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第16研究 サプライチェーンの設計と運営における国際比較 研究代表者:中道 一心(商学部)

 素材生産企業(鉄鋼企業と製紙企業)の競争力となる「規模の経済」の実現と完成品企業の競争力となるJIT生産の実現を両立するために、如何にサプライチェーンを設計し、その日々の運営をどのように行っているかを明らかにしたうえで、国際比較を行い、その異同の要因を学際的に解明することにある。その際、これまでサプライチェーン・マネジメント論(生産管理論)、管理会計論、人事管理論(労働経済学)を研究する者が互いに接点を持つことは少なかったため、本部門研究を通じて作り出し、学内研究者の知見と、わたしたちが持つ学外のネットワークを有機的に連携することで、拠点構築が進める。
 研究活動は年6回程度の研究会を開催し、調査研究報告および関連書籍の書評会を中心に行う。

2022年度

開催日時 第3回研究会・2023年3月10日 15時~17時
開催場所 同志社大学今出川キャンパス扶桑館
テーマ 書評:李瑞雪・安藤康行『業界別物流管理とSCMの実践』ミネルヴァ書房、2022年。
発表者 加藤康
李瑞雪
研究会内容  李瑞雪・安藤康行『業界別物流管理とSCMの実践』ミネルヴァ書房、2022年を書評対象書籍とし、京都経済短期大学の加藤康氏に書評を務めていただいた。
 まず、本書を各章ごとに紹介しながら、各章のポイント及び疑問点を指摘する方法で紹介を行った。例えば、「第1章 日本企業の物流管理」において、「距離が長くなればなるほどロジスティクス的な思考が重要となってくる。」「距離が短いゆえに物流管理の発展を阻害している場合もある」という筆者の主張に対して、どういうロジックでこのようなことが言えるのかなど、随所に建設的なコメントを添えてコメントがなされた。
 そのうえで、本書の魅力と論点が示された。魅力については、①具体的かつ包括的に「サプライチェーンを考える」枠組みと素材を提供する優れたテキスト、②物流管理の目的を「トレードオフを克服すること」と明示していること、③対象産業の選定が効果的、④物流の「生産」との統合を問題にしていること(特に住設建材サプライチェーンと自動車サプライチェーンの事例、先行研究サーベイに基づく編者の見解は倉庫の立地と機能について、大きな示唆を与えていること)を挙げた。
 一方、論点や疑問点として、①上述したとおり、「距離が短いゆえに物流管理の発展を阻害している場合もある」のはどういうロジックなのか、②物流の内転化、内転化/系列化された物流事業者と大手物流業者とのコラボ、3PLの活用は物流の統合とどのように関連するのか?連携による緩やかな統合が発展形態なのか?③それぞれの産業企業の特性のもとで、どの程度「戦略」の選択余地があるのか?(技術特性のもとでの操作可能性はあるのか?)④タイミングコントローラー試論との関係において、試論を補強するのか、それとも修正を求めるものか(「太く運ぶ」「近くで受けて効率良く変換し、確実にJUSTに効率良く配る」は興味深い)といった4点が示された。
 法政大学李瑞雪氏から本書を執筆するに至った理由をご紹介いただいたうえで、どのような構想を抱き、プロセスを経て、本書が完成したのかを丁寧に語っていただいた。そのうえで、論点、疑問点についてリプライがあった。李氏は編者・執筆者の多くが実務家であり、彼らとの対話のなかで実務家の経験を重視して記述しているところも多く、それが学術的な論理展開のなかでどのように位置づけるのか再検討を要することもあることが分かったとの返答があり、その後のディスカッションとともに、わたしたちのプロジェクトとしても考えるべき対象が明確になった。
開催日時 第2回研究会・2023年2月20日 15時~17時
開催場所 同志社大学今出川キャンパス扶桑館
