1909)によって提唱され、世界的に影響を及ぼした犯罪学と、日本におけるその受容と展開について紹介された。そのうえで、留岡の著述が複数紹介され、留岡の思想・実践の特徴として科学的知見に基づいて人間の発達プロセスに介入しようとしていること、社会防衛を目的としてその社会事業が構築されていることなどが指摘された。
「2」では、監獄教誨師時代に留岡が行った受刑者調査と内務省嘱託として行った被差別部落への統計調査について紹介がなされた。留岡は数値に基づいて問題を可視化する方法を採っており、その論理は科学的であると共に、それが調査対象に対する負のイメージを拡散する側面もあったことが指摘され、留岡に対する評価の困難さが示された。
「おわりに」では、留岡の慈善観をめぐって、今後の展望と課題が述べられた。
その後休憩を挟んで研究会の後半では、関口氏の報告に対する質疑応答と提起された問題をめぐるディスカッションが行われた。
参加者は13名であった。
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開催日時 | 第2回研究会 2025年5月25日 14時~17時30分 |
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開催場所 | 同志社大学 今出川校地 啓明館 共同研究室A |
テーマ | • 「留岡幸助の研究に携わって――その歩みと課題」 |
発表者 |
室田 保夫 |
研究会内容 |
第2回目となる今回の研究会では、研究員の室田保夫氏より、「留岡幸助の研究に携わって――その歩みと課題」と題する報告が行われた。室田氏は、自身の著書である『基督教社会福祉思想史の研究――「一国の良心」に生きた人々』(不二出版、1994)、『留岡幸助の研究』(不二出版、1998)およびこれらの後に発表した留岡にかんする論稿の概要を紹介し、自身の研究を振り返えられた。また、他の研究者や家庭学校関係者等の著作も概観し、留岡研究の状況についても示し、今後の課題として幾つかの点を挙げられた。
その後、報告内容をめぐる質疑応答が行われた。また室田氏からはこれまでに指摘されてきた留岡と天皇制との関わりや部落問題への関与をどのように考えるべきかといった問題提起が行われ、今後議論を深めるべき課題や論点についてのディスカッションが行われた。
出席者は12名であった。
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開催日時 | 第1回研究会 2025年4月27日 14時~17時15分 |
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開催場所 | 同志社大学 今出川校地 啓明館 共同研究室A |
テーマ | • 研究員の顔合わせと今後の活動についての相談 • 本部門研究会発足に至るまでの留岡幸助研究の状況について |
発表者 |
関口 寛 室田 保夫 |
研究会内容 |
今回の研究会では、研究員の自己紹介、部門研究会の発足までの経緯についての報告、諸連絡がなされた。
本研究会は第22期より新たに発足した研究会であるため、最初にそれぞれの研究員から自己紹介と研究計画の概要等が述べられた。
次に、部門研究会の発足までの経緯にかんして、室田保夫氏、関口寛氏より報告がなされた。かつて1970−80年代にかけて同志社人文研で行われた留岡幸助研究会に参加していた室田保夫氏からは、当時の研究会の様子、史料収集、成果の刊行、その反響等についての報告がなされた。なお、この研究会の成果としては、『留岡幸助著作集』(全5巻)、『キリスト教社会問題研究』留岡幸助研究特集号(第28号、1980年1月)、『人道』復刻版(全18巻)等が刊行されており、この研究会によって収集された多くの史料も人文研に所蔵されている。室田氏の報告により、本研究会でも今後活用していくこととなる諸史料や先行研究の背景と課題が共有された。また、この報告は同志社人文研の歴史にかんしても興味深い証言を含むものであった。
関口寛氏からは、世界人権問題研究センター登録研究「留岡幸助日記研究会」でこれまでに進められてきた史料の収集、解析の経過について報告がなされた。この共同研究は、北海道家庭学校所蔵「留岡幸助日記浄書原稿」(321冊)の解析・目次作成を5年間かけて行ってきた。これらをつうじて従来知られていなかった史料の存在や日記の内容が判明し、新たな研究が可能となる状況が整えられてきた。
さらに続けて関口氏より第22期より新たに始まる本研究会の趣旨についても説明がなされ、①護教主義や外在的批判に陥ることなく現代的視点にもとづく歴史像を提示する、②従来十分に活用されなかった日記等の史料を用いる、③諸アクターの連関に注意し日本近代にかんする新たな視点を提示する、という3つの方針が共有された。
最後に、研究成果刊行にかんする計画や予算関係の諸連絡がなされた。参加者は15名であった。
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