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第10研究 日本における非常食に関する史的研究 研究代表者:川満 直樹(商学部)
日本人は、長い間、災害とともに暮らし、災いと災いの間(災間)を生きてきた。にもかかわらず、いくつかの先行研究が指摘するように、日本での災害に関する歴史研究は十分に行われてきたとは言えない。ましてや非常時や災害時の食のあり方については、歴史研究としてまとめられた研究業績は多くないと言えるであろう。
第10研究では、「社会のなかの非常食」という視点で考察を進める。これまでの災害史、食物史や災害食を含む非常食などの研究で、これまで分析の主軸として位置づけられてこなかった非常食を考察の中心に据え、それによって新たに現出する実態をそれぞれの時代あるいは社会と関連付けながら、これまで明らかにされてこなかった歴史像を描出する。なお、研究会は春学期の4月~7月と秋学期の10月~12月の年7回開催する予定である。
2025年度
開催日時 | 第2回研究会 2025年6月8日 10時30分~12時10分 |
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開催場所 | 同志社大学今出川校地 扶桑館F513教室、オンライン(zoom) |
テーマ | 「日本における非常食研究の展開:先行研究の多面的整理と課題」 |
発表者 |
木村多嘉子 氏 (兼担研究員) |
研究会内容 |
第10研究5月研究会は、木村多嘉子氏が「日本における非常食研究の展開:先行研究の多面的整理と課題」をテーマに研究報告を行った。以下で、木村氏の報告内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。 第10研究は、本年度より「日本における非常食に関する史的研究」をテーマに研究を行うことになっている。第10研究にとって「非常食」をテーマに研究を行うのは初めてのことである。そのため本年度春学期の研究会では、主に非常食に関する先行研究の収集とレビューを行っている。木村氏もそれに沿い、非常食に関する先行研究のレビュー報告を行った。 木村氏は、第10研究の研究目標を、非常食を史的観点から研究することにより「日本社会の制度・文化・政策の変容過程を捉える」ことと設定し、今回の氏の報告の意義を「今後の経済史研究において、『非常食』や『保存食』、さらには『災害食』といった領域で、どのような研究の展開が可能であるのかを考察すること」と述べた。以上の観点から、4つの先行研究をレビューし、それぞれの先行研究の研究に対する貢献と課題を紹介した。以下に、紙幅の関係上、2つの先行研究について述べる。 守茂昭(2024)「関東大震災の被災復旧から見た災害食に対するニーズと被災時食料備蓄の新しい方向性」『日本災害食学会誌』11(1)について。 同研究の研究上の貢献として、①関東大震災被害者が食料を確保する能動的主体であったという点に着目し、その行動の実態を再構成したこと。②「社会的循環備蓄」という新たな概念を提唱し、地域社会や企業、流通機構を含む広域的・循環的なシステムとして構築すべきであることに言及したこと、である。 課題として、氏は次の2点をあげた。①被災者の生活実態や文化的背景に関する質的な検討が不足している点。②社会的循環備蓄の制度化に向けた具体的な検討が不足している点、である。 坪山宜代(2024)「関東大震災時の食・栄養および栄養対策に関する研究:関東大震災100年を紐解く」『日本災害食学会誌』11(1)について。 同研究の研究上の貢献として、氏は、関東大震災時の食・栄養とその後の制度形成に着目し、文献を既存の災害支援枠組みに分類したことをあげた。また、課題点として、①既存文献の整理と再分類にとどまり、新たな資料の提示や独自の理論的展開を欠いていたこと。②制度形成における政治的・社会的文脈の分析がなされていなかったこと、などをあげた。 木村氏が取り上げ、レビューを行った4本の先行研究は、これから「非常食」をテーマに研究を行っていく第10研究にとって、研究を進めていく上で参考になるものであった。 研究報告後の質疑応答では、教室およびzoomでの参加者から木村氏に対し、質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。 |
開催日時 | 第1回研究会 2025年5月11日 10時30分~12時10分 |
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開催場所 | 同志社大学今出川校地 扶桑館F513教室、オンライン(zoom) |
テーマ | 「非常食」文献レビュー 〜「非常の食」の分類も視野にいれながら〜 |
発表者 |
亀井大樹 氏 (嘱託(社外)) |
研究会内容 |
第10研究5月研究会は、亀井大樹氏が「「非常食」文献レビュー〜「非常の食」の分類も視野にいれながら〜」をテーマに研究報告を行った。以下で、亀井氏の報告内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。亀井氏は、4月研究会で報告を行った名川氏同様に、第10研究の研究テーマである「非常食」に関する史的研究を進める上で重要となる先行研究のレビューを行った。
亀井氏は、最初に1940年代後半から『日本農芸化学会誌』に掲載された「非常食糧」に関する一連の研究を紹介した。同研究の中心人物は、山藤一雄であり、山藤を中心に1949年から1951年の間に『日本農芸化学会誌』に15本以上の論文が掲載された。亀井氏は、「非常食糧」の研究が進められた背景に、戦後直後の食料難の時代に農村にある動植物の食糧化を検討すること、などがあったと説明した。
次に、亀井氏は先行研究で述べられている「非常の食」の分類を紹介した。そこで重要なことは「非常」をどのようにとらえるかであり、氏は以下の点を中心に「非常」について詳細に説明を行った。
非常(日常ではない状態):①自然災害(地震、台風、津波他)、②人災(戦争、事故他)、①と②以外に行刑、機内食、遠洋漁業、宇宙食他。
また、亀井氏は現代的な観点から議論されているライフラインの復旧状況に応じた非常食(災害食)の適応期間を紹介した。氏は、複数の先行研究を紹介し説明したが、ここでは紙幅の関係上、別府茂・中沢孝(2012)「非常食から被災生活を支える災害食へ」『科学技術動向』3・4月号で紹介されていた区分を以下に紹介する。
第1ステージ:災害直後、電気・ガス・水道のライフラインが断たれた状況であり、湯の利用や加熱調理なしに食べられる食品を、家庭・企業・事務所・避難所等に備蓄しておく必要がある。
第2ステージ:電気の復旧などにより、湯を沸かすことができるようになった状態であり、湯を加えるか湯せんが必要な非常食/インスタント食品が利用可能となる。また、第2ステージでは、備蓄食料に加えて、外部からの救援食料なども利用される。
第3ステージ:全てのライフラインが復旧し、調理設備も使用可能になると共に外部からの食料や食材の援助などにより、炊く・煮る・焼く・炒めるなどの調理が可能になった段階で食べられる食品に関しての制約はほぼなくなる。
紙幅の関係上、この場で亀井氏が報告した内容の多く述べることは出来ないが、氏の今回の報告は「非常食」に関する研究を進めていく上で基礎となるものであった。
研究報告後の質疑応答では、教室およびzoomでの参加者から亀井氏に対し、質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。
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