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第15研究 ボーダーをめぐる越境者の生活実践・歴史・ウェルビーイングをめぐる相互交渉に関する比較研究 研究代表者:王 柳蘭(グローバル地域文化学部)
人の移動とボーダーをめぐる諸課題は、人間存在のより良きあり方を探求するうえで、その重要性はますます高まっている。グローバル化の進展によって、移民や難民を含む越境者に対する国家や社会による排外主義的、反移民的な政策や経済至上主義的潮流が負の側面として指摘されている。とりわけ、国境管理や移民・難民制度においては、国家体制にとって「望ましい」越境者と「望ましくない」越境者に潜在的に選別されている。その結果、越境者社会は富める者と持たざる者に二極化するどころか、後者においてはよりよく生きる権利と機会がはく奪されている。本研究では、場所・時間・関係性という3つの要素からウェルビーイングを考え、越境者の生を場所・歴史・社会・自然などとの相互作用としてとらえ、異なる時間と歴史の中で越境者のよりよき「生」を学術的に探究し、人間的尊厳と正義はいかにあるべきか、望ましい社会や国家の在り方を考えていくことを企図する。
2025年度
開催日時 | 第1回研究会 2025年4月10日 13時30分~16時 |
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開催場所 | 同志社大学良心館 RY417 |
テーマ | 「SNS時代の科学コミュニケーション:一介の免疫研究者が何故福島に」 |
発表者 |
宇野 賀津子 |
研究会内容 |
宇野氏は、長年免疫機能の研究に従事してきたが、科学コミュニケーションとして、サイエンスを一般の人々に向けて分かりやすく説明し、発信している。「SNS社会で科学者にできること」https://radiation-sns.com/においては、学際連携にもとづいた活動も積極的に推進している。とりわけ、宇野氏は東日本大震災・福島原発事故の混乱とデマが広がった原因について検証しつづけ、上記HPに記されているように、社会の混乱の最大の要因は、情報が足りなかったことでも情報が整理されていなかったことでもなく根拠が見えにくかったことであると指摘している。本発表では、免疫についての説明、福島を事例にした放射線の影響と社会、市民をつなぐ取り組みに加えて、科学的根拠が十分に市民に知らされていなかったことによるエイズ・パニック問題についても取りあげられた。ここでは、本研究会との関連で、外国人と医療、科学コミュニケーションという観点からその概要とかわされた議論や知見をまとめる。
1980年代、エイズ・パニックが生じた際に、HIVウィルス陽性者への危険視から外国人への差別など社会が分断さる悲劇が起きた。宇野氏は、より早い段階から外国人エイズ感染者に治療する病院などを紹介し、通訳の必要性、ガイドライン作成にも尽力した。こうした医療における偏見やパニックは、日本で生活する外国人が増加する今日においても通じる問題である。目下、ほとんどの病院では、専門的な通訳の不在、あるいは不足のため、日本語があまりできない患者の家族や友人が通訳を務めていることが現状である。専門的な医療通訳の育成に関する課題は大きい。医療行為は高度な専門的な医療用語を要すると同時に、プライバシーにもかかわることである。討論では、家族や友人よりに依存する現状を改善し、専門的な医療通訳が必要不可欠である等、さまざまな意見交換を行った。
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