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第10研究 特産品に関する総合的研究 研究代表者:川満 直樹(商学部)

 新たな街づくりや村おこしのために、いくつかの省庁が「特産物」の商品開発、販路開拓などを後押しするための施策を発表し、着実に成果をあげている。特産物に焦点をあてた施策は、特産品が地域経済ひいては国家経済の発展を支える要素として重要視されていることを表している。
 政策的な観点から注目を集めている特産品だが、歴史的観点から総合的に考察した学術研究はこれまでほとんどなかった。本研究では、特産物が日本社会でどのような過程を経て誕生し、その社会的背景はどのようなものであったのか。そして特産物と社会の相互関係などについて検討する。それによって、特産物の社会的意義ならびに社会における役割の変遷を明らかにする。

2023年度

開催日時 第7回研究会・2023年12月17日(日) 11時00分~12時30分
開催場所 同志社大学扶桑館F513教室/オンライン(Zoom)
テーマ
  1. 駅弁の歴史と特産品
  2. 2024年度の人文研研究会について
発表者 近藤祐二氏
川満直樹氏
研究会内容  第10研究の12月研究会は、近藤祐二氏が研究報告を行い、川満直樹氏が本年度の第10研究の活動を振り返り、その後、第10研究の研究成果発表について説明を行った。
 近藤氏は、「駅弁の歴史と特産品」をテーマに研究報告を行った。氏の研究報告の目的は、日本の旅文化の一つと言える「駅弁」を取り上げ、いつごろ、誰が、どこで駅弁を販売したのか。また、駅弁のおかずにどのような地方の特産品が使用されているのか、などを検討することであった。
 駅弁の種類について、明治初期の静岡駅の資料を利用し、当時の駅弁の種類を紹介した。駅弁の種類は大きく二つに分けることができ、一つが「普通弁当」、二つ目が「特殊弁当」である。普通弁当の中に「上等弁当(25銭)」「並等弁当(15銭)」「普通すし(10銭)」がある。また、特殊弁当はエビやイカ、カニなど、単品の素材がメインとなっているものである。それには、地域の特産物などを使用したものも含まれている。近藤氏は、写真や資料などを用いて、それら駅弁について説明を行った。次に、近藤氏は駅弁を最初に販売した、いわゆる駅弁の発祥について説明を行った。駅弁の起源については諸説あり、明治18年7月16日に白木屋(旅館経営)が東北線宇都宮駅で駅弁を販売、明治10年に官営鉄道大阪駅で駅弁が販売、その他あり、明治18年7月16日が現在定説となっている、と説明があった。
 上記以外にも、氏は1946年に設立された「社団法人 国鉄構内営業中央会」、「日本鉄道構内営業中央会」について紹介し、駅弁がどのような業者により販売されていたのか、などについて報告を行った。
 川満直樹氏は、第10研究が2023年4月~12月までに行った研究活動を振り返り、そして次年度以降の研究会の進め方について説明を行った。それに加えて、第10研究の研究成果発表について説明を行った。氏は、第10研究の研究成果を研究叢書として刊行することを提案し、各目次(案)について説明を行った。
 近藤氏の研究報告に対し、参加者から質問や意見が多数あった。また、川満氏が行った研究成果発表についても、目次構成他について意見が多数あった。
開催日時 第6回研究会・2023年11月12日(日) 10時30分~12時00分
開催場所 同志社大学扶桑館F401教室/オンライン(Zoom)
テーマ 近代日本における地域人材育成の立役者-教育者・村崎サイ-
物産展がつなぐ日本と台湾-裕毛屋の活動-
発表者 名川拓男氏
吉田建一郎氏
