このページの本文へ移動
ページの先頭です
以下、ナビゲーションになります
以下、本文になります

第11研究 学問の地域貢献と古文書調査  研究代表者:小林 丈広(文学部)

 本研究は、かつて京都歴史研究会の有志でまとめた『京都における歴史学の誕生』を踏まえ、考古学や美術史、文化財保存や町づくり活動、地域資料館や文書館などの取り組みを視野に入れた上で、あらためて地域における古文書調査の意義について検討するものである。古文書調査ということであれば、全国各地、さらには海外での取り組みからも学びたいと考えているが、主たる研究対象は京都府内の山城地域としたい。本研究の意義は、近年ますます激しくなっているといわれる地域社会の変容と、短期間での成果や即効性が求められているといわれる研究環境の変化という両面について、そうした現実に流されずにとらえ直そうとするところにある。これまで時間をかけて取り組んできたものを、ひとつの形にすることを目指したい。

2025年度

開催日時 第1回研究会 2025年4月20日 14時00分~18時00分
開催場所 同志社大学 今出川キャンパス 寧静館 第34号教室
テーマ 奈良県における古文書所在確認調査の取り組み
発表者
山田 淳平
研究会内容
 今回の研究会では、山田淳平氏が上記のテーマで発表を行った。
 発表は、現在奈良県で実施中の「奈良県古文書所在確認調査事業」の内容を紹介し、そこから見えてきた奈良県内の古文書・地域資料の現状と課題を提示するものである。
 まず、事業の概要として、⑴経緯、⑵奈良県の古文書所在把握の現状、⑶市町村史の状況、⑷調査の方法を概観した。次に、調査結果として、⑴アンケート集計・現地調査、⑵現地調査、⑶調査報告書の作成について、豊富な写真を示しながら具体的に話した。なかでも、講などの持ち回り文書が、その講の解散によって、どこの家や区にも属さないゆえに、調査対象にならないまま散逸している現状は、後の質疑応答でも関心を集めた。未指定文書の中でもこれまで調査が及んでいない地域資料をどう保存していくかが、文化財行政の課題であることを、会場全体で確認した。
 続いて、調査後の動向として、新出史料の発見や、地域で広がった古文書の再認識について触れた。
 最後に、民間所在の古文書は確実に滅失・散逸しつつあり、これ以上の散逸を防ぐためにも、既調査・未調査を問わず現状確認の調査が必要であるとまとめた。とくに、今回の事例のような既調査の資料を調査する意義として、「現物保存」の大切さを強調した。加えて、地域社会やライフスタイルの変化によって現地保存が限界に来ていることを踏まえ、公的機関が積極的に古文書の所在を把握し、場合によっては収集をしなければならないとした。一方で、県・市町村で古文書受入可能な施設は限定的という現状も指摘し、まずは所有者保管を呼びかけるにあたって、①所有者に価値を認識してもらう、②所有者と継続的な関係性を構築する必要性を述べた。
 発表のあとには質疑応答の時間が設けられた。
 奈良県の古文書調査に携わった経験のある井岡康時氏、安国良子氏らにより、過去の奈良県の古文書調査に見られた調査方法および大学との連携における問題点や、山田氏が文書担当として採用された背景や意義について補足説明もなされ、理解が深まった。そのほか、会場からは、山田氏が県の立場だからこそ、広域的な視野で地域的な文書館を整備する構想ができるのではといった山田氏への期待や、現地保存主義が成り立たなくなっているからこそ、それを「公」が担うことの意義(防災としての古文書調査など)をはっきりさせていかなければならないといった意見も提出された。