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第8研究 グローバリゼーションとカウンター・メモリーの諸相――交差性に着目する地域横断的研究  研究代表者:石井 香江(グローバル地域文化学部)

 本研究会は「カウンター・メモリー」という概念を共通の切り口として、記憶のあり方と、記憶する主体のジェンダー・セクシュアリティ・社会階層・エスニシティ・地域性とが、互いにどのように影響し合っているのか、時代・地域・ディシプリンを横断する対話を通じて、比較することを目的としている。具体的には、近現代のアフリカ、アジア、欧米をフィールドに、多様なディシプリン(歴史学・社会学・メディア研究・政治学・文化人類学・文学・アート)で取り組むメンバーが、歴史理論、モニュメント、メディアと戦争、現代社会、社会運動、文学表象、移住者とアートというテーマのチームに分かれつつ共同研究を進め、成果発信に向けて準備する。

2025年度

開催日時 第4回研究会 2025年9月21日 13時~18時10分 、 9月22日 9時~17時
開催場所 同志社大学今出川校地 啓明館 共同研究室A
テーマ 第1日目: 
第1報告:宮地歌織「女性の身体をめぐる記憶と語られ方:FGM/C (Female Genital Mutilation/Cutting)と美容整形(Female Genital Cosmetic Surgery)の事例より」
第2報告:川辺ナホ「アートの作品制作の中でのインタヴュー手法について」
第3報告:徳山由香「賛同者によって増殖するメモリアルとしてのアート:事例報告《つまずきの石》(ギュンター・デムニッヒ)と《平和の少女像》(キム・ウンソンとキム・ソギョン)」

第2日目:
井口由布「マークの経験とトラウマ記憶:マレーシアにおける女性器切除」
午後はウトロ平和祈念館の見学と周辺のフィールドワーク
発表者
宮地 歌織 、 川辺 ナホ 、 徳山 由香 、 井口 由布
研究会内容  2日間にわたる第4回目の研究会では、「カウンター・メモリー」の具体的事例に関する3つの個別報告を行った後、「カウンター・メモリー」の一例としても考えられうるウトロ平和祈念館の見学と周辺のフィールドワークを行った。
 第1日目にはまず宮地歌織さんがFGM/C(女性器切除)とFGCS(美容整形における外性器切除)について、まずはFGM/Cの用語や国際的廃絶の経緯などの概要を示し、文化人類学的な視点からケニア・グシイ民族の事例を取り上げた。日本にFGMはないとされているが、「女性器切除」として、「会陰切開」や「美容整形」などの事例の実態を比較し、同意・医療化・世代/ジェンダー権力を横断する「自己決定」について再考された。 次に川辺ナホさんが、これまで作品を制作した際のインタヴュー手法の工夫について発表された。具体的には個人や特定のグループへのインタヴュー事例を紹介し、それをもとに制作したビデオ作品や冊子形式のテキスト作品についても紹介された。最後に徳山由香さんから、第二次世界大戦の記憶継承という主題に賛同する人々によって増殖するアートプロジェクト《つまずきの石》と《平和の少女像》の紹介がされた。
《つまずきの石》はナチスの迫害を受けた人の旧居住地に埋められる石である。1996年ドイツでデムニッヒの個人プロジェクトとして始まり、ヨーロッパ中の賛同者達によって種子を蒔くように拡散、いまや31カ国11万個を超える。
2011年に旧日本軍の従軍慰安婦の象徴として韓国で建立された《平和の少女像》は、世界各地に百体ほど設置されている。とくにドイツでは、少女像は慰安婦という元の主題だけでなく、あらゆる暴力に対抗する女性達や移民達の象徴ともなり、意味の広がりをもつようになっている。
 第2日目には井口由布さんから、「マークの経験とトラウマ記憶:マレーシアにおける女性器切除」と題される研究報告がなされた。
 第1・2日目ともに、活発な意見が交わされ、対面での交流も深められた。ハイブリッド形式の開催で計13名が参加した。
開催日時 第3回研究会 2025年7月12日 11時~14時
開催場所 同志社大学 烏丸キャンパス 志高館 語部別資料室3
テーマ 第1部: 研究報告 立石洋子「現代ロシアにおける記憶の対立」
第2部: 研究報告 渡邊昭子「19世紀ハンガリーにおけるヒゲと男性性」
発表者
立石 洋子 、 渡邊 昭子
研究会内容  今回は第3回目の研究会で、引き続き「カウンター・メモリー」の具体的事例に関する二つの個別報告を行った。
 第1部では立石洋子さんから、「現代ロシアにおける記憶の対立」と題される研究報告がなされた。ソ連解体後のロシアにおいて、内戦、スターリン期を中心としたソ連時代の政治的抑圧、独ソ戦など自国史の評価が激しい論争を生む事例について記念碑を通して紹介された。被害と加害の捉え方に、ロシアの特徴が表れているように思われ、比較の観点として興味深かった。
 第2部では渡邊昭子さんから、「19世紀ハンガリーにおけるヒゲと男性性」と題される研究報告がなされた。20世紀後半にも語り続けられていたヒゲがない男性の悲劇をはじめ、ハンガリーで男性性を象徴するヒゲと政治状況との関連について紹介され、ヒゲをめぐるメイン・メモリーを支えた自然や本質、歴史性といった要素について指摘された。
 第1部・2部ともに、幅広く、活発な意見が交わされた。ハイブリッド形式の開催で計9名が参加した。
開催日時 第2回研究会 2025年6月28日 14時~18時30分
開催場所 同志社大学 烏丸キャンパス 志高館 地下2教室
テーマ 第1部: 研究報告 澤口右樹「イスラエルの軍隊・ジェンダー・記憶のポリティクス」
第2部: 書評会  アン・ツヴェッコヴィッチ『感情のアーカイヴ : トラウマ、セクシュアリティ、レズビアンの公的文化』花伝社、2024年を読む。
発表者
澤口 右樹 、 菅野 優香 、 赤枝 香奈子 、 石井 香江
研究会内容  今回は第2回目の研究会ということで、「カウンター・メモリー」の具体的事例に関する個別報告と、「カウンター・メモリー」とも不可分である「カウンター・アーカイヴ」の理解を深める本の書評会を、二部構成で行った。