研究会内容  第10研究11月研究会は、お二人の方に研究報告を行っていただいた。第一報告は、本学大学院生の名川拓男氏が「近代日本における地域人材育成の立役者-教育者・村崎サイ-」をテーマに、そして第二報告は、吉田建一郎氏が「物産展がつなぐ日本と台湾-裕毛屋の活動-」をテーマに研究報告を行った。以下では、二つの報告内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 地域の発展のために人材育成は重要な要素であり、人材を育成するためには教育は欠かせないものである。名川氏は、戦前の徳島で教育者として活動していた村崎サイについて企業者史的側面から研究報告を行った。ちなみに、サイは徳島文理大学の前身となる私立裁縫専修学校を1895年に設立した人物である。名川氏の研究目的は、サイが地域社会でどのような人材育成を行ったのか。また、女性教育の担い手となった教育者がどのような過程を経て学校を設立するに至ったのか。そして彼女が設立した学校が地域社会でどのような役割を担ってきたのかを明らかにすることである。紙幅の関係上、多くを述べることはできないが、名川氏は報告で経営史や企業者史研究で女性企業家の研究が進んでいないことを指摘した。もちろん、これまでにも女性企業家に関する研究はあったが、しかしそれらほとんどが「中央」で活躍していた女性に焦点をあてたものであった。名川氏は、そのような研究状況にあって、「地方」で活躍していた女性企業家に焦点をあて研究を行うことの重要性を強調した。
 第二報告の吉田建一郎氏は、台湾のスーパー「裕毛屋(ゆうもうや)」に焦点をあて研究報告を行った。裕毛屋は、台中で店舗を構え、日本の物産展を頻繁に開催している。吉田氏によれば、2023年9月に裕毛屋が行った物産展は、長野県(9月1~3日、14日)、鳥取県・愛媛県(9月15~17日)、岩手県(9月23~26日)他となっており、頻繁に日本の物産展を開催している。氏は、裕毛屋が物産展を開催する意義を大きく四点に分け詳細に検討を行った。紙幅の関係上、意義の四点のみを以下に記すと、一点目は物産展参加企業にとっての意義、二点目は物産品を提供する地方自治体にとっての意義、三点目は裕毛屋にとっての意義、特産品購入者にとっての意義である。
 研究報告の質疑応答では、教室およびZoomでの参加者から報告者に対し、質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。
開催日時 第5回研究会・2023年10月21日(土) 15時00分~16時45分
開催場所 同志社大学扶桑館F311教室/オンライン(Zoom)
テーマ モノの価値向上
発表者 丹羽宏行氏
研究会内容  第10研究10月研究会(講演会)は、中部日本ビルディング株式会社の丹羽宏行氏をお招きし、「モノの価値向上」と題して講演会を開催した。以下で、丹羽氏の講演内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 丹羽氏は、これまで中日ドラゴンズのマスコットキャラクターである「ドアラ」を利用し、愛知県および近隣県の企業とコラボ商品を開発・販売してきた。以下では、丹羽氏がこれまで行ってきた企業とのコラボ商品を紹介する。氏は、ドアラと企業が商品を共同開発する際のメリットは、「モノの価値を向上させる」、「(企業、商品の)認知度を高める」、「新しい顧客を獲得する」などであると述べた。
 最初に、ドアラとコラボした商品の事例として、名古屋の老舗お茶専門店「妙香園」とのコラボ商品を紹介した。妙香園の既存商品の一つである一煎用ティーバッグとドアラをコラボさせた商品「どあら茶」である(パッケージにドアラをプリント)。既存商品とドアラをコラボすることで、若い顧客を獲得することに成功した。次に紹介したのは、海老せんべいの老舗「桂新堂」の海老せんべいとドアラとのコラボ商品「どあらのえびせんべい」である。パッケージにドラゴンズのユニフォームとドアラをプリントし、若い顧客を獲得することに成功している。
 また、豊田合成ともコラボを行っている。同社は、主に車のエアバッグを製造している。あまったエアバッグ生地をアップサイクルし「Re-s」のブランドでエコバッグなどを製造している。ドアラとのコラボは、「Re-s」のブランド向上に貢献している。上記以外にもトヨタ紡織や飛騨市のふるさと納税、また沖縄のちんすこうや泡盛、SPAMなどともコラボを行っている、とのこと。
 以上、ドアラと企業のコラボの事例を紹介してきた。それら事例は、ドラゴンズの人気マスコットキャラクターであるドアラの知名度を利用し成功したものである。しかし、コラボ商品が成功するためには、コラボする企業側のもつ商品力も重要な要素である。