テーマ 研究報告:低成長時代日本における営業トラックの発展と限界
発表者 河村徳士
研究会内容  トラック運送事業に関してこれまで論じられていたことを整理したうえで、低成長時代の物流構造を把握する研究が乏しく、ここでは規制緩和後、競争秩序が悪化しドライバー不足といった社会問題が発生したという重要な関心が育まれた一方で、このことと、参入を促したように、企業にとって競争優位の可能性を見出させる新しい物流事業の発展をいかに統一的に把握するかといった課題は放置されており、3PLなどと称され、日本政府も導入を後押しした物流サービスの可能性と限界を考える。
 このような検討課題へのアクセスの準備段階として、輸送需要がどのように変遷し、競争秩序にどんな影響を及ぼしたのかについて、各種統計資料を用いて、需要の停滞と競争秩序の悪化を指摘した。
 そのうえで、3PLという用語に着目が集まっており、トラック運送事業者も「輸送、保管、荷役、包装、流通加工、情報」のすべてか少なくとも輸送のみにとどまらない何らかの機能を加えて改善を施そうとしているものの、その内実は大変厳しいものであり、3PL化を進めてみても収益性が高まるという結果にはほとんど至っていないことが、事例とともに示された。
 その理由は、3PLが十分な参入障壁となるような設備・技術・技能を伴わなかったこと、トラック運送事業のノウハウは3PL事業を支える重要な経営資源とはならなかったことなどが考慮でき、少量、小口、多頻度といった需要傾向に応じる方法は事業機会の拡大を保障したのかもしれないが、事業の差別化と収益向上は容易ではなかったのかもしれないという暫定的な要因分析がなされた。
 以上のような研究報告のあと、物流に関する基礎的な事実確認や車輛取引のビジネスの実態など多面的に質疑応答、コメントが飛び交い、研究メンバーにおいて物流研究に関する情報共有がなされた。
開催日時 第1回研究会・2023年2月9日 15時~17時
開催場所 同志社大学今出川キャンパス扶桑館
テーマ 書評:関智宏・同志社大学中小企業マネジメント研究センター編『新型コロナウイルス感染症と中小企業』同友館、2022年9月。
発表者 田中彰
関智宏
研究会内容  関智宏・同志社大学中小企業マネジメント研究センター編『新型コロナウイルス感染症と中小企業』同友館、2022年9月を書評対象書籍として、同志社大学中小企業マネジメント研究センターと共催で研究会を開催した。
 評者は京都大学大学院経済学研究科の田中彰氏に務めていただいた。まず、本書の特長を整理したうえで、氏の著書に対する評価を①旺盛な活動にもとづく時宜を得た成果(中小企業マネジメント研究センターの活発な活動の延長/「禍」中の中間報告)、②リサーチデザイン上の特徴(研究方法はアンケートまたは事例研究/多面的な分析の相互関連や全体像が明示されていない?)、③コロナ禍初期局面の中小企業の動向(初期局面の決定的重要性/総じて初期局面によく対応した)と冒頭に指摘した。そのうえで、アンケート調査から得られた知見と事例研究からの知見に分けて要約がなされ、論点が示された。
 ひとつは日本の中小企業の頑健性の要因はなんだろうか?本書では過去の経験、ネットワークなど中小企業の特性に焦点を当てているが、外部環境要因(観戦規模の相対的小ささ、弱い行動制限、事業・雇用継続に焦点を当てた政策の影響)やサプライチェーンの代替性・補完性、在庫積み増し、EC化などもあるのではないだろうか。もうひとつは、企業中心の政策の妥当性に関して、欧米と比較して日本のコロナ対策は事業・雇用継続に重点を置いたものであり、コロナ禍での倒産件数の顕著な現象はこの種の政策が効きすぎていることを示しているのではないか、という論点提示であった。
 こうした書評を受けて、編者を代表して関智宏氏がリプライを行った。特に、論点および論文集的になったのではないかとの指摘については、活発なやり取りがあり、今後の研究課題を整理する良い機会となった。