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第7研究 東南アジアの小規模事業者に関する部門横断的研究 ―国・地域の経済社会に果たす役割をつかむ―  研究代表者:林田 秀樹(人文科学研究所)

 本研究の目的は、インドネシア、マレーシアなどの東南アジア諸国において、現地の小規模農家(小農)や小規模漁業者、あるいは中小零細企業等の小規模事業者が、変化の激しい経済環境のなかでどのように自らの生業・事業を展開しているかについてフィールド調査を中心とした調査を実施し、当該事業者が当該国・地域の経済・社会を構成するうえで果たしている役割を解明することである。従来、東南アジアの小規模事業者に対しては、産業部門ごとに個別の学問分野から独立したアプローチで研究が行われてきているが、本研究では、各部門の小規模事業者の役割について、経済的視点を基に人文・社会科学の諸分野の知見を横断的に援用し、部門間比較を行いつつ学際的な共同研究を実施する。特に、農業・漁業等を主産業とする地方部に一定の人口が留まり、食料・工業製品原材料の供給という役割を担い続けていることの要因と影響を焦点に調査分析を行う。

2025年度

開催日時 第1回研究会・2025年4月19日 13時30分~17時20分
開催場所 同志社大学今出川キャンパス啓明館2階 共同研究室A
テーマ ①「今期・今年度の研究会運営方針について」
②「インドネシアのバイオディーゼル燃料政策の展開とその妥当性について」
発表者
林田 秀樹(人文科学研究所)
研究会内容
 今回は、年度初回のため研究代表者・林田からの報告であった。標記の通り、研究発表と併せて研究会運営の方針についての説明も行い、参加者全員で議論した。以下では、順にそれらの概要を報告する。

 まず、研究会運営方針については、当研究会の前身の研究会に当たる第21期第8研究「東南アジアの小規模生産者に関する部門横断的研究―地域経済・社会の内発的発展への貢献を考える―」の3年間(2022—24年度)にわたる研究活動の振返りを行った。同期間に計29回の研究会(発表者は46名(うちゲスト5名))を開催し、そのなかの2023年7月の回を人文研第107回公開講演会とかねて開催し、その記録として『東南アジアの山の民・海の民・街の民―小規模生産者たちがつくる経済と社会―』(人文研ブックレットNo.81)を刊行したこと、計10本の原稿を機関誌『社会科学』に投稿したこと、そのうちの6本は同誌第55巻第1号への掲載が過日の同誌編集委員会で認められ、「東南アジアの小規模生産者の経済―中長期的環境変化と直面する課題―」と題した特集号として2025年5月に刊行の運びであることなどが報告された。そして、それらの成果のうえに、今期3年間の活動をどのように展開していくかについての方針が説明され、最後に2025年度の研究会開催スケジュールについて確認が行われた。なお、すでに今年度10回の研究会の開催日程と発表者は確定している。

 次いで、標記テーマの研究発表では、まず、2000年代以降、インドネシア政府がパーム油のバイオディーゼル油使用促進策を実施してきた背景について諸種の統計データを用いて詳細な説明が行われた。第1に、同国において、石油産出量が傾向的に減少する一方で人口・経済成長の結果としてエネルギー需要が増大し、その将来的なさらなる増加見込みへの対応として、石油・同製品に代わるエネルギー源を確保する必要があったという背景である。第2に、石油の産出量減少に伴ってその海外への輸出量が減少してきたことに加え、国内のエネルギー需要を賄うために石油の輸入量が増大してきたことが挙げられる。その結果、石油純輸出額が2001年以降恒常的に大幅な赤字を記録しており、貿易収支全体の赤字化の要因となっている。貿易収支改善のためにも、石油・同製品に代わるエネルギー源を確保し、その輸入量を抑制する必要がある。これらは、エネルギー市場一般の需要側要因といえる。
 これに対し、第3の背景として挙げられたのは、パーム油市場の供給側要因が形成した背景である。2000年代以降アジアを中心とする世界各地に輸出を伸ばしてきたパーム油は、2010年代に入ってから輸出額・輸出量ともに停滞し続けている。この間成長を遂げてきたアブラヤシ栽培農業並びにパーム油関連産業は、潰すに潰せない規模にまで達しているため、政府は、パーム油の外需停滞によって生じている超過供給状態からパーム油関連産業を脱却させる必要に迫られているのである。
 これらを受けて、インドネシア政府が2000年代初頭以降推進してきたパーム油のバイオディーゼル油化政策をたどり、現プラボウォ大統領政権によってパーム油由来のバイオディーゼル油を軽油に1対1の比で混合し使用することを義務づける政策が2026年に実行予定とされていることなどが紹介された。
 最後に、以上の政策を実行するための補助金執行の問題点やその財政的基盤の脆弱性、あるいは「高質の食用油」となりうるパーム油を単に「燃料」として使用することがもつ問題点などが指摘された。そして最後に、バイオディーゼル油としてのパーム油の使用を促進するだけでなく、同じ財源から小農アブラヤシ農園の再植支援等への資金拠出を増額させることなどが提案された。発表後の質疑応答では、特に「食用油となりうるパーム油の燃料としての使用」に関して発表者が呈した疑問をめぐり、激しく意見が交わされた。そもそも発表が長引いたことに加え、嚙み合わない視点を互いに補正しながらの議論の応酬により予定時間を大きく超過してしまうほど充実した回となった。

 今回の研究会は、対面とオンラインのハイブリッド方式で開催した。対面では、発表者のほか、森下明子、西川純平、大泉啓一郎、中井教雄、平賀緑、上原健太郎、章超の各氏の8名が、オンラインでは、厳善平、祖田亮次、赤嶺淳、中村和敏、渡辺一生、佐久間香子、翟亜蕾、上田曜子の各氏の8名が参加し、合計16名の参加者であった。