 丹羽氏は、上記以外にも多くの事例について述べていた。紙幅の関係上、多くのことを書くことはできないが、氏の講演から商品やブランドの価値を向上させるためのヒントを学んだ。
 講演会終了後の質疑応答では、教室およびZoomでの参加者から講演者に対し、質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。
開催日時 第4回研究会・2023年7月16日(日) 15時00分~16時30分
開催場所 同志社大学良心館RY101教室/オンライン(Zoom)
テーマ 長崎の特産品・豚の角煮~豚は貿易都市長崎の匂い~
発表者 本馬貞夫氏(学外講師)、冨永健太氏(学外講師)
研究会内容  第10研究7月研究会(講演会)は、長崎県長崎学アドバイザーの本馬貞夫氏と長崎県庁の冨永健太氏をお招きし、「長崎の特産品・豚の角煮~豚は貿易都市長崎の匂い~」と題して講演会を開催した。以下で、本馬氏と冨永氏の講演内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 鎖国を行っていた日本で、長崎は唯一外国との貿易が許された場所であった。その中心が長崎の出島であり、同地は日本と外国を結ぶ大きな役割を果たしていた。長崎は、鎖国以来かかわりのあった国や地域の影響を受けた食べものやお菓子、またお祭りなどがある。特に、いくつかのヨーロッパの国と中国の影響は大きく、現在でもそれらの国に関連するお菓子などを含む食べものがいくつも存在する。特に有名なのがカステラであり、一説によればポルトガルの貿易商人やキリスト教の宣教師らによって伝えられと言われている。
 また、長崎を代表する食べものに豚の角煮がある。現在では、角煮まんじゅうなどとして観光客にも人気がある。豚の角煮は、中国から伝わってきた料理の一つである「東坡肉(とうぽうろう)」に近いものだと言われている。
 本馬氏と冨永氏は、上記した長崎に諸外国から伝わった食べものやお菓子などを、出島での活動や外国人の生活スタイルなどに関連させ歴史的な観点から解説を行った。特に、本馬氏が紹介した鎖国時代の長崎の生活を描いた絵に描かれている鳥や豚、そしてそれらを調理する人の姿は印象的であった。本馬氏の説明とあわせて絵を見ると当時の生活状況がまじかに見えるようであった。
 研究会(講演会)当日は、関西在住の長崎県出身の方も参加した。いつもの研究会の雰囲気とは異なる研究会となったが、質疑応答では第10研究のメンバー(教室で参加、Zoomで参加)だけではなく、長崎県出身者の方々も質問やコメントを行い、活発な議論が行われた。
開催日時 第3回研究会・2023年6月11日(日) 15時00分~16時30分
開催場所 同志社大学扶桑館F308教室/オンライン(Zoom)
テーマ 熊野筆の新市場挑戦―書画筆から化粧筆へ―
発表者 小西浩太氏
研究会内容  第10研究6月研究会は、小西浩太氏が「熊野筆の新市場挑戦―書画筆から化粧筆へ―」をテーマに研究報告を行った。以下で、小西氏の報告内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 筆の用途は多様であり、書道で使用する筆から現在では化粧用の筆まで幅広く使用されている。小西氏は、広島県安芸郡熊野町(以下、熊野町)での筆の生産を例に、地場産業としての筆の生産と筆の用途の変化などについて詳細に研究報告を行った。
 熊野町は、170年以上も前の江戸時代から筆の生産をはじめ、現在でも筆の産地として知られている。同地は、筆の材料となる毛の生産地でもなく、また筆の消費地でもない。では、なぜ、熊野町で筆が生産されるようになったのか。
 小西氏は、その理由を①農閑期に関西などへ出稼ぎに出た熊野町の者が、帰郷時に筆などを仕入れ行商を行ったこと。②行商を行っていた者たちの中に筆づくりを学んだ者がいたことなどをあげ、農地が少なかった熊野町で、農閑期の余業として筆づくりが新たな産業となっていったと述べた。学校で、書道が学習の一環として行われるようになると、熊野町で生産された筆も多く使用されるようになり、同地の産業として定着していった。
