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第14研究 近現代京都、まちの景観/風景に関する学際的研究  研究代表者:本岡 拓哉(人文科学研究所)

 本研究会は、歴史学や社会学、経済史、美術史、民俗学、人文地理学などの諸分野の研究者が集まり、近現代京都におけるくらしやまちの景観を多角的にアプローチしていく。景観の歴史的研究や景観表象分析に加えて、景観を構成する社会や政治、文化的営為の検討など、景観を関係的に把握し、かつ動態的に捉えるといった研究が行われうる。そこでは同志社大学人文科学研究所が所蔵する写真や映像、地図や絵画などの図像資料も積極的に利用する。所属するメンバーはこれらの目的や研究手法を共有し、生活や文化、社会運動や経済活動、行政や政治、差別や排除など諸事象を対象に設定し、近現代京都の種別性や奥行きを明示していくことを目指す。

2025年度

開催日時 第3回研究会 2025年9月3日 17時~19時
開催場所 同志社大学今出川校地 啓明館2階共同研究室A(オンライン併用)
テーマ 京都人文学園・京都勤労者学園の知識人と「学生」
発表者 奥村 旅人 (嘱託研究員(社外))
研究会内容
 今回の研究会では、研究メンバーの奥村旅人氏が、戦後京都における文化運動のなかで生まれた「京都人文学園」とその後継団体である「京都勤労者学園」についての報告を行った。報告ではまず、先行研究における京都人文学園の位置付けやその問題点が紹介された。そこでは、京都人文学園が社会運動史研究や敎育史研究の中で「市民大学」や「教育文化運動」として位置付けられてきたことや、京都人文学園が主に戦前教育の刷新という点でのみ注目されてきたため、それが持つ労働者教育という側面――特に「夜間部」の存在――が見逃されてきたことが指摘された。また、後継の京都勤労者学園との連続性が見落とされている点も指摘された。
 その後、新出史料も用いつつ、①教育者側の変遷、②生徒側の変遷という2点に焦点が当てられ発表が行われた。
 ①については、京都人文学園と後継の京都勤労者学園の科目構成・講師の変遷や夜間制への改組という契機に着目し、教育の力点が、人文科学的教養を重視した教育から労働問題系の教育へ、そして市民向けの教育、さらには実務・趣味に関する教育へと変遷していったことが明らかにされた。
 また、②については、生徒の募集要件や壁新聞などの史料の分析を通して、「教養」的な教育を志向する生徒と、労働問題に関係する「戦術」や「理論」を求める生徒との間で分裂があったことが明らかにされ、こうした分裂が学園の二度の改組に影響を与えた可能性が提示された。
 その後質疑応答が行われた。まず、様々な労働学校の系譜や、戦前戦後の移行期における価値観の変化が、京都人文学園に与えた影響が問われた。また、京都人文学園設立の背景となる労働者の学びへの欲求が、京都という地域的背景を持つのか、戦後という時代的背景を持つものなのかについてが議論され、同じ労働者学校である「鎌倉アカデミア」との比較を行うことで、京都人文学園の特徴に迫る必要性が示された。また、夜間学校と大学夜間部との関係性についての質疑が行われた。
 参加者は対面、オンライン合わせて13名であった。

開催日時 第2回研究会 2025年6月28日 15時~18時
開催場所 同志社大学今出川校地 寒梅館6階大会議室(オンライン併用)
テーマ なからぎの森の会『こうして京都府立植物園は守られた―市民が開くコモンズの未来―』
(かもがわ出版、2025年) 合評会
発表者 高原 正興 (ゲスト講師:京都府立大学名誉教授)
鯵坂 学  (嘱託研究員(社外))
三俣 延子 (嘱託研究員(社外))
研究会内容
 今回の研究会では、本部門研究メンバーの鯵坂学氏が共同代表を務める「なからぎの森の会」が出版した、『こうして京都府立植物園は守られた―市民が開くコモンズの未来―』(かもがわ出版、2025年)の合評会を行った。「なからぎの森の会」とは、京都府立植物園を含めた京都府による開発計画を阻止すべく運動を行った市民団体である。
 まず、鯵坂氏から京都府立植物園や植物園の位置する北山エリアの概要についての説明がなされた後、自身もこの運動に関与する高原正興氏により、当該運動の経緯や成功要因の解説が行なわれた。社会問題を「推定された状態について苦情を述べ、クレイムを申し立てる個人やグループの活動」と定義するスペクターらによる構築主義とともに、自身がこれまで研究の中心に据えてきた実証主義それぞれの視角から、詳細な具体例を交えつつ報告が行われた。発表に対する参加者からの応答として、植物園が府の観光政策や民間資本の影響を受けており、「公共施設」そのもののあり方が問われているなどの議論が行われた。

 続いて、三俣延子氏による環境経済学の視点からの書評が報告された。三俣氏は、本書を、①当事者性の高さ、②行政政策における市民不在の問題点の提示、③「コモンズ」に関する研究方向の提示、という3点で評価を行った。一方で、書中に登場する「コモンズ」という語の定義が曖昧であるという問題点を指摘し、その定義を明確化する必要性を提起した。さらに、府立植物園を「コモンズ」の中でどのように位置づけるのかということや、景観という視点を踏まえ、植物園の価値をいかに可視化できるのかという点も指摘した。
 発表に対する鯵坂氏や高原氏をはじめ参加者との応答では、神戸の王子公園や東京の神宮外苑、街路樹など異なる地域の「コモンズ」と、その開発反対運動などの実例が挙げられ、コモンズが商業的なものへと変化しているという現状を踏まえ、今後議論を行っていく必要性が提示された。さらに、植物園の事例は、全国で発生しているコモンズ危機の事例の一事例でしかないという点を見落としてはならないという指摘もあった。また、京都府のアリーナ移転問題について、京都市と向日市の歴史的な関係を踏まえた上で考えていくことも重要であるということも示された。このほか、当該植物園の空間および景観としての価値を「可視化」することの意義や必要性についても議論がなされた。
 参加者はオンライン含めて12名であった。

開催日時 第1回研究会 2025年4月25日 16時30分~18時30分
開催場所 同志社大学今出川校地 徳照館会議室(オンライン併用)
テーマ 研究メンバーの顔合わせ、研究活動の共有
研究会内容
 今期初めての研究会のため、第1回研究会はメンバーの交流をはかるべく、それぞれ研究員の顔合わせ並びに研究活動の共有を図った。
 まず、研究代表を務める本岡拓哉から本部門研究会の目的として、近現代の京都の人びとの「くらし」や「まち」をめぐる社会・政治構造を浮き彫りにすることが掲げられ、「景観」を研究対象および分析視角に設定することが示された。後者については、人文地理学による景観概念や先行研究を踏まえて、景観の歴史的アプローチや景観表象分析に加えて、景観を構成する社会や政治、文化的営為の検討など、景観を関係的に把握し、かつ動態的に捉えるといった視座が研究メンバー間で共有された。
 その後、各メンバーによる3年間の研究活動内容や研究成果の出し方が提示され、共同研究の可能性についても話し合われた。後者の共同研究に関しては、代表の本岡の方から、同志社人文研資料のうち特に図像資料の活用が促され、地図や写真、名所図会などの観光資料、さらには博覧会資料など、具体的な活用方法についての提案もあった。
 参加者はオンラインを含めて20名であった。