 第1部では澤口右樹さんから、「イスラエルの軍隊・ジェンダー・記憶のポリティクス」と題される研究報告がなされた。イスラエルの支配的記憶の構築過程とその担い手の変化の説明に続き、これに対して生まれた対抗記憶の内容をエスニシティとジェンダーを軸に比較され、対抗記憶と支配記憶の関係について重要な指摘をされた。

 第2部では、アン・ツヴェッコヴィッチ『感情のアーカイヴ : トラウマ、セクシュアリティ、レズビアンの公的文化』(花伝社、2024年)の監訳者である菅野優香さんより、最初に本書の概要・ポイントや著者の紹介がなされ、これに引き続き赤枝香奈子さんより日本のセクシュアリティ研究の観点から本書に沿ったコメントがなされるとともに、ニューヨークのLesbian Herstory Archivesの紹介がなされた。さらに石井香江より「アーカイヴ再考」というタイトルで「カウンター・メモリー」と関連付けながら本書にコメントがなされ、ベルリンにある三つの「カウンター・アーカイヴズ」の歴史と現状についての紹介がなされた。

 第1部・2部ともに、幅広く、活発な意見が交わされ、情報共有が行われた。ハイブリッド形式の開催で、海外からの4名を含む計10名が参加した。
開催日時 第1回研究会 2025年4月25日 17時~19時
開催場所 同志社大学今出川校地 啓明館 共同研究室A
テーマ 「カウンター・メモリー」を軸に共同研究をするにあたって
発表者
石井 香江
研究会内容
 本研究会のメンバーは、研究・アートで取り組む時代や地域、アプローチの方法が異なるため、「カウンター・メモリー」という概念を軸に共同研究をするにあたり、初年度は各人のテーマと「カウンター・メモリー」の接点を見出し、相互に比較する作業を進めていく。
 今回は第1回目の研究会ということで、研究会を運営していくにあたっての注意事項や、今後の報告者の紹介や合宿の相談、メンバーの自己紹介をすることからはじまった。これに引き続き、石井香江より先ず「カウンター・メモリー」という概念について基本的な理解を提示し、次にその具体例として「マルグレ・エル」(ナチ期にアルザス・ロレーヌ地方より強制的に労務動員された女性たちの自称)による戦後の証言、寄贈されたエゴ・ドキュメント、メディアや研究者による取り上げ方や議論の争点の概要について説明がなされた。「カウンター・メモリー」の提示の仕方、「マルグレ・エル」と他地域で労務動員された集団との比較の是非など、幅広く、活発な意見が交わされた。
 ハイブリッド形式の開催で、海外からの3名を含む計12名が参加した。