 その後、第二次世界大戦終結により、GHQは柔道や弓道などの武道を禁止した。その一環として学校教育としての書道も禁止(1947年)され、筆づくりも打撃を受けることになり、学校以外で筆の販路を探す必要に迫られることになった。結論から述べると、化粧用の筆として販路を広げることになる。なぜ、化粧筆に目を向けることができたのか。それは先に述べたように、熊野町での筆づくりは150年以上の歴史があり、同地に筆づくりの技術が蓄積され、優秀な職人が多く存在していたからであった。その一連の過程について、小西氏は株式会社白鳳堂を例に詳細に報告を行った。
 紙幅の関係上、これ以上書くことはできないが、小西氏の報告から地場産業としての筆づくりの発展と衰退そして革新を学んだ。報告終了後の質疑応答では、教室とZoomでの参加者から小西氏に対して質問や意見等があり活発な議論が行われた。
開催日時 第2回研究会・2023年5月14日(日) 15時00分~16時30分
開催場所 同志社大学扶桑館F308教室/オンライン(Zoom)
テーマ 観光土産菓子の系譜
発表者 鈴木勇一郎氏(学外講師)
研究会内容  第10研究の5月研究会は、鈴木勇一郎氏(川崎市市民ミュージアム学芸員)をお招きし講演会を開催した。以下で、鈴木氏の講演内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 鈴木氏は、長年にわたり、土産物と交通(鉄道)との関係について研究されてきた。具体的には、ある土地の産物(特産品など)やある土地で生産された商品(お菓子や小物など)がどのようにして土産物に変わっていくのか。また、土産物がどのようにして社会へ知れ渡っていくのか、などを中心に研究をされてきた。今回の講演では、これまで鈴木氏が研究されてきたことをベースに、氏が今後研究予定の内容を、具体例を用い試論的にお話をされた。鈴木氏は、菓子土産の代表である朝鮮餅、赤福、印旛の白うさぎなどを紹介しながら、いくつかの点ついて話をされた。以下では、二点について紹介する。
 一つは、交通手段の変化と土産物の関係についてである。鉄道などの交通が発達する以前の菓子土産は、かなり日持ちするものでなければならなかった。しかし、鉄道が発達すると人々が購入する菓子土産に変化が起こる。一つはある程度日持ちする菓子土産で、二つ目は小さな菓子土産が好まれるようになったことである。また、自動車の普及により、人々は購入する土産物の大きさ(大小)を問わなくなり、そして購入する土産物の数が多くなった。
 二点目は、菓子土産の保存性についてである。この点は、菓子土産を製造しているメーカの技術によるものである。保存技術の発達により、菓子の保存期間が長くなったこと。そして、これまで生菓子で長距離移動に適さなかった菓子が土産物として販売されるようになったことなどである。
 鈴木氏は、上記以外にも多くの点について述べていた。紙幅の関係上、多くのことを書くことはできないが、鈴木氏の講演から交通の発達と土産物の関係などについて多くのことを学んだ。
 講演会終了後の質疑応答では、教室およびZoomでの参加者から講演者に対し、質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。
開催日時 第1回研究会・2023年4月9日(日) 13時00分~15時00分
開催場所 同志社大学扶扶桑館F311教室/オンライン(Zoom)
テーマ
  1. 近代日本における交通・通信の発達と特産品の形成-戦前期の大阪府八尾地方における花卉と果物の場合−
  2. 2023年度の研究会ならびに研究叢書刊行にむけて
発表者
  1. 廣田誠氏
  2. 川満直樹氏
研究会内容  第10研究の4月研究会は、廣田誠氏(大阪大学)が研究報告を行い、そして川満直樹氏が2023年度の研究会の進め方ならびに研究叢書刊行について説明を行った。
 廣田誠氏は、「近代日本における交通・通信の発達と特産品の形成―戦前期の大阪府八尾地方における花卉と果物の場合―」をテーマに研究報告を行った。同報告の目的は、近代日本における交通・通信の発達と特産品の形成との関係を大阪府八尾地方における花卉と果物を事例に明らかにすることであった。特に本報告では、交通機関の発展との関係が明らかに見て取れる園芸農業について考察を行った。廣田氏は、報告でいくつかの点を明らかにしたが、以下では2点のみを記し紹介する。
 ①明治から大正期の八尾について。農業では、近世までの特産品であった綿花栽培にかわって園芸農業が発展し、大阪市(大消費地)に近接している地の利を活かし出荷した。それらの活動から農民の旺盛な企業者精神が見られ、農民のチャレンジ精神を大阪府や、また出荷組合と農会などが支えていた。
 ②大正末から昭和初期の八尾について。大阪電気軌道(大軌)が路線を八尾まで延伸され、大阪市方面からの来客を念頭に観光と一体化した果樹園などの経営、花卉や植木などの即売会が盛んに開催された。大軌は、割引乗車券を販売し、八尾の経済や農民の活動を支援した。八尾の特産品であった花卉と果実などは、昭和戦前期には、鉄道の整備と密接に関係し発展した。
 川満直樹氏は、2023年度春学期の第10研究の研究会の進め方と研究成果の公表について紹介と説明を行った。
 廣田氏の研究報告終了後、川満氏の研究会の進め方の紹介および説明後の質疑応答では、教室およびZoomでの参加者から質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。

2022年度

開催日時 第7回研究会・2022年12月18日 13時00分~16時00分
開催場所 同志社大学扶桑館F311教室/オンライン(Zoom)
テーマ
  1. 日本と台湾における贈答文化とエコ意識の比較研究
  2. 2023年度以降の研究会ならびに研究叢書刊行にむけて
発表者
  1. チン・ブンリン氏
  2. 川満直樹氏
研究会内容  第10研究の12月研究会は、チン・ブンリン氏(徳島文理大学大学院)が研究報告を行い、川満直樹氏が本年度の第10研究の活動を振り返ると同時に研究成果発表について説明を行った。
 チン氏は、「日本と台湾における贈答文化とエコ意識の比較研究」をテーマに研究報告を行った。チン氏の問題意識は、台湾と日本の贈答文化の比較とそれとの関連でエコ意識、具体的には贈答品を包む過剰な包装紙の取り扱いについてである。贈答文化は、どの国や地域にも存在する。日本と台湾にも相手にモノを贈る文化が古くから存在し現在に続いている。氏は、日本と台湾における贈り物をする目的について次のように述べている。日本の場合、「気持ちを相手に伝えるため」「昔からの慣習である」「他者とコミュニケーションを深めるため」などが相手にモノを贈る目的と述べた。一方、台湾の場合、「相手を喜ばせること」「相手に敬意を示すこと」「社会的絆を維持すること」などが目的であると述べた。紙幅の関係上、多く述べることはできないが、チン氏は、日本と台湾には同じようなモノを贈る行事が存在するがモノを贈る目的などが異なること。また、年齢が高い層と若い層では贈り物に対する考え方が異なることなどを指摘した。
 川満直樹氏は、本年4月から12月までに行った第10研究の研究活動を振り返ると同時に次年度以降の研究会の進め方、また第10研究の研究成果の発表について報告を行った。氏は、第10研究の研究成果の発表方法として研究書の刊行を提案し、目次(案)などを紹介した。
 チン氏の研究報告終了後および川満氏の研究成果の発表に関する説明後の質疑応答では、それぞれの報告者に対して、贈答文化に関する日本と台湾の違い、研究書の趣旨や目次などについて、参加者から質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 第6回研究会・2022年11月13日 15時00分~17時00分
開催場所 オンライン(Zoom)
テーマ コロナ禍でエアラインが取り組んだ地域特産品発掘と地域創生
発表者 藤崎良一氏
研究会内容  第10研究の11月研究会は、藤崎良一氏(株式会社ANA総合研究所執行役員)をお招きし講演会を開催した。以下で、藤崎氏の講演内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 藤崎氏は、1988年4月に全日本空輸株式会社に入社し、営業本部旅客部、広報部、ベトナム支店長などを歴任し現在に至っている。また、全日空から北海道国際航空や研究機関へも出向され、数々のご経験をされている。以下では、ご講演の中から全日空のアフターコロナの挑戦、具体的には「航空一本足打法からの脱却」を中心に述べる。ここで言う一本足打法とは、「企業経営において一つあるいは特定の事業や商品が利益の多くを稼ぎ、企業全体を支えている」状態をさした言葉である。
 全日空は、ホールディング体制のもと連結子会社だけでも50社以上存在している。コロナ以前の全日空全体の収益状況は、まさに全日空本体が多くの利益を稼ぐ「一本足打法」であった。コロナが社会全体に深刻な影響を与える中で、全日空はビジネスモデルの変革に迫られた。例えば、アバターを社会インフラとしてサービスを提供するための会社「アバターイン株式会社」の設立、またコロナ以前であるが、航空機の安全運航の知見を活かし、物流サービス事業化を目指すためのプロジェクト「ドローンプロジェクト」を2016年から始めている。
 上記以外にも全日空では、地域創生事業として都市部の消費者に地方の特産品を提供するための事業も展開している。それを担うのが2022年1月に設立された「株式会社日本産直空輸」である。同社のミッションは三つある。一つは「産地製品開拓」であり、空輸することにより価値のでる食材を発掘し、小売・消費者に提供すること。二つ目は「物流コーディネート」であり、航空輸送と地上発送による最速物流サービスの運用である。三つめは「PR・ブランディング」であり、販促支援やイベントなどを通じたPRやブランディング活動を行うことである。
 藤崎氏がご講演で話された地域創生事業や特産品の発掘などは、第10研究が行っている「特産品に関する総合的研究」に大いに参考になるものであった。
 講演会終了後の質疑応答では、教室およびzoomでの参加者から講演者に対し、質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。
開催日時 第5回研究会・2022年10月16日 13時00分~14時30分
開催場所 オンライン(Zoom)
テーマ 佐賀県有田焼産地の現状と地域活性化事業―有田陶器市120回記念と観光まちづくり―
発表者 山田雄久氏
研究会内容  第10研究の10月研究会は、山田雄久先生(近畿大学経営学部教授)をお招きし講演会を開催した。以下で、山田先生の講演内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 山田先生は、長年にわたり、日本の伝統産業の発展について研究を行ってきた。具体的には、有田焼などの陶磁器に焦点をあて史的観点から陶磁器業への技術導入などについて研究を行ってきた。今回の講演では、佐賀県有田の特産品「有田焼」を利用した地域活性化に関する事業についてお話をされた。講演のポイントは、①有田焼創業350年事業の展開、②ジャパン・エキスポ世界・炎の博覧会、③有田焼創業400年事業の実施、④有田焼産地の再生と地域活性化の4つである。以下では、上記のいくつかのポイントの要点のみを記す。
 「ジャパン・エキスポ世界・炎の博覧会開催」について。世界・炎の博覧会は1996年に有田会場をメイン会場として開催され、博覧会後、有田の会場跡地を活用し有田焼展示会や音楽祭などの各種イベントが開催されたことなどが紹介された。
 「有田焼創業400年事業の実施」について。有田観光協会が情報サイト「ありたさんぽ」を開設、観光ガイドの養成、町内観光の重要な移動手段としてのコミュニティバスの設置、またグリーンツーリズム(棚田)などを実施したことが紹介された。
 「有田焼産地の再生と地域活性化」について。有田現代アートガーデンプレイスなどのアートイベントの実施、有田商工会議所が母体となり「有田まちづくり公社」を設立し、有田町を再生させる取り組みなどが紹介された。
 山田先生の講演から、町や地域における特産品の技術的な継承や特産品をいかした町や地域の活性化などについて多くを学んだ。
 講演会終了後の質疑応答では、教室およびZoomでの参加者から講演者に対し、質問や意見等が多数あり活発な議論が行われた。
開催日時 第4回研究会・2022年7月10日 13時00分~14時30分
開催場所 オンライン(Zoom)
テーマ 樫山農園の取り組み
発表者 樫山直樹氏
研究会内容  第10研究の7月研究会は、有限会社樫山農園代表取締役の樫山直樹氏をお招きし、講演会を開催した。以下で、樫山氏の講演内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 樫山直樹氏の家系は、代々、徳島県小松島市で農業を営む農家であり、直樹氏は第12代目となる。有限会社樫山農園は、直樹氏が中心となり、2001年に徳島県小松島市に設立された。同農園では、主にトマト、お米、シイタケや小松菜などを生産している。
 樫山氏は、講演で自身のアメリカでの農業実習の経験、樫山農園の事業内容、同農園の経営理念、同農園のトマトなどの生産物の外国での販売展開などについてお話をされた。以下では、上記の中からいくつかについて講演内容を述べたい。
 一つ目は、樫山農園の経営理念についてである。樫山氏は同農園の経営理念を「樫山農業で世界を幸せにする」ことと述べ、それが意味するところは、一人一人の社員が、自身の仕事に誇りとやりがいを持ち、地域の土地を耕し、農業を守り育むことである、と説明した。また、経営理念にある「世界」とは「今いる場所」を意味し、例えば会社にとっては「徳島県小松島市」など、また社員にとっては「会社とヒトやモノを含む環境」などである、と樫山氏は述べていた。
 二つ目は、同農園の外国での販売展開についてである。現在、同農園はタイを代表するシンハービール(ビールメーカー)と提携し、タイ北部のチェンライにある「シンハーパーク」でメロンの生産を行っている。また、タイ以外ではベトナム、他へも進出している。
 紙幅の関係上、これ以上書くことはできないが、樫山氏のお話を聞き、今後の日本の農業に対し明るい未来を想像することができた。
 講演会終了後の質疑応答では、参加者から質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 第3回研究会・2022年6月12日 13時00分~14時30分
開催場所 同志社大学良心館1階105教室およびオンライン(Zoom)
テーマ ブランド農産物の歴史から見える農業経営と今後の展望
発表者 藤原俊茂氏
研究会内容  第10研究の6月研究会は、農家ソムリエーず代表取締役の藤原俊茂氏をお招きし、講演会を開催した。以下で、藤原俊茂氏の講演内容の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 「農家ソムリエーず」は、2014年9月に徳島市に設立され同地の特産である「なると金時」ならびに「金時チップスおさっち」の生産及び販売をしている会社である。藤原氏は、同社の代表取締役を務めている。また、同社が生産する商品は、日本国内だけではなく海外にも輸出されている。
 徳島の特産品であるなると金時の生産と販売について、藤原氏は、以下の点について講演を行った。
 一つはなると金時のブランド化について。なると金時には、「なると金時」という名前を中心に生産地ごとに名前(ブランド)が付けられている。例えば、「甘姫」や「松茂美人」など。一般的に商品のブランド化は、その商品にとってメリットがあるように思われるが、デメリットもあると言う。例えば、ブランドの乱立によりどれがなると金時なのか分からない、などである。
 二つ目は特産品や産地について。藤原氏は、「人が産地を育み、人の集合体が産地なる」「モノ=ブランドと思われがちだが、モノ=ブランドではない」「人の作る姿勢がモノにあらわれ、ブランドとなる」などと述べ、特産品(商品・モノ)に注目が集まるが、それをその地で生産している生産者の特産品に対する姿勢や考え方(思い)に注目することも大切であると述べた。
 紙幅の関係上、それらについてはこの場で記すことはできないが、上記以外にもなると金時の外国への輸出について、今後の農業経営についてなどについても話をしていただいた。
 講演会終了後の質疑応答では、教室での参加者ならびにZoomでの参加者から質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 第2回研究会・2022年5月15日 13時00分~15時30分
開催場所 同志社大学良心館1階105教室およびオンライン(Zoom)
テーマ 唐辛子と名産品
発表者 天野了一氏
研究会内容  第10研究の5月研究会は、天野了一氏が「唐辛子と名産品」と題して研究報告を行った。以下で、天野氏の研究報告の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 天野氏は、研究報告の前半で唐辛子の原産地、特徴や特質などを中心に述べ、後半では天野氏自身がかかわっている能勢町(大阪府)で行っている唐辛子栽培について述べた。以下では、能勢町での唐辛子の栽培と唐辛子を使った名産品の二点について述べたいと思う。
 一つ目の能勢町での唐辛子栽培について。天野氏は、2018年度6月研究会(当時・人文研第9研究)で唐辛子について研究報告を行っている。当時の研究報告で、天野氏は「ビッグ・ジム(Big Jim)」という唐辛子の品種をニューメキシコから持ち帰り、ハバネロをはじめて日本での栽培に成功した方に相談し、その後、能勢町の農家の協力を得て栽培をしている、と述べていた。現在の課題は、安定した品質・生産量を確保することであると述べ、現在でも能勢町で栽培を行っていることを紹介した。
 二つ目の唐辛子を使った名産品について。日本で唐辛子を使った代表的な商品は七味唐辛子や一味唐辛子などである。七味唐辛子を扱っている代表的な店は三つあり、やげん掘(東京)、七味家(京都)と八幡屋磯五郎(長野)である。三つの店は、共同で「七味三都物語」というパンフレットを製作している。三つの店に共通することは、いずれの店も浅草寺、善光寺、清水寺という門前に店を構えている点である。唐辛子を扱っている三つの店から分かったことは、名産品はその土地で得たもの、あるいは栽培されていたものを使わなくても作ることができるということである。
 研究報告終了後の質疑応答では、参加者から質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。
開催日時 第1回研究会・2022年4月17日 13時00分~15時30分
開催場所 同志社大学扶桑館4階413教室およびオンライン(Zoom)
テーマ
  1. 第21期人文研第10研究について
  2. 鹿肉の特産品化への諸問題
発表者
  1. 川満直樹氏
  2. 鍛冶博之氏
研究会内容  4月研究会は、川満直樹氏が「第21期人文研第10研究について」と題し第10研究の研究の方向性について説明し、鍛冶博之氏が「鹿肉の特産品化への諸問題」をテーマに研究報告を行った。以下で、川満氏の研究会についての説明および鍛冶氏の研究報告の概要を述べ「定例研究会活動概要報告」とする。
 川満氏は、第10研究の研究テーマを「特産品に関する総合的研究」にした理由および特産物と特産品に関する研究の背景を説明し、そして特産物と特産品の定義を暫定的に検討した。氏は、暫定的にではあるが、本研究会において特産物を「野菜、肉、樹木や鉱物のようなもので、その土地から産出されたもの」、特産品を「特産物のなかで、天然記念物、芸能、祭祀などの伝統遺産を除き、あくまでも商品化された物品」と定義し、定義について今後研究会で議論を行うことの必要性を強調した。
 鍛冶氏は、近年ジビエ料理のひとつとして注目される鹿肉を取り上げ、今後、鹿肉が日本社会に普及する可能性および鹿肉が地域振興のための手段となることができるのかについて検討した。
 氏は、鹿肉を活用した地域振興の可能性について検討し、鹿肉が地域振興の有効手段になる可能性は難しいと述べた。鍛冶氏の議論のポイントは「地域振興」であり、氏は地域振興の手段となりにくい理由を①鹿肉の非地域性、②鹿肉の販売価格の高さ、③鹿肉生産の本来的目的と経済性追求の不一致などの観点から説明した。鍛冶氏は、鹿肉が地域振興の手段となるためには、①鹿肉の安全性の確保、②鹿肉の安定供給の実現、③鹿肉の販路の確保などが必要だと述べた。
 川満氏の第10研究に関する説明および鍛冶氏の研究報告終了後の質疑応答では、特産物と特産品の定義について、個別の研究テーマについて、地域振興と特産品としての鹿肉について、また鹿肉以外のジビエ料理について、などについて参加者から質問や意見等が多数あり活発な議論がなされた。